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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第22章 神になりたかった男
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夜半の強襲1 ~銃技vs異能力

 外国人によるペット泥棒を警戒すべく舞奈は桜の家に泊まる事になった。

 かしましい大家族を満喫し、見張りを立てて就寝しようとした矢先に気配。

 どうやらペット泥棒のお出ましだ。

 桜に他の皆をまかせ、ひとり玄関に赴いた舞奈は――


(――ざっと半ダースくらいか)

 玄関前の気配を探りながら、ジャケットの裏の拳銃(ジェリコ941)とナイフを意識する。


 他所様のお宅に来訪するにはあまりに失礼な時分に呼び鈴を鳴らすでもなく、複数人の男が舞奈の知らない言語で獣のように喋りながら何かしている。

 気配と声は5人分。

 先日の防犯カメラに映っていた不審な外国人グループと同じ数だ。

 くたびれたガラス張りの玄関扉に映る人影の大きさも一致する。


「(……しもん、テキがきたのか?)」

 背後にも気配。

 リコだ。


「(起きたのか。丁度いい、合図したら電気をつけてくれ)」

「(おー! まかせとけ!)」

 小声で言づける。

 次いで素早く影のように移動し身をかがめたままシューズを履くうちに――


(――ったく)

 扉からガチャガチャと耳障りな音。

 ピッキングを試みられているようだ。

 しかも錠をこじ開けようとするように雑なやり方で。


(桜の家の鍵を壊す気か? まったく)

 毒づきながら扉に近づき音もなく鍵を外し――


「――よっ何か用か? 寝てたんだが」

「……!?」

 立てつけの悪い玄関扉をガラリと開ける。

 男たちは驚いて動きを止める。


 街灯と微かな星明りの下で、夜半の客人たちの屈強な体格が浮かび上がる。

 長身な男の背丈は天井の梁に届きそうなほど。

 他より半歩後ろに立った小柄な男も邦人の成人男性ほどはある。

 最前列でしゃがみこんでいる男も立てば相当だろう。

 サイズ感がややバグる。

 長身な警備員のベティが小柄な淑女に思えるほどだ。


 そんな彼らの格好はてんでばらばら。

 ひとりは濡れた作業着のまま

 別のひとりは革靴に長いコート。

 靴底に泥がついている者もいれば、清潔なシャツを着た者もいる。

 手にした得物も様々だ。

 鉄パイプにナイフ、錆びた日本刀。素手の者もいる。


 だが長躯の両端から伸びる、丸太のような腕の太さは全員が同じ。

 服越しにすら見て取れる。

 鍛えているのとは違う、生まれついて屈強な肉食獣の如く筋肉。

 袖の先で得物を握る手首、襟の上に乗っている顔が不自然に暗く感じるのも街灯の明かりが弱く消えかけているからだけではない。


 そして男たちの表情がほとんど動かないのも同じ。

 笑うでもなく、怒るでもなく、ただ静かに立っている。

 だが目の動きは違う。

 ある者は玄関の奥に目をこらす。

 別の者は、まるで目前の子供を目踏みするかのように足元を追う。

 さらに一人は周囲の闇を素早く確認する。

 こうしたスタイルで人様の家に訪問するのに慣れている挙動だ。


 何より全員が煙草をくわえ、あるいは手にしている。

 脂虫だ。

 意図や目的は何であれ、何がしかの害意を持った集団なのは明白だ。


 今だ!

 言うより早く玄関に明かりが灯る。

 流石はリコ!

 男たちの目が焼かれたように白く細まる。

 舞奈が知らない言語で悲鳴。

 突然の点灯で、暗がりに慣れた暴徒どもの目が眩んだのだ。


 その隙を舞奈は逃さない。

 弾丸の如く接敵し、ピッキングしていた1匹の股間を蹴る。

 浅黒い長身の男がひっくり返る。

 何やら叫びながら、玄関前の石畳をのたうち回って悶絶する。


 残る男たちは舞奈の知らない言語で雄叫びをあげる。


 直後に作業着が日本刀を構え、砲弾みたいなスピードで突っこんでくる。

 おそらく【狼牙気功(ビーストブレード)】。

 今の雄叫びが異能力を発動させる合図かジェスチャーなのだろう。


 次いで柄物のシャツの2匹が手にした鉄パイプが炎を、ナイフが放電をまとう。

 それぞれ【火霊武器(ファイヤーサムライ)】【雷霊武器(サンダーサムライ)】。

 ちなみに前者の御尊顔は、つばめの【幻影の像ファンタズマル・イメージ】で投影され、テックのAI補正で再現された、ミケが見たペット泥棒の顔とほぼ同じ。


 そんな3匹の後ろに控えた、背は人並みだが屈強なコートの男に変化はなし。

 まるで異能力など持っていないように何かの武術の構えをとる。

 おそらく【虎爪気功(ビーストクロー)】か【装甲硬化(ナイトガード)】だろう。


(神の血か?)

