表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第22章 神になりたかった男

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

582/585

人型怪異アジト強襲1 ~銃技&魔術&呪術vs異能力

 アジトへの強襲作戦をいよいよ控えた平日。

 だが舞奈たち有志は学生だ。

 昼間は学生の本分をこなさなければいけない。


 なので小学生たちが楽しみにしている給食が始まる時分。

 初等部の校舎の一角、舞奈たちの教室の後側で……


「……ワンワンワン!」

「ギャー!」

「おおい止めろよ。埃が立つだろう……」

 追いかけっこを始めたみゃー子と麗華を見やって舞奈は苦笑する。

 そうしながら手にした机を段ボールみたいに軽々と引きずる。

 ついでに近くで難儀していたチャビーの机を持ち上げて運ぶ。

 何かに引っ掛かっていたようだが、舞奈にかかれば造作もない。


「わっ! すごーい!」

 感嘆の言葉に、大した事じゃないよとクールに返そうとして……


「……おまえらも準備しろよ。飯抜きにされても知らんぞ」

 再び見やって露骨に顔をしかめる。


 何故なら何時の間にか、麗華様がデニスの頭の上によじ登っていた。

 まあ凄いと言えば凄い絵面だ。悪い意味で。

 犬に追われて木に登ったつもりらしい。

 浅黒い長身なクラスメイトの足元で、みゃー子がワンワンと吠えている。


「えぇ……。西園寺……」

「こんな時にまで……」

 普段はギャラリーをしている男子たちも今回ばかりは困っている。

 育ち盛りの小5男子は食欲旺盛だ。

 給食はちゃんと食べたい。

 舞奈だって同じだ。


「麗華様がご迷惑をおかけします」

「申し開きもできないンす」

 デニスは麗華様を支えたまま苦笑する。

 隣でジャネットも割と本気で困っている。

 それぞれアフリカ育ち、ロス育ちの彼女らにとって、安全で清潔な給食に対する重要度と意識は他の生徒より高い。


「ふふっ、枝から降りられなくなった猫ちゃんみたいだね」

 心優しい園香は何とかフォローしようと試みる。


 だが教室の前から割烹着を着こんだ委員長や明日香が嫌そうに見やってくる。

 これからタッパーを開けようという時に埃が立つからだ。

 特に明日香が白衣を着こんだ別の職種の人みたいな目で見てくるので……


「……ほら猫ちゃん、エサの時間だぞ」

「あっお手数をおかけします」

 舞奈はひょいと麗華様を取り上げる。

 長身なデニスに対してそうする程度は舞奈にとって造作ない。


「ワンワン!」

「ギャー! 犬が! 犬がぁ!!」

「犬なんかいないよ。いるのはみゃー子だ。っていうかおまえも大概にしろ」

 パニックに陥る麗華様に、思わず舞奈は苦笑する。

 どうしろと。


 すると不意にテックが(そうだ!)みたいな表情をして――


「――みゃー子。ステイ」

 言った途端、みゃー子が大人しくなった。


「お座り」

「ニャー」

「すげーな工藤。それどうやるんだ?」

 みゃー子との意思疎通に成功したテックに男子たちが感嘆の視線を向ける。

 舞奈も安心して暴れるのをやめた麗華様を下ろす。

 やれやれと肩をすくめ……


「……ほらそこ! 遊んでないで受け取りに来ないと配給が抜きになるわよ」

「あたしのせいじゃないだろう」

 冷たい明日香の言葉に……


「クゥ~~ン」

「まったく、ロクでもない犬だな」

 みゃー子を見やって思わず口をへの字に曲げた。


……と、まあ、そんな平和なトラブルを経て放課後。


 何食わぬ顔で下校した舞奈と明日香は繁華街の張の店でだらだらと時間を潰す。

 夜更けを待って伊或(いある)町を訪れ、えり子や高校生組、萩山と合流する。


 そして、ちょうど数日前に奴らに襲撃されたのと同じ時分。

 防犯カメラの死角に位置する、不法移民のアジトと化したアパートへ赴き――


「――やれやれ、如何にも奴らのアジトって感じの場所だな」

 舞奈は口をへの字に曲げる。


