「再生の覚悟」
急展開に動きます!
一体誰だ?
ガーラオン国王・アイザックは子供達との時間を潰されて腹を立てた。
同時にも内からも出ないという風で、今までの様に強く当たることも出来なかった。
そんな彼が玉座に座り、少ししてその来客が目の前に通された。
見たところ農民の様だ。
粗末な身なりをしている。
だが、とアイザックは目を見張る。
自分の行った悪政のせいで国民は飢餓に苦しむものが多い事も知っている。
死なぬ様、生かさず殺さずという方法を取っているのだから。
だが、目の前の農民の顔はどう見ても血色がよすぎる。
頬がこけているでもないし、古着を纏っているがそれ以外は健康そのものと言っていいだろう。
この国で今、こんな状態の民がいるのか?
いささかいぶかしげに思いもしたが、そんな事より早く子供達の元に戻りたいと思い、口を開く。
「一体何の用だ?私に謁見を望むとは?要件を手短に言うがよい。」
国王の威厳と『威圧眼』を交えて視線を向ける。
だが・・・。
「・・・?」
一行に変化がない。
今の過酷な世の中を生きていれば、精神的にも弱っているのだから確実にひれ伏すはずの能力は目の前の農民には効いていない様に見える。
驚愕に目を見開くと、農民の1人が最低限の例を取り口を開く。
「私達は、貴方様に見せしめとして滅ぼされた『アーレスト』の出身者でございます。」
王が滅ぼした土地などもうどれだけあるのかなど分からないのだ。
アイザックはさして興味もなさそうに鼻を鳴らし先を促す。
だが、次の言葉を聞くなり体をこわばらせた。
「そして私たちの新たな村は『竜の女神』様を信仰しております。」
粗末な古着の農民の男はそう言って王をまっすぐに見つめる。
馬鹿な!
アイザックは驚愕と恐怖が襲ってくるのを感じた。
”あの”女神を信仰する場所があっただと!?
思い出すは女神の圧倒的な力とその恐怖。
体がわなわなと震え始める。
そんな国王を見ても『アーレスト』の男は続ける。
ただし、今度は少し思い出したような風に。
「そういえば、国王様。王子様とお姫様が病気だとお聞きしました。」
いきなり何を言い出すのかと、唇が震えて声が出なくなっているアイザックは黙って男に視線だけを返す。
「貴方は悪い王様だと思いますが、王子様やお姫様は今まで何もしてこなかったと記憶しています。」
あの国王の子供なのだから、悪い人間であるというものも多い。
しかし、実際はそんな話は一切出たことの無い王子と王女。
それどころか、何年か前に彼らにたまたま出会ったという農民が助けてもらったという話すらある。
実際この国王は2人をめったに離宮から出さない。
その中では優しい父親として接している。
そのせいか、世間知らずではあるが純粋で穏やかな優しい性格に育っていたのだ。
世間はそんな王も王子も王女も知らない。
だが、女神とあって以来『アーレスト』の住民はなぜか勘が鋭くなっていた上に、穏やかに暮らす生活から心に余裕が出来たのか、冷静にそれらを見て考えることが出来るようになっており根拠はないが”助けが必要な時”だと思ったのだ。
今まで散々苦しめてきた国王の子供なんかとも思ったが、親が悪いからと言って子供も悪いとは限らないし、例の農民を助けた話も気にかかったのだ。
何より女神の言う『自分の善意に従え』という言葉に、難病の人間を見捨てるという選択肢はない気がしたのだ。
本当に感覚的なものではあったが。
だからこれを信じてくれたら、助かってもいいんじゃないかと思った。
「女神様からのお言葉を伝えます。」
農民は1度息を整えて口を開く。
「・・・″試煉の海原を越えた先には神々の叡智の国がある。そこに辿り着ければ病は治る″。」
***
国王は玉座の上で驚愕に打ち震えていた。
今この農民の男は何と言った?
病が治るといったか?
子供達が助かるのか?
アイザックは耳を疑った。
子供達の命を吸い取っていくあの病が治ると。
確かにこの農民入った、と。
だが、それとは別の内なる声がかすめる。
―――国王はかつて女神に何をしたのか?
