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「悪いのは何?ーーー独唱」

暗い話です。

どうしてこうなったのだろうか?

人のいない玉座に座った金の髪の男は暗い表情でうつむいていた。

思ってみれば私は何がしたかったのだろうか?

昔から私は体も気も弱かった。

私には兄が2人いた。

私などよりはるかに優れた、強い王の子だ。

父王もその妻で母である王妃もそれはそれは優秀で、国の誉れであるとされた。

国内も貴族制度は絶対だが裕福だった。

国民は”王と王妃と2人の王子”を称えた。

そう、私以外の物を称えた。

私?私は、弱く力ないただの王の子だ。

大陸北東の大国、『ガーラオン王国』に生まれた、3人目の王の子だ。

それだけしか私を形作るものなどなかった。

そんな私には当然のように周囲の目は冷たかった。

時には王の子であっても学園では泥水を浴びせられる事もあった。

剣の稽古と称して暴力を振るわれることだってあった。

しかし、それは仕方がないことだとも思った。

私は弱いのだから。

そんな私を親兄弟ですら庇ってはくれなかった。

私は彼らの中ではいないものとされていたようだった。

それでも仕方がないのだと言い聞かせ、力の入りづらい体を無理に動かして日々を過ごしていた。




歳月が経ち、私は成長とともに幼少期から弱いとしてきた体も人並みにはなって来た。

その原因が、時折現れる化け物が乱した魔導の流れの影響を受けていたと知ったのはその少し前の事で国の貴族達の通う学園で知り合った学友の伯爵令嬢の父君が教えてくれたのだ。

原因不明の脆弱な子供。

の伯爵は医療系の異能者だったのだ。

だから私の事に気付き、そして救ってくれた。

私は今までの遅れが大きすぎて相変わらず誰にも認められてはいなかったが、これでようやく人並みに暮らせるかもしれないと思うと、懸命に日々を努力するようになった。


そんな私にも、私を愛してくれる女性が出来た。

私を救ってくれた伯爵家の令嬢で苦しんでいる私に声をかけてくれた女性だった。

彼女は私をやさしい人と言ってくれ、何時しかその女性を私は愛するようになっていた。

その思いは彼女も同様だと、ある時告白して確かめることが出来た。

そして彼女は第三王子妃、私の妻となった。

彼女との間には男の子供と女の子供が1人ずつ生まれ、私は妻と2人の子供達を腕に抱き弱くとも必ず守っていこうと思った。



だがそんな幸せな日々は長くは続かなかった。

数少ない友人である貴族子息が城で開かれたパーティーに来た時の事だ。

親兄弟は選ばれた者の座る場へおり、私は相変わらず会場の隅に佇んでいた。

妻はまだ幼い子供達を寝かしつけてくると言ってまだ来ていない。

その間、その学友は私の元へ歩み寄って来てにこやかにしゃべりだした。

しばらくすると彼は離れて行き、入れ違いに妻が私の元へ。

今日は彼女の父君であり大恩人の伯爵もこのパーティーに出席するのだと笑っている。

あの方は本当に良い方で、本当の父よりも私にとっては親の様に親しみを感じている。

そんな伯爵が合流したのは孫を先に見てきたすぐ後だった。

お互いに近況を報告し歓談し、あまりいい気のしないパーティーではあったが穏やかに過ごしていた。

そう、あの時までは。



パーティーも佳境に差し掛かった頃、伯爵は先に用事があると言って帰る事になり妻も見送りをと席を離れた。

私も見送りに行きたかったが、楽しそうに話す私を社交を最低限こなしていると見たのか兄が呼びつけてきた事により叶わなかった。

もしこの時、私も妻と同行していたならば・・・。

きっと私の運命は変わっていたに違いない。



兄の元に着くと珍しく父も話しかけてきた。

伯爵と話すのと比べると冷たいこの会話が家族の会話だと思いたくもないし、思う事も出来ないので数少ない社交の中で覚えたあたりさわりのない立ち振る舞いでその場をしのいだ。

