「ある日のスキエンティア」
次の章の間のお話です。
ガーラオン王国との一件が済み、初舞台終了といった風に落ち着きを取り戻したスキエンティアの一角で、別の波乱は訪れる。
「何だ、あれ・・・。」
都市にはまだ崩れたりしている場所が多く残っている。
その復旧をシオンは日々行っている訳だが、早朝一番に何だか見慣れない風景が目に入った。
それは復旧用の工具などを担いだシオンが現場に向かう最中に耳に飛び込んだ声だった。
「だから、何で怪我をしてるんです!」
声は女性。
もとい、薬師のエレインである。
物静かな彼女が声をあげるなんて珍しい。
きっと、黒くてつやつや、グロテスクなGとか出たんだろうな、きっと。
そんなアホな事を考えながら覗くと彼女がいた。
彼女と見覚えのある後ろ頭。
あの黒頭は、多分ルシロだろう。
どうしたんだろうと首をかしげる。
といのも、最初にルシロが魔導回路の暴走を起こした時に薬を作るのを手伝ったエレインは、その後もルシロの薬を作る役割となりその薬を渡すのも彼女の仕事になった。
だからこの2人が一緒にいる事は多いが、それ以外の場合ではあまり見かけない。
「どうしたんだ?2人とも。」
何となく話しかけてみるシオン。
内心は、あんまり関わりたくない場面の様な気はしたが通学途中の子供達が不思議そうに見ているので仕方がない。
ここは通学路なのだから。
気付いた2人は彼女の方を見ると、エレインはお辞儀をして、ルシロは何というでもないそっけない返事を返してくる。
「ルシロがまた傷を作ってきて・・・。一体何でこんなに注意力がないのかと・・・。」
「別に仕事柄仕方ねえだろ?穴倉ン中這いずり回ってんだからあちこち傷だらけになるんだよ。」
「だからと言って!せめてもう少し気を付けてください!」
「だからな・・・。」
あ、これ、痴話喧嘩じゃない?
シオンもここに来てとにかく絡みたくないと思い周りに視線をやる。
誰か助けてくれないかな?の視線である。
だが悲しいかな。
道行く子供達は笑いながら「夫婦喧嘩だー!」と喜んでいる。
ませている事この上ない。
何処で覚えてきたのやらとシオンは思いながらも口を開く。
「じゃあ、ルシロは出来るだけ気を付けてくこと。エレインは悪いがちょくちょく様子見てやってくれないか?」
いきなりの提案に2人は、ハタッと止まる。
「あ、ああ、はい。そうですね。」
何やら安心したような風に頷きながら、慌てて頷くエレイン。
隣でルシロは頭をかきながら「善処するよー」とあくびする。
何してんだこの2人とも思ったが、医者の身内がいて自身も薬師であるエレインとしては放ってはおけないのだろうし、ルシロも仕事上等することも出来ないのだろう。
想いながらシオンも仕事があるとその場を後にするのであった。
昼になったらにぎわうこのスキエンティアのドーム内。
露店なんかも午前中に仕事を終えた住民が出しているのだ。
最初は『軽品生産部』の2人がシオンの世界の料理を習ったからという事で出していたが、今は感化されたものが自分の露店を出して日替わりで行っている。
一応この国にも通貨があり、鉱山で多く摂れる黒曜石の様な見た目でとても硬い効果を加工してチューインガムの様な板状にして数字などを刻んだものを『スキエンティア硬貨』と呼んでいる。
硬貨も大きさは1番小さいもので『1スキエンティア』と呼び、「1,10,100,1000」と増えていく。
大きさもそれに倣っているが、あまりかさばらないように調整してもらったのだ、ハシュド達に・・・。
それ以上になるとまたいろいろと変わるが、正直言ってそれ以上の大きな買い物はする機会もないので臨機応変、何かあったらまた考える事となった。
そんなお金を握りしめ、子供も大人も露店へ向かう。
自宅で作る者もいるが、子供にしてみれば楽しいお買い物だ。
元傭兵である『警備部』の隊員にしても作るよりうまいものを買う方が楽しみとの事。
そして、シオンも「料理は嫌じゃないけど、働いた後にはこっちの方がいい」と食べ物を買いに来るのだ。
どう見ても神様してないな、とかなんとか思いながらも・・・。
あ、ホストエルフとロレーヌ・・・竜族の女性がテラス席モドキでお菓子食べてる。出来てんのかね?
