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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第5章 過去からの呼び声
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戦闘1-2 ~銃技&仏術&祓魔術vsエンペラー幹部

 アイオスと奈良坂は、刀也と泥人間たちを相手に攻めあぐねていた。


 奈良坂はアイオスの陰で真言を唱えている。

 そして炎の弾丸を放ち、1体ずつ確実に泥人間を仕留める。

 即ち【不動火矢法アチャラナーテナ・アグニアストラ】。符を炎の弾丸と化す妖術。

 かつて一樹が多用していた術だ。


 仏術士が得意とする付与魔法(エンチャントメント)による接近戦ではなく攻撃魔法(エヴォケーション)を使っているのはアイオスの指示だろうか?

 それは的確な判断だと思った。

 奈良坂に付与魔法(エンチャントメント)を活用した接近戦は無理だ。

 彼女は一樹とは違うのだから。


 だが泥人間の数が減っているようには見えない。

 彼女の妖術の腕前そのものは、一樹より上のように思える。

 学校の勉強はともかく修行はしっかりやっているようだ。


 だが純粋な魔法の威力と実戦での強さは別だ。

 奈良坂は恐怖に目を見開きながら必死で真言を紡ぐ。

 その姿は、まるで銃を持った素人だ。


 彼女は術にり対象を自分ごと危険から遠ざける護衛の任を離れるべきではなかった。


 そんな奈良坂を庇うように、アイオスがロザリオを投げて十字を切る。

 まばゆい光とともにロザリオが弾け、聖なる光が3体の泥人間を飲みこむ。

 魔力をこめた媒体を中心に小規模な反応爆発を起こす【閃光の爆球スフェール・デュ・エクレール】。

 光に焼かれた泥人間は塵と化す。


 場数を踏んでいるらしいアイオスの立ち回りは、ちょっとしたものだ。

 明日香の評価も過大ではない。


 舞奈が見やる先で、アイオスは2丁のリボルバー拳銃(コルト・アナコンダ)を構える。

 右手には長い銃身(8インチモデル)、左手には短い銃身(4インチモデル)


 両手の拳銃(アナコンダ)が交互に火を吹く。

 銀の弾丸(44マグナム弾)に貫かれた2体の【虎爪気功(ビーストクロー)】が塵と化して消える。


 以前の戦闘で、彼女は剣を使っていたらしい。

 だが、拳銃(アナコンダ)を抜いたのは奈良坂を庇っているからだろう。

 誰かを守る戦いには、剣より射程のある攻撃手段のほうが向いている。


 2丁拳銃の装弾の困難さを解消すべく、【天使の力の変成】で創造した天使をスピードローダーに変えて装填する。

 輝く天使の弾丸を込めたばかりの拳銃(アナコンダ)で、迫り来る刀也の剣を受け流す。

 体勢を崩した少年の腕めがけて右の銃を撃つ。

 だが至近距離で放たれた弾丸は【重力武器(ダークサムライ)】に阻まれて地に落ちる。


「わたしを目の前にして余所見をするなぁ!」

 叫びつつ放たれたファイゼルの突きを見やりもせず、舞奈は横に跳んで避ける。

 そして舌打ちする。


 舞奈は幼子の頃からピクシオンの超常の戦いを見てきた。

 だから人間の身体など、吹けば飛ぶ紙にしか思えない。

 どれだけ鍛えようとも同じだ。


 だから鋼鉄と見紛うほど身体を鍛えた今となっても、拳はただ銃を握ること、全身はただ避けることに集中することができる。

 鍛え上げたからこそ、人の身体が銃弾や攻撃魔法(エヴォケーション)に勝てないと理解している。

 鍛えれば鍛えるほど身体は自在に動くようになるが、それだけだ。

 それが鍛錬を積むほど肉体への過信によって弱くなる男たちと、舞奈との差だ。


 だから、この程度の突きは見なくても避けられる。

 ファイゼルは天沼矛によって強化された自身の肉体に夢中だった。

 舞奈の感覚は鋭敏すぎて、ファイゼルの突きは単調すぎた。

 3年前とは違っていた。

 それが気に入らなかった。


 振り返りざまに撃つ。

 牽制を、ファイゼルは読み通りの跳躍で避ける。

 特殊弾は背後の槍ぶすまに当たって弾ける。

 ファイゼルは得意げに笑う。


 だが舞奈は彼を見ていなかった。


 視界の隅の奈良坂を、横から忍び寄った【火霊武器(ファイヤーサムライ)】の槍が捉えていた。

 舞奈の顔が青ざめる。

 二段重ねの付与魔法(エンチャントメント)も、異能の炎に対しては無敵ではない。

 目の前から少女がいなくなるのは、もうたくさんだ。


 気弱な少女の手首にはめられた数珠がはじけ飛ぶ。


 ――だが、それだけ。

 不可視の障壁が剣を阻んだのだ。

 即ち【不動行者加護法アチャラナーテナ・ラクシャ】。

 魔力を封じられた数珠を媒体にして周囲に重力場を形成する防御魔法(アブジュレーション)


