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第三十二話 ルイサとの戦い

 第三十四回武術大会。

 その一回戦が終了した。

 リオンとシルヴィは順調に勝ち残っていた。

 先ほどガ―レットと言い争っていた男、ゴルドも残っている。


「あと残っているのは…」


 控室にて対戦表を確認するリオン。

 ガ―レットとルイサも残っている。

 一方で、キョウナは一回戦で負けていた。

 これは意外だった。


「なんだ、あのキョウナというやつ負けたのか」


 シルヴィの言葉に、軽く頷くリオン。

 あとは、以前酒場にガ―レットと共に来ていた少女。

 バッシュも残っている。

 そして次のリオンの相手は…


「ルイサ…」


「リオン、キミの妹だよね?」


「ああ…」


 シルヴィの指摘を受け、リオンは拳を握り締める。

 正直、不安しかなかった。

 殺されかけたとはいえ、実の妹なのだ。

 どんなに変わったとしても。

 だが、逃げるわけにはいかない。

 自分のために、仲間たちのためにも。

 傷つけられたロゼッタのためにも…

 必ず勝ってみせる。

 そして、妹を止める。

 そう決意し、リオンは闘技場へと向かった。


「…」


 闘技場の観客席に座り、無言で試合を観戦するシルヴィ。

 隣に座るアリスも何も言わない。

 二人はリオンの出番が来るまで待機していた。

 ちなみに、今は二回戦の途中だ。

 シルヴィの隣に座っているアリスは、どこか落ち着かない様子だ。


「…シルヴィ」


「なに?」


「本当に大丈夫なんですか?」


「どういう意味?」


「いや、その…」


 言い淀むアリス。

 彼女の言うことは最もだろう。

 何せ、対戦相手はあのリオンの妹なのだから。

 普通なら心配するのが当たり前である。

 だが、シルヴィは一切臆していなかった。

 それどころか、余裕すら感じさせる表情をしている。

 そんな彼女を見ていると、不思議と安心できた。


「勝つよ、リオン」


「…わかりました」


 そして、ついにその時が来た。

 実況役を務める男の声が響く。

 同時に、会場内に歓声が巻き起こった。


「さあ、二回戦第二試合はこちら!!」


 試合用の木刀を持ったリオンが登場すると、観客たちが更に盛り上がる。

 だが、それも当然だ。

 無名の彼がここまで残るとはだれも思っていなかった。

 彼はある意味では、大会で最も注目されている人物ということになる。


「続いて登場するのはこの人!ルイサ選手です!」


 そして、少女ルイサが登場した。

 武器はリオンと同じく、試合用の木刀を持っている。

 彼女はゆっくりとリオンの元へ歩み寄る。


「久しぶりね」


「そうだな」


 二人は睨み合った。

 リオンは、こうして対峙することになるとは思わなかった。

 実の妹であるルイサと。


「どうしてお前はあんなことを…」


「前言った通りよ、決まってるじゃない」


 やはり彼女もガ―レットの『魅了』を受けているのか。

 そう考えるリオン。

 ロゼッタから『魅了』の解き方は聞いている。

 とにかく強い『衝撃』や『刺激』、『痛み』を与えればいい。

 以前にロゼッタが自身の身にそうしたように…。


「ルイサ…」


「まあいいわ。あなたの方から私に会いに来てくれたんだもの」


 嬉しそうな笑みを浮かべながら、リオンを見つめるルイサ。

 その瞳は狂気に満ちているように見えた。

 一方、リオンの方は冷静だった。

 彼の目つきが鋭くなる。


「試合、始め!」


 直後、試合開始の合図がなされた。

 先に仕掛けたのはリオンだった。

 一気に距離を詰め、攻撃を仕掛けた。

 だが、それは受け止められてしまった。

 そのまま連続で攻撃を仕掛けるも全て防がれてしまう。

 実力は完全に互角かと思われたが…


「くっ…!!」


 次第にリオンの動きが悪くなっていく。

 一方のルイサは涼しい顔だ。

 拳で殴ろうとするリオン。

 だが、どうしても『昔のルイサ』が頭をよぎる。

 本気を出せないのだ。

 その結果、攻撃は全て避けられ、逆に攻撃を受けることになる。

 やがて、決定的な一撃が入った。

 吹き飛ばされ、地面に倒れ込むリオン。


「ぐあっ!?」


「お兄ちゃん、弱いね」


 倒れたリオンに冷たい視線を向けるルイサ。

 その表情からはかつての彼女の面影は消え失せていた。

 リオンは立ち上がり、彼女から距離をとる。

 その試合を見ていたシルヴィは…


「リオンのヤツ、本気を出せていないな…」


 本気で戦えばリオンが勝つ。

 しかし、その本気が出せない。

 これでは…


