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実技試験二日目 ①

だいぶ長くなりましたが投稿です。

ゴーン ゴーン  ゴーン ゴーン


ディステニー王国特有の朝の鐘が街全体に鳴り響く。


この音を合図に住民は目覚め、大通りは人や馬車で溢れ、市場では商売が始まり、街全体が動き出す。


『ディステニー王国』

この世界で三番目に規模の大きい国。他の国との大きな違いとして、魔法だけでなく、炭鉱業や蒸気機関や電気などが国の中で応用され、街にはガス灯・路面電車が通っている。町の心部に行くと幾つもの高層の建物が立ち並び、国の王様が暮らす王宮や世界最大級のギルドも立ち並ぶ。観光地としても有名であり、中心部は毎日のように賑わいを見せている。




「ん?もう朝かぁ〜あー眠い。」


重たい体を起こして冷たいシャワーを浴び、リンゴを人かじり、仕事の制服に着替える。


「うっし、行くかぁ。」


容子を整えたあとは、部屋を後にしてアパートの階段を降り、玄関で郵便物を確認。

あぁ?なんで老人ホームの広告が届いてんだよ。


「あらおはよう、お仕事行ってらっしゃい。」


「大家さんおはよう。行ってきまーす。」


毎朝玄関を箒で掃いている大家さんと挨拶を交わし、「冒険免許試験場」、私の職場に向かう。


「王都行き、間も無く出発しまーす!」


「はいはい!乗りまーす!」


いつも利用する二階建ての路面電車に駆け込む。


「フゥ・・間に合った。」


朝の路面電車には王都へ仕事に向かう人々で満員になる。私が乗る時間帯では車内には既に入れず、二階へ上がり、手すりにつかまって行き先まで大体三十分耐えるのだ。慣れない頃は電車から落ちたことは何度もあった。大体1日に二人くらい電車から落っこちるのでその光景は朝の街の名物だったりする。


さて20分ほどで大きな広場に到着。


「次は、ディステニーギルド前、ディステニーギルド前。」


電車が止まると半分以上の乗客が下りていく。これでも席は空かないけどもスペースに多少余裕ができる。


目の前には巨大な大聖堂を思わせる建物。

建物の壁の近くには芸術的な彫刻や、大きな噴水、有名な勇者の銅像などが立ち並び、周辺には観光客や冒険者と思われる装備の人々、出店の数々や竜族や魔族、エルフや獣族などありとあらゆる種族も見ることができる。


この時期はサーカス団も来ているためこんな朝でも大道芸を見ることができ、より一層この辺りは騒がしくなるのだ。


建物の下で行われている大道芸を眺めていると、路面電車はギルドを後にする。


到着までもう少し時間があるのでカバンから本を取り出し読もうとするが、近くで雑談している二人のおじさんの片方が読んでいる新聞の見出しに気づいた。



『ギルドの危機!?深刻な冒険者不足。』



同時に、会話の内容が耳に入ってくる。


「最近、冒険者不足で周辺の国々が困っているようだね。」


「冒険者希望の若い人は多いのになかなか免許が取れないみたいだ。」


「試験場の連中は何を考えてるんだか。希望者全員冒険者にすればいいのに。」


「小さい田舎にいる知り合いからはモンスターに対応できる冒険者が近くにいないし、王都から呼ぶにもお金がかかるから困っているって聞いてるよ。」


「このまま冒険者が減り続けたら、それこそ田舎の街は維持できなくなるんじゃないか?」


「それは困るよ。昔は冒険者は沢山いたのに、本当にどうしたんだろうね。」


冒険者不足の原因は知っている。


かつて冒険者ランクは全部でSSからGまでの9ランクあった。


「おれ、冒険者やります!」


「お、いいよ!」


っと簡単に冒険者になれた時代もあった。


しかし数年前。ギルドが突然SSからCまで5ランク以外の冒険者は冒険免許を無効とし、これにより冒険者の約60%が、いきなり冒険者でなくなってしまったのだ。さらに、冒険者となるための試験内容が大幅に変更され、冒険者になるのがかなり難しくなった。免許が無効となった人は当然再試験となる。これでは人手不足は当然である。当時はかなりの批判や抗議、暴動があった。


ここに来てさらに深刻度は増しているらしい。


免許無効はギルドの方針で十分な議論もなしに強行されたことが一番の原因であり、そもそも冒険者不足になることはギルドも分かっていたはずだ。それについての十分な対策を怠ってきておいて、その後始末を実質的に受け持ったされているのが冒険免許試験場の私たち。


