表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/43

塔の外

 

 その日の夕方、塔を訪れたのは国王によって送られてきた正式な使者だった。サイゲルの占いの結果による提案は国王によって快く承諾されたと報告を受けた。


 だがこの時、何も感じなかったのは何故だが分からない。思っているよりも他人事のように感じているからかもしれない。


 それからはとんとん拍子に特使としてリルヴィアが各地へ派遣される準備は進んでいき、気持ちだけが置いて行かれた感覚のまま、塔を出発する日を迎えてしまう。


・・・・・・・・・・


「……」


 国王からの励ましの挨拶もないまま、リルヴィアは質素な馬車へと乗せられた。


 空は自分が塔から出たせいですぐに雨が降り出しそうな雲で覆われ始めていく。

 一番強い呪術がかけられた雨除け用の外套を頭から被るように羽織っているが、あまり効果はないようだ。  


 自分の目の前には不安そうな表情のミーシェと機嫌が悪いことを隠すことなく、馬車の外を睨んでいるセリアがいた。

 二人がこの雨を降らせるための旅について快く思っていないのは承知している。


 リルヴィアも視線をそっと窓の外へと移した。物語の一場面が早く過ぎていくように、景色が流れていく。

 王城から追い出されるように馬車に乗せられたが、今はどのあたりだろうか。


 自分達がどこへ向かっているのかも分からないまま時間が過ぎていく気がした。


 今回の旅に自分とセリア達以外に護衛として付き添ってくれるのは側近であるアルクスを含めて五人の騎士が近衛騎士団から与えられている。

 そのうちの一人はアルクスの友人であると伺っている。


 ……最近、あまりお話出来ていないわね。


 サイゲルの話が通ってから、色々と準備があったため、アルクスと夜に会うことは止めていた。


 アルクスもそれを承知してくれているようだが、やはり一度くらいはちゃんと話をしておけば良かったと思う。主と従者の関係だと、彼の本音が隠されてしまうからだ。


 溜息を隠すように吐きつつ、リルヴィアは前方を馬で走っているアルクスへと目を向ける。


 この一行がリルヴィア姫を乗せていると世間に知られないために、護衛達は通常の近衛騎士団の紋章が入った外套ではなく、無地で白色の外套を着ているようだ。

 こうやって離れて見ると、やはりアルクスの背中は大きく感じられた。それなのに――。


 ……大きいのに、遠い。


 近くにいるのに、距離は遠いままだ。アルクスも本当はこの旅を良く思っていないのかもしれない。それでも何も言わずに黙って自分に従ってくれることを心苦しく思う。


 窓の外の空が少しずつ黒い雲で覆われていく。気付いた時にはぽつりと雨が降り始めて来た。


「……降り始めたわね」


 自分が塔を出てから、雨が降った時間としては最長だった。


「……姫様、お身体は寒くありませんか」


「平気よ」


 ミーシェの気遣いにリルヴィアは微笑みを返す。すると馬車はゆっくりと速度を落としていき、やがて車輪を止めた。

 セリアが窓を開けて何事だろうかと外を確認してから、首を引っ込めた。


「姫様、どうやら最初の村に着いたようです」


「そう……」


 最初の村の名前は確か「ルーシェン村」と聞いている。そこで自分達は一泊してから明日、次の村へと出発する予定だ。


 ……本当に、私が移動するだけでいいのね。


 自分が移動すれば雨は勝手に降ってくれる。その雨で土地を潤していくだけの役目だ。


 自分達が乗っている馬車の唯一の入口である扉が外側から開かれる。扉の向こう側にいたのはアルクスだった。


「ルーシェン村に到着しました。……宜しければお手を」


 自分が馬車から降りやすいようにとアルクスが右手を差し出してくる。リルヴィアは一瞬だけ迷ったが、彼の手に自分の左手をそっと添えてから馬車から降り立った。


 地に足が着いた途端に感じたのは寒気だ。自分が降り立った場所は屋根の付いている小屋のような場所だった。


 今日は身分を隠して宿屋に泊まると聞いているが、この場所は泊まる予定の宿屋の車寄せなのかもしれない。リルヴィアはアルクスからそっと手を離し、ゆっくりと前へ進む。


 王城の敷地から一歩も出たことがなかったため、全て物語の中でしか外の世界を知らない。


 鼻をかすめるのは雨と土の匂い。今は昼食時なのか、美味しそうな匂いも混じっていた。

 木製の家は所々が建て増しされているのか古い板と新しい板が並んでおり、その壁に沿うように薪が山の如く整列している。


「……姫様?」


 セリアの自分を呼ぶ声が聞こえたリルヴィアははっと我に返った。


「この後、昼食が控えておりますが……。車酔いなどで気分は悪くありませんか?」


「ええ、大丈夫だったみたい」


 リルヴィアはセリアの後を付いて行く。アルクス以外の護衛はすでに宿屋の中に入っているのか姿はなかった。


「……今、ナスターが宿屋の主人に我々が到着したことを報告しに行っています」


「分かりました。雨の中、護衛して下さりありがとうございます。……他の者にもそうお伝えください」


 恐らく、アルクス以外の護衛達は自分には慣れていないだろう。あまり姿は見せない方がいいかもしれない。


「畏まりました」


 以前のような、親しさはどこかに置いて来てしまったかのように、アルクスが自分に仕える姿勢は徹底されていた。


 ……仕方ないもの。


 自分達が夜だけの友人であるのは誰にも知られてはならない秘密だ。それをアルクスも承知しているから、はっきりと線を引いたような正しい態度を取って来るのだ。


「行きましょう、昼食をいただきに」


 リルヴィアはアルクスの前を通り過ぎる。

 降り出した雨は強い音を立てて、呼吸の音さえも打ち消していった。



・・・・・・・・・・



 宿屋ではリルヴィアだけが頭に外套を被ったままだ。それはもちろん、宿屋の従業員に白い髪を見られないようにするためである。


「……」


 この宿屋は自分達の貸し切りになっているらしく、従業員を除いた以外には誰もいない。そのため、食事を摂っている食堂は静けさが漂っていた。


 誰も喋ることなく、黙々と食事を摂っている。


 一応、姫である自分が目の前にいるため、遠慮して静かなのかそれともそれ以外の理由があるのかは分からないが護衛である騎士達は皆、無言のままだ。


 アルクスから聞いていたが、彼の友人のナスターはかなりのお喋りらしいが、ナスターでさえ無言である。


 ……こういう時、どうすればいいのか分からないわ。


 自分は日頃、多くの人に囲まれて生活していないので、どのように空気を読めばいいのか分からない。


 自分の義姉である姫達ならたくさんの侍女や側近に囲まれて暮らしているので、無言の状態が続くことはないだろう。


 どうやら自分は誰かに気遣われることはあっても、気遣うことには慣れていないようだ。


 せっかく宿屋から提供された昼食は温かいものだったのに、すっかり冷めたように感じてしまうリルヴィアは顏を上げることなく、溜息を胸の奥へと隠した。

 


 

新連載「大上君は赤月さんをたべたい。」を始めました。

爽やかイケメン(という名の変態)な大上君とビビりで泣き虫な赤月さんが繰り広げるいちゃいちゃ攻防記です。大学生のラブコメとなっております。

もしご興味がある方がいましたら、ご覧いただければ嬉しい限りです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