「時代の翼(フリューゲル)達の裏側で」
間が開いてしまい、大変申し訳ありません。
これからもよろしくお願いいたします。
始まります。
際限なく続く闇に星が瞬くその下に、淀んだ空間がその異様な姿を浮かび上がらせている。
赤茶けた乾いてひび割れた地平。
高く天空が闇と瞬く星の世界ならそこから藍ではなくいきなり橙色にグラデーションする空。
そしてもっとも異様なのがその空間にそびえ立ち浮かび上がる対象だった。
ある物は地に突き刺さる形で。
またある物は中に浮き上がった状態で。
様々な形と状態のそれらは無数に存在していた。
そんな中ではるか天空に位置する闇の中でその光景を眺める者達の居城があった。
―――『幻天城』
そこは神々が住むとされる世界を管理する城といわれている。
しかし、世界を管理するといってもすべての権限がある訳ではなく彼らは”ある役目”に対して生まれ、その城に住むのだ。
「此度、世界を蝕む力は非常に強い勢力となっているようです。」
黄金の光をまとう女神は憂いにまぶたを震えさせながら搾り出すようにつぶやいた。
「だからか?フリューゲルに神格を与え、一時女神という対象としたのは?」
髭を蓄えた厳めしい老人の神が傍らから現れ女神にいい近づいた。
それでもなお女神は閉じたまぶたを開こうとはせず呟く。
「私たちでは伝えられません。我々の声は、民には届きません。」
「・・・だからといって。」
人間の少女を神にする事など出来はしないはずだ。
そう続けようとしたその口は、音も発する事もなく閉じられた。
出来ない筈の業。
それをすれば、なした神に何が起こるのか?
「分かっています。ですが、だからこそ、『竜刻印のフリューゲル』がいるのです。」
世界に破壊の力が強く現れる時、数代に1度の割合で現れる救い星。
それを『竜刻印』を宿しし者と言う。
通常でも一定周期をおき、世界を破壊せんとする力は生まれる。
それが何なのか。
誰にも分からない。
しかし、それが起きた時は精霊主神が戦う事はあまりない。
前線に出るのは『フリューゲル』達とその眷属である。
だが、今代の様な破壊の力が強い場合は話が違ってくる。
敵とされる軍勢が実際に現れるという事が起きるのだ。
実際その敵が何なのかも分からないのにである。
ただそれは、何故だか世界滅ぼさんと押し寄せて来ては引いていく。
まるで、波の満ち引きの様に・・・。
何度も、何度も。
何代も、何代にもわたって。
そんな時は、神々もその力を前線で振るう事となるのだ。
そうなれば1番力の強い”主神”が対象となり、人の戦とは違い最も前に出て戦う事になるのだ。
そうなればいくら神とはいえ命を落とす事もある。
それが戦後ならば、それでもと言われるだろう。
「主神が命を落とせば総崩れとなる。」
老人の姿をした神が重い声で言う。
戦線が勝利してもいない状況で総大将と言える守りの要であり、最大の剣が折れては本陣が丸裸になってしまうのだ。
ではどうするのか?
「・・・『選定者』。」
女神はそのままで、今度は声を強く言い放つ。
基本的に『フリューゲル』にも刻印にも上下関係は存在しない。
ただし、その刻印の持つ『役』とその重要性において扱いが変わることがある。
何故『竜刻印』が救い星と呼ばれ、”最後の希望”などと言う呼ばれ方をしているのか?
それは、”次代の主神”を選び出し、任命する事が出来うる力を持つからだ。
詳細としては、通常の場合であれば何らかの形で主神が命を落としても次に強い力を持つ神がその座に収まるだけだ。
だが、数代に1度起きる軍勢との戦いに必要なのは”完全なる主神”であり代理では務まらない。
故に死した主神同様の力を持つ事が出来る素質のある神を『竜刻印』が選び、力を与える。
だからこそ、神格を持たせ神とすることが出来たのだった。
それだけ『竜刻印』とは重要かつ特殊な存在なのだ。
「次代の主神を選び力を与える。罪を犯した神族を罰する処刑執行人(E型特性)。」
老人の容姿の神が目を閉じ呟く。
それに続けるように、女神はまぶたを開くとしっかりとした声を響かせる。
「・・・絶望を希望に変えてゆく、最後の希望・・・。最後へと導いて逝く天子。」
「?」
老人の容姿をした神が驚いた様に。
しかし、ゆっくりと女神の方に顔を向ける。
「あの子は、たぶん・・・『古』。」
「・・・『古』?何故そう思う?何を知っている?」
眉間のしわを一気に作り出した顔が女神に近づくが、気にした様子もなく声は続く。
「幻想級・特質系刻印『竜刻印』。神々の領域たる『幻想級』を冠した刻印の所持者が、通常の存在であるはずがないでしょう?」
「だとしても何故?お前は何を知っている?此度の独断に次ぐ独断。どう考えても異常だ。」
声を荒げる老人姿の神に女神は一瞥すると眼下の赤い世界に視線をやった。
何故私がこんな事を知っているのかは分からない。
どうして『竜刻印』の中に神格を見出すことが出来たのか?
そして、そうまでして託そうと思ったのか?
見覚えのない満天の星空の広がるその下に、さらに広がる純白の華。
そこに立つ銀の髪と緋色と紫の瞳の神。
纏うは闇色の鎧に白マント。
そして、大きな幾重にも重なる翼。
あまりにもシオンに似た神。
シオンが地下遺跡で見た映像から考えると、おそらく同じような容姿の存在は複数いるのかもしれない。
そしてシオンはその神写しか何かなのかもしれない。
ただ、それだけの事。
それ以上知っている事はない。
それでも、シオンは『竜刻印』であり、世界に大いなる一手を投じ影響を与える存在。
ただ、漠然と感じ思った事がある。
「シオンは、ただのシオンではない気がするのですよ。」
「何だと?」
突然黙った女神が、今度は突然しゃべったと思ったいきなり訳の分からない事を口にしたので面食らったようにその顔を覗き込む老人姿の神。
しかし、女神は何故か楽しそうと言っても過言ではない様子で微笑んで自身の頬に手を当てた。
「そっくりなのですよ。」
歴代の『竜刻印』の記録にあるその姿が。
そんな呟きに老人姿の神が訳が分からないといった顔をしたと思えば、ため息交じりで口を開いた。
「・・・それを言ってしまえば、女神よ。お前もどことなく、神族となった『竜刻印のフリューゲル』に似ておるではないのか?」
その言葉に当の女神は「あら?」と言う風にわずかに目を見開いて何かを考え込むと少し黙った後、再びふわりと微笑んでうなずく。
―――だから、なのですかね?
何が、とは問わず老人姿の神も目を閉じるのだった。
神様サイドのお話でした。




