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第1話 使い魔の召喚

 広大な国土を有する大国、アルブール王国。

 このアルブール王国には、世界でも屈指と言われる魔法学校が存在する。


 名を、クリストフ魔法学校という。


 十三歳となり、魔法の才能があると認められた子供達が各地から集められ、才能ある若者達は十八歳になるまで、ここ魔法学校で魔法の全てを学ぶことができる。


 クリストフ魔法学校を卒業した者達は、アルブール王国の魔術師団への入団だったり、他にも冒険者、治癒師、薬剤師、魔法グッズショップの店員など、世界中の魔術に関する様々な分野で活躍をしている。

 中でも、上位成績者しか入ることが出来ない魔術師団への入団は、全生徒の憧れであり、ここへ集まる若者の多くは魔術師団への入団を夢見て毎日勉学に励んでいる。


 そしてここ魔法学校では、最高学年である十八歳となる年、これまで学んだ魔法の知識の集大成として使い魔を召喚する事が許される。


 何故最高学年なのかと言うと、この使い魔召喚はそもそも半端な魔力では扱うことが出来ず、もし召喚出来たとしても召喚した使い魔に主と認められなければ、そのまま召喚した魔物に殺されてしまう者も過去にいるからだ。

 そのため、召喚には最上級生かつ、万が一に備えて魔法学校の教師複数人立ち会いのもと行われるという一大イベントとなる。


 とは言っても、この魔法学校で最高学年まで学んだ程の生徒であれば、使い魔召喚はそれほど難しいわけではないため、過去一度もそのような事故などは起きたことはない。


 ちなみに魔術師にとっての使い魔とは、魔術師が今後戦場で戦い抜くためには必須とも言える相方となる。

 召喚による契約は一人一体までが限界とされており、契約を交わした魔物は召喚魔法に応じていつでも助けに現れてくれるようになる。


 最も弱い使い魔はゴブリン。

 魔法学校出身の実力であれば、一般的なのはグリフォンやレッサードラゴンなど移動に役立つ魔物、あとは希にグリーンドラゴンやグレーターグリフォンなど上位魔物を召喚できる者もいたりする。


 基本的には、召喚は己の魔力レベルに比例すると言われており、優秀な者ほど上位の使い魔を召喚できると言われている。

 こういう上位魔物を召喚できる優等生は、そのまま魔術師団への入団が約束されたようなものなので、この召喚イベントは今後の進路を分ける意味でも一大イベントと言われているのであった。



 ◇



 魔法学校へ通うアルス・ノーチェスは、今日まさに使い魔召喚に挑むところである。

 学校内での成績は常に中の下。

 特別な才能があるわけでもないし、まず自分が王国魔術師団へ入団出来るわけがないと分かっているアルスは、学校を卒業したら実家のある村で薬剤師をやろうと考えている。


 そもそもアルスがここで魔法を学んでいるのは、何も戦闘のためではない。

 アルスは入学当初から、ずっと薬剤師になりたかったのだ。

 出身の村は外れにあることもあり、村に薬剤師は一人もいないため、薬が欲しければわざわざ隣町まで出向かないと買うことすら出来ない。

 そのせいで、村の人達は大変な思いをしながら毎日を生きているのを、少しでも助けたいという思いで入学してきたのだから。


 だからこそ、これまでアルスは戦闘系の魔法よりも、サポート系の魔法を中心に学んできた。

 そして召喚する使い魔は、薬の材料の採取に役立つグリフォンを是が非でも召喚したいと考えて、これまで色々と準備してきたのだ。


 そんな強い思いと共に、ついに使い魔召喚の儀式がスタートするのであった――。


 召喚儀式は、成績上位者から順に行われていく。

 よって、学年主席であるアルブール王国の第一王子、スヴェン・アルブールが最初に召喚魔法を唱える。

 すると、展開された魔法陣から大きな白い光が生まれ、その中からはなんとレッドドラゴンが召喚された。


 流石は学年主席であり、ここアルブール王国の第一王子だ。

 レッドドラゴンはドラゴンの中でも上位種であり、戦闘力としてはグリーンドラゴンの十倍とも言われている程、非常に強力なモンスターとして知られている。


 それこそ、アルブール王国魔術師団の中でも、魔術師団長のサミュエル様直下の数名で構成されるエリート部隊が、全員このレッドドラゴンレベルの魔物を使い魔にしていると言われている。

 つまりは、流石はスヴェン王子。既にそのレベルに達しているという事だ。


「さすがスヴェン様ですわ!」

「おぉ! レッドドラゴン!!」


 周囲から、驚きと共に歓声が沸き起こる。

 確かにこれは凄いと、アルスも初めて見るレッドドラゴンの迫力ある姿に目を奪われてしまう。


「これからよろしく、僕の使い魔くん」


 そう言ってスヴェン王子がレッドドラゴンに手をかざすと、無事使い魔契約が成立し自分の使い魔とする事に成功していた。


 そのあとも、成績上位者が次々に召喚を行い、中にはグリーンドラゴンやグレーターグリフォンなど上位魔物の召喚に成功する者もいた。


 しかしその中でも、特出した者がもう二人いた。

 一人は、魔術に対する知識は学年一と言われているマーレ―だ。

 彼女と言えばいつも寡黙で、暇さえあれば一人で本を読んでいるような眼鏡をかけた女の子なのだが、使い魔には非常に珍しいカーバンクルを召喚していた。

 そしてもう一人は、スヴェン王子に続いて学年二位であるクレアで、彼女は公爵家の令嬢にして、綺麗なブロンドヘアーが特徴的な貴族のご令嬢だ。

 そんな彼女もまた、非常に珍しいペガサスを召喚していた。

 どちらも、スヴェン王子の召喚したレッドドラゴンに負けず劣らずの超上位魔物だ。


「じゃあ次、アルス・ノーチェスさんこちらに」


 それから暫くして、いよいよアルスの番がやってくる。


 ――やばい、緊張して手が震えてきた。頼む、グリフォンこい!


