クエストのお誘い
出来ない事は出来ない。
昨晩考えた結果導き出された結論である。
悔しいけど!
たがら、出来る事をしよう!
朝食後、声高々に宣言した訳だがどうしたものか?
まあ、する事は復旧作業や採取が主なんだけど。
昼過ぎまでで主要動力源の復旧の目処はたったので、次は採取だとリュックを取りに戻ろうと野外に出た。
そうしたら、目の前にいないはずの人物が佇んでいたので、その場で固まってしまった。
誰ってそりゃ、女神様その人ですよ?
「あの、何しに?」
いきなり神様に向ける言葉ではないのは分かっていた。
けど、言わずにはいられないでしょ⁉
アナタ、何でここに?何しに来たんだよ⁉と。
しかし、こちらの言いたい事もなにもかも分かっているのは間違いない顔を別の笑顔に作り替えた女神様は口を開いた。
「使命にていてのお知らせに来ました。」
***
いきなり神々が目の前にいたのだから、さすがの彼女も仰天していますね。
仕方がない事ではあるのですが、申し訳なく思っています。
しかし、流石としか言い様がないですね。
まさか、一週間もしないうちに現地での物資の確保が出来ているなんて・・・。
他の巫女はまだ居住区の掃除が始まったところだというのに。
食糧に都市内の『アーティファクト』の整備。
周囲の調査まで、ですか?
随分サバイバル能力が高い様な・・・。
シオン、貴女は本当に現代地球人なのですか?
とにかく、今日ここに来た理由を説明しなくては。
目の前のシオンが睨んでますし。
今回の話しは、まあ、使命。
いわばクエストの受注についてですけど。
***
「こちらの提示した使命をこなすごとに、貴女の巫女としての力が強くなるのです。」
女神様はそう、晴れやかに話を区切った。
先程現れて、勝手に『使命』について説明し始めた女神様。
力が強くなると出来る事が増えて、生活が楽になるらしいが、それって力を強くして色々しろって事じゃないかい?
それに何?クエストって。RPG?
「え、それって強制?」
「是非、お請け下さい。」
あ、いい笑顔だよ、女神様。
まあ、私には心なしか邪悪な笑みにも見えるけどね。
拒否権無しですと言わんばかりなのプレッシャー混じってるでしょ?これ。
「で、女神様?クエストって何ですか?」
私が嫌そうな調子交りに見上げると、スッと冗談の様な態度が引き、穏やかな笑みはそのままに女神本来の慈悲と慈愛、威厳を兼ね備えた顔がこちらを見据えた。
「私がこれから伝える『三つ』の依頼をやり遂げて下さい。」
女神は軽く手を振ると光の粒子が舞い、それは、多分この惑星の地図になった。
その地図上に光る点が二つ見える。
一体何だろうと見つめていると、再び女神の柔らかな声が降ってきた。
「この二つの光の点の位置にある少年達を救って来てほしいのです。」
「二人の、少年?人命救助ですか?」
なら、何故二人だけなのか?
不思議に思い首を傾げていると、心得ているとばかりに再び女神は口を開いた。
「赤い点の村は少ししたら魔物に襲われます。助けた後は別の地域の孤児院まで連れていくのがひとつ。二つ目の黄色い点の少年は既に牢屋に繋がれています。」
護衛の様な、救出クエストだろうか?人助けは善行なので神様も薦めるのは分かる。
しかし、なら何故更に多くの人を助けないのか?
そんな事を考えていたら地図に色々な映像が浮かんだ。
どれもなんだか、血だらけの人はかりだ。
戦争か?
「今、世界は国同士や内戦で荒れ、その結果リソース不足に陥り崩壊の危機に貧しています。」
それは習った。
だから、島を栄えさせてリソースを供給する。
巫女はその為に連れてこられたのだ。
「そして、今し方助けて来るように伝えた二人はその戦のいくつかを終わらせる運命を持っています。だから、今死なせる訳にはいかないのです。勿論、助け出すだけでも足りません。」
ではどうするのか?
まずは、救出するのが一番に来る。
次にそもそも彼らがどうすれば国を救えるのか?
