戦闘1-1 ~銃技&仏術&祓魔術vsエンペラー幹部
かつて舞奈を苦しめたファイゼルが、刀也とピクシオン・ブレスを盗んだ。
舞奈はアイオスと奈良坂を連れてファイゼルと邂逅する。
そして、まるで3年前を再現するかのように戦闘が始まった。
「でっかい術でなんとかなりそうか?」
舞奈は背後の2人の問いかける。
アイオスの手札は明日香から聞いている。
強力な光の攻撃魔法を操り、大魔法すら使う難敵であったと。
その言葉を信じるならば、彼女は泥人間を一掃できるはず。だが、
「ムリよぉン! 大魔法は結界を張らなきゃ使えないのン!」
その答えに舌打ちする。
「ご、ごめんなさい……。わたしも戦闘で使える妖術はあまり……」
奈良坂も答えるが、こちらは最初から期待していない。
二段重ねの付与魔法は戦闘において有用だが、彼女はそれを活用できない。
「アイオス! 奈良坂さんを頼む!」
言いつつファイゼルの前に躍り出る。
ファイゼルは跳び退って距離を取りつつ、泥人間をけしかける。
2匹の【雷霊武器】と5匹の【火霊武器】、凍てつく刀の【氷霊武器】。
舞奈は拳銃を片手で構え、迫りくるサムライめがけて乱射する。
――否、乱射にあらず。
如何な妙技によるものか、弾丸は8つの頭をあやまたず撃ち抜く。
8匹のサムライがまとめて砕け、汚泥と化す。
その様を見やって、ファイゼルは怯む。
そんなファイゼルの姿を見やり、舞奈は口元に乾いた笑みを浮かべる。
「特殊弾、買い足したのがあったよな……」
舌打ちしつつ、2発を残した弾倉を落とす。
新たに取り出した弾倉をすばやく装填する。
真横にいきなり出現した【偏光隠蔽】2匹を瞬時に撃ち抜く。
撃たれた箇所が爆発し、泥人間の頭が吹き飛ぶ。
魔法でしか倒せない式神に対抗するための特殊炸裂弾。
弾頭に魔法効果を持つ特殊な炸薬と信管が仕込まれていてる。
そして着弾と同時に擬似的な攻撃魔法を発動させるのだ。
威力は通常弾と同程度で、【光の矢】や【不動火矢法】に少し劣る。
だが魔力で形作られた式神や魔道具には致命的な効果を発揮する。
一撃で粉砕することも可能だ。
そんな特殊な爆発を見やり、ファイゼルは怯む。
舞奈は笑う。
そんな舞奈の鼻先を、華美な槍の穂先がかすめた。
「貴様はもはやピクシオンではないただのガキだ! そうだろう!!」
ファイゼルは哄笑する。
「それにひきかえ、わたしを見よ!」
立ち止まる。
戦闘の最中に。
自身の装備を見せびらかしたい虚栄心に負けたらしい。
「三種の神器のうちのひとつである八坂の勾玉と、身体能力を上昇させる天沼矛を手にした我が身のこなしは達人をも超える!」
「借り物の力じゃないか」
ファイゼルの言葉を一蹴する。
槍の所以は知らない。
だが八坂の勾玉は、多忙なせいで会えず仕舞いなサチのものだ。
ピクシオン・ブレスは、もう会うことのできない美佳のものだ。
その理を、誰かの欲望のために捻じ曲げられるのは我慢ならない。
憤りを誤魔化すように、舞奈は苦笑してみせる。
その笑みに、ファイゼルの顔が怒りに歪む。
「フェイパレスの魔法の力に頼り切っていたのは貴様らではないか!」
ファイゼルは叫ぶ。
「それが証拠に、力を失った貴様は、力を手にしたわたしに勝てない!」
機銃のように次々と襲いかかる槍を見切り、右に左に避ける。
繰り出されるファイゼルの突きは、速度だけなら雷速と呼ぶにふさわしい。
確かに、ピクシオンのドレスは着用者の身体能力を増強していた。
そのピクシオンの力を、今の舞奈は持っていない。
寸差でかわした一閃が頬に筋を引く。
「ハハハ! 当ててやったぞピクシオン!」
ファイゼルは笑う。
そんな彼を見やった舞奈の口元に、乾いた笑みが浮かぶ。
「さあ、どうした! お得意の2丁拳銃を撃ってみろ!!」
自分の優位を確信したか、ファイゼルは無邪気に笑う。
かつてピクシオン・シューターが授かった魔法の2丁拳銃。
それはライフル並みの威力を持つくせに反動はゼロに等しく、弾道は風にも重力にも左右されないというデタラメな代物だった。
故に、勘がいい幼子に過ぎなかったシューターは最高の銃撃手たりえた。
だが今の舞奈が手にしているのは、ごくありふれた1丁の拳銃。
大口径弾の破壊力は無茶な反動とトレードオフだ。
あの頃と変わらぬ神業の如き命中率も、鍛錬の結果に過ぎない。
舞奈の得物も、舞奈自身も、あの頃のままではいられなかった。だから、
「おまえが人のこと笑えるのかよ!」
叫んだ瞬間、背後から筋肉男が襲い来る。【虎爪気功】だ。
挟み撃ちのつもりか。
だが舞奈は流れるような動作で新手の背後に回りこみ、盾にする。
ファイゼルの槍が筋肉男の胸当てを貫く。
激昂した四天王が槍を引き抜くと同時に、気功で強化された泥人間は塵に還る。
「あの時、変身できなくなって、大きくて威張り散らしたおまえがあらわれて、すごく恐かった、もうダメだって本気で思った!」
舞奈はファイゼルの真横に回りこむ。
「でもカズキがおまえをやっつけて、ミカが抱きしめてくれた!!」
「それが、どうしたというのだ!」
ファイゼルは怒りのままに突きを放つ。
だが無茶な一撃で体勢を崩す。
「なのに、おまえはなんで恐くなくなってるんだよ!」
舞奈も激情を叩きつける。
バランスを崩したファイゼルの頭に、ピタリと銃口を向ける。
「ちっちゃくなって、どうでもいいザコみたいにキイキイ言って、あの時とぜんぜん違うじゃないか!!」
雄叫びとともに放たれた銃弾は、だが男の髪をかすめて壁に当たって爆ぜる。
とうに分かっていた。だが認めたくなかった。
ファイゼルが小さく見えるのは、育ち盛りの舞奈が大きくなったからだ。
弱く感じるのは、舞奈が強くなったからだ。
舞奈は美佳と一樹がいなくなった事実を受け入れられず、強くなれとの一樹の願い通りに心身を鍛え続けた。
だからピクシオン・ブレスから目を背け、ただの少女となってすら、その鍛え抜かれた肉体と戦闘技術はSランクと認められた。
もはや舞奈にピクシオンの力は必要ない。
生身でピクシオンを超えたからだ。
だが、その事実すら美佳と一樹がいない世界に迎合するように思えた。
美佳と一樹を否定するように思えた、
それが、たまらなく嫌だった。
舞奈は救いを求めるように、今宵限りの新たな仲間を見やった。