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第6章 ゼッ

 夕暮れの街に冷たい風が吹き抜ける。冬が近付き、木々は段々と寂しい体になっていた。


「私、なんて馬鹿なんだろう」


 夏菜子は1人、澄んだ夕焼け空を見上げて呟く。彩綾の余命半年という事実を突きつけられて3日が過ぎ、夏菜子はぼんやりと学校からの帰り道を歩いていた。


 私が、魔法少女隊だなんて言い始める前までは、彩綾は20回ちょっとしか変身してなかった。私が正義の味方ごっこなんてしたから、彩綾はもう。


 そういえば魔法少女隊を結成したばかりの時、彩綾が言ってた。魔女との契約は20歳で切れる。私の寿命は既にいくらか減ってしまったけど、これ以上減らしちゃいけない。


 魔法少女に変身するのはもうやめよう。春香が車に轢かれそうになった時、ウサちゃんの魔法のおかげで助かったけど、そういう余程の時以外は。


 私はこうして、これからのことを考えることもできる。でも彩綾はもうできない。学校にも彩綾は来なくなってしまった。あと半年で彩綾は死ぬ。しかも魔女の話によれば、とてつもなく苦しんで。


 痛い。心が痛い。お腹が痛い。私の罪悪感と悲しみは私を痛めつける。でも、彩綾の苦しみの7日間は本当の苦痛。半年後にそんな地獄が待っている。彩綾の不安は、彩綾の絶望は、彩綾の悲しみは、彩綾の恐怖は、私なんかには少しもわかってあげられないんだろうな。


 彩綾……。




 そうして夏菜子が小さな公園の横を歩いていると。


「夏菜子」


 夏菜子が声の方向を見ると、彩綾が公園のブランコに1人座っていた。


「彩綾。私……」


 夏菜子は彩綾の近くへと駆け寄る。


 謝らなきゃ。私が魔法少女隊だなんて言わなければ彩綾はもっと。


「いいの。夏菜子は悪くないんだよ」


 そう彩綾は夏菜子の言葉を遮った。その声は落ち着いていて、暖かかった。


「でも……」


「私のことはいいの。それより夏菜子、私は言いたいことがあるんだ」


「言いたいこと?」


「そう。私はね、魔法少女隊のリーダーだから。最後のリーダー命令」


「最後の……」


 夏菜子はその目に涙を浮かべて公園に立っていた。そんな夏菜子を見て、彩綾が浮かべたのは優しい笑みだった。


「私にとってただ1人の親友、夏菜子。私はね、いつも1人だった。お母さんが天国に行って、お父さんは仕事で大変だった。でも、夏菜子と遊ぶようになってから、私は1人じゃなくなった」


「私はただ、彩綾と遊ぶのが楽しくて、それだけで」


「この公園で、確か初めて夏菜子と会ったよね。小学2年生の時だったかな。私がこうやって1人でブランコを揺らしてたら、いきなり頭を叩かれたっけ」


 彩綾は当時を思い出しながら、あはは、と笑った。


「ご、ごめん」


「本当だよ。全くびっくりしたんだから。初対面のかなこちゃんは私の頭を叩いた後、一緒にあそぼ!って。そんなお誘いあるかい」


「おぼえてない……」


「私はすっごくうれしかった。夏菜子と同じ小学校だったことも。おかげで休み時間も放課後も、私はお母さんのいない寂しさを忘れることができた」


「わ、私も! 彩綾がいてくれて、彩綾と友達になれて楽しくて、それで……」



「ありがとう。さあ、最後のリーダー命令。もう二度と魔法を使わないで。たとえどんなことがあっても」


 そう言って彩綾はブランコから立ち上がって、じっと夏菜子を見つめた。



「……わかった。わかったよ」



 夏菜子は夕暮れの公園でわんわんと泣いた。己の無力さに、彩綾の優しさに、彩綾を失う悲しみに。


 どうしてこんなことになってしまうのか、あまりにもひどいじゃないか、騙した魔女が悪いのか、魔法を使った私達が悪いのか。



 彩綾は泣き崩れる夏菜子を抱きしめて。


「私は大丈夫だよ。夏菜子、今までありがとう。魔法少女隊、解散します」




 空は次第に暗くなっていくのだった。

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