そうだ、自分は女神の国の民を迫害し、女神の国に攻め入った。
そして怒りを買ったのだ。
確かに女神を信仰するこの農民達の様な者ならば手を貸してくれるかもしれない。
だが、私は違う。
女神の怒りを買った私に救いの手などないのだ。
***
黙ってしまった国王に『アーレスト』の男は噂を思い出し口を開く。
「王様。女神様に謝りましょう。そして、助けを願いましょう。相手は神様です。王様は女神様を怒らせましたが、人間同士の争いとは違うのです。一心に願えば、助けてくれるかもしれません。」
国王は瞠目して黙り込む。
『アーレスト』の男は黙って国王を見つめる。
この男も確信はないのだ。
噂通り国王が女神の国に攻め入って、その民を傷つけて怒りを買ったというのも知っている。
だが、何故か女神はそれでも助けてくれるような気がしたのだ。
隠れ里を出る際に、男もだめかもしれないと思った。
ただ、里の幼い子供が出立前に無邪気に話しているのを耳にしたのだ。
『女神様は困っている人を助けてくれるね?王様は悪いことしたけど、王子様もお姫様も何もしてないし、病気なんだから。』
素直にその言葉が胸にしみわたるのを感じたのだ。
だから男は口を開く。
今度は強い意志を瞳に込めて。
「王様。王子様とお姫様を助けましょう。私もお供します。相手は神様なんです。反省した人間にひどい事なんかしません。困ってたら助けてくれます!」
最後は強い調子の声が謁見の間に響いた。
国王は信じられないという顔で農民の顔を見た。
見知らぬ、しかし自身が苦しめてきた民が自分の子供達が助かるかもしれない方法を伝えに来た。
殺されるかもしれないのに。
しかも、女神の国への旅路への同行まで申し出てくれた。
手を引いてくれる。
″友と呼んだものすら引いてくれなかった手″を、だ。
「・・・女神に、会いに。共に来てくれると・・・?」
男は力強く頷く。
他人の為に命懸けで手を引いてくれる人間が目の前にいるというのに、わが子の事でありながら自身がどれだけ情けないのか?
王の目にも光が宿る。
そして立ち上がり男の元へ歩み寄ると、頭を下げる。
「ありがとう、この国の民よ。私はすべてを引き換えに女神に許しを請う。どうか、私と共に彼の国へ赴き結末を見届けてほしい。」
流石に男も驚きを表したが、次に見せたのは笑顔であった。
前回率いた艦隊とは違い、母艦とわずかな護衛船を率いて5日後に国王と『アーレスト』の男は海に出た。
その旅路は苛烈としか言いようのないものだった。
2日目にはいきなり嵐に合い、嵐を抜けても4日目には風が吹かず人力で舟を漕ぐ。
この時は国王自ら機関部でオールを漕いだという。
5日目には風は吹いたが大型の魔物が海より襲い掛かり、更に嵐に合いさ迷う。
そうして7日目の夜。
ようやく夜を照らし、水上に輝く城を目の当たりにすることになったのだ。
「・・・王様、あれですね?女神様の国は。」
男は傍らに立つ男に話しかける。
アイザックは数年前の事を思い起こしながら口を開く。
「・・・神々の国、『城壁都市国家・スキエンティア』。『竜の女神』の加護と守護を受けた国。」
それを聞き男は大きく頷き再び光の城の方を向く。
ここまで酷くつらい旅だった。
男もし何度死を覚悟したかと思った事か。
だが、どうしてだかこの国王を放ってはおけなかった。
そして、旅の途中は僅かに空いた時間に王子と王女の様子を見たりしながら国王と会話をした。
結果、彼が国王に見たものは・・・『この人も1人の人なんだ』。
というありきたりなものでしかなかった。
それでも、思うものがあり、この明白ではない感覚でいいと思えた。
「人なんて・・・いくらでも変えられる。やり直せる・・・。」
フッと呟くと国王が視線をよこして噛みしめる様に頷いた。
そして、目の前にまばゆい純白が現れた。
***
驚いた。
いや、正確には私の知る相手とは違いすぎてどうすればいいのか分からなかった。
かつて私が見た女神はまさに戦装束を身に着けた戦神だった。
だが今目の前におわす白い衣に光の杖を持つその姿はどこか暖かいと感じた。
言うならば『ようやく来た、待っていた』とでもいう様な。
全く都合のいい感想だと思う。
だが、だからこそだろうか?
