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「浅ましき夜明けは(前編)」

連続投稿になりますので、

よろしくお願いいたします。

薄暗さの中で蠢く「何か」。

それは笑っていたり、あざけたりを繰り返している。



「あそこにイニアがいるのか?」

かつて自分達がいた街も比較的王都に近く大きいとされていたが、やはり本物は違うのだと、灰色の街を前にゼフは緊張に早くなりつつある呼吸をおさめようと意識してゆっくり息を吐く。

「まあ、大きいけど暗いな。」

「ああ。人、住んでるんだよな?」

アンクは荷台の上からやや身を乗り出して街を見つめる。

「人はいるらしいけど、まあ、以前の俺達みたいな感じか、贅沢貴族がいるって場所があるくらいじゃないか?」

何だよそれ、とアンクは嫌そうに顔を歪めつつゼフの方に視線を動かす。

「この国は、可笑しいんだろうな。いや、もしかしたらこの世界が・・・。」

可笑しな事を言っている気はした。

ただ、ただ日々を生きてきた人に過ぎないのに「世界が可笑しい」だなんて考えている。

世界の事などたいして知らないと言うのに・・・。

だが、とゼフは思った。

そんな自分ですらそんな考えが浮かぶ程に、世界は可笑しな状況にあるのではないのか?と・・・。





夜明けと聞くと「希望」的な何かしらを連想する事がある気がした。

某ラジオ体操の前の歌でもそうだったし。

でも、今日のこの日にはこれっぽっちも「希望」は湧かなかった。

なぜなら。

「・・・空が、濁ってる?」

実際にはどうだか分からない。

ただ天気が悪いだけなのかもしれない。

しかし、この「色」はいただけない。

そう、これは過去にも見たことがある「色」だ。

ただし、一体何時、何処で見たのか・・・。

「里長?」

少し後ろに佇んでいたバーキッシュが穏やかな口調で呼ぶ。

だが今は何か、振り向くことが出来ないで空を見上げたままのシオン。


濁ったそら

湿った風。

漂う言いようのないほどの後ろめたさを含む気配。


確かに覚えがある気がするそれら。

しかし、『シオンが』果たしてそんなものと遭遇した事があっただろうか?

ただの高校生だった頃に?

こんな不穏すぎる濁った天も湿った空気も、ましてや言いようのないほどの後ろめたさを含む気配何て、覚えがある筈はない。

では、どこで?どうして?

