【SS】発音の大特訓
「従姉妹……?」
「そうだよ。お祖母様が探していたアーレスの子がようやく見つかったんだ」
「それは……良かったですね?」
「ああ、本当に!諦めなくて良かったよ」
(……我が父ながら皮肉が通じてないのかわかってて流してるのかわからん……)
「今はお祖母さまと一緒に王都にいるから。年明けにあっちに行ったら紹介するよ」
(……見つからなければ良かったのに。忌々しい秘宝の持ち主なんて)
「あ……に、兄さん、聞いた……?」
「何を」
「い、従姉妹が、できるんだってね……えへへ……」
「えへへ?」
「ご、ごごごごめん、なさい……! で、でも、かかか可愛い子だって、と、父さんが……」
「いいか、スファル。相手はあのアーレスバーンと、奴を誘惑した女の娘だ。つまり敵だ。だらしない顔をするな」
「え……ええー……?」
「何だ。ボクの言うことに文句でもあるのか」
「な、ない! ないよ……!」
「……しかし、お前の言葉はいつどこで聞いても常に耳障りだな」
「ご、ごめんね……」
「きっとかの従姉妹とやらにも笑われるんだろうな、その喋り方」
「う、うん……そう、かもね。オレ……あまり、話さないように、する……」
「気に食わん。実に腹立たしいことだ」
「兄さん……?」
「お前がボクより劣っているのは自明の理だから仕方ないが、かといって部外者に指摘されるのはまた話が別だ」
「えっと……兄さん……?」
「他の人間ならまあわからんでもない。お前が不出来なのも今に始まったことじゃない。だが、アーレスバーンの娘にだけは、馬鹿にされるなぞ我慢ならん。――スファル、特訓するぞ」
「な、なななんでそうなったの……!?」
「うるさい。お前の元々の出来が悪いから、わざわざ時間を割くことになるんだろうが」
「ご、ごごごめんね……で、でも、だったら、お気遣いなく、というか、お、お構いなく、というか……!」
「黙れ阿呆。兄の言うことが聞けないのか」
「ううう……はい……」
「今更日常からその癖を直せとは言わん、どうせ無理だからな。だが――そうだな、従姉妹の名前はエルフェミアだったか」
「そ、そうだね……む、難しそうな、名前、だね……」
「これだな。他のことは付け焼き刃でどうにもならずとも、名前一つぐらいならどうにかなるだろう。というわけで、王都に行くまでに、お前はなんとしてもこの名前が噛まずに言えるようにならなければならない」
「だ、だからなんで、そそそんなことになったのさ……!?」
「さあ兄が発音を叩き込んでやるから今すぐ口を開け」
「兄さん、無茶だよぉ……!」
「いいから言え。エルフェミア」
「エ……エル……」
「エルフェミア!」
「エルフャッ……!」
「まあそうなるだろうな。いいか? 最初のポイントはここだ。エル、は楽に言えるな。そこで気持ち切る。それからフェ、だ」
「エ……エル、フェ……」
「次はミ」
「エル、フェミャ……」
「全く違うだろうが!!」
「ご、ごめんね……ごめんね、兄さん……!」
「もう一度だ。エル・フェ。そこまででいい」
「エル……フェ……」
第二部開始ちょっと前ぐらいの小話。
スファルバーンが噛み噛み青年なのにエルフェミアだけ割と流暢に発音している裏話。