隣で彼が「女神様です。謝りましょう。」と言ってくれているのが普通の事の様に見えた。
悪い事をしたのだから謝る。
当然の事を私は今までしてこなかった。
私には力があり、私が正義であると。
はるか昔には出来ていた事。
最後に謝ったのはいつだったのだろうか?
「彼の国の王よ、何ゆえ再び我が領域へ足を踏み入れる?」
「・・・あ。」
かつてと同じ声だが、違う声。
本当に同じ女神かと思ったが、相手は神なのだ。
人間の考える常識と違う相手なのだから、こういう事もあるのだと思った。
何よりそんな事を考えている暇はない。
私は意を決して口を開いた。
「・・・私の名前はアイザック。アイザック・レイ・ガーラオン。ガーラオン王国の国王だ。かつてこの地に貴方の民を傷つけ、そして攻め入った人間だ。」
そう、愚かな事をした。
どうして彼らを傷つけていたのだろうか?
彼らは、私達に何もしていないというのに・・・。
「貴方の国の民を痛めつけ、攻め入り。自国の民すら痛めつけ国を混沌に叩き落してきた。女神よ、愚かな私を許してくれ。すまない。」
私はどれだけの命を奪ってきたのだろうか?
もう分からない。
どちらにせよ、こんな謝罪だけでは足らないだろう。
「愚かな私の一方的な謝罪である上に、此度は女神に助けを請う為に来た。どうか、私の子供達を助けてくれ!死にそうなんだ!必要ならば私の首も差し出す!切り刻んでくれてもかまわない!頼む!私の子供達の命を助けてくれ!」
***
隣でひれ伏し許しを請い助けを請う国王。
その様を見た『アーレスト』の男もひざまずき口を開く。
「女神様!私は元『アーレスト』にいた時助けていただいた里の者です!この王様は確かに悪い事をしました!でも、王子様やお姫様を助けたいと。子供を助けたいと思う親なのです!私にも同じ年ごろの子供がいます!子供を助けたいだけの親の気持ちは良く分かります!どうか助けてください!」
国王は男に視線を向け驚きに見開いている。
その視線を受けた男は視線を1度合わせて頷き女神に顔を向けると、国王も倣う。
そこには相変わらず感情の読めぬ表情の女神が浮いている。
女神は1度2人を交互に見て目をつむり、再び開くと言葉を発した。
「人の国の王よ。お前の想いと覚悟は分かった。そう、そして、過去も。」
女神の言葉にアイザックは目を見開き首を振る。
どうして、と口が動くが言葉は紡がれない。
「お前は今までその心の闇より命ある者達を傷つけ続けた。その罪は重い。」
国王の喉が鳴り、男は頷く。
「だが、お前は1人の親としてここにいる。親として子供を救いたいと、その命を対価にしてまで願った。そしてその願いを叶えよう。」
「・・・あ・・・。」
アイザックの目からしずくが流れ落ちた。
「・・・あ、あ・・・助けて、くれる・・のか?」
かすれた声が小さくこだまし、周りで見守る兵士達も固唾をのんで見守る。
その様に視線を1度巡らせた女神は頷き口を開く。
「人の国の王よ、お前は我が子の為に命を差し出す覚悟をした。だがここでお前の命を散らせてはあまりにも安い。したがって、お前は今この場で神との契約をするのだ。」
「・・・契約?」
「お前は我が子を親として守る為に命を賭する。ならばお前は同じように、国の親となり民を子としてその命を賭して守り育て導くのだ。そうして、お前は終わらぬ贖罪を生きろ。それがこの契約において、お前の子供を救う為にお前が支払う対価だ。」
女神は国王の傍らの男に視線をやると、男も頷き国王の方を揺らす。
「私は、再び・・・始めることが出来ると・・・?」
言われた事をかみ砕き、困惑に瞳を揺らしながらも国王はつぶやき女神は頷く。
「お前は今ここで死んだ。そして、もう1度立ち上がるがいい。今度こそお前は力強く、優しく、賢く王となるのだ。」
女神の言葉が途切れ数秒。
国王は俯き声を殺し涙すると立ち上がり、女神を見上げて口を開く。
「・・・『竜の女神』。ガーラオン王国当代国王『アイザック・レイ・ガーラオン』は、天と女神と民。すべての子供達に誓い、親となり契約に応じる。」
その言葉を聞いた女神は頷き見つめる。
そこには、長い闇夜の終わりにたどり着き、晴れ晴れとした国王が友と共にに立っていた。
国王様、改心!




