城壁の植物園
農業開始です。
まだ何も育ってませんが、よろしくお願いいたします!
昨夜の里長の宣言とも何とも言えないあの言葉で閉じた集まり。
住民達は各々に考え夜が明けた。
まず、住民の誰もが自身の変化について考えた。
まだ島に来て一ヶ月も経っていないが以前と何か変わった事があっただろうか?と。
血色がよくなった?
それは毎日十分な食事をとり、しっかりした寝床で眠っているのだから健康そのものだろう。
精神的に今までの様に暗くなる事がない?
当たり前だ。
ここでは衣食住が確保され、戦渦を恐れ逃げ惑う事も迫害に胸を痛める事もないのだから。
誰もが「あれは?これは?」と考えたが″神々の領域の住民″等と言う大層なと名の付く様な何かが起きている様には思えなかった。
そんな中、警備班長のバーキッシュは少し気になる事が幾つかあった。
「俺や仲間達の使う武器が随分痛みが早いな?」
手入れが全く追い付かない。何故だ?
今まで通りハシュドに頼み、自身でも手入れを各自でしている筈だ。
それなのに何故だか。
試しに自らの得物を構え振るう。
「・・・?」
武器の痛みが早い事以外のもうひとつの違和感。
「何か・・・。」
考えながらも鋭く、何度も得物を振るう。
上段、中段、下段。
時に斜めに、そのまま上に下に回転と捻りを加えて空を切り裂く。
その度に刃が風を切り裂く音が辺りに響く。
そこで一連の動作を終え得物を鞘に戻し一度大きく息をつく。
同時に「やはり」と胸中で呟く。
得物を振るう力が強くなっている気がするのだ。
それは単純な腕力の向上等ではない、もっと別のものだ。
大体こんな短期間で人間の腕力が上がる訳がない。
それほどの能力向上がバーキッシュをはじめ元・傭兵達の身に起きているのだ。
武器の痛みが早いのは単純に今までの腕力には合っていた強度が、今の腕力についてこれなくなっているのだろう。
武器はそのままで使い手の与える衝撃だけが上がっているのだから。
「他の住民も腕力が上がっているのだろうか?」
住民全員が屈強な腕っぷし。
何故だか恐ろしい気がすると、眉間にシワをよせ唸るバーキッシュであった。
農地では新たな農作物は尋常ではない速度で育っているその様を赤毛と茶髪の、共に十代前半の少年が確認している。
「ロイ、アリー?作物の調子はどうだ?」
昨日までに自生している栽培可能な品種を移し、元からある作物の手入れもしていたのだが・・・。
赤毛の年長の少年ーーロイが、茶髪の少年ーーアリーに農具のひとつを渡して此方に歩いてきた。
「大体のは根付きました。木は相変わらず豊作です。」
豊作なのか?まだ初夏にもなっていないのに。
もはや、この島には季節にちなんだ旬の野菜や果物といった物もないのではないかと考えながらシオンも二人の元へ歩き出す。
その間通過した作物もしっかり育っているようだと思い、フッと呟く。
「これなら、品種改良もいけるかな?」
「はい?何ですか?」
誰に聞かせるでもなく口にした言葉だったので、聞こえていなくてもいいのだが「品種」と言う単語にプロの農民達は反応したようだ。
本当に勤勉だ。
ただ、どう説明するか。
正直、知識を授けると言いつつシオンは人に説明するのが苦手なのである。
だが、説明しない訳にもいかない。
「簡単に言えば、病気に強い品種と収穫量が多い品種を掛け合わせる事によって病気に強く収穫量が多い品種を作ると言う手法だ。」
「それは、受粉の段階でですか?」
「そうでない方法も考えているがな。」
アーティファクトにそういう事が出来そうなものがあるのだ。
しかし、この国の農業関係者は優秀だなぁ?