「だって、実の妹ですもの…」


「どうする、リオン…」


 そのリオンの様子をみて心配するシルヴィとアリス。

 しかし、その想いは今のリオンには届かない。

 ルイサの攻撃に対し、防戦一方のリオン。

 その様子を見て、シルヴィはあることに気が付いた。


「あのルイサというやつ…」


「どうかしました?」


「いや、なんでもない」


 だが、すぐに思い直す。

 恐らく、今言っても無駄だろう。

 試合が終わった後にでも話すとしよう。

 そう考えたシルヴィは黙って試合を眺めることにした。


「ふーん、まだ抵抗するつもりなんだ」


「当たり前だろ」


「じゃあ、仕方がないね」


 そう言うルイサ。

 このまま攻撃を受け続けていても、リオンは単なるサンドバッグになるだけだ。

 しかし反撃をしようにも、ルイサとの距離は僅か二メートルほど。

 一旦距離を取るにも、格闘戦を仕掛けるにも中途半端な距離だ。


「それなら…」


「なにを…!?」


 ルイサの木刀を手で掴み、そのまま手元にひきこむリオン。

 とはいえ、そんな安直な策で木刀を奪われるルイサでは無い。

 多少よろけはしたが、その手から木刀は離さなかった。

 しかし狙いは木刀を奪うことなどでは無かった。


「今だ!」


 ルイサがよろけた瞬間を狙い、一気に距離を詰める。

 掴んでいた木刀を勢いよく手放し、身体のバランスを崩してしまったルイサ。

 その僅かな瞬間を狙ったのだ。

 しかし反撃とばかりに、彼はリオンの脇腹に木刀を叩きつけた。


「ぐッハァッ!」


 腹から激痛が昇ってくる。

 しかしそんなものでとまるわけにはいかない。


「はァッ!」


「叫ぶだけじゃ勝てないよ」


 すると、彼女は試合用の木刀に力を込める。

 次で決めるつもりなのだろう。


「いくわよ?」


「…ッ!!」


 彼女が大きく踏み込み、攻撃を繰り出す。

 なんとか受け止めるリオンだったが、徐々に押され始めた。


「ほら、早く反撃しないと本当に死んじゃうよ?」


「くそっ…」


 苦し紛れに木刀を振るリオン。

 だが、簡単にかわされてしまう。

 そして…


「これで終わりだよ、お兄ちゃん」


「…ッ!!!」


 ルイサの木刀が振り下ろされた。

 このままでは負ける、そう思ったリオン。

 と、その時…


「ロゼッタ師匠の…ボクとの訓練を思い出せ!」


 シルヴィのその叫び、それがリオンの心の響き渡る。

 咄嵯に身を翻し、木刀をかわす。

 そして、木刀を掴んで攻撃を受け止める。


「えっ…」


 呆気にとられるルイサ。

 リオンはその隙に彼女の腹に蹴りを叩き込んだ。


「きゃああああああああああああ!!!」


 悲鳴を上げるルイサ。

 リオンがこのタイミングで攻撃をしてくるとは思っていなかったのだろう。

 完全な意識外からの一撃。

 それを受けてしまったのだ。

 そして、彼女はそのまま気絶してしまった。

 その瞬間、会場内に大歓声が巻き起こった。


「やった…」


 思わずガッツポーズをするシルヴィ。

 こうして、リオンは見事に勝利した。

 そして医務室に運ばれていくルイサ。

 それを見送った後、シルヴィとアリスは闘技場を出ていった。

 闘技場を出たシルヴィとアリスは、医務室へと向かった。

 そこには既にリオンの姿があった。


「妹さんは?」


「まだ気絶してる」


「そうか…」


 三人の間に沈黙が流れる。

 さきほどの一撃で『魅了』は解けたのか。

 リオンはそう考えていた。

 しかし…


「リオン、キミに言いたいことがあるんだ」


「なんだい、シルヴィ?」


「…キミの妹は『魅了』を最初から『受けていない』と思うんだ」


「え?」


もしよろしければ、感想、誤字指摘、ブクマなどよろしくお願いします。


作者のモチベーションが上がります。 コメントなんかもいただけるととても嬉しいです。 皆様のお言葉、いつも力になっております。ありがとうございます。また、この小説が気になった方は☆☆☆☆☆で応援していただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 彼はリオンの脇腹に あれ?ルイサは男になった?読み違えか?
[気になる点] ルイサは全て本心だとしたら生活面以外は救いようがないが 冒頭の流れの限りキョウナは可哀想でしかないな 主人公と一緒に無理心中させずにこっちは完全に洗脳○奴隷にされたわけだし
[一言] マァ、感慨られるのは自棒時期に端ったセルフ・アボーン敵な揉んだとしか。(• ▽ •;)(魔印度敵な漢字で)
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