核恋慕それぞれ
使い切れると信じた電池はすでに使い切られていた。万物は信ずれば成ると説いた姿なき誰かを恨むのは筋違いだということは、この足りない頭でもわかる。日陰に立つ真の目的があるとするならば、さんざめく陽光に目が灼かれることを避けるためだ。あまりに無造作すぎるとも言えるほど荒削りで目障りな造形が知られぬ言葉の歌を壊れたラジオのように流し続ける。さぁ言い訳を、とべたついた笑みを浮かべる指揮者はいたずらに尖ったタクトで人ばかりを切る。それに合わせて往来を進むは夏の熱風に輪郭をなくしたアスファルトと暴風雨の来訪を告げる赤い雲。天井に蔓延るツタを千切ってはプランターに植えつけて如雨露に溜めた酸性雨を浴びせて嗜虐の心を口笛に乗せてもベランダからは一歩も出られずにいることを知っているのは遠いビルの屋上に立つ黒服の公務員くずれ。ああ何もかもおしまいだ、と知ったようなことを汗腺からもこぼす絶望にほの青く光る人の影はもうどこにも落ちない。重々しく雲が迫ってくる。積乱雲よ洗い流せ。どこかから何者かが認証を試みても弾き返せ。目を覆って暑さを淡々と数えてブリザードの日を迎えるまで海藻のほかは口にせず永久機関のようにバクテリアを生み続けるための現世だと祈り続ける。暑い。暑い。このままでは乱れてしまう。狡い。求めすぎだ。きっと今度は私が電池になる番だ。さぁどこからでも搾取してくれ。そんなものはどこにもないが。勝手にがっかりしてくれ。言い訳を聞かせてくれ。