長い沈黙(よる)
あ、どうしよっか?
村に足を踏み入れた時の光景は異様だった。
だって、様々な姿の″破意″が腕をダランッと垂らして固まっているんだもん。
まさに、機能停止と言った感じで。
色々な方向を向いていたから、最後に向いたら方見たまま止まったんだろうな。
まあ、私が村に入った途端にギロッてこっち向いて一斉に飛び掛かって来たけど。
その後はまあ、来る事、来る事、親の敵かってくらいに。
あんたら暇なの?
まあ、このチートを絵にかいた様な身体能力と散々神様達に叩き込まれた訓練のかいあってバッタバッタと叩切って回りましたよ、本当。
ただ、体力切れとかは感じないんだけど敵の数が多すぎるんだよ!
何なんだよ!嫌がらせか⁉当たり前だよ、敵だし。
突っ込みに切れ皆無だし。
そうしていたら一体の″破意″がある家の床を殴り付け、そのままぶち抜いてしまうのを視界の隅に見つけた。
あれじゃね?例の少年。
素早くこちらに背を向けた″破意″に近寄ると、今まさに振り上げた腕を下ろそうとする奴の背に刀身を叩きつける。
衝撃よりもスルリッとした″破意″の体が裂ける僅かな重みが腕に伝い、目を向ければワンフロア分低くなった地下室か何かの床にうつ伏すになって倒れていた。
同時に見えたのは明るい茶パツ頭。
あの子かな?
あ、どうしよ。
女神様は″それらしく″振る舞えとか言っていた気が・・・。
とりあえず、無口でオッケー?
***
淡い茶色の髪の毛をした少年、イニアは突如現れた闇色の人物を前に固まっていた。
それは白い肌をした女性で、長い髪は高い位置で結わえられ服も黒を纏っていた。
一番印象に残っているのは、鮮やかな緋の右目と更にその緋の中に浮かび上がる銀の線で描かれた模様であった。
普通ならこんな見た目の人間など気味悪い事この上ないがこの時彼は別の事を考えていた。
綺麗な人だ。
こんな時だが少年は口の中で呟いた。
「とにかく森を突っ切るから走って!」
色々伝えておく事もあるが、今は時間がない。
イニアを助けた直後から、村全体に圧力の様なものが発生し始めたのだ。
いち早く察したシオンはイニアの腕をつかみ地下室から引き揚げると、自身が村に足を踏み入れた場所に向かって走り出す。
その間も前後、左右に上から下からと敵が沸いてくる。
大柄な相手だ。
ある程度は″破意″の間をくぐり縫うように走ってやり過ごしていたが途中からイニアの息が上がり始めた事で作戦を変える事にした。
要するに地道に撃破しながら進むと言うだけの事だが。
上段、中段、下段と素早い突きが辺りからランダムに繰り出される中、シオンはその全てをかわし、受け流し、そしてカウンター一撃で″急所″を潰し、叩き切っては蹴り飛ばし次をまた捌いていく。
身をよじり、回転力を利用し、敵を踏みつけ。
全ての立ち回りはギリギリで、そばにいたイニアはヒヤヒヤした様子で顔を青くしていたが、シオンにしてみればむしろ攻撃の際彼から離れる方が気がきではないと言うくらいでたいして疲労の色も無いようだ。
そうしてある程度敵を捌いてはイニアの手を引き、また戦うの繰返し。
しかしこのやり取りのスピードが異常に早く、実はほぼ駆け足状態が断続的に続いているのだ。
そして、いつまでも終わらないかの様なこの夜は明けていくのであった。
それは不意に、村の境を出た途端に起きた。
湖に面した穏やかな村は、白んだ膜に覆われながら急速にしぼみ始めたのだった。
***
動体視力云々ではないね、コレ!
自分でやっといてアレだけど、人間業じゃないから!
少年は見つけたし村から出れたけど、早く離れなくては閉じる歪みの衝撃波で吹っ飛ばされてしまう⁉多分!
私なら大丈夫かもしれないけど、この子は多分ムリ!
間違いなく木端微塵!
見たくはないけどスプラッタな場面すらないから!
て、言うか何か逃げづらい!
まあそうだよね!
巨大な湖に沿う形でこの村は成されているんだから、その湖からの飛沫が凄いのよ⁉
あ、口に入った。
結構離れても渦巻く水が追いかけてきて頭上に降り注ぐ。
だもんだから、もう二人ともずぶ濡れだ!
水音しか聞こえない!アレ?
「・・・ッ‼・・・⁉」
何か?声?
辺りを慌てて、しかし視線のみで確認する。
あんまりキョロキョロすると少年が驚きそうだし。
「・・・?」
視界の端で何かが?人?いや、小さい?一瞬すぎてよく分からない。
そうしているし間に″何か″は確認出来なくなってしまった。
ほんとに何だったんだろう?
にしても、ここからどうしよ?
主に女神様の使いらしくってあたり。
***
「村、が・・・。」
少し離れた高台から、膜に覆われしぼんでいく村を前に膝を落とす少年。
少し後ろには黒を纏った少女、シオンが何とも苦々しい顔をして立っている。
あと僅かで少年の村がある場所は、村が″あった場所″になるだろう。
時間は惜しいがせめて、本人が望のだからその様を見届けるくらいはとシオンもそのまま黙っていた。
朝日に空が白み初め、辺りの様子が分かってきたからかシオンは傍らの少年を見下ろす。
既にあの轟音は響いておらず、空気も澄んでいる。
元の静かな森だ。
ただ、目の前にあるはずの村だけが消えていた。
足元にうずくまった少年は未だに動かない。
シオンも昨晩彼の身に起こった事を考えれば、このままでとも考えたが・・・。
「いつまでも、こうしてはいられない。」
静かに、呟きのような声。
その声に少年は肩をビクッ、と震わせる。
「君に話す事がある。」
今回の歪みの発生原因を。
そして、彼はそれらと向き合わなければならないと言う事を。
バトル、アクションは本当に難しいです。
上手く出来ていたのかと、何度も唸ってしまいました。




