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異世界転移者の娘  作者: へち
序章
2/4

2,過去の記憶

 私には母親が四人いる。

 父様はこれぞ男のロマンだとか言っていたけれど、たくさんいる母親たちはみんなそれぞれ私を愛してくれて、男のロマンじゃなくて娘のロマンだななんて思っていた。


「いつまでやってんだぁ?」


 緋色の髪を風になびかせて、母様(かかさま)が声を掛ける。

 長身で筋肉質な母様(かかさま)は、髪と同じ緋色の瞳を揺らして微笑んだ。


母様(かかさま)!」


 母様(かかさま)は火竜と人間の混血で、ゆるいウェーブのかかった長い緋色の髪はとても美しい。

 辺りが夕焼けに染まり、緋色の髪をなびかせる母様(かかさま)はまるで炎のように見えて、私は母様(かかさま)に抱きついた。


母様(かかさま)母様(かかさま)父様(ととさま)が出すふぁいあぼーみたいね!」


 その言葉に母様(かかさま)と父様は顔を見合わせて小さく笑う。

 そして父様は母様(かかさま)の髪をひとすくいして、そっと口付けた。


「おう。マリアは炎のように強くて綺麗だ」

「なっ、アズマぁ!」


 顔を真っ赤にした母様(かかさま)はやっぱり炎のようで、私はケタケタと笑う。

 すると、家の扉が開く。

 身体を窮屈そうに縮めながら扉をくぐったその人は、額を擦りながら私たちを呼んだ。


「アズマ、マリア、リリー、食事の用意が出来たよ!」

「ママ様!」


 勢いよくママ様に抱きつくと、ママ様は私をすくい上げる様に片手で抱き上げた。

 額の角が少し赤い。どうやら先程ドアの枠で盛大に打ったようだ。


「ママ様痛い?」

「ん、大丈夫だよ、ありがとリリー」


 ママ様は私の額にキスを落とす。そこは鬼人族には角がある場所で、角にキスをするのは親愛の証なのだそうだ。

 ママ様は、鬼人族でとても力が強かった。けれど誰よりも女性らしくて、料理と裁縫が得意な人だった。


(あかね)また手袋のここんとこが裂けたぁ」

「もー、マリアはすぐ破っちゃうんだから」

「ごめんよぉ」


 母様(かかさま)がママ様に怒られるのを見て、父様の肩がぴくりと跳ねる。

 ぎゅうっと服の裾を引っ張った父様は、ママ様の腕をつんつんとつついた。


「ごめん茜、俺も服破っちゃって……」

「アズマも? どこ破いたの?」

「ここ……高速で足踏みしたらビリって……すまん」


 くるりと振り向いた父様のおしりの部分は見事に破れていて、下着が丸見えになっている。

 その下着には茜の文字の刺繍がビッシリで、ママ様は頬を赤く染めた。


「なんでその下着着てるのよ! それは二人きりになれる日げんて……あっ」

「なんだぁ、茜は独占欲が強いなぁ」


 母様(かかさま)がクスクス笑うと、ママ様は違うのと小声で言いながら父様の背中をバシバシ叩いている。

 そのたびに父様からバキやらゴキやら不穏な音が聞こえるけれど、これもいつもの事だ。


「ママ様、そろそろ父様死んじゃうよ! リリー手を洗ってくるね!」

「きゃあっ! ごめんなさいアズマ!」


 大慌てのママ様の腕からぴょんと飛び降りて家の中に入ると、美味しそうな匂いがする。

 ちらりとテーブルを見ると、父様と私の大好物の『カラアゲ』が山のようにお皿に盛られていた。思わずニコニコと口角が上がってしまう。

 手を洗ってダイニングの椅子に座ると、もう既にみんなが揃って着席していた。


「さて、リリーも揃った事だし、手を合わせてください」


 父様の掛け声でみんな一斉に手を合わせる。そして声を揃えて呪文を唱える。


「イタダキマス」


 母様(かかさま)の髪がふぁいあぼーみたいで綺麗だったこと、父様の下着がママ様の名前だらけだった事を話すと、母様(かあさま)母様(ははさま)は楽しそうに笑ってくれた。


 食後は母様(かあさま)と一緒にお風呂に入る。

 うなじに青い宝石のような鱗を持つ母様(かあさま)は、リザード族と人間の混血で水の魔法が得意だ。

 いつも泡を流す時に顔にかからないようにしてくれる。


「ねぇ母様(かあさま)母様(かあさま)は父様のどこが好きになったの?」

「そうさねぇ……」


 湯舟に浸かりながらそう聞いてみると、いつもは透けるように白い母様(かあさま)の肌がほんのりと赤くなる。


「あの前向きなところだろうかね。私はネガティブだから、彼奴(あやつ)の底抜けに明るい所や前向きな所が眩しく映るよ」


 湯舟に顔を半分沈めてぷくぷくと泡を出すのは、いつもクールな母様(かあさま)の照れ隠しなのかもしれない。

 私は母様(かあさま)の新しい一面が見れてなんだか嬉しくなった。


 眠る時は母様(ははさま)と一緒だ。

 エルフ族の母様(ははさま)は長い長い旅の末父様に出会い、結婚したと聞いた。

 私は姉のような幼い顔の母様(ははさま)が語る、長い長い旅の寝物語が大好きだった。


「アズマもリリーも、私を置いて()()()しまいますのね……」


 私が眠ったと思ったのか、母様(ははさま)がポツリと呟いた。

 その声があまりに悲しそうで、私はふわふわとした意識の中なんとか母様(ははさま)が安心してくれるように答える。


「だいじょーぶ……」


 私の声に、握っていた母様(ははさま)の手が強ばる。

 その手を握り返すようにぎゅうっと力を入れて、私は母様(ははさま)に温もりを伝える。


「置いて()()()()よ、迷子にならないようにリリーが手をつないでいてあげる」


 その見当違いな答えは、母様(ははさま)にとって真実になった。


「ええ。私が()()時はどうかリリーが手を握っていてくださいませね」



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