 ふと思う。

 ならば複数の異能力を持っている可能性がある。

 油断は禁物。

 だが考えるのは後だ。


 迫りくる鋭い刃を避けるように、玄関の柱を蹴って宙を舞う。

 燃え盛る鉄パイプを振り上げた男の背中に飛び乗る。

 先陣の【狼牙気功(ビーストブレード)】よりこっちのが大柄だったからだ。

 加えて二番手だからか露骨に油断していた。

 なのでガタイはいいのにノーガードな首筋へ、勢いを乗せた肘を叩きこむ。

 電柱を殴ったような感触だったが、それでも男は怯む。

 舞奈は反動を利用して素早く跳び退き、玄関の外の石畳を転がる。

 勢いのまま流れるように立ち上がる。


 そんな子供に、先陣の【狼牙気功(ビーストブレード)】と、ナイフの【雷霊武器(サンダーサムライ)】が迫る。

 倍の背丈はあろうかと思える黒い男の、獣のような形相。

 怒鳴り声。

 だが舞奈は特に怯む事もなく足元の砂利を蹴り上げ、屈強な男たちの顔面めがけて散弾のように飛ばして目をくらます。

 足元の子供を捕まえようと微妙にかがんだ相手に対しては効果てきめん。


 怯んだ隙に駆け寄り、放電するナイフを避けつつ男の顎を蹴り上げる。

 機械の停止レバーを蹴って上げたような感触。

 ダメ押しに勢いのまま膝裏に回し蹴りを食らわせ、転倒させる。

 どんなに頑健で黒い長躯も、人間の形をしている限り弱点は同じだ。


 無論、転ばせただけで倒した訳じゃなく、そもそも【狼牙気功(ビーストブレード)】はフリー。

 それでも舞奈はそちらに構わず、コートの男へ肉薄する。

 背後の男が舞奈を追う叫び声。


 おそらく屈強なコートの彼が、この集団のリーダーだろう。

 奴を叩きのめせば敵グループの士気は総崩れになる。

 残りを追い払うにしろ全滅させるにしろ話が早い。

 頭領の早期撃破は獣や怪異の集団を相手取る際のセオリーだ。


 そう舞奈が判断したと、敵も気づいたらしい。

 だから知人の面白黒人と同じ色合いと顔立ちなのに、愛嬌の欠片も感じられない邪悪な男の、不気味なヤニ色に輝く双眸が舞奈を捉える。

 男は肉食獣のように笑う。

 舞奈も笑う。


 男は舞奈を回し蹴る。

 国内の人型怪異を相手する感覚では遠すぎる間合い。

 格闘技のリーチではない。

 まるで足で持つ刀剣の如く。

 だが舞奈は驚きもしない。

 身体強化したベティのつま先と同じくらい長くて素早い、黒い死神の大鎌のようなそれを、身をかがめて避ける。

 刃のような革靴のつま先が小さなツインテールの端を薙ぐ。


 舞奈はそのまま最初の1匹と同じように股間を蹴り上げようと試みる。

 どんなに屈強な男でも、そこを筋肉で守る事はできない。


 そう思ったがカマキリの腕のように素早く引き戻された脚でガードされる。

 流石はリーダー格。

 不意を突かれたピッキング要員と同じようにはいかないらしい。


 代わりにみぞおちに渾身のハイキックを食らわせる。

 だが効果はない。

 まるでコンクリート壁を蹴ったような感触。

 浅黒い人型の獣は耐久力も半端ない。

 身体が【虎爪気功(ビーストクロー)】で石の如く強くなっているか、【装甲硬化(ナイトガード)】でシャツを硬くしたか、どちらとも判断ができるほど。

 あるいは狂える土どものように、神の血やそれに類する薬物で強化されている?

 だが考えるのは後だ。


 足をつかまれそうになって慌てて引っこめる。

 そのまま跳び退って身構える。


 相手も構える。

 敵も舞奈を油断ならない相手だと認めたか。


 他の3匹もそれぞれの得物を構えてリーダー格の左右に並ぶ。

 4対1だ。

 正直なところ戦況は良くはない。


 そう。最初に股間を蹴り上げた1匹がいないのだ。

 悶絶から回復して逃げたか、近くに身を潜めているか。

 奴が【偏光隠蔽(ニンジャステルス)】か何かで家の中のミケや家族を人質にでもされたら厄介だ。

 だが気配を探る暇はない。


 再び懐の拳銃(ジェリコ941)を意識する。

 射殺も止む無しか?