全く頭の中は下世話である。
1度似た事を精霊主神に突っ込まれたが、シオンにしてみれば「まだまだお子様、17歳の新米女神・元巫女なんだから~」とはぐらかすレベルらしい。
考えながら今しがた買った硬めのクレープに具材が巻かれたものを手に近くのベンチに座る。
「あ?ああ、飲むものを買ってなかった。」
周りを見てあーだこーだ考えていて忘れてしまったと再び立ち上がろうとすると、目の前にカップが差し出された。
近くの屋台で売っている果物ジュースだろう。
何だろうとその差し出した手の主を見上げるシオン。
「あ?これ?どうしたんだ?バーキッシュ。」
女神の懐刀などとガーラオン王国の者にささやかれていた、スキエンティアの堅物筆頭がシオン同様に食事を片手に飲み物を差し出してきているのを見上げながらシオンが返事をすると、彼は彼で爽やかに笑う。
「別に。お飲み物が必要ならばこちらをどうぞ。」
超優秀執事じゃね?などとシオンは思いながら礼を言い受け取ると、バーキッシュは「お隣、よろしいでしょうか?」と聞いてくるからいいと返事をして、座る彼を横目に食事にかぶりつく。
そうしたら今度はバリシスが現れ今度はお菓子を差し入れて隣に。
「・・・。」
何だこれ?と、シオン困惑である。
ハシュドにエレイズにバーキッシュにバリシス。
なんやかんやでシオンの近くに良くいる面々である。
ハシュドやエレイズは仕事以外での接点が一切ないはずではあるが、ハシュドの場合は「新しい面白いものの案はないか?」とやや怖い勢いで来るし、エレイズも「新たなる知識と、研究を!」と若干オタク入っていいるのかと思う勢いで食い気味に来る。
まあ、結局縁側で渋茶を並んですすっているような感じになるのだが。
しかし、シオンが思うにこの2人は何か違う。
何といわれると良く分からず考えてみると思いつくのは「THE 主従関係!」又は「筆頭執事の地位争奪戦」といった横断幕が落ちてくる事態だった。
たまに超大型犬だの、ワンコだのという突っ込みを精霊の女神様が言いながら去っていくのが何故か腹の立つシオンだが・・・。
「里長、次の演習の際に視察に来ていただけますでしょうか?」
「ああ、新しい布陣を魔物で試すんだったな?行こう。」
「そうです里長、新たな術式の実験があるのですが、当日その出来を見ていただきご意見をいただきたいのですが。」
「そういえばもう出来たのか?日程を教えてくれ。」
言いながらジュースを飲んでお菓子を口に放り込むシオン。
その頭の上でにこにこしながら、何故か見つめあう2人。
少し離れた場所からハシュドとレノン。
そして、アサド。
「ねえ、あれ、里長気づかないのかな?」
隣でレノンと同じくベンチのシオン達を見ながらジャガイモのお菓子を口に放り込んでいるアサドは口の端を持ち上げて呆れたような様子で口を開く。
「分かんねんじゃね?」
「どう見ても2人とも里長の気を挽こうとしてるよね?」
「そのせいで演習のレベルがどんどん高くなる。」
それを聞いたレノンがジト目でアサドを見るが、それ自体はこの戦闘狂は嫌ではないのか変わらぬ様子で今度はお茶を飲む。
「どっちが先にアプローチ始めるかな?そろって中々の・・・イケメン?だし。」
「何でお前そんなにませてるんだよ?」
「アサドが擦れすぎなだけじゃない?」
年齢的には強大と言ってもいいはずの2人だが、過酷な旅の中で装備の整備をしていたレノンと使う側の傭兵アサドは意外と気があったのか今もつるんでいる。
年の離れた親友といった感じではあるが、変にませたレノンと戦闘以外は意外と素っ気ない彼は気が合う様だ。
「まあ、個人的な事だ。放っておけばいいさ。」
隣で食後のお茶をすすって一息ついているハシュドの一言に「そりゃそうだ」と次の装備などの話に花を咲かせるのであった。
何かの予感のあると思われた方・・・。
多分何もないです、まだ。




