第四十八話 囚われのアリスを救い出せ
リオンたちが盗賊の基地を襲撃していたその頃…
廃屋敷の中。
そこで二人の男が向かい合っていた。
一人は盗賊団の首領である男、ベルドア。
もう一人は彼の手下だ。
そして檻の中には連れてこられたアリスがいた。
紐でグルグル巻きにされている。
「さあ、来い!こっちへ来るんだ!」
と、手下の男が叫ぶ。
そして檻からアリスを出す。
逃げないように紐を手で持ちながら。
「うぅ…」
アリスが怯えるような目つきで言う。
「大丈夫だ、心配はいらない」
そう言って、彼女を安心させようとするベルドア。
ニヤリとした笑みを浮かべる彼。
その表情からは狂気のようなものを感じた。
「まあまあ、落ち着けって」
絶望的な表情を浮かべる彼女に対し、ベルドアは続ける。
狂気と笑顔を同居させた顔でベルドアは語る。
「別に取って食ったりしないさ。ただ、ちょっとばかり俺の遊び相手になってもらうだけだ」
「遊ぶ…?」
「ああ、そうだ」
そう言いながら彼は語り始めた。
アリスにはこれからこの部屋の中で生活してもらうことになる。
もちろんそれ相応の『仕事』をしてもらう。
食事はちゃんとして用意するから心配はいらない、と。
「どうして…?」
「んー、そうだな。強いて言えば、お前が気に入ったからかな」
「えっ…」
「なんだよ、嫌なのか?もちろん、抵抗すれば命はないけどね」
「そんなっ…!」
アリスの顔から血の気が引いて青ざめる。
「ほら、早く部屋に戻れ」
「い、いや!」
彼女は必死に抵抗する。
だが、所詮は非力な少女に過ぎない。
大人の力で押さえつけられてしまう。
結局、なすすべもなく部屋の中へと連れて行かれてしまった。
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一方、こちらはリオンたち三人。
彼らは荒野を走っていた。
目指す先は東にあるという廃屋敷だ。
その道中、エリシアがリオンに尋ねた。
「ねぇ、リオン君。その廃屋敷っていうのはどこにあるの?」
「確か、この先にあったはずだ」
リオンが地図を見ながら言う。
しかし、この辺りは似たような景色が続いているため、迷ってしまう可能性がある。
そのため、慎重に進む必要があった。
しばらく歩くと、廃屋敷が見えてきた。
それはかなり大きな建物だったが、ボロボロになっていた。
三人は警戒しながら建物の中に入る。
すると、そこには一人の男の姿があった。
「ようこそ、我がアジトへ!」
そう言いながらこちらに向かってくる男。
年齢は20代後半くらいだろうか。
髪はボサボサで、不潔そうな印象を受ける。
「俺はベルドア。盗賊団『赤獅子』のボスだ」
「待ち伏せしていたのか」
「そういうことだ。だが、それだけじゃないぜ。他にも仲間はたくさんいるし、武器だってある。つまり、ここからはもう逃げられないってことだよ」
「くそっ…」
リオンたちは絶体絶命の状況に追い込まれていた。
「まあ、安心しろよ。女どもは殺しはしない。殺すのは、お前だけだからなぁ!!」
と、高笑いするベルドア。
どうやらアリスのことも玩具か何かと思っているようだ。
…と、その時だった。
突然、エリシアがベルドアに襲いかかった。
だが、ベルドアはそれをいともたやすく避けた。。
「おいおい、いきなり攻撃してくるなんて酷いじゃないか。少しは会話しようぜ」
「黙れ!!アリスちゃんを返せ!」
「おぉ、怖いねぇ」
そう言って、襲い掛かってくるベルドア。
エリシアを弾き飛ばし、リオンに襲い掛かった。
剣を抜いて斬りかかって来るベルドアをなんとか防ぐリオン。
「ここは俺に任せて、エリシアとシルヴィはアリスを助けに行ってくれ!」
「わかった!」
「気をつけてね、リオン」
二人は廃屋敷の奥へと向かった。
ベルドアは二人を追いかけようとするが…
「行かせると思うかい?」
と、立ちふさがるリオン。
「チッ…」
舌打ちをするベルドア。
そして、彼は言った。
「まあいいさ。お前を殺してから追えばいいだけの話だしな」
こうして、二人の戦いが始まった。
一方、アリス救出に向かったシルヴィとエリシア。
だが、そこにはすでにベルドアの手下たちが待ち構えていた。
「なんだ、あの女どもは」
「あいつらも捕らえろ!」
そう言って、襲いかかってくる手下たち。
シルヴィは下級の炎魔法を使い、手下の男たちを攻撃する。
「ぐああああっ!」
悲鳴を上げる手下の男。
威力自体はそこまで高いものでは無い。
床に転がればすぐに消える程度だ。
しかし、雑魚散らしにはちょうどいい。
何せ数が多いのだ。
なので、少しでも数を減らすために、シルヴィはどんどん魔法を放っていった。
「邪魔!」
そうして部下たちを退け、屋敷の奥へと入っていく。
部下の一人から聞いた部屋へと到着。
そこには檻に囚われたアリスがいた。
「大丈夫?」
「うん…ありがとう」
弱々しい声で答える彼女。
相当怖かったのだろう。
顔色も悪くなっている。
「よし、じゃあさっさとこんな場所から脱出しよう」
エリシアが近くに会った鍵を見つけてきた。