分からないことだらけだと眉間にしわを刻みながらも、傍らのバーキッシュに声をかける。

「そろそろ、動くか。」

返事を待たず、何故か気になる気配が漂う空の一点に視線を向けたまま歩き出す。

そんな彼女に無言でうなずき後を追うバーキッシュ。

その一連の動作を追うような視線もしばらくして消えた。




「なあ、ゼフ。あそこ・・・。」

荷馬車の上でガーラオン王国の騎士団長に地図を示され、イニアのいるであろう場所と今後の手順についての説明を受けていたゼフにアンクが動揺を含んだ声をかけた。

「何かあったか?」

騎士団長と同時に視線を上げたゼフにアンクが彼の方へ後ずさる様に寄ってくる。

「あれ、何だよ。」

「はあ?”あれ”て・・・。」

アンクの向く方向にあるのは今に馬車の進む方向に並行した開けた”空”だった。

進む道が丘の上である為よく見わたせ、天気が良ければ気持ちがいいはずであろう風景だが今は見る影もない。

だが、それすら忘れそうになるほどの”モノ”が視線を埋め始めていた。

「・・・なんで、あれ・・・。」

それを視界にとらえたアンクがその顔を青ざめさせながら目を見開く。

「おい、何だあれは?」

後ろから騎士団長も驚いて声を上げる。

「わか、らない。・・・けど、あれは・・・。」

あれが何だかは誰にも分らない。

しかし、彼の2人には見覚えがある。

思い出したくもないが脳裏に刻み込まれている光景。

10年以上がたっても決して忘れられない、まさに悪夢。

「・・・村を襲ったやつらだ。」

あの夜空を覆った、絶望がそこにはあった。




「里長。首都上空に異常発生。ご指示を。」

アンク一行が進むイニアとの合流地点の反対側を陣取っていったシオン達だが、その異変にバリシスは首だけ動かし報告する。


異変―――。


確かに異変だ。

しかも、あまりいい思い出ではないあの夜の再現の様な。

10年前を思い出しながらシオンは眉を寄せる。

敵方のコアを使用しているとは聞いていたが、まさかこれを起こせるのか、と。

むしろ、イニアの時もこの国の中枢が絡んでた可能性すらある。

ただし、今回同様に精霊主神にも気取られる事なく。

ありえてはいけない事だが、本来はあり得ない事だ。

それが目の前に起きている。

正直、冗談じゃない、というのがシオンの内心だ。

これはイニアたちの心理にも影響を出すかもしれないし、何より『破意』の出す影響は適合する存在意外に強く作用する。

動けなくなる。

王国軍は総崩れになるかもしれない。

さてどうするか、と思考を巡らせているシオンにクレナスが歩み寄る。

「王国軍の補佐人員なら私が行きますが?」

シオンは自国が通常の国家の軍隊の様な階級によって発言も出来ない様なガチガチな体制にしていないが、この時彼女の声に心底感謝してしまった。

おかげで止まりかけた思考が浮上した、とそちらを見て微笑む。

「そうだな、クレナス1人で行けそうか?」

「彼の軍と王国軍の防衛。同時に予定道理の行動の7割の作業というならばいけます。」

神の軍隊の力を全力でとはいけないだろう。

逆にやりすぎで国王軍まで吹き飛ばしかねないのだから。

むしろこの案で行けるという差仕掛け減も彼女だからこそだと頷くと、返事とばかりにスキエンティアの敬礼をして下がるクレナス。

「法班への申請はございませんか?」

ロンバルトが少し低い位置にある獣道から見上げるような視線を向けて言いう。

「いや、いい。これ以上は戦力過多になる。」

人間側にこれ以上はいけない。

最初、共同戦線だと言いつつ精霊主神が同行して一緒に戦う事に反対した時の言葉だ。

まあ、それはそうだ。

スキエンティアの民とて人間だが、今は半ば『反魂体バケモノ』になりつつある。

役目とは言え、彼らが納得した事とは言え、シオンがしてしまったのだ。

苦い思いもあるが、もはや仕方ないと割り切らなければいけない事。

そして、そんな彼らが通常の個体にんげんと共に戦えばどうなるか?

殺戮しかないだろう、相手方にしてみれば。

それでは駄目なのだ。

今後の人間側の和平云々を考えると、それだけはまずいのであった。

彼女がいる事で『破意』の影響を防げる。

それだけで十分だと胸中で頷く。

さて。

これで、準備は整った。

舞台たたかいの始まりだ。





「「イニア!」」

思わずは持ってしまう声が呼んだ。

10年ぶりの友の名だ。

「ゼフ!アンク!」

地図を囲んで話し込んでいたところだった明るい茶髪の青年は目を見開き声の方を向き、懐かしい名を口にする。

幸せの時代の象徴である友の名だ。

駆け寄りかつての様にイニアの肩にガシガシと腕を回し、背中を叩く2人。

それに険しい顔で過ごしていた彼の顔も緩みやり返すように肩を叩く。

「2人とも、無事で。来てくれてありがとう。」

心なしかイニアの声に鼻声が混じっている気がするが、それは他の2人も同じ。

少しの間肩を叩き合い、辛かった10年を思い返す。

この様子に同行していた商会の者も、追軍している国王軍も目じりを下げ見つめている。

だが、そんな空気に冷静な声が響く。

1番に反応したの騎士団長だった。

勿論覚えのある声ゆえに。

「・・・貴方様は。」

「久しぶりですね、ガーラオン王国騎士団長殿。」

一部の国王軍と団長が思わず跪き頭をたれようとする。

だが、彼女はそれを片手で制してイニアたちの方を向きながら口を開ける。

「私は『城壁都市国家スキエンティア』の国防部隊『兵班』所属、クレナス・フィイです。異常事態発生により、国家元首であらせられる『竜の女神』より命を受け、同行する事になりました。」

いきなりの神の国の兵の同行という知らせに、その場のものすべてが凍りつ

いたように動きを止め見入る。

そんな中、イニアだけが前に進み出て口を開く。

「それは、”あの異常”の関係ですか?」

10年前のあの夜。

イニア以外の住民のほとんどが”何故か”あの異常の中においてはまともに動けないという事態に陥った事を思い出す3人。

イニアもその事を思い出し、2人の友が到着する寸前まで内心に強い緊張と息苦しさを覚えていたのだ。

「はい。この場では、イニア殿を含むお三方以外は影響を強く受ける事は必然と見た我らが女神より、その影響を中和し、”ある程度”の状況対応を行う様にとの事で参りました。」

「・・・”ある程度”ですが?」

騎士団長が説明を促すように会話に加わる。

「はい。本来これらの異常の片鱗は10年前の事もあり、ある程度は予測されていた為、女神は此度も目を光らせていました。しかし、全面的な協力はことわりに反する為、”ある程度”となります故、ご了承を。」

そこまで言うと視線を”あの異常”の方に向ける。

「本来、”あれ”は出現すると異形を召喚します。同時に行けるものすべての行動を制限し、生命力を喰らい増殖します。一見魔物のそれに似ていますが、”あれ”は生き物ではありません。ご存知の通り、魔物は進化過程に魔素まなを多く取り込んだだけの生き物です。だから行動制限も起きない。でもあの異形、『破意』は違います。」

「・・・は、い?」

静かに聞いていた中、ゼフがつぶやく。

「破壊の意思をつかさどる存在、『破意』です。あれらの周辺では『適合性』を持つ者以外は行動不能に陥ってしまいます。そして、その『適合性』でもある程度の強さを持つ者がいる場合は、エリアレベルで影響を防ぐことが可能ですので、今回私が派遣させました。」

そう言って一向に向き直り一礼すると、クレナスはイニア達3人の方を向き再び口を開く。

「我らが『竜の女神』よりあなた方の運命に介入する命の一片を任され遣わされました。お覚悟を。今件は貴方方が思っている以上に大きな出来事なのです。」

息をのむ3人。

視線のみで周りを巡らせれば、同様が広がっている。

だが、とイニアはクレナスに向き直る。

「10年前、俺は”あの方”に救われ己が運命を知らされました。必ずや、この地に平和を。」

そう言って礼をする。

「女神の加護を・・・。」

少し後ろで騎士団長のつぶやきが聞こえる。

続くように騎士団の者も祈りの姿勢を胸の前に静かにとる。

「それでは、イニア殿。始めてください。貴方が。」

クレナスの言葉にうなずいたイニアは振り向き、隣の2人と目を合わせると開戦準備の指示を出すのであった。

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