恋着
僕の彼女は交通事故で亡くなった。それは僕の運転する車だった。
18歳の夏の始めに取ったばかりの免許証を握りしめ、父の車を借りて君と海を見に行った帰りの出来事だ。慣れない道のうえ暗い中、横で居眠りをしていた君につられ、疲れていた僕はうっかり睡魔に襲われた。
気が付くと病院のベットの上にいた。ミイラのように包帯でぐるぐる巻きにされて、体中が激しい痛みなのに身動きもできない。痛さの余りうめき声が出た。
「ううっー」
「涼気が付いたのね」
母は心配そうな表情で僕を覗き込んだ。それは疲れはて若々しかった顔は一挙にやつれた様子だった。その原因は僕が2週間ほど意識不明のせいだった。僕は直ぐさま君のことを聞いた。だが誰も答えてくれなかった。
そして退院し君が亡くなったと知った。僕の嘆きが君に聞こえただろうか?それは僕の世界が終わり絶望の中にいた。
君を失った僕は、いつしか君に似た子をみつけると目で追っていた。君と同じコロンの香りと擦れ違えば傍にいる錯覚をした。いつも僕の心の中に君がいた。
大学2年生の夏に彼女が出来た。付き合うつもりはなかったが、高校の時からの友達が僕を心配して彼女を紹介してくれた。僕は会うだけと思っていた。でも彼女の髪をかきあげる癖が君と同じだった。それだけなのに付き合うことにした。
その夜に君の夢を見た。願っても出て来てくれないのに彼女ができた途端、夢で君が微笑み僕を誘う。あの時の高校生のままの君がそこにいた。
僕が執着しているせいだろうか。君が鮮明に出てくる。まるでこの世に存在するかのように。
僕はこの夢から抜け出せないでいる。彼女と別れると君は出て来てくれない。あれから3年がたった。
僕は取っ換え引っ返え女を作った。君に会うために。
君は今でもあの時のままだった。だが僕はもう大人になっていた。それなのにあの日の恋を終わらせることができない。君が僕の心を占領しているのは、僕が償わなければならない罰だろうか?執着は罪なのだろうか?
君に会うために僕はまた夢の中に逃げ込む。