この牢屋の鍵だ。
「リオンさんは?」
「下で戦ってるよ。さあ」
と言って、アリスを縄で縛っている紐を切るシルヴィ。
これで自由に動けるようになった。
急いで下の階へとむかう。
リオンに加勢するために。
一方、リオンの方は苦戦を強いられていた。
待ち伏せしていたというだけあって、迎撃の準備を万全にしていたようだ。
「やるなぁ、小僧!」
「お前こそな」
ベルドアが叫び、リオンが返す。
二人は互角に渡り合っていた。
しかし、それも時間の問題だった。
徐々にベルドアの方が押され始める。
このままではマズイと思った彼は、一度距離を取ることにした。
「(クソ、どうすれば…そうだ!)」
思いついた作戦を実行すべく、ベルドアは動いた。
リオンに気付かれぬよう、近くにあった机に近づく。
そこにあった割れた陶器の破片を取り、後ろ手で砕く。
粉々になった陶器。
そして…
「くらえ!」
「うわっ!?」
リオンを殴りつける瞬間、その粉々になった破片を投げつけた。
突然の攻撃で反応が遅れたリオン。
彼の頬には切り傷ができていた。
「へへっ、隙ありぃ!!」
チャンスとばかりに飛び掛かるベルドア。
リオンはそれをかわすことができず、組み伏せられてしまった。
「くっ…」
「おいおい、油断しすぎじゃないか?まあいいや。とりあえず捕まえたことだしなぁ」
そう言って笑うベルドア。
悔しそうな表情を浮かべるリオン。
だが、彼に抵抗する手段はなかった。
しかしそこに…
「てや!」
「おっと、あぶねェ」
助けに来たエリシアの攻撃。
しかしそれも避けられてしまった。
このベルドアという男、単なる盗賊では無い。
かなりの戦闘慣れをしているようだ。
「ち、部下共も全員やられたか」
「はなせよ、バカーッ!」
「このままこのガキを連れて逃げたほうがよさそうだな」
そう言いながらエリシアの腕を掴み、持ち上げるベルドア。
リオンから離れていく。
そしてそのまま逃げようとした時…
突然、目の前の壁が吹き飛んだ!?
それは人を吹き飛ばすほどの威力を持った攻撃だった。
その一撃によってできた穴から現れたのは…
なんと、シルヴィとアリスの姿があった。
「エリシアを離しなさい!」
アリスが叫ぶ。
「シルヴィ、今のうちにエリシアちゃんを助けてあげて」
「わかった」
と、返事をするシルヴィ。
ベルドアがエリシアを掴んでいるうちに救出を試みる。
「させるかァーッ!!!」
だが、それを阻止しようと動くベルドア。
そこにアリスが攻撃を仕掛けた。
シルヴィの剣を借り、勢いよく斬り付けた。
まさかアリスが剣で攻撃してくるとは思いもしなかった。
意識外からの攻撃に、吹き飛ばされるベルドア。
勢いよく壁に叩きつけられ瓦礫の山に沈んだ。
その衝撃により、シルヴィへの攻撃を中断させられた。
「今のうちに逃げよう!こんなやつらまともに相手にする必要は無いよ」
「うん!」
「待てぇ!逃がすか!」
怒りの形相で追いかけてくるベルドア。
だが、そんな彼に更なる追い打ちをかける者がいた。
リオンだ。
彼はベルドアの背後にまわりこみ、剣で切り裂いた。
「お前の相手は俺だろ?」
「クソがっ…覚えてろ…いつか必ず殺してやる…!」
恨みの言葉を口にしながら、ベルドアは倒れたのであった。
こうして、廃屋敷での騒動は幕を下ろした。
ベルドアを倒した後、シルヴィたちは村へと戻った。
今回の件を村の人たちに報告しなければならないからだ。
村長に事の経緯を説明するシルヴィたち。
話を聞いた村人の反応は様々だった。
「あのベルドアを倒すなんて凄いなあ、あんたらは!」
「お姉さんたち、ありがとう!」
「やっぱり冒険者は頼りになるぜ!」
など、感謝の声が多く寄せられた。また、中には…
「ベルドアの野郎は前から気に食わなかったんだ!ありがとうよ!」
「あいつのせいで村は酷い有様だったからな。これでやっと安心できるよ」
と、喜ぶ者もいた。
特に被害が酷かった者たちにとっては、ベルドアの存在はかなり迷惑だったようだ。
そんなこんなで、お礼としてお金や食料などももらうことができた。
それに一番喜んでいたのはエリシアだろう。
「やったね!臨時収入だよ!」
「良かったね、エリシアちゃん」
笑顔で話すエリシアとアリスの二人。
リオンはというと…
「ふう…」
一人ため息をついていた。
なんだか浮かない顔をしている。
「どうしたんだ?」
「いや、なんでもないよ」
そう答えたが、やはりどこか様子がおかしい。
シルヴィは少し気になったが、深く追及するのは止めておくことにした。
「(ベルドアは強かった…)」
リオンは心の中で呟く。
確かに、彼が強いのにはそれなりの理由があった。
しかし、あそこまでの苦戦を強いられてしまったのも事実。
自分の力不足を感じずにはいられなかった。
「強くならないとな…」
決意を新たにするリオン。
だがこの時、既に新たな戦いが迫っていることを彼はまだ知らなかった…
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