 不幸中の幸いにも何時かの捕獲作戦の時とは違い、今日の舞奈は彼らを生け捕りにする必要がない。

 生死を問わず動かなくすれば、桜と家族を守るという目的は果たせる。

 そして舞奈の拳銃(ジェリコ941)は自動式拳銃だから、銃口を押しつけて撃てば深夜の花火のような砲声があがる事もないだろう。

 後で掃除をしっかりやれば痕跡も消せる。

 他に仲間がいないかどうかは心臓を小夜子にでも占ってもらえばいい。

 そう考えて、ジャケットの裏に手をのばすべく構えを変えた途端――


「――舞奈さん! 大丈夫ですか?」

 声。玄関から。

 次いで奈良坂が跳び出してきた。

 ようやく起きて事情を把握したらしい。

 それと同時に、


「アァァ…………!」

「クッ……!」

 敵が露骨に狼狽える。

 こちらの人数が増えたからという理由だけではなさそうだ。


 桜から事情は聴いたが状況は把握できないらしい奈良坂は(?)と困っている。

 隙だらけな新たな女子に、だが男たちは怪物でも見る如く畏怖の視線を向ける。

 かけているフレームレスの眼鏡のせい……でもないだろう。


 どうやら今の奈良坂は【大威徳人払護身法ヤマーンタキナ・ラクシャ】の影響下にあるようだ。

 敵の怯え方から、そう判断した。

 人払いの妖術【大威徳調伏護摩法ヤマーンタキナ・アビチャーラカ・ホーマ】と同じ大威徳明王(ヤマーンタカ)のイメージにより、狭い範囲の獣や怪異を怯ませる効果を持つ。

 家人を守る目的にはうってつけの術だ。

 流石は仏術士。

 奈良坂だって、やる時にはやる。

 千載一遇のチャンスである。


 だが、かといって素手で絞め落とせる相手ではない。

 最も効果的な一手を考えようとする舞奈に対し、焦った【火霊武器(ファイヤーサムライ)】が――


「――――!」

 怯えを誤魔化すように殴りかかる。

 意識して回避するまでもない。

 燃える鉄パイプがカンッ! と石畳に跳ねる。

 衝撃で敵の動きが止まる。

 舞奈はニヤリと笑う。


「丁度良い! ちょいと借りるぜ!」

「ナッ!?」

 浅黒い手首に渾身の蹴りを食らわせる。

 銃弾の如くつま先にえぐられ、たまらず男は手を離す。

 舞奈は手から離れた鉄パイプを素早く奪う。


 後は舞奈のひとり舞台だ。


 続けざまに振り抜いて、隣の男の頬を横殴りに強打する。

 ホームラン!

 避ける暇も、受け流してダメージを軽減する余裕もなかったのだろう、男はそのまま玄関横の壁に激突して崩れ落ちる。

 異能の放電が消えたナイフが石畳を転がる。


 次いで自身の得物を取り返そうと掴みかかってきた【火霊武器(ファイヤーサムライ)】を突く。

 異能力の炎が消えた鉄パイプの先端が黒い巨漢の脇腹をかすめる。

 ダメージはなし。

 だから男は逆に鉄パイプをつかむ。

 浅黒い口元に笑みが浮かぶ。

 だが、それはフェイント。

 敵の態勢が崩れた隙に足払いをかける。

 足元をすくわれた男が仰向けに倒れるより早く、もぎ取った鉄パイプを一閃。

 屈強な長躯が倒れる勢いすら加味され、正確かつ無慈悲に首筋を強打された男はそのまま泡を吹いて昏倒する。


 そんな男の胸ぐらに舞奈は跳び乗り、そのまま踏み台にして跳躍。

 狙うは敵を見失って困惑する【狼牙気功(ビーストブレード)】の頭部。

 足元の小さい子供を追うあまり上への注意がおろそかになっていたようだ。

 故に舞奈はノーガードの敵の脳天に踵落としを叩きこむ。

 黒い巨体がドウと倒れて地面を振るわせる。

 日本刀がカラリと転がる。

 その上に着地したスニーカーが刃を踏み折る。


 そのように瞬時に3匹を叩きのめし――


「――舞奈さん! 後!」

「ああ知ってる!」

 叫ぶ奈良坂を見もせず笑う。


 そうしながら身を低くして着地した体勢のまま、鉄パイプの反対側の端を後ろに突き出す。

 重い手ごたえ。

 小さなうめき声。

 パイプに喉を突かれた態勢で、空気からにじみ出るように長躯の影が出現する。

 ピッキングの男――【偏光隠蔽(ニンジャステルス)】だ。


 これで4匹。

 瞬時に仲間を屠られて残るは自分だけになったコート姿のリーダーは――


「――――!」

「おうっ!? 逃げるのか!?」

 何やら叫びながら踵を返して逃げていく。

 逃げる脚力も獣並みだ。

 状況が不利になったら躊躇なくそうするあたりも逆に潔い。


 奴を追うべきか?

