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誓いの一撃

 

 姉であるイルティと剣を交え続けて、どれくらいの時間が経っただろうか。月はすっかり傾いて、窓から射しこむ光は半分に減ってしまった。

 訓練場には重なり合う金属音だけが止むことなく響いている。


「っ……」


 剣を握る手の痺れは半端ではなかった。鍛錬の時でも、これほどまでに痺れることはない。


 それはイルティの一撃、一撃が重い事を表していた。掌を見れば、もしかするとまめが出来て潰れているかもしれない程に痛みが滲んでいた。


 噴き出す汗は滝のように流れていき、額を伝う汗を拭う暇さえない。息だって荒れて、剣筋も分かり切ったものになってしまった。


 それにもかかわらず、イルティは汗一つかくことなく、涼しげな表情で自分の剣を受け止め続けている。


 ……これが史上最年少で団長の座に収まった実力か。


 自分との実力の差がかなり開いていると分かっていたが、まさかここまでとは思っていなかった。自分だって幼少期から剣術を習ってきたし、努力も続けていた。


 それでも天才と言われた姉の壁は大きかった。


「……そろそろ降参したらどうだ。体力が限界に近いんだろう」


 アルクスの一撃を軽々と受け止めると、イルティはそれを跳ね返すように薙ぎ払った。


「……降参はしない」


 肩で呼吸をしつつも隙を見せないように剣だけは構える。


「お前がリルヴィア姫を守るのはあまりにも重すぎる役割だ」


「それじゃあ――」


 アルクスはイルティに反論するように声を荒げた。


「それじゃあ、一体誰が彼女を守ってくれると言うんだ……!」


 強く吐いた言葉には震えが混じっていた。


「確かにリルヴィア姫は強い人だと思う。でも、それはただの見せかけだ。彼女は強くあろうとしているだけで、本当は泣きたいはずなんだ」


 喘ぐように息をして、アルクスは涙と汗が混じった瞳を袖で素早く拭いた。


「俺は彼女の剣になりたい。盾になりたい。リルヴィア姫を守る騎士として……彼女が泣ける場所になりたい」


 柄を強く握りしめ、アルクスは地を蹴った。振り被るように剣を頭上へと上げて、そのままイルティ目掛けて振り下ろした。


 イルティはそれを一歩も引くことなく簡単に受け止める。金属音が重なり合う音が響き、手には鈍く痺れる感触だけが残った。


「だからっ……。絶対に、負けるものかっ……!」


 アルクスは足を踏ん張り、剣を握る手に更に力を込める。こすれ合う剣同士が不快な音を立てていく。


 実力が及ばなくても、手が届かなくても、それでも諦めることは出来ない。


 望んだのはリルヴィアの笑顔と果たしたい約束。

 そのために出来ることがあるなら、自分は諦めたくはない。


 身体全体を使って、剣に込めている力でねじ込むように迫り合うと一瞬だけ、イルティの表情がわずかに歪んだ気がした。


 その一瞬を見逃さなかったアルクスはまた一歩、足場を強く踏みしめながら最後の力を剣に込める。


 そしてついに、不快な音を作り出す拮抗に終わりを告げる音が響いた。

 アルクスの剣がイルティの持つ剣にひびを入れたのだ。


「っ……!」


 振り絞った力で、アルクスはイルティの剣を弾き返した。その瞬間、イルティの剣は彼女の手元からゆっくりと離れていく。


 宙を泳ぐ剣はやがて、ひびが全身に伝わったのか、真っ二つに割れて、柄と刃が別々のものとなっていく。それらは床の上へと落ちて、大きな金属音をその場に響かせた。


「……っ、はぁ……っ」


 アルクスは片膝をつき、剣でその身を何とか支えながら深く息を吐いた。

 イルティの瞳は普段の彼女ならば想像出来ないほどに丸くなっており、その瞳はこちらへ向けられる。


「……お見事」


 イルティの口から出た言葉を聞いたアルクスは自分が姉との勝負に初めて勝ったことを自覚し、悪戯が成功したような無邪気な子どもの表情を浮かべた。


 しかし、急に目の前が暗くなり、身体を支えていた剣共々、ゆっくりと斜めへと身体が動いたあとは何も考えられなくなってしまった。

 

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