静寂の瞳
塔に戻ってから、いつの間にか自分は寝てしまっていたらしく、ベッドから身体を起こしたリルヴィアは窓の外を見た。
もう外は暗く、日は沈んでいた。自分が外に出ても雨が降る時間ではない。
「……姫様?」
扉がある方から声が聞こえたため、リルヴィアは返事をする。開かれた扉からセリアが火の灯った燭台を持って入って来た。
「お目覚めでしたか……」
セリアが明らかに安堵したような表情になったため、リルヴィアも小さく微笑んで見せる。
「ごめんなさい。夕食の時間を過ぎてしまったわね。……思ったよりも気疲れしていたみたい」
気付けば自分は正装のドレスのままで寝てしまっていたようだ。これではしわが付いてしまうだろうと立ち上がる。
「いえ、夕食ならいつでも用意出来ますので。……お疲れなら、もう少しお休み下さってもいいんですよ」
「もう、平気よ。……それに私が起きないと二人は夕食を食べないつもりでしょう?」
いつも食事は三人揃ってから摂っている。遠慮しなくていいと伝えているのだが、よほどのことがない限り、侍女である二人が自分より食事を早く摂ることはほとんどなかった。
「それは……」
違う、と答えようとしたらしいが、セリアの言葉よりも早く、彼女の腹の虫が大きく鳴いた。それを聞かれたセリアは彼女にしては珍しく、頬を赤らめて視線を逸らした。
「ほら、お腹の虫も鳴いているわ。……ミーシェも起きているかしら? 少し遅いけれど、夕食にしましょうか」
「……はい」
観念したようにセリアが頷く。
「自分で着替えられるから、夕食の用意をお願いね」
「分かりました。……それではすぐに準備致しますので」
「ゆっくりで構わないわよ」
しかし、急いで遅くなった夕食の準備をするつもりなのかリルヴィアが答えた時にはもうそこにセリアの姿はなかった。
再び、一人となった部屋には静寂と暗闇が訪れる。
窓の外を見ても、景色は良く見えないが、王城の方が明るく見えるのは恐らく使者を歓迎する夜の宴が行われているからだろう。
その宴の警備にアルクスも加わっているはずだ。
今日、会う事はない。そして、恐らく今後も会うことはないのだろう。
夜の友人として自分に向けられていた優しい瞳が失われるなら、もう二度と彼の瞳に映りたくはなかった。