 問題のアパートは変哲のない二階建ての木造アパートだ。

 一階のテラスに塀や柵はないオープンな造りで、出入りを妨げるものはない。

 ベランダになっている二階の廊下からは各部屋のドアが見て取れる。

 えり子や萩山のアパートと似た造りらしい。

 新開発区にある舞奈のアパートとも似てると言えば似ている。


 それはともかく、作戦の決行に夜半を選んだのは住民に気づかれないためだ。

 この界隈の住民は各々の家で寝静まっているかくつろいでいる時間だ。


 だが登記上は現在も空家のはずのアパートの、全室の窓には明かり。

 アパートの周囲にだけ乱痴気騒ぎの喧噪。

 大音量で響き渡る音楽。

 二階の廊下を歩き回る大柄な影。

 テラスをはみ出て周囲の路地で暴れ回る、動物のような黒い何か。

 まるでみゃー子や麗華様がそのまま大きくなったような大の大人のアレな様子。

 だが、それ以上に……


「……凄い臭いね」

「そりゃあ奴らのアジトだもの」

 珍しくサチが嫌そうに顔をしかめ、えり子が諦観したように答える。


 周囲に立ちこめるヤニの悪臭。

 即ち、このアパートが人型怪異のアジトとなっている動かぬ物証。

 奴らを1匹残らず駆逐するのが今日の舞奈たちの目的だ。

 そのために集まった有志は舞奈の他に明日香、小夜子とサチ、萩山とえり子。


 舞奈は普通に物陰に身を隠しているが、他の面子はそれぞれ透明化している。


 明日香は戦闘魔術(カンプフ・マギー)迷彩(タルヌンク)】。

 小夜子はナワリ呪術【幻惑の衣クェミトルイシウィンティ】。

 サチは古神術【陽炎(かげろう)】。

 どの術も可視光を創造あるいは操作して自身の姿を見えなくする効果を持つ。

 アパートの内外にいる敵が持つ異能力【偏光隠蔽(ニンジャステルス)】と同等の技術だ。


 萩山は悪魔術【蜃気楼(ミラージュ)】。

 こちらは高度な集中が必要なので本来はギターの演奏が必要な術だが、十分な鍛錬を積んだ今の萩山なら自分ひとりに限り脳内でリズムを奏でて透明化できる。

 術者もロッカーも大切なのは鍛錬だ。


 もちろん、えり子も祓魔術(エクソシズム)燐光の外套(クレール・ルマント)】で身を隠している。

 小3のえり子が夜半にバイトに出かけるのも、萩山が一緒なら無礼講らしい。

 ずいぶん信頼されたものだ。


 そして全員の左手首には注連縄。

 サチの【護身神法(ごしんしんぽう)】で守られているのだ。


 さらにアパートから少し離れた家屋の陰から流れていた真言が締めくくられる。

 途端、世界が変容する。

 夜闇に沈んだ伊或町の街並みが現実味を欠いた幽玄と化す。

 古びた屋根の上から仏像が顔を覗かせ、般若心経の細い調べが静かに流れる。


 時空との対話により地蔵菩薩(クシティ・ガルバ)の加護を得る仏術【地蔵結界法クシティ・ガルヴィナ・ホーマ】。

 大魔法(インヴォケーション)によって張り巡らされた戦術結界は範囲内の空間を周囲から遮断することで周囲の目から魔法戦闘を隠し、敵の魔力を遮断する。


「さんきゅっ! 奈良坂さん!」

「えへへ、どういたしまして」

 家屋の陰で、携帯型の護摩壇を手にした奈良坂がにへらと笑う。

 実は奈良坂も有志の一員ではある。

 だが今回は仕事の規模に対して戦力に余裕がある。

 なので奈良坂には外から結界の維持に専念してもらう算段になっていた。

 彼女に人型怪異の積極的排除をあまりさせたくないという理由も少しある。


 そんな事をしている間も、浅黒い人型怪異どもは環境の変化に気づいていない。

 部屋からは騒音が響き、外にいる怪異どもは絶叫しながら飛び跳ねている。

 埼玉の一角で見た狂える土どもと同じだ。

 周囲の変化にこれほど無頓着だから、夜半にもかかわらず大騒ぎができるのだろうと舞奈は思う。

 だが好都合ではある。


「まず外にいる奴らを片づけるか」

「ええ」

 小夜子の返事を背中で聞きつつ、何食わぬ顔で男のひとりに近づいていく。


「日本人ノ、コド――」

 くわえ煙草の人型怪異が身をかがめつつ近づいてくる。

 夜道に迷った子供を襲うつもりか?

 つかまえて何かするつもりか?

