後ろめたさと女神信仰
遅れてすみません!
シオンが迷いながら神様してます。
長くなりますが、よろしくお願いいたします!
昨日の明け方。
この国の海域に小型船舶が現れた。
中には三人。
父母、そして娘という一家の難民が乗っていた。
茶髪に青目の男性は『ガルゴ・アーレスト』という五十代前半だと言う。
その妻はセレンと言い、金髪に黒目の穏やかそうな婦人でややガルゴより若い様だ。
そして、二人の娘で母親と同じ目髪を持つ十代後半の少女がセレーナ。
彼女は生れつき体を患っており、この時点で極めて危険な状態ではあったが緊急手術の末回復し始めている。
彼らは大陸の田舎の村を治める一家だった。
村の名前は彼らの家名にもある『アーレスト』。
この国の『警備部』所属、クレナスの祖母の故郷でもあるらしい。
正直、私はこの大陸にある国の王達は狂っているのかと思えてならない。
ただ、彼らもまだ人間であると。
その一点でどうするべきかと迷っている。
いつまでも迷ってはいられないんだけどなぁ。
シリアスに語ったけど、自分の子供を地下牢に入れる王までいるし。
今回に関しては胸くそ悪いなんてものじゃないし。
本当にどうしたもんかな?
そろそろセレーナも朝ごはんだしさ。
女神様には″時に私情を抑え、非情に利用する事も神には必要です″とか言われたし。
さっき。
彼らの気持ちを利用する事になるのは気が重い。
でもまあ、それを言うなら今いるスキエンティアの住民にもだけど。
「・・・仕事だ。」
言い聞かせるとか、かなり私後ろめたいんだわ。
だけど既に動き出してる。
私も動かなくちゃ。
これが悪いと言われたとしても、なら悪は悪を最後まで貫き通す。
いつかこれが正義になるまで。
***
「アーレストの様子を見に戻れる、のですか?」
弾むような声でガルゴが今しがたシオンが伝えた内容を聞き返してくる。
セレーナの面会中に病室を訪れたシオンは先日クレナスに言っていたのではないか?と、聞き返す。
「確かにクレナスさんにはその様な事も申し上げましたが・・・。」
無理なのではなかったのでは?
三人は各々で困惑の色を浮かべる。
だからシオンは淡々とした口調で、あくまで事務的に述べる。
「君達はすでにスキエンティアの住民になった。」
そうだと三人も頷きながらシオンの次の言葉を待つ。
そんな三人に視線を巡らせながら再び口を開く。
「もとの暮らしに戻る事も、故郷とそうそう接触する事も出来ない。だが君達には″ある運命″がある。そのひとつが君達の故郷の民に無事を知らせ″私からの伝言を伝える″事だ。」
「役目・・・ですか?」
「そうだ。同時に君達の故郷の民達を守る事にもなる。」
「住民を・・・ですか!?」
興奮するガルゴ達。
お互い視線を合わせている。
口車に乗せてごめんな。
既に明るい表情の三人は嬉しそうに笑顔を向け合っている。
その様を見つめながらシオンは一人、うつむくのであった。
勿論先ほど言った事に嘘はない。
三人の無事を知らせる。
それは、彼らが″どうやって助かり、どうなったのか″を知らせる事。
シオンの言葉を伝える。
″今後の展開に必要な情報″を伝えて彼らが動いてくれる様にする。
だから、彼らが生きていける様に助成する。
ひとつの事にふたつの意味。
嘘はついてないが、真実も告げていない。