この世界の農業技術レベルは確認していないが、もしかしたら品種改良の技術は既にあるのかもしれない。
でなければ″どの段階で″と言う発想をしてくる事もないだろうから。
ともあれ先ずは特性が分かっているどの品種とを掛け合わせるかからだが。
米や麦は″木になる″のだ。
いくらスキエンティアでは植物の成長が他所の土地に比べて数倍早いと言っても、流石に木が実をつけるまでとなると収穫するとでは意味が違う。
ちなみに米は『パヤの木』、麦は『アルルスの木』と言う名前だ。
予定では米と麦から始めて、自生している野菜や果物やハーブなどの香草類にも手を伸ばしたいと考えている。
品種改良の概念が存在するなら、改良する植物探しの方が手間だろう。
何せ現場は野性動物や魔物も徘徊するのだから。
このあたりは警備班に同行してもらう。
「まあ、膳は急げだ。」
「はい?」
この世界にことわざの概念はあるのだろうか?と考えながらも二人を連れて警備班の仮設詰所に向かうのだった。
何だか、悪い事しちゃったかも・・・。
品種改良用に里山に入り、目的の物は手に入り、そして帰ってきた訳だが。
シオンは戦利品をロイとアリーに渡して次の用事の為に仮設施設のひとつ『軽品生産部』の作業所に向かっていた。
向かっていたが、先程までの惨劇に頭を悩ませていた。
要はやり過ぎただけだが、いくら戦渦に晒されていたとは言えアリー達は農民である。
直接的な戦闘の中にあった訳ではないのだといった感じてシオンは反省しているようだ。
あんなにビビるとは、思ってなかったんだよ?わざとじゃないよ!
だがこれは少し的外れなシオンの胸中でしかない。
まあ、襲い掛かってきた魔物の数も多かったが、彼らが腰を抜かしたのはシオンのせいだ。
平均よりやや長身であるものの、十代半ばの細身の少女が化け物並みの戦闘力で暴れれば誰だって怖い。
戦っている時のシオンは、ただ怖い。
雰囲気が・・・。
元・傭兵である警備班の面々もその殆どが一瞬後ずさるくらいには。
例外的に「流石は里長!人のままでも闘神は強い!」と、嬉々として喜ぶ輩もいたが。
その輩はバーキッシュに「誰だ今のは⁉黙っていろ!」とこずかれ、持ち場に戻りながらも当分シオンにキラキラした視線を送っていた。
色々思う事はあるが、それでもその事ばかりに構ってもいられいのもまた事実。
アリー達や警備班の面々には悪いが今はこちらに集中しようと、立ち止まり見上げた建物に入る。
ハシュドの工房よりは遥かに涼しいが、やはりムワンッと暑い室内。
大釜で液体を沸かしているのだから当然だ。
前日に作業前に用意してほしいと伝えてあったから支度は充分のようだと次の間に向かう。
ただし、今シオンが入って来たのは裏口なのだが。
「どうだ?選別は終わったか?」
「あ、里長。今終わりました!」
答えたのはリズで、少し離れた一角でレシーアも頷いている。
「いや、二人も機織りの経験者で助かった。私ひとりでは流石に手が回らなかっただろうからな?」
「私達の村は産地だったので。」
ただし、戦渦に合うまでは。
そう続きが聞こえた気がしたが、暗い空気を払うようにレシーアが近づいて来て口を開く。
「でも、糸を作る事や染める作業は初めてです。」
ああ、空気を明るくしようとしてくれたのだなと、内心ただ経験者と言うだけで故郷を思い悲しむやも知れない彼女達にこの作業を割り振ってしまった自分に眉をひそめかけたシオンは表には出さず姿勢を改めた。
彼らの誰もが日常のどこかで感じ続けながらも乗り越えている事なのだから、と。
改めて袋詰めされた葉を見る。
かなり雑にかき集めてしまったせいでごちゃ混ぜになっていたが、今は二人のお陰で種類ごとに綺麗に分けられている。
かなりの労力だったはずだ。
私が何も考えずかき集めたからなぁ。
思いながらもペイペルとバンズの葉を見つめる。
『ペイペル』が麻、『バンズ』が絹の原材料に該当する葉だ。
形もサイズもあまり変わりはないが微妙にペイペルの方が色が濃くてふちがギザギザした形をしている。
他にも棉花の様な『ボイヤスの木』があるが今は種類ばかり多くしてもやりづらいので後日になった。
ちなみにこのボイヤスの綿。
ひとつの大きさがハンドボールくらいだった。
本当にこの島は質も量も充実している物だと感心するシオンだった。
シオンが何だか暴走していますね。
職人コンビと同族認定はしてませんが(笑)。