 だが逆に――


「――!」

 こちらから跳びかかって幅広のナイフで喉笛を掻き切る。

 その程度は造作ない。

 もちろん迂闊な怪異に回避や防護の余地などない。

 大柄な大人の男が倒れるドサリという音を、部屋から響く騒音がかき消す。


 間髪入れず、少し離れた場所で振り返った別の1匹に走り寄る。

 先ほどと同様に仕留める。


 どちらも異能力はわからなかったが感触からして【虎爪気功(ビーストクロー)】ではない。

 そもそも【偏光隠蔽(ニンジャステルス)】以外の異能力を持っていないか、神の血によって実は別の異能力を持っていたのかも不明なまま。

 だが問題はない。

 周囲を見回し、他に外で暴れ回っている怪異がいない事を確認し――


「――おおっと」

 隣に転がってきた黒い丸いものを避ける。

 流れ出るヤニ色の体液と、くわえっぱなしの煙草が路地を汚す。


 見やれば二階の廊下で【霊の鉤爪(パパロイツティトル)】を降り下ろした格好の小夜子の横で、首のない長躯の何かが崩れ落ちる。

 小夜子も透明化を解除して大好きな殺戮を開始したのだ。

 背丈や肌の色が違っていても、人と人に化けた怪異を確実に判断できる要素はヤニの臭いだ。自身から幼馴染を奪った悪臭を、小夜子は間違える事はない。


 故に、もはやベランダには他に動いている人影はない。

 二階の仕事も舞奈と同じくらい首尾よく終わったようだ。


 それでも相変わらず部屋からは尋常じゃない騒音が垂れ流されている。

 相当数の人型怪異が各部屋に健在だと考えるべきだろう。


「お疲れさま」

「まだこれからよ」

 小夜子は【ジャガーの戦士(オセロメー)】の出力にまかせてベランダの手すりを乗り越えて飛び降りてくる。

 サチがねぎらう。

 一行は誰ともなく一階のテラスの端に集まる。

 アパートだし、ひとまず端の部屋から順番にクリアしていく算段だ。


「……おっ一丁前に鍵かけてあるな」

 舞奈は錠を確認してヘアピンを取り出す。


 とは言え舞奈たちも暗殺の準備をしてきた訳ではない。

 最初の戦闘の物音で、流石に他の部屋の怪異ども気づいて出てくるだろう。

 第2ラウンドからは早々に総力戦だ。


 だが、こちらも呪術師(ウォーロック)4人に魔術師(ウィザード)、そしてSランクという出鱈目な戦力だ。

 少しばかり強くてタフな異能力者が、たとえアパートの部屋いっぱいに詰めこまれていようが殲滅に支障はない。

 アパートはまるごと戦術結界の中なので敵が逃げる心配もない。


 唯一の懸念は明日香が遭遇したという謎の妖術師(ソーサラー)

 だがひとつの集団に何匹もいないだろうし、今から天使や式神を放って有無を確認するより素早く殲滅する方が確実だ。

 そんな事を考えていると……


「……こっちの方が手っ取り早いわ」

「うおっ」

 隣で小夜子がショットガン(AA-12)を構えた。

 慌てて跳び退いた舞奈に代わって鍵穴に銃口を押し当て、


「えっ小夜子ちゃん……!?」

「怪異の巣窟になっていた建物をそのまま使う事はないわ」

「そりゃまあそうなんだが」

「行くわよ」

 目を丸くするサチに答えつつ、やれやれと苦笑する舞奈を尻目に、リニューアルを前提にして無遠慮にぶっぱなす。


 派手な銃声が周囲に響く。

 それが掃討作戦の開始の合図になった。


 小夜子は間髪入れず【ジャガーの戦士(オセロメー)】フルパワーでドアを蹴破る。

 蝶番が引き千切れて中に飛んで行ったドアを見やって(錠を壊す必要なかったんじゃないか?)などと考えながら、舞奈も改造ライフル(マイクロガラッツ)を油断なく構える。


 他の皆も透明化を解除する。

 明日香はカッチリしたデザインの戦闘(カンプフ)クロークの裏から小型拳銃(モーゼル HSc)を取り出す。

 萩山はギターを構えて演奏を始める。悪魔術の準備だ。

 えり子も【天使の召喚アンヴァカシオン・デュヌ・アンジュ】を行使してブタの形の天使を召喚する。


 一方、狭い玄関からは浅黒い男たちが叫びながら飛び出してきた。

 こちらも以前に相対したペット泥棒と同様に格好はてんでばらばら。

 ある者は薄汚いシャツを着て、別の者は臭そうな作業着を着こんで、それぞれがナイフやカタナや鉄パイプ等の得物を手にしている。

 だが全員が背が高く素早く力強く、何より全員が煙草をくわえている。

 つまり脂虫だ。


 そして飛び出してきた敵が格好と同じくらい統制が取れていないのは、特に大柄な1匹が部屋の奥でドアの下敷きになってグロッキーしているからだろうか?