どこかの詐欺師だか、悪徳企業だかの使いそうな手であると苦々しく思うシオン。
しかし、何も汚さないままで多くを手には出来ないと聖霊主の女神に言われた先ほどを思い出す。
しなくてはならない、必要な事。
なら、自分がしよう。
そして、その苦さを忘れず多くを救おう。
神族も苦しいのだと笑った、顔も覚えていない教育係の神様の顔が見えた気がした。
空は澄みわたり、風は爽やかな昼下がり暖かな日射しに目を細める数人の男女。
しかし、彼らは皆暗い表情をしていた。
数日前までは彼らの立つ辺りには″村″があった。
しかし今は焼け野原が広がっているだけで、少し先に辛うじて骨組みが残っているだけだった。
片田舎の村、″アーレスト″。
人の良い村長一家が代々守る静かな村だった。
だが数日前の夜に全てが変わってしまった。
この国の軍隊が攻めて来たのだ。
理由など誰も分からないが、この国の王は酷い方だ。
何かが気にくわなかったのだろうと誰もが思い、死を覚悟した。
しかし村長は自分が屋敷で軍隊を引き付けておくから住民は逃げるようにと言ってきた。
その時、誰もが残る事を村長に告げた。
それでも村長は折れず、ならばと奥様と体の弱いお嬢様を連れて行ってくれと言い、僅かな従士達と屋敷に消えていかれた。
村のはずれまで来た頃、村長の娘が村のある方角を見て立ち止まったので皆がならう。
「私がいてはこの先の道のりは大変です。」
そう言い、頭を下げて来た方向へ歩き出す。
夫人もその様子を見て頷くと、我々に頭を下げて娘の横に追い付き歩いて行く。
最後に「お元気で」と、呟いて。
「ガルゴさん達は、やはり・・・。」
男の一人が呟き、しゃがみこむ。
その事は誰もが覚悟していたが、実際に目にするとやりきれないと他の者達も俯く。
だが覚悟はしていたが、ならせめて遺体だけでもとここまで来たのだ。
まだ軍隊がいるかもしれない。
急がなくては。
男の一人の言葉を皮切りに他の者も動き出す。
しかし、そんな彼らにあの声が聞こえた。
それは今しがた探そうとしていた人間の声だ。
慌ててそちらを見ると、見た事もない衣装を着た″彼ら″が立っていた。
「ガルゴさん!?」
「奥様!」
「お嬢様!?」
誰もがもはや驚きを通り越した様な声を出した。
同時に三人の元へ駆け出していた。
「ご無事でしたか!」
良かった、とガルゴの手を一人が握り涙を流す。
他の者も口々に無事を喜ぶ。
だが、当のガルゴ達も嬉しそうに微笑んでいるが住民の一人の言葉で表情を曇らせた。
「また、村を盛り立てましょう!」
「・・・すまない、それは出来ないのだ。」
「・・・え?何故ですか?」
男女は口々に疑問を洩らし、ガルゴに視線を向ける。
何故そんな事を言うのかと悲しそうな視線だ。
「私達家族はあの後海を越え、″竜の女神様″の国たどり着いたのだ。そこで、神の国の民になる運命だと告げられた。私達はもう、ここに戻れないんだ。」
すまない、と再び頭を下げるガルゴを住民達は何と言って言いか分からないという顔で見つめている。
「皆さん、本当です。」
それまで黙っていたセレーナが進み出ながら声を上げた。
その姿に一同は信じられないと驚愕の表情を浮かべて固まった。
それもそうだろう。
最後に見た彼女は顔色も悪く、今にも倒れてしまいそうな程弱っていたのだから。
あの後ガルゴ達に何があったのか。
神の国とは?