ギルドの上層部のメンツが変わらなければ今後も冒険者不足は深刻化するだろう。これで誰が困るって当事者の冒険者たちなのにそれがわからないのが今のギルドのお偉いさん方、あんたらも元々冒険者だろうに・・。



私はそのまま車外の風景に目を向けることにした。本はもういいや。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「それでは朝礼始めます。おはようございます。」


「「おはようございます。」」


「開門は9:00。受験者のバンドは緑、職員は黄色です。筆記試験は午前10:00と午後14:00で二回行います。実技試験は13:00より、9つの試験会場で行います。冒険講義は午後15:00から、違反対象者カウンセリング並びに相談窓口はこの後9:00から始まります。」


「本日の実技試験受験者は95名です。掲示板に各試験場とチームの割り振りを記載しているので後ほど確認して試験開始一時間前には現地に向かってください。ヘッドに選ばれている人はこの後試験会場の資料を貰ってください。」


「最後に共有です。昨日の冒険者の死者は7名、全員免許取得して一年以内の新人です。」


あー昨日も死んだのか。多いなぁ・・。


「まず腐海の海で2名発見されています。死因は毒による衰弱死、毒よけの道具などを所持していなかったようです。次に結晶洞窟で1名発見されています。死因は結晶の呪いによる結晶化。ソロでの探索だったようで、呪解の水晶を所持していなかったようです。最後の4名は深森で発見されています。死因は「ビックウルフ」による捕食、6人パーティーを組んでいましたが、獣よけのお香を所持していなかったようです。」


可哀想に。自業自得とも言えるけどね。


深森の人たちに関してはパーティーが無能で死んだようなものだけど。パーティー全滅じゃなくてよかったと思うべきか・・・最近のルーキーは冒険に対する傲慢や無知が原因で死んでいく。昔は、一日の死者三桁という時代もあったようでかなりひどかったみたいだが・・。


周りの職員も同じように険しい顔をしている。


「冒険者になって一年未満ルーキーの死亡率が上がっています。一日に3人は死んでいる計算です。ギルドと試験所の目標は冒険者の死者を0にすることです。ですので、私たち試験官の仕事は免許を簡単に取らせることではありません。受験者の素質を見極め、受験者が今後、生存できるのかを慎重に判断していく必要があります。私たちが決める合否はその人の生死を左右していることを今一度念頭に入れてください。」


