空を睨む
次の日は朝早くに出発したというのに、小雨が降っていた。太陽よりも早く目覚めて雨除けの外套を着ていても効果はないようだ。
どの村を訪れても、宿屋の主人や従業員の口から零れるのは雨が長いという事ばかりである。
あまり雨が長く降り続いてしまうと、その土地で育てている作物に与える影響が悪いものになってしまうと言っていた。
サイゲルの占いで大干ばつが来ると結果に出たらしいが、本当にその占いは当たるのか不安になってくる。
川の水かさが増えて、農作物に影響が出ない事を祈るしかないというのは、何ともおこがましいことだと思う。
……大丈夫だといいのだけれど。
不安しか募らない中で、雨が直接身に染みるように当たっている護衛達はどんな思いで雨空の下を移動しているのだろうか。
やはり、一度くらいは自分から声をかけた方がいいのかもしれない。
……気を遣わなければならないのは私の方だもの。
サイゲルの占いの結果によって、この旅は始まっている。
しかし、理由はどうであれ、辛い思いをしているのは雨の中の移動を強いられている者達だ。あとで時間があるなら、労いに行きたいと思う。
……他の王族の人間は仕えてくれる人にどういった言葉をかけるのかしら。
長年、自分に仕えてくれているセリアとミーシェはもはや家族同然のように一緒に過ごしているため、何かをやってくれたことに対してお礼はいつも言っているが、それとはまた違うような気もするのだ。
「――姫様」
「……あ、ごめんなさい。聞いていなかったわ」
セリアの呼びかけにリルヴィアははっと我に返る。
「今、外にいる御者の方に聞いたのですが、空が暗いとこれ以上の道を進むのは難しいとのことなので、今日は途中で野宿になる可能性があると言っていました」
「あら、そうなの」
「……野宿ですけれど、大丈夫ですか? ちゃんと、寝床は準備しますが、普段寝ている場所と比べて寝心地は悪いと思いますし……」
「平気よ。……夜には雨は止むと思うし」
太陽が出ている昼間は空が晴れることはないが、日が沈むとすっかり雲一つない夜空へと変わるのは自分でも不思議に思ってしまう。
窓の外を見上げると移動し始めてから、随分と時間が過ぎたというのに空を覆う雲は分厚いままだ。
「……辺りが見えなくなる前に、どこかいい寝床が見つかると良いわね」
「そうですね……」
止むことのない雨をセリアも見上げる。このまま雨が降り続ければ、寝床となる場所も濡れたままだろう。
どこで一晩、野宿するにしろ、やはり雨が当たらない場所の方が良いに決まっている。
……自分で力を制御することが出来たらいいのに。
リルヴィアは心の中で呟きつつ、恨むように雨を落とす空を睨んでいた。
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野宿する場所が決まった頃にはすっかり日は落ちたため、空は雲一つない天気へと変わっていた。
しかし、それでも降り続けた雨により、足元の地面はぬかるんだままだ。数時間で乾く水分量ではない。
だが、通っていた道の端に使われていないであろう廃屋があったため、その場所を一晩の寝床として使わせてもらうことにした。
もう何年も使われていないのか家は鍵がかけられておらず、中には何もないが埃だらけだ。
掃除をしようにも道具がないため、とりあえず換気してから、持ってきていた薄手の布を使って、アルクス達が部屋の中の埃を叩き出してくれていた。
その間にセリア達が持ってきていた調理道具と滞在した村で買っておいた食材を使って、夕食の準備を進めてくれたため、周りが見えなくなるくらいに日が暮くれた頃には、何とか腰が落ち着けるようになっていた。




