かしこまり竜族と機械の腕
お久しぶりです。
始まります。
一夜開けてスキエンティアでは新たなる試みが始まっていた。
竜族の面々は衰弱こそ酷かったが、眠っている間に土地に流れる力を取り込んだらしく早朝には回復していたと言う。
おそらく″竜族″だからだろう。
竜種に属するシオンの領域。
流れる力も馴染みやすかったのだろうとシオンは思っている。
「こんなに急がなくても良かったんだけど。」
聖域で世界のあちこちを探っていたシオンは聖堂で呼ぶハシュドの声に応じて姿を表す。
勿論術式を行使していたので白い女神の姿で。
「・・・!」
声にならない小さなざわめき。
竜族の誰かのものだろうとシオンは傍らのハシュドとバーキッシュに目を向ける。
「昨日の礼が言いたいらしい。」
ぶっきらぼうにハシュドが言い放つ。
「礼?何でだ?」
言いながらもシオンはいつもの″人の姿″に転じる。
「私もこの国についてや里長の意向は伝えたのですが・・・。」
困ったようにバーキッシュも続ける。
「ダメか?」
これはどうしたものか、と目の前に膝まずく竜族を見る。
「一応、警備部の『法班』に所属してもらおうと思っていたんだが。」
警備部『法班』。
その名の通り術式法術での戦闘や支援を行う魔術師部隊だ。
ちなみにバーキッシュ達は『兵班』で剣術や体術での戦闘実戦部隊になる。
まあ、でもとシオンは考える。
確か一人、身体欠損の患者がいたはずだ。
彼も長々と辛い状態のままにはしてはおけないし…。
先に治療を済ませて、その間にスキエンティアに馴染んでもらいながら説明してもいいだろうと考え視線を一番端にかしずく青年に向ける。
まずは彼の治療が先だろう。
「ハシュド?『ヴィータ・ヴェスティート』の製作は進んでいるか?」
「ああ、パーツはな。」
彼らが来る事が分かった時点で身体欠損の患者がいる事は分かっていた。
だから大急ぎで設計図をつくりハシュドに説明して準備を頼んでおいたのだ。
『ヴィータ・ヴェスティート』。
このスキエンティアにおける義手だ。
ただし、ただの義手ではない。
そもそも義手なんて物はこの世界にはないので説明はかなり難しかった。
最初は全く話が通じないのだ。
それでもハシュドてエレイズに図解したりしながら説明してようやく理解してもらったわけだが。
それはまさに機械仕掛けの腕や足。
細かなパーツひとつひとつが神経の役目を果たす高性能な義手だ。
地球でもそんな物はないが、魔導鉱石のお陰で実現できる事が分かったのだ。
「問診、細かい採寸、作成、フィッティングその他諸々。する事は多い。」
「ああ、そうだ。」
「・・・。」
職人、ハシュド。
あの爛々と輝く目が青年に向く。
シオンはそんな彼から視線を外しバーキッシュに向けるが反らされる。
「まあ、時間はある。徐々に行こう。」
苦し紛れな声が響き、その場はお開きになるのであった。
時間はある。
あの国王が次に動き出すまで。
動き出す″原因″が現れるまで。
「悔しいけど、利用させてもらう。」
苦々しく呟くシオンの声が誰もいなくなった聖堂に反響しながら響く。
現れる″原因″を引っ張って来るのは何を隠そう『破意』なのだ。
現れる『破意』の力が弱いせいなのか規模や効力は弱くて狭く限定され、短期間で現象は済むがやはり気分は悪い。
敵の力を借りる形を取っている気がするから・・・。
悪いとは女神様も言わなかった。
だが、過去に関わりいい気がしないのが現状だ。
それでも、仕方がない。
何せ変わりを用意しようにも、リソースは足らない。
時間はない。
神族の力は使えない。
全くもって手も足も出ず、首も回らない。
「最高の世界だなぁ。」
おどけた調子で呟くが、全く気分は上を向かない。
だからと言ってしないで言いなんて事はあり得ないのだから。
そんな事をしたら、女神様に何を言われるのやら?
