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  作者: 風風風虱
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 ジュー、ジュー、パチ、パチとフライパンで油が弾ける音を伴奏に鼻歌を歌いながら私はキッチンで野菜炒めを作っていた。

 

 ジュー、ジュー、パチ、ジュー、パチ、パチ


 香ばしい匂いが鼻を刺激して食欲がそそられる。その時、私は朝の呪いの箱のことなどすっかり忘れていた。


 ジュー、ジューう、パチ、ジューううぅあジュー、パチ、ああチ、ジュー、ジュー、パチ


 ふと、変な音が油の弾ける音に混ざっているのに気がついた。

 ガスコンロを消して私は耳を澄ませる。

 次第に油の音は小さくなる。それに反して変な音は際立ってくる。


 ううぅ、あああ、うああぁ


 うめき声のようだった。苦しげな、女のうめき声だ。部屋を見渡す。当然部屋には私しかいない。テレビもラジオもついていない。


 ううううぁあ、うあああ


 しかし、うめき声は間違えなく聞こえてくる。私は耳に集中して音の出所を探った。部屋の隅から聞こえてくるようだ。

 でも、隅にあるものは戸棚とマガジンラック、それに……

 それにゴミ箱!

 私の視線はゴミ箱に貼り付いて離れなくなった。


「えっ、なに?」


 ゴミ箱から黒い物が覗いていた。例の箱を放り込んだ他、今日はなにも捨てていない。あんなものはゴミ箱にはないはずだった。


 ううううぁぁあぁぁ


 低いうめき声が響く。恐怖に固まっていると、黒い物はブルブルと蠢きはじめた。


 ペチョ


 濡れた布が貼り付くような音がした。ゴミ箱の端を四本の指が掴む。間違いなく人の右手だ。爪の形もはっきりと分かる。


 ペチョ


 続いて左手が現れた。

 見ているものがなんなのかは分かるが、なんでそんなものが現れることができるのか全く理解できなかった。そうこうしている内に、ずりずりと黒い物がせり出してきた。


 頭、なんだ。と思った。

 ようやく分かった。あれは黒い髪の女の頭だ。ゴミ箱の中から女が這い出てこようとしている。

 白い額が現れ、ついで、目が現れた。

 女の頭がゆっくりと回り始める。部屋を見回しているのだ。なにかを探しているようだ。


 私だ


 そう直感した瞬間、女と目が合った。合ったとたん、女はやや垂れた目でニタァと笑った。ズルリと右腕が二の腕のところまでゴミ箱から飛び出る。間髪を入れず左腕も飛び出た。


 まずい、まずい、まずい、まずい。このままでは女が出てくる。

 私は近くにあった椅子を掴んだ。


「うわぁあ!」


 悲鳴とも気合いともつかない声を上げながら、私はゴミ箱を椅子で殴り付けた。

 ゴミ箱は簡単に弾け飛び、壁にぶつかり中の物を床にばらまいた。

 私は、血眼になって女を探したがどこにもいなかった。朝のように忽然と消えていた。ただ、呪いの箱だけが転がっていた。


「うわ!この、この、この」


 私は包丁を取ると箱を滅多刺しにした。何度も何度も刺し、貫き、バラバラにする。

 我にかえった時にはズタズタのなったボール紙の残骸があるだけだった。私はその破片を一つ残らず集めるとゴミ袋に入れる。それをさらにゴミ袋で二重に包み、そのまま、アパートのゴミ捨て場に放り込んだ。今日はゴミを出す日じゃないがそんなことには構ってはいられない。

 走るように部屋に戻り鍵をかけ、ようやく落ち着いた。

 

2019/10/22 初稿

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