それらに繋がる事をしっかり伝え目標とする事を教えて、原因や手段についてのヒントを与える。そして、安全地帯へ届ける。
内容を単純化し整理して女神の方を向くと待っていたとばかりに口を開く。
「最後に重要なのが、時が来るまで彼らが生き残る事です。これには巫女の力のひとつ『具現化』を使い貴女の力を結晶にし″加護″として与えて下さい。」
「お守りみたいなものですか?」
「そう考えて頂いて構いません。流石に『アーティファクト』を渡す訳にはいきませんから。」
それはそうだ、と私も頷く。
「あと、貴女がこれらの力を行使する際は″今でも、過去でも、未来でもない″場で行う事。他のフィールドでは影響が出ますから。この″場″がなんなのかはまた後日。今回は私が用意した場ですので、貴女がひとりで場を用意した際にでも説明致します。」
「この仕事、神様がしたらダメ何ですか?」
不意に気になって見上げた女神に質問する。
その問に少し考えた女神が先程出した地図に視線を巡らせながらシオンの前に一歩踏み出す。
「我々、神族の力は強すぎるのです。目前で起こった事を世界に干渉してどうにかできても、反動は力の弱い方。世界に住む住民に行きます。ですから、今回の様にしか、直接は何かをする事は出来ないのです。」
「要するに、人が自力で解決した様にしなくてはならないって事ですか?」
「はい。それなら『世界の修正力』も殆ど働きませんから。」
ここまではいいかという女神に今までの内容を反芻しなから返事しなから、更に質問を返すシオン。
勿論、少年以外は助けられないかという内容なのだか聞いた女神はやや眉をひそめる首を横に振りながら返事をする。
「干渉が可能な時間の範囲が、ひとり目の少年は他の者に庇われ隠され周りが死に絶えた後。二人目も既に牢屋の中。しかし、それ以外の時間に干渉出来ないのです。」
力も限界があるんだな、と考えながら頷く。
そんな彼女を見つめながら更に女神は続ける。
「シオン、貴女は魔物と戦った事は?」
「もー、倒して食べてますけど?」
「そう、ですか。なら、少年達を守りながらとかも大丈夫ですね。」
微妙な視線を向けてくる女神は何か可笑しいが、敢えてシオンは無視をした。
だが、フッと気になって女神をあおいだ。
「そうだ。どうして普通の動物は食べられないのですか?」
「魔物は基本的に特殊な進化をした結果、魔素への耐性がついたからです。一般の家畜にも護符を付けて育てれば大丈夫だそうまですが、お金がかかりますね。なので、お肉や動物から取れる副産物等は高価です。」
「なら、魔物食べればいいのに?」
そのシオンの意見に女神は苦笑いをしながら静かに、しみじみと答えた。
「単純に食べている場合ではないんでしょう。逆に食べられてしまいますなすから。」
説明もこんなものかと伸びをするシオンだったが、不意に女神の声がフッと降りてきた。
「助け出す際は周りにも注意を。運命に深く関わるものもいますから。」
「分かりました、それがクエストとういものだということで理解しました。でも、クエストって、RPGじゃないんですから。」
その言葉に少し顔を伏せながら女神は歯切れ悪く答えた。
「ニュアンスを伝えてみようかと。」
テレる女神って、なんだかシュールだと思った。
「しかし、この介入する為の能力は大切ですよ。貴女もいつかひとりで使えないといけないのですから。」
「巫女なのに?」
「ええ、貴女達巫女は私達より動けますし・・・。あ、後、少年達のところに行く時は姿まフードや外套で覆い、立ち振舞や言動にも気を付けて下さいね。貴女は神々の遣いで、代行者なのですから。」
「どうしましたか?」
先程までの事について考えていたら、女神が話しかけてきたので顔をあげるシオン。
「あ、いや、私の出来る小さな事が世界に大きく影響するんだな、と思って。」
珍しく神妙なシオンに、女神も頷く。
「貴女の島で手を出したひとつが世界のリソース不足を解消し、国を癒し『惑星』を支え、『惑星』が世界を支えている。貴女達巫女はその担い手なのですから、小さな事が大きな世界へ繋がっていくのです。それが、最終的に世界の崩壊を防ぐのです、ね?」
その支えの地に巫女は送られて今いるのだ。
考えてみれば大ごとだと肩をすくめる。
そんなシオンを見た女神が頭を振って空を見上げると聴かせるでもなく喋り始める。
「でも、完全には無理です。干渉にも制約が多いですし。『古の神々、『創造者』ならあるいは・・・。」
「?」
「私達、精霊主神より以前にいた、神位も遥か上の創造主神の方々です。私達とは違い代替わりしなくてもよいくらいに、それはそれは強い力をお持ちだったそうですが。」
「今、どこに?」
当然の疑問を口にするシオンだったが、女神は更に頭を振り呟く。
「さあ、ある時突然姿を消してしまわれたとか。」
そんな強い力を持った存在がいきなり消えると言う話に眉をひそめるシオン。
更に質問しようとしたが、女神はこの話しはもう終わりと振り向き視線を合わせ来るのであった。
***
「さて、シオン。最後に三つ目のクエストですが。」
女神が地図を消して言葉を切る。
その様子を目で追うシオン。
そんな彼女の前で女神は両手の平を一度合わせ、再び開くと光りの粒子が舞う。
「今のは力を入れていませんが、『導きの光』といい、運命を引き寄せる為の能力です。貴女は少年達を導いた後、大容量でこの力を放って下さい。それでクエストは終了です。この結果が貴女の力にどう繋がるか。それがかかったクエストですから、頑張って下さい。」
言いつつ女神は私のすぐ前まで来て肩に手を置く。
まるで現実味の無い身体だな、と思った。
「これらで力を増す事が出来れば、貴女が今悩んでいた問題が解決するかもしれませんよ?」
何やら嬉しそうに女神は言うのであった。
***
女神が去り、明日に備える事にした私はすぐさま居住区に戻る。
ただ、頭は別の事を考えていたが。
それは・・・。
「もしかしたら、この都市を造ったのは『古の神々』なのか?かつてこの世界を創造した『竜』の神々・・・。あれ?」
不意に口をついて出た言葉は他愛のないものだったが、今のは一体?
「・・・何で『竜』の神々?」
首をかしげたが、結局答えは出ずシオンは明日に向けて準備をし、眠りについたのだった。
少し長くなりました。
次回からクエストなので国造りは少しおやすみです。
クエストはわりとアッサリにする予定なのですが、重要なのでどうしようかと。