 それとも先に倒した男たちを拘束して周囲の安全を確保すべきか?

 幸いにも4匹を生きたまま確保したのだ。

 誰かが自分たちのアジトの場所を知っているだろう。

 そう一瞬だけ逡巡した、その時――


「――人ん家の軒先で何やってんだい!?」

「!?」

 唐突に声。


 本当に突然だった。

 もちろん敵も予想などしていなかっただろう。

 故に通りの向かいから走ってきたそれの拳が、敗走に集中するあまり何の備えもできていなかった男のノーガードなみぞおちを強打した。

 学校の交通安全の啓蒙ビデオで見たような、鈍く痛ましい事故の音。


「あ……」

 舞奈が呆然と見やる先で、屈強なコートの男がドサリと崩れ落ちる。


「お、おう……」

 流石の舞奈もこれにはビックリ。

 インパクトの種類としては、飛び出してきたトラックに轢かれたようなものか。

 あーあ。

 一方、走ってきた作業着の何者かは舞奈に気づき、


「桜かい? 無事だったかい?」

「いや違うが」

「おや本当だね」

 駆け寄ってくる。

 街灯が暗くて人相がわかりにくいが、よく見ると妙齢の女だ。

 ただし、おそらく日々の仕事で鍛え上げられたであろう丸太のような腕の太さとガタイの良さは先ほどの男たちと同じ。


「あっ! お母さんなのー!」

「そっちが桜だったのかい! こんな夜中に何の騒ぎだい?」

「ペット泥棒がまた来たのー! でもマイちゃんがやっつけてくれたのー」

「何だって!?」

 玄関から桜が飛び出してきた。

 桜の母ちゃんだったらしい。


「お母さん!」

「お母さんだ」

「あっどうも。お邪魔してます」

「かあちゃんだ!」「かあちゃんだ!」「マミとマコのかあちゃんだ!」

 他の姉妹や、奈良坂やリコも出てくる。

 未就学児の妹まで起きたらしい。

 そして……


「……という訳なのー」

「そりゃ大変だったね。でも怪我がなくて良かったよ」

 桜や奈良坂、姉たちから説明された桜の母ちゃんは安堵する。

 そうしながら車から持ってきたロープで男たちを拘束する。

 というか梱包する。


 桜の屈強な肝っ玉母ちゃんは長距離トラックのドライバーだったらしい。

 トラックではなく運転手の方だ。

 桜とは比べるまでもなく、女子高生や中学生としては標準体型な姉と比べても母のガタイはデカくてゴツい。

 人間としてのベースは同じなのに、作業着が筋肉ではちきれそうだ。

 友人の母親というよりヴィランか執行人(エージェント)だと言われた方がしっくりくる。

 しかも趣味で鍛えている風でなく仕事で鍛えられている。

 働いて金を稼ぐと言う事は、別に仕事人(トラブルシューター)じゃなくても大変なのだ。

 だが母はそんな素振りなど微塵も見せず、


「いやね、統零(とうれ)の倉庫まで荷物を届けに来たら何やら悶着があったみたいで、心配になって家の近くを通ってみたら、この有様だよ」

「そいつはご苦労様っす……」

 言ってやれやれと肩をすくめる。

 舞奈も苦笑を返す。


 なので取り急ぎ近くにトラックを停めて走って来たといったところか。

 先日のペット泥棒の話を聞いていたからだろうか。

 もし舞奈がいなければ、駆けつけた彼女によって娘たちが救われた事になる。

 その思慮深さと機転は舞奈も見習いたいと思った。


「にしても、あんたがマイちゃんかい? 話には聞いていたが大したものだねぇ」

「いや、おばさんも相当っすよ。これを殴って落とせる奴は普通いないっすよ」

 しっかり縛り上げた4匹を見やって桜母は豪快に笑う。

 最後の1人を見やりながら舞奈も笑う。


「おおきい」

「くろい」

「たてにながい」

「……まあスミスほど横幅は確かにないな」

 横で見ていたマミとマコ、リコの忌憚のない感想に苦笑しながら、


「パキスタン人……じゃないな。ナイジェリアの奴らかね」

「わかるんすか?」

「まあね。職場でも最近よく見かけるもんで」

「国内で働いてるんすか」