 顔面にドアがクリーンヒットしたらしい。

 まさか奴らのリーダー格だったのだろうか?

 小夜子の思わぬファインプレー。

 舞奈は苦笑しながら――


「――そういや、おまえら【偏光隠蔽(ニンジャステルス)】だったな」

 部屋の中の何もない空間に向けて改造ライフル(マイクロガラッツ)で撃つ。

 単発。単発。

 2発の大口径ライフル弾(7.62×51ミリ弾)が通った後に、額に穴を開けた2匹の男が出現する。

 透明化して油断した敵の脳天を正確に撃ち抜く程度、舞奈にとって造作もない。

 2匹の【偏光隠蔽(ニンジャステルス)】はヤニ色の飛沫を吹きながら玄関の床を這う。

 大柄な男が倒れる、どうという音が響く間もなく――


「――魔弾(ウルズ)

 明日香の魔術語(ガルドル)

 次の瞬間、魔術師(ウィザード)の手元から放たれた3発のプラズマ球が部屋に飛びこむ。

 爆音。放電。オゾンの臭い。

 即ち【雷弾・弐式ブリッツシュラーク・ツヴァイ】。

 同胞の屍を飛び越えようとしていた残りの男がプラズマに飲まれて一瞬で消し炭に変わる。


 そのように最初の部屋は早々にクリア。

 部屋の中まで踏みこむまでも、萩山たちが手を出すまでもなかった。


「おおい。家を燃やさんでくれよ」

「加減はしたわ」

 軽口を交わした途端に――


「――斬り刻め! 羽毛ある蛇(ケツァルコアトル)!」

 小夜子が叫ぶ。

 途端、部屋の外で1匹の脂虫が両断される。

 大気の刃で対象を切断する【切断する風(エエカトルテキ)】だ。


 他の部屋にいた奴らが別方向から切りかかってきていたらしい。

 呪術の風に斬り割かれた男は上半身と下半身が別々にテラスの床を転がる。

 ギターの音色で異変に気づいて部屋を出て、人間を見て襲いかかったのだろう。

 だが間髪入れずに切断されるとは予想していなかったはずだ。


 くわえ煙草の黒い男の上半身が、腕を伸ばしてつかみかかってこようとする。

 えり子が悲鳴をあげる。


「うへっ、こりゃ酷い絵面だ」

 舞奈は改造ライフル(マイクロガラッツ)で止めを刺しつつ舌打ちする。

 ベティの忠告通り。

 今までに倒してきた人型怪異では有り得ない耐久力だ。

 ゾンビ映画も顔負けである。


 それだけじゃない。

 一行の周囲に大量の浅黒い男が殺到してきていた。

 第2ラウンド開始だ。


「――情報(アンサズ)

 再び魔術語(ガルドル)


 明日香の掌から放たれた稲妻が、反対側から迫る男の土手っ腹を黒焦げにする。

 次いで稲妻は軌道を変えて隣の別の男のみぞおちを穿つ。

 そうやって徐々に威力を減じながらも次々に飛び火して4匹を片付け、4匹を手ひどく火傷させ痺れさせる。

 即ち【鎖雷(ケッテン・ブリッツ)】。


「――上から来るっす!」

 二階のベランダから幾つかの浅黒い影が飛び降りてきて――


「――斬り刻め! 羽毛ある蛇(ケツァルコアトル)!」

 小夜子が叫ぶと同時に両断され、上下が別々になってテラスに落ちる。

 再度の、そして狙いすまされた【切断する風(エエカトルテキ)】。

 手にしたショットガン(AA-12)を使うまでもない。


「来るっすじゃなくて、あんたも何かしてくれ」

「あっすいません」

 苦笑する舞奈に、萩山がギターを片手に恐縮する。

 弾き語りながら咄嗟に警告の声を発せられるほど【風歌(ウィンド・ウィスパー)】に習熟しているのは凄いと思うが。


 まあ余りのスピード感に、反応できなかったと言われれば納得はできる。

 現にえり子も見ているだけだ。

 サチも小型のリボルバー拳銃(M360J サクラ)を構えたまま周囲を警戒している。

 むしろ【護身神法(ごしんしんぽう)】の維持に専念している。

 それすら目下のところ使う必要はなさそうだ。


 それほどまでに一行は敵を圧倒していた。


 かく言う舞奈も今のは手出しする前に仕留められた。

 代わりに別の、【偏光隠蔽(ニンジャステルス)】で透明化して忍び寄ろうとした2匹を撃ち抜く。

 脳天に風穴を開けた大柄な男が虚空からにじみ出ながらテラスを這う。


 迎え撃つ戦力は十分以上。


 だが敵の数も相当だ。


「新手が来たっす!」

「ああ、見えてる」

 階段から再び怪異どもが大挙して押し寄せてきた。


 全員が持っているはずの【偏光隠蔽(ニンジャステルス)】を使うのも忘れたか?