そうしていると、会場の出入り口の方から女性の甲高い悲鳴が響いてきたのだ。

あたりは騒然として、会場に何人かの血だらけの男女が崩れるようになだれ込んで来たのが見えた。

確かあの入り口には伯爵と妻がいたはずだが・・・。

そこまで考えたところで、もはや回りなど見えなくなり走り出していた。

そして目に映るのは白い大理石の床を染め上げる、―――赤。朱。緋。

その真ん中に転がる見覚えのある礼装を纏う男の体とその腕で守られるように抱きしめられながらも血染めになった淡い色のドレスを纏う細い女性の体。

―――ああ、何て事だ・・・!

伯爵と妻が赤くなって冷たい床に倒れている。

そう認識するのに長い時間が掛かり、ようやく歩き出す。


何が起きたのだろうか?

どうしてこうなったのだろうか?

これは悪夢か?


どれも現実味がないが、それでも倒れた2人に触れた時それは現実だと分かる。

そして傍らに立つ”友人”。

その手には血の滴る剣が握られ、私を熱の無い瞳で見つめていた。



その”友人”が私に近づいたのは、私が弱くて扱いやすそうだからだった。

彼は自身の妹を私のきさきにして、自身も王族との縁続きとなろうと考えていたのだ。

だから今まで、実はプライドの高かった”友人”は苦渋に耐えながらも人のいい人間を演じ私の近くにいたのだ。

だが、学園卒業間際に彼の妹が病に倒れ領地に療養の為に戻る事となる。

その直後に私は妻と結婚をして、今年で3年目となったところで彼は妹を連れて戻って来たのだった。

元々プライドの高い彼は、羞恥に耐えた期間を思い怒り狂ったようだ。

そして、彼の狙う立場にいた伯爵と妻を手にかけたのだった。


何の事はない。

私が弱かった結果が招いたのだ。

実の父以上と慕った恩人と、愛する女性はそのせいで命を落とした。

勿論王族の伴侶とその親を殺害した彼は極刑に下る事となり、一応形だけではあったが見せしめも兼ねて”友人”の家は取り潰しとなった。



しかし、そんな事をしても最愛の人と恩人は戻ってこない。

落胆と絶望が私の中で静かに暴れまわった。

同時に、私さえ強ければ。

力があったならと後悔した。



傍らで眠る母と祖父を失った2人の幼い子供達が目に入った。

「・・・。」

無言で抱きしめる。

何が何でもこの子供達だけは守らなくては・・・。

「何をしても、守る。」

うめくような誓いの声が、室内に低く響いた。



不幸な事は続くというのか?

私はもう誰からも狙われない様にと子供達と領地を貰い、隠れる事を考えていた。

この先この子供達が社交界に出て、同じような事になるか分からない。

ならばと思い父に申し出しようと思っていた矢先だった。

何が原因なのだ全く分からない。

それは、流行病とであるとされた。

王城付近だけの流行病。

それは、強く優れた力ある親兄弟をいとも簡単にこの世から追放してしまった。

後は最後の王族の子である私が冠を頭上に玉座に座る事となった。

勿論、私にできるとは思っていないのだ。

どうせ、傀儡にされるのだと思っていた。



それは予想道理といえば、正に予想の真ん中を行き1ヶ月を過ぎると大臣などの重鎮に囲まれ、阻まれ意見は一切聞いてもらえなくなっていた。

そんな時、城に上がっていた貴族の子供が事もあろうか私の子供達を突き飛ばして転ばせているのをちょうど目撃してしまったのだ。

相手は最近力を付けてきた子爵の幼い令嬢だったはずだと頭の端にある。

何て事を!

私の子供達に、何をする!

