【SS】感謝祭~女性陣編~
「ニーサさん、その花束は?」
「あら、エルマ様。もうすぐ感謝祭ですから、その準備です」
「そうか、日頃お世話になっている方にお礼をする日だったわね。……それはトゥリーパの花? ジョルジーさんに渡すの?」
「あらあらうふふ」
(え、笑顔の圧力……!?)
「あたくしみたいな年寄りなんかどうでもいいじゃございませんか。エルマ様はどなたかにお贈りすることはなかったのですか?」
「わたし……?」
「ほら、感謝祭の日といえば、意中の相手に想いを伝える話がつきものでしょう? 初恋の思い出はございませんの? 花はもちろん、エルマ様はお裁縫もお料理も得意でいらっしゃいますし、字だって綺麗ですもの。さぞかし凝った贈り物を――」
「わたしは……毎年感謝祭の日は、タルコーザの家族に感謝を示すために、徹夜で家事をしていたかしら……」
「あっ…………」
「でもね、うんと昔、お父さまとお母さまがいらっしゃった頃は、お父さまからはお祝いのカードをいただいたし、お母さまにはお菓子を作ってもらったわ。わたしは……お花を摘んできて、返した気がするわ」
「そうでございましたか……」
「ええと、だから、その……初恋の思い出? と言うのは、特になくて……たぶん、ユーグリークさまが初めてのお方だと思うから。でも、そうするとユーグリークさまの思い出が、初恋の思い出になると思うの」
「エルマ様、その話、坊ちゃまにはなさらない方がよろしいですよ」
「え?」
「そんなことを言われた日には、坊ちゃまの理性が保つか危険でしょうから」
「???」
「さて、あたくしの花束はこれで完成。エルマ様はどうなさいますの? お花の刺繍でもなさいます?」
「でも、ユーグリークさまは男の人よ? 花柄の贈り物なんて貰って嬉しいのかしら。ただのお花も、あまり喜ばれないような……」
「では珍味なんてどうでしょう? ちょうどそこのテーブルに置いてあるロザリカなのですけど、これは鑑賞用ではなく食用なんですって!」
「食用のお花?」
「ジェルマーヌ邸の階下では、今年はこれでお菓子を作って皆で楽しもうか、という話をしておりましたの。エルマ様もいかがです?」
「そうね、面白そうだし……食べ物なら残らないもの」
「――と申しますと?」
「ユーグリークさま、下手に残る物を贈るとずっとお使いになるから……ハンカチもあんなに毎日持ち歩くとわかっていたら、もっとちゃんと刺したのに……いえ、けして手抜きをしたわけじゃないのよ! でもずっと手にされているのを見ていると、色々と反省点が……」
「あっ、はい……」
「どうしていつも贈る時には完璧に見えるのに、後から後から直したい点が見えてくるのかしら。もっと精進しないと」
「まあ、その。坊ちゃまはエルマ様から貰えるのでしたら、たぶんなんでもお喜びになりますよ。それこそたぶんゴミでも」
「だから余計困るの! ゴミなんかで喜んでほしくないもの! ちゃんとした物で満足していただきたいの!」
「ソウデスカ、ゴチソウサマデス……」