「働いてるっつうか……どいつも仕事はしないくせに態度の悪い鼻つまみ者だよ」

「そりゃまた」

 拘束した不審者の顔を見やりながら母と話す。


「あっそうだ。そいつら、妙な薬とかやってないすか?」

「ドラッグかい? 流石に職場で見た事はないけど……何か気になる事でも?」

「いや、こいつら訳のわからない動物みたいな雄叫びとかあげてて」

「動物って……ハハッ! 英語じゃないのかい?」

「……発音は凄い悪いらしいっすけど、英語かどうかはわかるつもりなんだが」

「いやスマンスマン! 現地語じゃないかね? あたしもよくは知らないんだが」

 屈強な大人と子供で軽口を叩き合っていると……


「……たぶんヨルバ語。アフリカの部族の言語」

 二番目の姉ちゃんが、あくびを噛み殺しながら口を挟んできた。


 5人姉妹の桜の二番目の姉。

 物腰と、片目を隠して眼鏡をかけているのでもしやと思っていたが、予想通りの博識らしい。

 しかも少しマニアックな方面の知識に。

 だが舞奈にとっては好都合だ。


「知ってるんすか?」

「叫んでたのが聞こえただけだけど、黒い豹とか、Ina-Jagun……火の勇気? 戦士? まあ、そんな意味だと思う」

「なんだそりゃ?」

「ヒュー! さっすが中学生はインテリだぜ」

 続く言葉に母は困惑。

 だが舞奈はニヤリと笑ってみせる。


 何となく聞き覚えのある訳語だ。

 国内で言う【虎爪気功(ビーストクロー)】【火霊武器(ファイヤーサムライ)】ほどの意味か。

 そんな小学生の賛辞に気をよくした姉は更に言葉を続けて……


「あとエジ・オロロン? 神様の……Ejeって何だっけ」

「――神の血?」

「ああ、そうそう。血だ。舞奈ちゃんよく知ってたね」

「たまたまだよ」

 舞奈はニヤリと笑う。


 いろいろとパズルのピースが集まってきた気がする。

 やはり奴らは神の血――狂える土どもの間で蔓延していたのと同じ違法薬物を使って何かをしようとしていた。

 おそらく林中の巨大シーフードと同じ、魔獣の創造。


「じゃあ厳重に縛っておかないとな。こいつら、たぶんヤク中だ」

「まあ普通じゃない叫び方だったもんね」

「そうなのかい? じゃあ一旦、納屋にでも放りこんでおこうか」

 舞奈の言葉に姉と母が納得し、


「ていうか、警察に連絡しなきゃね」

「ああ、頼むよ」

 そう言って上の姉ちゃんが家の中に戻り、


「あっ、ちょっと待ってくれ! すまんが学校の警備員室にも一報をいれてやってもらっていいすか? 学校にかければ繋がるはずっすから」

 舞奈が声をかける。

 折角だから夜間警備のモールと娑にも知らせておこうと思ったのだ。


「えっいいけど……学校の?」

「ああ。いやその……警備員の連中が仕事熱心で、校外でも生徒さんが危険な目にあったら教えてほしいって言ってるんすよ」

「ふーん。そっかー。じゃあ前みたいにバスが出るかもしれないね」

「やったー! 通学バスだ!」

「いやそれは知らんっすが……」

 玄関からひょっこり顔を出して何となく納得する姉と、喜ぶ桜に苦笑する。

 流石に単に血の気の多い警備員が脂虫を叩きのめしたくてうずうずしているなんて話す訳にもいかない。

 今回も舞奈が片づけてしまったし。

 そんな事を考えた、その時――


「――ん? テックからかな」

 携帯のバイブが着信を告げた。

 テックも明日香と連携して不審者どものアジトを探してくれていたはずだ。

 こんな夜半まで世話をかけるなと少し思う。


『あっ舞奈。そっちはどう?』

「おっテックか。丁度ひと仕事終えたところだ。映ってた5匹とも片づけたぜ」

『……やっぱり複数グループいた』

「ま、そりゃそうか」

 現状報告に対するテックの反応に、やれと肩をすくめてみせる。

 そんな舞奈の予想通り――


『――明日香が不審者グループの襲撃を受けたわ』

 携帯のテックの声は告げた。


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