 卓越した体術を誇る一樹は使ったことがないので忘れていた。

 だが、本来は仏術士が多用する術だと聞いている。


 舞奈の口元が乾いた笑みの形に歪む。

 一樹が特別だったのだ。

 そして彼女はもういない。美佳も。

 奈良坂は跳び退き、アイオスの光弾が伏兵を射抜く。


「余所見をするなと、言ったはずだぁ!!」

 少女の危機に目を奪われた舞奈の喉元めがけて、天沼矛が襲いかかる。


 生身でピクシオンを超えた舞奈が、たったひとつ失ったもの。

 それは信じる力。


 かつては仲間を信じ、無邪気に前だけを見つめていた最年少のピクシオン。

 だが今や、失うことを恐れて過去から目を背ける、斜に構えた【掃除屋】だ。


 舞奈は槍の一撃をとっさに庇う。

 だが勢いまでは殺しきれずに吹き飛ばされる。

 手から離れた拳銃(ジェリコ941)がレリーフの床を滑る。

 それでも気配でわかる。舞奈ならば余裕で拾って撃てる距離だ。なのに、


「ハハハ! わたしがピクシオンを倒すのだ!」

 過去の栄光にしがみつくように、男は笑う。

「わたしが倒すのだ! 最強の四天王たる、このわたしが!」

 勝利を疑うことなく叫ぶ。


 舞奈は彼を憐れんだ。

 この状況に、彼は勝利を確信していた。

 力量の差がわからないのだ。


 3年前はあんなに大きくて恐ろしかった、槍魔将。

 だが、今や自分と敵の格の違いもわからないほど弱くなってしまった。


 否、舞奈が強くなりすぎてしまった。だから、


(こいつはもう、あの恐ろしくて懐かしいファイゼルじゃないんだ)

 舞奈はゆっくりと立ち上がる。

 気に入らなかった。

 何もかもが。


(だから、もうつき合う必要はない――)

 口元に冷酷な笑みが浮かぶ。

 腰を落とし、拳銃(ジェリコ941)を一瞥して正確な距離を目算する。


「今の貴様に、結界を破って槍を受け止めてくれる仲間はいない!」

 ファイゼルは槍を振りあげる。

「ズタズタのボロ雑巾にしてやる!!」

 愉快げに笑う。


 次の瞬間、ファイゼルは手首を押さえてうめく。


 取り落とした槍が床を転がる。

 男の手の甲には幅広のナイフが刺さっていた。

 舞奈が抜く手も見せずに放ったナイフだ。


 舞奈はナイフの扱いにも熟達している。一樹がそうだったように。

 かつて一樹が誇った体術のすべては舞奈が継いでいた。


 舞奈のピンチを救ってくれた、かつての仲間はもういない。

 いなくても何の問題もなく、戦える。

 舞奈が最強だからだ。


 その事実から目を背けるように拳銃(ジェリコ941)に跳びつき、一挙動で立ち上がる。

 ファイゼルを見やる。

 彼は拳の痛みと刺さったナイフに気を取られ、舞奈を見やる余裕もない。


(ミカやカズキみたいに、おまえもいなくなればいい――)

 敵の眉間へ銃口を向ける。


「ファイゼルさん!」

 刀也が叫ぶ。


 ファイゼルの表情が凍りつく。

 仕損じようのない距離だからだ。その時、


「お嬢ちゃン! ダメよン!!」

 アイオスの叫び。


 刀也を蹴り倒したアイオスは右の銃口(8インチモデル)を下に、左の銃口(4インチモデル)を上に向け、2丁の銃で十字架を形作る。

 鉄の十字架はまばゆく輝き、数十本の尾を引く光弾をばら撒く。

 デミウルゴスの魔力を無数のビームと化す【輝雨の誘導アンズイール・ドゥ・ブリエ・プリュイ】の呪術。


 アイオスの意図を読み切れずに迷う。

 裏切った? あるいは敵と内通していた?


 だが細い光のシャワーは軌道半ばでファイゼルめがけて折れ曲がる。

 そして長身の彼の額を、胴を、その全身を縦横無尽に引き裂いた。

 焼け焦げた無数の孔によって文字通りの蜂の巣と化した男の身体が、崩れる。


 ガラスが割れるパリンという音。

 変容していた世界は元の展望台に逆戻りする。

 術者がいなくなれば、結界はこの世に留まることはできない。

 巻き添えを喰って、残っていた泥人間も消える。


「何のつもりだ?」

 舞奈は視界の端にアイオスを収める。

 そのアイオスは、舞奈の側に歩み寄る。


「子供が人殺しなんて、しちゃダメよン」

 予期していたのとは斜め上の回答に、

「怪人のくせに何だよ、マジメか?」

 だが舞奈の口元に笑みが浮かぶ。


 戦闘の間、舞奈は2人の仲間の身を案じて見やっていた。

 アイオスも同様に舞奈を気づかい、見守っていたのだ。

 まるで、かつての美佳のように。


「けど、そういうのじゃないよ」

 口元の笑みが寂しげに歪む。

 その視線の先で、動かなくなった男の身体が塵と化していく。


「四天王は、エンペラーが魔法で作った式神なんだ」

 だから特殊炸裂弾マギ・エクスプローダーを用意していた。


 式神は、魔法や魔力による攻撃によって消滅させられる。

 それが魔法の弾丸によるものでも、呪術によるものでも同じだ。

 彼が再び蘇ることはない。

 これで四天王の、最後のひとりを無に帰したことになる。


 跡にはくたびれたコートが残った。

 生み出された後で着こんだのであろう。

 そして手にした槍と、首から下げた勾玉。

 その勾玉を拾いあげながら、アイオスは舞奈に妖艶な笑みを向ける。


「それでも、そんな眼をして殺しちゃダメ。愛がないわン」

「何だよ、愛って」

 舞奈も口元に笑みを浮かべる。


 子供扱いされるのは嫌じゃない。

 美佳も幼い舞奈をそうやって守り、甘えさせてくれたから。

 その側で、戦闘の緊張から解放された奈良坂が安堵の笑みを漏らした。


 そうやって、3人で笑う。

 かつて3人で力をあわせて戦ったピクシオンのように。だがその時、


「ファ、ファイゼルさん!」

 刀也が叫んだ。


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