シオンが神族になってからと言うもの女神様はやたら無茶振りが増えて態度や会話の内容が辛辣だったりと刺さる様になってきた気がしていた。
「また来るんだろうなぁ。」
嫌だなぁ、と頭を掻きながら工房へ足を向けるのであった。
「本当にこんな物を付ける気なのか・・・?」
いぶかしむような声が入口に差し掛かったところで聞こえていたので「あ、やっぱり」と苦笑いをしつつ戸口から室内に顔を突っ込む。
そこには左肩付近を採寸されながら目の前の細長い鉄の組合わせられた塊を前に嫌そうな顔をする銀髪に尖った耳の青年と、どや顔のドワーフに失われた腕の断面を診察している白衣の男が立っていた。
流石に大の男が三人、至近距離と言う絵面はないだろうと思いながらも何事もなかったかの様に男達に話しかけた。
「調子はどうだ?」
三人のもとに歩み寄りながら声をかける。
シオンのフレンドリーな声にハシュドとエレイズは顔を向けただけで返事をして答える。
だが・・・。
「め、女神様!?」
慌ててかしずこうとする左腕のない青年―――ロンバルト。
そんな様子を見たシオンが苦笑いしながら立たせて進捗状況を他の二人に聞く。
「採寸はできた。それに合わせて作ったパーツを再調整して行こうと思っているところだ。」
言いながらネジを変形させた様なパーツをつまんで眺めるハシュド。
「神経接続の際の痛み止めは使用できないので、どの程度切開するかですが・・・まあ、彼は体力もあるので大丈夫でしょう。」
カルテを片手にうなずいて見せるエレイズ。
神経を繋ぐのだから、麻酔は使えない。
「そこは、根性で耐えてもらうしかないな・・・。」
最初の取り付け口を設置する時のこれは仕方がない。
シオンもそこは我慢してもらうしかないだろうと考えていた。
同時にこの痛みに耐えれば義手が壊れても他のものに容易に付け替えが出来るようになるのだ。
「頑張ってくれ、ロンバルト。」
「は、必ず耐え、女神様にお仕えします!」
「・・・。」
正直、バーキッシュの軍人気質より酷い、とシオンは思っていた。
それはロンバルトのみならず竜族全員に言える事だが。
だから思わず口にしてしまう。
「ああ、なあ、ロンバルト?」
「はい、なんでしょう?」
直立不動で答える。
「私は確かに女神だが、今は人だ。それにどちらかというとこの国の国家元首だが村長の様な感覚なんだ。その様に扱ってはもらえないだろうか?他の人も。」
「そ、それは・・・!」
きっとやりづらいのだとはシオンも思う。
だがここではそれがルールだ。
だから従ってくれと説き伏せる。
本当にきついから私、色々と!ムズムズして仕方ないから!
内心、小物的な発言をしながらそうとは悟られぬよう。
その努力のかいあってか、神妙な面持ちでロンバルトは頷き了承するのだった。
「さて、話もまとまったところで『ヴィーダ・ヴェスティート』について打ち合わせをしようか?」
雰囲気をクルッと変えたシオンが職人と医者に向き直る。
「どう進める?あ、その前に何て説明した?」
と、ロンバルトに向き直る。
「腕を作ってくれる、元の様に生活できるようになると・・・。」
「ああ、大体そうだな。元通りは残念ながら絶対無理だ。神族の力ならばできるかもしれないがそれは理に反するので出来ない。私は女神だが人の範疇の中で出来る事しかしない。将来、技術的な発展によっては髪の毛一本からでも同じものを作る事も出来る様になるかもしれないがそれも今はできないので考えないものとする。」
複製技術だ。
スキエンティアのアーティファクトでもそれらしい物はいくつか見つかってはいるがまだ使えそうにない。
なのでまたいつか!といった状態だ。
その発言にエレイズが過剰反応を見せたが気にしない。
変りにハシュドに向き直る。
「サイズ的にはどうだ?細かい作り直しがあるみたいだが?」
「大した直しはないさ。最終的には使ってみなくちゃ分からないだろうからな?」
髭をさすりながらあっけらかんと返事をする。
「エレイズはどうだ?神経接続の方は滞りなく行けそうか?」
「現在の施設で、または機材でも問題なく。ただ、やはり激痛はどうする事も出来ませんのでそこは了承をいただかなくてはなりませんね。」
言いながらロンバルトに視線を送る。
「耐えて見せます。」
「ああ、そうだな。ロンバルトのこれからがかっているのだから。いざとなったら柱にでも括り付けるから、安心して覚悟してくれ。」
「里長・・・、それは安心ですか?」
「安心だ。覚悟だけすればいいんだから。」
「なんちゅう会話だ。」
三人のフランクな会話は締まりなく進んでいく。
そんな様子を珍獣の戯れでも見るような目で眺めるロンバルト。
彼の視線に気付かないまま会話は続いたのであった。
その三日後に施術は行われ、腕を失い人生を諦めた青年は再び機械の腕を手に入れ晴れやかに空を見上げていた。
施術中は何度も気を失いかけたが耐え、彼はその後半月で新たな腕を見事使いこなせるまでに回復したのであった。
同時に魔法の使用の際に様々な効果を発揮するアーティファクトを組み込んだ義手の最初の使い手となるのであった。
義手作成に至るまでのお話です。
次回はロンバルト視点です。
『NOA』の最新話の更新をしましたので、そちらもよろしくお願いいたします。
更に新たな(そんなに長くはならないとは思いますが)話を投稿しますのでよろしくお願いいたします。
「刻印~プロトタイプフリューゲル~」と言うタイトルになります。
ブクマや評価もありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします。