私は思わず駆け寄り子供達を助け起こすと、突き飛ばした令嬢に低く謝罪を促した。

しかし、令嬢は意味が分かっていないのかポカンッとしたままで、それを見た父親が歩み寄って来てにこやかに礼をして何があったのかを聞いてくるのであった。

私の事を知っているであろう彼は、娘のした事を大した事とも思っていなかったのだろう。

その瞬間、私はどうしてしまったのか分からなかった。

ただ、気が付くと腰の剣を握っていた。

目の前には子爵だった塊が血濡れで転がっていた。

慌てて大臣達が走り寄ってくる。

口々に「何事ですか!?」とまくしたてる。

そこで彼らは黙って蒼くなった。

私は睨んだだけだった。

それが私の異能『威圧眼』。

そう強くないし、ある程度強い精神力を持つ者にはほとんど効かないが相手を怯ませ身動きを奪う力だ。

この力の覚醒の時より、凶王と称されしガーラオン王国・国王『アイザック・レイ・ガーラオン』が誕生したのであった。




それから20年近い時が経った。

私は、何をしたかったのだろうか?

私は恐怖政治を行う事ですべてを黙らせた。

元々、父の代からすでに国内の『異種族差別』は深刻だったが、あの頃はまだヒューム族は普通に暮らしていたはずだ。

だが、私はとにかく私には向かうものは徹底的に攻撃対象とした。

私の持つ『威圧眼』の効力を秘匿し多くの人間に使用する事で恐怖を植え付け、更に精神力を弱らせて餌食にしていく。

そうして私は今まで私と子供達に害成すであろう者は徹底的に叩き潰してきた。

力と権力の亡者などと呼ばれたとしても、子供達さえいるならば安いものだと思った。

それなのに・・・。



「王子も王女も、もうあと1ヶ月持つかどうか・・・。」

国で最高の医療も、治療師もどうすることも出来なかった流行病。

再び王城で流行ったこの病は親兄弟を襲った物ではないが、今度は私の子供達をこの世から追放しようとしている。

手は尽くしたがもうどうする事も出来ない。



力なく城を歩く。

傍らの塀に視線をやると引きつったように動きを止めるのが見える。

力が発動したような気がしたが、もうこの力に意味はない。

そんな思いで歩く。

どうしてこんな事になったのか?

護るものがいなくては、私の力に意味はないのに。

そう考えながら前方の礼拝堂に視線をやると、何故だかそちらに足を向けた。

本来、絶対向かうことの無い礼拝堂。

”あの日”私を恐怖のどん底に叩き落した、絶対の”力”を持つ女神の肖像画の祀られた礼拝堂。

どうしてそんな所に?

入り口に立つと見える、銀の髪に赤い右目。

赤い右目に輝く紋章と黒い鎧と剣と大きな光の翼。

この世の物とは思えないほど美しい、恐怖の象徴。

ここに来て私は「ああ・・・。」と呻いた。

これは罰だ、と。

女神が今までの悪行に罰を与え、私が最も苦しむことを選んだのだと思った。

そこまで考えたというのに、血胸どうしたらいいのかは分からなかった。


子供達が倒れて2ヶ月。

瞬く間に弱ってもう虫の息となっている。

罪を犯したのは私なのに、罪のない子供達が苦しんでいる。

外界を知らせぬまま場内のさらに奥の園に立つ離れの城に住まわせてきた子供達。

それなのに。

もう、全てが終わる。

私は失意のままその場を去った。



だが、事態は思わぬ方向に動き出したのだ。

何時もと変わらぬ絶望の朝。

仕事もほとんどせずに子供達のいる部屋に足を運ぶが、いずれもよくならず悪化していく様を目にしていた時だ。

あれから新しく就任した、私の話をよく聞く大臣がくたびれたような顔のままではあったものの、普段なら見せない様な慌てた様子で部屋に走り込んで来たのだ。


それは、謁見を申し出る者の来訪を告げていた。

あの国王も人の子でした・・・。

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