「なんだアルス? びびってんのか?」


 緊張しながらも、いざ召喚しようとしたその時、背後からアルスに向かって野次が飛んでくる。

 それは確認するまでもなく、これまでも何かとアルスに絡んでくるヤブンとその取り巻きによるものだった。

 既にヤブン達は召喚を終えており、中でもリーダー格のヤブンはこれ見よがしにグリーンドラゴンを隣に従えていた。


「お前なんかに使い魔召喚できんの? ゴブリンでも出てくるんじゃねーか?」


 そう言いながら、ヤブン達はアルスを見下すように笑う。

 どうやら彼らは、普段から戦闘系よりサポート系の魔法ばかりを学んでいるアルスのことが気にくわないようで、ある頃からずっとこの調子で絡んでくるのだ。

 彼ら曰く、男のくせにナヨナヨしてんじゃねーよ、と毛嫌いされてしまっているようだ。


 でもそれは、アルス自身も別に間違ってはいないと思っているのだ。

 昔から人と衝突するのが苦手だし、暴力なんて一度も誰かに振るった事もないから、小さい頃はよく女の子に間違えられたりもした。

 十八歳になり、流石に見た目も多少は男っぽくなったとは思うが、それでも周りの男子と比べると色白で小柄だったりする。

 正直もう少し男っぽくなりたい気持ちもあるが、こればかりはどうしようもない事だと内心諦めている。


「コラ! アンタ達、またアルスくんに絡んでるの? やめなさいよ!」

「あん? なんだクレアか、一々首突っ込んでくるんじゃねーよ」

「一々絡んでるのはアンタ達の方でしょ!」

「うるせぇな……ちっ、おい行こうぜ」


 騒ぎに気付いたクレアが、ヤブン達を追い払ってくれた。

 アルスが絡まれていると、こうしてクレアはいつも助けてくれるのだ。

 それは有難いことなのだけれど、正直言うと男としてはちょっと情けない気持ちになってしまう……。


「あいつら性格が腐ってるだけだから、気にしちゃダメよ」

「う、うん、ありがとうクレア」

「ま、まぁ? アルスくんが困ってたら、また助けてやってもいいんだからねっ!」


 そう言ってクレアは、そそくさと別の場所へと行ってしまった。

 いつも助けてくれるけれど、ちゃんと会話はした事のない不思議な女の子だ。


「よし、じゃあ僕も早く召喚しちゃわないとな……い、行くぞ……召喚!!」


 意を決したアルスは、手前に片手を突き出しながら魔法陣を展開する。

 召喚の魔法陣は、絶対に失敗できないという思いからこれまで一番深く学んできたのだ。

 アルスは魔法陣の術式を学ぶだけでなく、その一つ一つの成り立ちから理解し、より正確に、キレイに、しっかりと展開できるようずっとずっと錬度を高めてきたのだ。


 そして実はその過程で、アルスはこの召喚の魔法陣にはいくつかの誤りがある事に気付いていた。

 ずっと調べてるうちに、術式の組み込みにどうしても不自然な箇所が数ヶ所あることに気付いてしまったのだ。

 それは非常に細かいレベルであり、この程度なら誰も気にしないであろう微妙な違いでしかないのだが、絶対にグリフォンのような移動に役立つ使い魔を召喚したいアルスは、拘りに拘り抜いて最高の魔法陣を展開すべく、これまでそれら不自然な箇所を何度も直しながら、微修正に微修正を重ねてきたのだ。


 その積み重ねのおかげで、展開した魔法陣はこれまでで最も最高と言える出来栄えだった。



 だが、これで成功したと思ったのも束の間、想定外な事が起きてしまう――。



 それは、皆が展開した魔法陣は等しく白い光と共に使い魔が召喚されてくるのだが、アルスの展開した魔法陣は何故か真っ赤に輝いているのだ。


 これはアルスにも訳が分からず、なんだこれはと一人呆けていると、真っ赤な魔法陣の中からもくもくと真っ黒な煙のようなものがあふれ出てくる。

 その大きさは、スヴェン王子がレッドドラゴンを召喚した時以上の大きさはあるように思える。


「こ、これはいけない! 他の先生方を集めてきてくれ!」


 すぐに異変に気付いた見守り役の先生が、急いで近くの生徒を自身の後ろへと誘導しシールド魔法を展開する。


「え、えっと! ぼ、僕はまだ召喚の途中だから、ここから去るわけにはいかないんですけど!?」


 結果、一人シールド魔法の外に取り残されてしまったアルスだったが、召喚魔法を途中で切り止めることも出来ず立ち竦むしかなかった――。

 そして、現れた黒い煙は徐々に薄れ、その中から徐々に召喚された者の正体が明らかになってくる――。



 真っ黒な長い髪に、黒と赤のドレス――。

 そして真っ白な肌をした、まるで美の化身を思わせる程の美しい存在――。


 歳は、アルスと同じぐらいだろうか。

 ただ一つ大きく異なるのは、頭から真っ赤な角が二本生えていることだ。



 そう、その姿は昔書物で読んだ――悪魔そのものだった。



「――この世界に来るのも久しいな。ふむ、我を召喚したのはお前か? 我の名はアスタロト。この世の闇を統べる者だ」


 そしてこれが、アルスと彼女の最初の出会いであった――。

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