「「はい。」」


「それでは朝礼を終わります。本日もよろしくお願いします。」


「「よろしくお願いします。」」


朝礼が終わり、職員全員が一斉に受験者を迎えるため準備を始める。


「アレンさん、ブラインさん、ジョージさんはこの後オフィスまで来てください。」


おっと、このタイミングで上司に呼ばれたということは、昨日死んだ冒険者の試験合否担当だったってことだ、後で何か奢ってあげよう。


さて、掲示板にはモルト地区B試験会場、Gチームのヘッドと私の名前が書いてある。つまり私がリーダー。早速資料を取りに行くか。


・・・・・・・・・・・


すでに建物中が受験者や職員たちで賑わっている中、コーヒー片手にもらった資料を読みながら廊下を歩く。


モルトの試験内容は前回と変わっていない。まぁ受験者にとっては厳しい方だろうな。


担当モンスターは、「ゴール」か・・試験場内に潜る四人は新人が一人とベテラン三人。大丈夫そうだな。


小さな会議室に移動し、上司からもらった資料を四人に配る。


「では、打ち合わせはじめます。」


「まずモルト地区B試験会場での試験内容は資料の通り前回行われた内容と同じで行おうと思います。」


「次に使用するトラップの配置図ですが・・・・


簡単に、モルト試験会場の概要と、トラップ、チェックポイント、各ポジションの説明、緊急時の避難ルートや動きなども話す。




打ち合わせ中





「という流れでいこうと思いますが、いいですか?」


「「はい。」」


「それではトラップの調整やモンスターとの打ち合わせもありますので今から一時間後に現地集合でお願いします。」


さて先に私は現地へ向かおうかな。



13:00


会場の準備が整い、規定のポジションについたところで受験者たちが魔法陣より試験会場に現れた。


男女10名。私たち試験管もここで初めてご対面する。



爽やか青年「よろしくお願いします!!」


ガタイのいい男「どうも!!」


小柄な盗賊少女「お願いします!!」


爽やか青年を筆頭に何名か私に挨拶をしてきた。

とりあえず、小柄な盗賊少女に関しては身長未達で失格にしたい。


受験者がバンドをつけている事を確認する。


「それではこれより実技試験を行います。ルールは簡単です、向こうに見える廃墟のお城に隠されている冠を取ってきてください。何か質問は?」


女魔術師「あの、時間制限は・・。」


「特には設けていませんが、参考程度に一般Cランク冒険者が約1時間で往復できる難易度に設定しています。王冠を取ってこれればそれ以上かかっても失格にはなりません。」


女魔術師「ありがとうございます。」


チャラそうな剣士「あの〜どういった形で採点はされるんですか〜?」


「申し訳ありません、採点基準などは秘密事項ですのでお答えしかねます。ご了承を。」


チャラそうな剣士「そうですかぁ〜。」


「他に質問は?なければ試験を開始します。一番目の方。準備を。」


緊張している青年「は、はい!!」


「他の受験者は順番が来るまでは自由にしていただいて構いません。ただし広場より離れた場合、騒ぎを起こした場合は試験を受けないものと判断し失格の対象になりますのでご注意を。」


「それでは準備はよろしいですか?」


緊張している青年「・・・・・はい!頑張ります。」


「それでは、始めてください。」


さて私も転移魔法で監視塔に移動する。ではモルト試験場の解説でもしましょうかね。


モルト地区は標高の高い白い山々に囲まれた盆地に王宮や城の遺跡が立ち並ぶ地区、近隣には竜の住む山もある。私達がいる丘の上の拠点からは湖と朽ち果てたお城の数々が見え、壮大な風景を眺めることができる。湖の水面に映る逆さの山々がより綺麗に映るため、画家や芸術家・歴史家にとっては聖地と言われている。あとは知らん。


さて、今回の試験会場はモルト地区B試験会場のマルリア城。朽ち果てたお城を改装し、試験会場用の建物として昔から利用している場所である。会場には3つのトラップと4つのチェックポイント。


あれ?少ないと感じる?理由は追々わかる。


もう直ぐ青年が城内に入るので見ながら解説しよう。


「うわぁ・・・すげぇ。」


遠くから見えていたお城が近づくにつれてその大きさに圧巻される。

ディステニー王国でもこんな規模の城は少ないからね。


青年は意を決して大きな扉を開け、城内へと入る。



「中も広いや・・・王冠はどこだろう。」



元々人が住んでいたお城のため、トラップなどはすべて外部から導入している。



「ん?これは・・落とし穴だな。危ない危ない」



あと少しでトラップに引っかかるところであったが、踏みとどまったようだ畜生。


先ほどの青年に引っかかって欲しかったトラップは落とし穴

城の中には100箇所以上落とし穴が設置されている。これでは攻略が難しいと思うかもしれないが周りの床と色が違ったり、少し凹んでいたり、とよく見れば分かりやすい。よっぽど周りに目を配る余裕がない状態に陥らないと引っかかることはない。


二つ目は矢

これも城のいたるところに設置され、受験者を妨害する。刺さっても死にはしないが、痛い。


三つ目はスモーク。近くを通ると爆発するように煙を起こして冒険者の視界を妨害する。


正直ショボイと感じると思うがこれでいいのだ。

ここまでのトラップは妨害用。今の段階で引っかかっても減点の対象にはならない。

というか個人的にこの段階で引っかかってしまう奴は冒険者にはさせたくないが。


ではこの試験場最大の目玉をご覧あれ。




・・・・・・・・・




「お・・広いところに出たな。」


大広間のようなところに出た。

その広間の真ん中には黒く大きなものがあった。

部屋は薄暗いため近づいてみないとよく見えない。



「ん?なんだ?あの大きいの?」



黒く大きいものに近づいてみる。すると



ギロ



「おわ!?・・なんだ!?」


暗闇から大きな目が出てきて動き出す。地面が揺れ、青年は尻餅をつく。

そしてようやく分かった、あの大きいものの正体が・・。




ギャァォォォォォォォ!!!!



「どど・・・ドラゴンだぁぁぁぁぁ!!!!」



一目散にその場から逃げ出す。



この試験はドラゴンが登場するのである。


ご視聴ありがとうございました。



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