何故戻れないのかなど、様々な事を話して聞かせた。
住民達はおおよそ信じがたい話しながらも、回復したセレーナや彼らの着ている見た事のない布ーーー繻子の衣類を前にガルゴらが言っている事に頷いたのであった。
住民達は森の奥にある滝の近くに隠れて暮らしているという。
そこは水も木の実も豊富で土地も肥えているので何とか暮らせている旨を伝える。
そして、お互いの無事を改めて喜びあった。
「そんな事が・・・。いや、でもガルゴさん達も無事で本当に良かった。」
それでもそう口にしながら微笑んでいる住民達。
それを嬉しそうに見つめるガルゴ達。
「ああ。それで女神様がその旨を伝える事を許して下さり、今戻ったのだ。」
「女神様ですか。そんな方がいたのですね。」
この時代にまだ慈悲を与える存在がいたのか、と各々で世の中捨てたものではないと笑う。
「それで女神様から貴方方に祝福を賜ってきたのだ。これがあれば食べ物にも困らなくなるし、軍隊を恐れなくてもいい。」
「・・・は?」
何を言っているのか分からないが、ガルゴは続けて何かを差し出した。
「これは神々の叡智で創られた『アルルスの木の苗』と種から栽培する方法を印た書。」
いいながら数株の苗と書類束を手渡し妻のセレンに視線を向けると進み出て、今度は三十センチ程の白い石像を差し出す。
その像は幾重にも重なる翼を背にいただき光を現した杖を持つ長いドレスの女性の像で、胸元に紅く丸い石がはまっている。
「竜の女神様の像だ。悪意のある者や災いから守る力が込められている。これを今住んでいる村に置いてく。守って下さる。」
苗を受け取り、困惑の目をガルゴに向ける。
「その『アルルスの木の苗』は時が来るまで増やしてほしい。世界が必要とする日が来る。それから、人種にも捕らわれず、貴方達の村に辿り着けた者達に手を差し伸べてやってほしい。そして、重い病に苦しむ者や貴方達の手に負えない様な怪我人を神の国″スキエンティア″に導いてやってくれ。」
「・・・わ、私達にできますか?」
「女神様は貴方達に託したいそうだ。貴方達の善意で行動してほしいと。それに導かれる者には像から出た光が導いてくれる。離れた者には光を運んでやるといい。その役目を託されると。」
そこまで言い、少し離れた丘を見上げる。
「・・・!?」
「・・・!」
そこには、純白の衣と光の杖。
銀糸の髪と光の翼。
「・・・か、神様?」
「ああ、そうだ。神々に仕える運命を賜った私達と縁のある貴方達に託したいそうだ。″試煉の海原を越えた先には神々の叡智の国がある。そこに辿り着ければ病は治る″と。必要とする者達を導いてやってほしい。」
住民の男にガルゴは大きく頷き、口を開く。
「頼めるか?」
***
結局ガルゴ達をアーレストに連れていき住民達に渡すものを渡して、言葉を伝えてもらい私が姿を表す。
そして、アーレストの住民と別れた彼らは私と共に姿を消す。
後は空から光の羽が降りしきる、と。
演出としてはこんな感じだ。
あからさまに狙ってるわ、先輩女神様。
何、プロデュースしてくれてるんですか?
後ろめたい気持ちいっぱいの私を何だと思ってます?
ガルゴ達も嬉しそうに微笑んで感謝するし、他の住民も何か羨望の眼差しを向けてくるし。
いたたまれないわ、ホントに!
でも、この出来事はこの国を変える。
アーレストの住民の善意。
善良な彼らは必ず″動く″。
分かっている。
あー、ホントに腹黒い。
悪どいわー。
神様って皆こんなんなのかねぇ?
***
しばらくして、隠れ里『アーレスト』は″女神信仰″発祥の地となるがそれはまだ後の話し。
女神が去って三ヶ月後、里では騒ぎが起きていた。
人の来ない隠れ里。
土地も肥えているせいか、女神の加護のせいかあっという間に『アルルスの木』は育ち実を付け豊作となった。
その味は恐ろしく美味。
石像の力か他の作物も豊作でようやく落ち着いた頃だった。
そこに難民の一行が逃げ延びて来たのだ。
「わぁ、綺麗な人達だ。耳、尖ってる?」
七人の男女。
その容姿は美しかった。
白い肌に銀の髪。
蒼い瞳に尖った耳。
「あれは『竜族』?」
どの種族よりも強い魔力を持つ一族。
その容姿は皆が美しく、様々な智識を持つ種族だ。
しかし、そのあまりの強さに国王は恐れ彼らを悪魔の一族として迫害し始め、今では見つかれば討たれてしまうと言う。
「・・・た、けて。」
今にも倒れてしまいそうだった彼らは里の入口にたどり着いた途端に崩れる様に地に沈んでしまう。
「おい、どうするんだ?ひどい怪我たぞ、この『竜族』。」
男がまとめ役の男に耳うちする。
庇えば以前の様に国王に目をつけられるのだろうか?
いや、大丈夫だ。
ここには″女神様の加護″がある。
何よりガルゴさん達に託されたではないか?
