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幼馴染の助言

 

 夜の逢瀬を重ねていくうちに、リルヴィアが自分に心を開いてくれているのは感じ取れていた。


「……ふぅ」


 数日前にリルヴィアが言った言葉を密かに思い返す。


 ――夕日を見たい。


 寂しげな表情でリルヴィアはそう言った。

 存在だけで雨を降らせることが出来るリルヴィア姫と友人のルネが同一人物だと知っても、友人でいたいと思うことは変らなかった。


 ……いつか、叶えてあげたいな。


 剣術の鍛錬の休憩中、アルクスは布で汗を拭きながら、リルヴィアに夕日を見せるいい方法はないかを模索していた。


 これはさすがに誰かに相談することは出来ない。自分と夜の友人ルネの関係は誰かに知られていいものではないからだ。


 ……姫君が夜に出歩いていると知ったら、国王や世間は驚くだろうな。


 だが、そこで自分の呟きにおかしな部分が含まれていることに気付いたアルクスは顏を顰める。

 いや、そんなわけがないのだ。


 先日、隣国から使者が来た際に国王やリルヴィアの腹違いの兄王子は彼女のことをただの見世物のように扱っていた。

 もし、リルヴィアの事を心配するというのならば、彼女をもっと大事に扱うのではないだろうか。


 あの時の光景を思い出して、再び腹が立ってきたアルクスは拳を強く握りしめる。自分は国に仕える騎士だ。


 国王や王子達に対して、怒りの感情を持つべきではないと分かっているのに、腹の内側からは熱いものだけが込み上げてくる。

 彼らはリルヴィアの心の内を知らない。


 自分だって、まだ夜の逢瀬を重ねてからひと月も経っていないが、それでも血の繋がった国王達よりかはリルヴィアの心に寄り添いたいと思っている。


 リルヴィアが夜、出歩いていても誰かに見つかることはない。それは誰も彼女のことを気に留めていないからだ。


 ……俺は少しでも、あの子の寂しさを埋められているのかな。


 誰も来ない場所で、夜を一人過ごすリルヴィアはどのような想いで夜空を見ていたのだろう。


 ただ一つ、分かることがある。木々に囲まれた秘密の場所で、一人で星を見て時間を過ごすことがどれほど寂しいことか――。


「――おい、アルクス?」


 名前を呼ばれたアルクスははっと顔を上げる。

 腰に手を当てつつ、幼馴染のナスターがいつの間にか目の前に立っていたことに気付く。


「何だ?」


「いや、変な顔をしていたから、腹でも痛いのかと思ってな」


 わざとのようにそう言って、ナスターは自分の隣へと腰掛けてくる。


 休憩時間はあとどれくらいだろうか。周りには楽しそうに談笑している騎士達ばかりなので、まだ時間に余裕はありそうだ。


「また悩み事か?」


 相変わらず、表情を読むのが上手いらしい。これでも表に出ないように気を付けていたつもりだが、幼馴染の彼には効かないようだ。


「可愛い想い人の件は上手くいったのか?」


 周りに聞かれないように気を遣って、小声で話しかけてくるが、気を遣うべきはその部分ではない。


「だから、そういう関係じゃないって言っているだろう。……ただの友人だよ」


 友人の関係以上を求めてはならない。リルヴィアも自分との友人関係を続行したいと求めてきてくれたことは嬉しかったし、自分もそう願った。


 友人関係でいなければならないと思うのは、リルヴィアが姫君で自分が国に仕える騎士だからというのもある。

 それ以上を踏み越えてはならないのだ。


「何だよ、まだ友人のままか? 仕方ないなぁ。恋愛相談の申し子と呼ばれたこのナスター様がお前に助言してやるよ」


「いつの間に恋愛相談なんか受けているんだよ。恋人一人、出来たことないくせに」


 ナスターが自分のことを良く知っているように、アルクスもナスターのことを良く知っているお互い様の関係である。

 しかし、ナスターはアルクスの言葉を気にすることなく、彼曰く助言を続ける。


「女の子との仲を深めるためには会話で相手の話をよく聞くことが重要だ。女の子は話を聞いてもらうと自分のことを分かってくれる人だと認識してくれるようになるからだ」


 得意げに女の子との付き合い方を話し始めるナスターをアルクスはどこか胡散臭い目で見ていた。


「少しずつ仲を深めた後は、さりげない贈り物をすると喜ばれるぞ。最初はあまり形が残らない物の方がいいかもしれないが、会話の中で得た情報に関係するものを贈るとかなり印象が良い。あとは、花とか贈るのもいいかもしれないな。それ程、仲が深まっていない時は、花束よりも一輪の方がわざとらしくなくて良いと思うぞ」


「……ちなみにお前が今、話したことは実際に実行して成功したのか?」


 溜息交じりにアルクスが訊ねるとナスターは胸を張ってから答えた。


「ない!」


「……自信ありげに言うなよ」


「まぁ、俺が言ったことは間違いだらけではないと思うぞ。俺の姉貴も恋人から贈り物されていた時はかなり喜んでいたし」


 だから、信じろと言わんばかりにナスターは腕を組んで何度も頷いている。


「……贈り物か」


 だが、一般の騎士が姫君に贈れるものなどあるのだろうか。


「大事なのは気持ちだぞ、アルクス」


 つい先程とは違う真面目な表情でナスターはそう呟いた。


「ただ単に高価なものだと意味はない。……金目なものが好きなお嬢様ならそれで構わないだろうが、やはり大事なのは心が込められたものだ」


 ナスターが言うとどうして胡散臭くなってしまうのか分からないが、彼の話にも一理あると思ったアルクスは苦笑しながら頷いた。


「……少し、考えてみるよ」


 アルクスがそう答えた時、休憩時間が終わったのか集合の合図がかけられる。


「おっと、お喋りはここまでのようだな」


 ナスターもすぐさま立ち上がり、鍛錬用の木製の剣を手に取った。


「アルクス、手合わせしようぜ。勝った方が夕食のおかずを一品渡すというのはどうだ?」


「……すぐに後悔しても知らないぞ」


 アルクスも立ち上がり、汗を拭いた布を腰へと下げた。


 とりあえず、リルヴィアに何か贈り物をするにしろ、ゆっくりと考えた方が良さそうだと思いつつ、アルクスはナスターに向かって剣を構えた。

 

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