 あるいは意図的に大勢の姿を晒して威圧する算段か?

 右から、左から、背にしたアパートの壁以外の全方位から襲いかかってくる。


 対して明日香は【雷弾・弐式ブリッツシュラーク・ツヴァイ】で焼く。

 小夜子は【切断する風(エエカトルテキ)】で斬り刻む。

 圧倒的な火力の前に、暴徒どもは次々に消し炭や肉塊になって積みあがる。

 だが……


「……それにしても数が多かねぇか? アパートに住める量じゃないだろう」

 舞奈は軽口を叩く。

 そうしながら攻撃魔法(エヴォケーション)の合間を縫って接敵する何匹かを撃ち抜く。


「肉人壺って奴じゃないっすか?」

 萩山も【閃雷(スパーク)】を連発し、反対側から襲い来る脂虫どもを焼きつつ答える。

 直後に小夜子に睨まれて(何で!?)みたいに首をすくめる。

 小夜子とサチは、以前に肉人壺によって再生する怪異の巣に踏みこんで面白くない経験をした。


 そんな事など露知らぬ萩山の前に、何匹かの浅黒い男がにじみ出るように出現。

 本領を発揮して【偏光隠蔽(ニンジャステルス)】による集団での奇襲を試みたか。

 だが――


「――出番だ! アークデーモン!」

 その前に立ちふさがった、女の形をしたデーモンが叩きのめす。

 舞奈が最初に屠った脂虫を使ってアークデーモンを創造していたのだ。


 一方、えり子も聖句を唱え、傍に控えた天使と一緒に粒子ビームを放つ。

 即ち【光の矢クー・ドゥ・リュミエール】。

 天使と揃って放たれた多数の粒子ビームが、撃ち漏れた浅黒い男どもを焼く。


 明日香も、小夜子も次々に攻撃魔法(エヴォケーション)を叩きこむ。


 信じがたいほどの敵の数。

 それすら凌駕する圧倒的な火力。


 結果、一行は表に出てきた人型怪異どもをも一掃した。

 これ以上の増援もなさそうだ。

 萩山の演奏も終わって静かになったアパートに、オゾンの臭いと、ヤニの悪臭に似た何かが焦げる臭いが立ちこめる。

 見渡すとテラスに、階段に、焼け焦げた黒い骸が積みあがっている。

 くすぶっていて火事になりそうで心配ではある。

 だがまあ、ここまでは順調。


「後は各部屋を確認しましょう」

「ええ」

「了解っす」

 3班に分かれて各部屋に討ち残しがいないかを確認する。

 一階は舞奈と明日香。

 二階は小夜子とサチのペアと、萩山とえり子のペアだ。


「……しかし汚ったねぇな。こりゃ建て直したほうが早いだろうよ」

「ここに何が住んでたか、さっき見たでしょう?」

「ベティさん、あれでもまともな方だったんだなあ」

「そりゃ人間だもの」

 軽口を叩き合いながら、開け放たれたドアの中を覗きこんでいく。

 だが幸か不幸か部屋の中に動くものはない。

 舞奈の優れた感覚をもってしても、気配を感じる事すらない。

 あるのはゴミの山と、つい先ほどまで奴らが吸っていたであろう煙草の悪臭。


 ひょっとして先ほどの攻防でアパートに巣食う人型怪異を殲滅したのだろうか?


「魔力の反応は?」

「二階から感じるけど、萩山さんのアークデーモンじゃないかしら?」

「って事は妖術師(ソーサラー)はいなかったのか? それともさっきの中にいたのか……?」

 尋ねてみた明日香の答えに訝しんだ途端――


「――舞奈さん! 大変っす!」

「どうしたよ?」

 萩山の声。


 二階で何か見つけたのだろうか?

 訝しみつつ部屋を出た途端――


「――野郎! 来やがった!」

 世界が変容した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