たどり着いた者達に手を差し伸べてやってほしいと。
「そうたな。」
言いながら住民達は倒れた難民達を家に連れていった。
「酷いな。」
彼らを寝台に寝かせながら、一人が言った。
他の者も頷く。
七人のうちの一人。
やはり美しい男だが、彼の左腕は二の腕から下がなかった。
傷口から見て切れ味の鈍い刃物ーーー国王軍の兵士達が使う剣で切られたと見て間違いないだろう。
「ムゴイ。」
その痛みはどれ程のものだっただろうかと考えるだけで旨が悪くなった。
「・・・!」
声にならない悲鳴が響いた。
「目覚めたか!?」
あの『竜族』達が隠れ里に来て二日目の昼であった。
その一人を皮切りに次々と目覚め、苦悶の表情を浮かべる一行に布やみず、食べ物を運んでくる住民達。
「食えそうか?」
「アナタ、まず水よ!」
慌てふためく夫に妻がダメ出しをする。
「しかも女の子だから!私がするからアナタはあっち!」
終いには追っ払われた。
「でも良かった良かった。起きないから心配したぞ?」
別の住民が笑いながら一番若い青年に水を差し出す。
出されたが『竜族』の男女は驚きの表情で固まっている。
だが住民達は構わず食事を勧めていくのであった。
何だかんだで空腹に勝てなかった『竜族』の難民達は恐ろしく旨い食事に夢中になり、しばらくして食器を置くと困惑の目を向けながら礼を言ってきた。
「いや、大丈夫そうで良かったよ。」
「本当にありがとうございました。」
表情はまだ堅いが頭を下げ、他の者もそれにならう。
動きは悪く、まだきつそうだと住民が手を貸す。
「しかし酷いもんだな。」
言いながら片腕のない青年に目を向ける。
「国王軍に見つかり一度捕らえられた時に。」
「見せしめか?」
苦々しい表情で頷く一行。
その様子を見て住民も顔を歪める。
「ヒデエ事しやがる・・・。」
「それでも生きています。」
「そうだが・・・。」
国王軍のやり方に住民達の更に眉間のシワが深くなる。
それを見て一行の表情は少し柔らかくなるが、次の瞬間口を引き住民に向き直る。
「助けていただき、ありがとうございます。しかし私達はすぐに発たなければ。」
「何でだい?まだ怪我も酷いよ?」
女性の住民も心配そうに口を開く。
「国王軍から逃げ、まだ追われている最中なのです。このままではこの村も攻められます。」
「でもよぉ、片腕のない兄ちゃんなんかはまだかなりキツいだろう?いや、この先も。」
「しかし・・・!」
「・・・俺のこの腕はどうにもならない。慣れるしかない。」
「いや、だがな?せめて、アンタだけでも安静に・・・。」
「村が潰されてしまうかも知れない。いいえ、確実に潰されます!」
最後は声を荒げた青年にまとめ役の男も押し黙る。
「助けて下さった。だから、これ以上は・・・!」
「この村は″竜の女神様″の加護がある。軍隊も来やしないよ。」
「・・・は?」
突然の言葉に固まる青年。
しかしまとめ役の男は構わず続ける。
「だが、確かに兄ちゃんのはそうかもしれない。だから、提案をさせてくれ。」
何を言っているのか分からないと一行は目の前の男を凝視する。
「″試煉の海原を越えた先には神々の叡智の国がある。そこに辿り着ければ病は治る″。多分、兄ちゃんの腕もな?」
「正気、なのですか?」
「ああ、船はこの森づたいの港町にあるはずだ。そこから海に出な。″あの国″に行ければ女神様が助けて下さる。」
言いながら入口に立つ子供を見る。
その手には紅い光が乗っている。
全員がそちらに視線を向けると光りは『竜族』一行の方へ飛び、彼らの周りを回り始めた。
「アンタ達は″導かれる者″らしい。」
少し荒い文になりました。
すみません!
神様って、腹黒い!
シオンはこのあと先輩女神様に愚痴ってますね。
そして次回はスキエンティアに『竜族』達が上陸です!
少し時間が飛びます!
国王軍も追いかけてきます!
王様とのご対面です!
ブクマにポイント、ありがとうございます!
これからもよろしくお願いいたします!




