【SS】年越しは彼女と二人でしたい系男子と目が死んでる王太子の模様
「ヴァーリス、俺は大変なことに気がついた」
「十中八九どうでもいい話題なんだろうなと思いつつ、僕は他に話し相手がいないだろうユーグのために耳を傾けるのだった」
「…………」
「なんで小突くんだ、傾聴姿勢だろうが」
「そうなのか?」
「そうだよ。ほら僕の気が変わる前に早く本題に入れ」
「実は、もうすぐ年末なんだ、ヴァーリス」
「うんまあ……僕の頭とカレンダーが両方いかれてなければそうだろうな。で?」
「来年になったらエルマは社交界に出てしまう」
「出てしま――うん、そりゃそうだ。だって正式な婚約者として発表しなきゃいけないんだもんな。で?」
「年が明けたら両親もこちらに来るだろう」
「まあ例年のこと考えたらな。領地の新年祭を見届けてからこっちに来るだろうな、現ジェルマーヌ公爵夫妻は」
「両親が来る。エルマを紹介する。……大問題だ」
「公爵閣下は別に家格が劣る嫁なんざ認めない系の人ではないだろう。むしろ本人は相手が庶民だろうがさほど気にしない」
「それは懸念事項ではない」
「じゃあ嫁姑事案か? 別に相性が悪いようには思えないが――」
「ヴァーリス。俺は親子だからわかる。エルマは父上の好みだし、母上の好みでもある」
「お、おう」
「ということは、年が明けて父と母がこっちに来る、すなわちエルマが取られる。大問題だ……!」
「世界一アホらしい悩みだった」
「なんだと」
「だって結婚したら死ぬまで同居できるだろうが、離婚しない限り」
「俺だってさっさと結婚したいし縁起でもないことを言うな!!」
「うるせえ!!」
「……で、なんだ。要するにあれだな、お前年末はエルマと親睦を深めたいから知恵を貸せってことだな、つまりは」
「話が早くて助かる」
「もう充分親睦深めてるだろ、いい加減にしろ」
「あれが充分に見えるのか?」
「暇さえあればエルマエルマエルマでべったりしてるだろうが! この城で今のお前に呆れてない人間の方がむしろ少数派だよ、誰も口にしないだけで!」
「……そうかな?」
「そうだよ! 大体なあ、んなもんね、今から超特急で身内パーティー準備して、魔法伯家に招待状出せば済む話だろうに、今まで人付き合い徹底してサボってきたから思いつかなかったんだろうが! 社交をしろ!!」
「…………」
「なんかまだ不満そうだな。なんだよ。言えよ。可能なことなら手を貸してやる」
「年越しは二人きりで祝いたいんだが、どう魔法伯家のお祖母様を説得すればと思う?」
「一年待て。以上」
「ヴァーリス、お前はそれでも俺の親友なのか!?」
「都合のいい時だけ友人関係の疑問符を外すな。いやお前ね、一年後にはね、もう結婚しててね、一生毎年、嫌でも一緒に年越しするようになるわけ。今年ぐらい最後の独身謳歌しとけばいーじゃねーか、なんでその程度の待てもできないの!!」
「俺は……エルマと年を越したいんだ……!」
「僕はお前にもそういう面があったんだなって微笑ましい気持ちと、いい大人なんだから自制心仕事しろと思う気持ちで揺れ動いているよ、ユーグ」
「お前だけには自制心の説教をされたくないんだが」
「僕は必要な時に絶対自制心を働かせられる自信があるから遊び歩いているんだぞ」
「胸を張るな!!」
※結局身内パーティーへの招待で妥協しました。