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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第22章 神になりたかった男
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子猫を守れ!

 林中にある6年生の秘密基地周辺で不審者と巨大シーフードの掃討を首尾よく終わらせた激動の週末の翌週の、変哲のない平日の朝。

 ホームルーム前の教室に登校してきた舞奈は――


「――今朝のニュースよ」

「ん。どれどれ……」

 促されるまま、テックと明日香が見ていたタブレットを覗きこむ。

 早くも次なるトラブルの到来をほのめかされたからだ。


 画面の中の情報窓に表示されているのはネットニュースの記事だ。

 無駄にセンセーショナルな見出しに眉をひそめつつ文面を斜め読みして……


「……不審者やカニの次は犬泥棒か。ここら辺も物騒になったな」

 言いつつ口をへの字に曲げる。

 残念ながら、見出しが派手なだけじゃない本物の厄介事だった。


 舞奈が知らぬうちに、この近辺でペットが狙われる事件が何件か起きていた。

 6年生が秘密基地の周辺で不審者を目撃したのと前後するくらいからか。

 最初は何件かの不審者情報があったらしい。

 だが警察が手をこまねいているうちに、先日とうとう被害が出た。

 犠牲者は外飼いの大型犬だ。

 家主が気づかぬうちに鎖を外されて連れ去られていた。

 ニュースの文面には人の被害じゃなくて幸いだったとあるが、そういう問題じゃないと舞奈は思うし、次はどうだかわからない。


「人に化けた泥人間とかが食ってないだろうな?」

 口をへの字に曲げたまま思いついた事を言ってみた途端、


「あながち間違いでもないかも」

「……まだ何かあるのか?」

「ええ」

 テックはタブレットを操作して別の情報窓を開く。

 そこに表示された文面を再び斜め読んで……


「……ひと目で外国人だって思うってことは、林の奴らとは違うのか」

「おそらく」

 ひとりごちる。


 こちらも不審者情報だった。

 ただしニュースではなくSNSのタイムライン。

 しかも複数の個人アカウントの投稿をまとめたもののようだ。

 そのどれもが、近辺で浅黒い肌の不審者グループを目撃したという内容だ。


 楓たちが林で捕らえた不審者は何処かの高校の球児らしい。

 ご尊顔は舞奈も拝見したが、中身はともかく外面は明確に邦人の子供だった。

 同じ時分に他の場所で外国人の不審者を見た人間が何人もいると言う事は、この近辺を複数の不審者グループが闊歩していたという事になる。

 物騒な事この上ない。


「投稿主が、この近辺の住人なのは確かなのか?」

「たぶん。この時期に同じ不審者の情報を投稿したアカウント同士は無関係。けど別の時分に巣黒市在住であるとわかる投稿を何度もしてる」

「そんな事までわかるのか」

「ええ。Koboldビルの騒動とか、バスの暴走とか、Jokerであずさのイベントがあったとか、ニュースより早く発信できるのは実際に見た人間だけ」

「なるほど。で、そいつらが今度は外国人の不審者について書きこんだって事か」

「ええ」

 テックの捕捉に、舞奈は少し面白くない表情をする。

 そんな事で住んでいる地域を特定できるなら、この情報窓に並んだ投稿者たちは自身の顔と居場所を全世界に知らしめている事になる。

 けっこう不用心な気がするのだが。

 あるいは、そうした事実に気づく者は稀なのか?

 何だか占術や術者の攻防のように底の知れない何かを感じて少し戸惑う。


 だが、それより問題なのは同じ事実に対するニュース記事とSNSの投稿の差。

 ニュースには不審者が外国人だという情報はなかった。

 何と言うか、事件の真相に繋がりそうな情報だけを意図的にピンポイントに隠匿されているようで気に入らない。


 かつて舞奈たちは、四国の一角を滅ぼした人糞舎のひとつを潰した。

 だが報道を装って社会を攪乱させる悪の施設は今も表の社会の方々に君臨して人々を欺き、害し続けているらしい。

 思わず口元を歪め――


「――あるいは例の違法薬物が関係してる可能性もあるわ」

「神の血か」

「ええ」

 明日香の言葉で我に返る。


「犬を連れ去ったのが例の巨大水生生物を生み出した犯人と同じグループだと考えれば、いろいろと辻褄が合わない?」

「まあな」

 続く言葉にうなずいてみせる。

 テックも無言で同意する。

 なるほど舞奈が来るまで話していた内容はそれか。


 何者かが界隈の小動物に神の血とやらを投与しまくってる。

 あるいは魔獣になりそうな生物を探している。

 そう考えれば、秘密基地の不審者、巨大シーフード、ペット泥棒という3つの厄介事の要因を同時に説明できる。


 何故なら以前に埼玉の下水道で遭遇した敵の道士がこぼしていた。

 奴らが持ち出した『神の血』とかいう怪異の違法薬物は、脂虫に投与して異能力を付与するより小動物に投与して魔獣化させる方が成功率が高い、と。

 心の持ちようの問題なのかもしれないと舞奈は思う。

 魔力は術者=使用者の意志を現実にする。

 細かい差異こそあれ、その点だけは術も異能力も、怪異が模した薬物も同じだ。

 要は異能力の付与も魔獣化も、使い手の内なる願いの顕現だ。

 人間に擬態し人間の姿形を取り繕おうとする脂虫に比べ、ある意味で動物は本能に忠実だから本来の姿を容易に捨てるのかもしれない。


 だが今、それより重要なのは違法薬物をばらまく犯人の正体と意図だ。

 それも尋問すら困難な実行犯じゃなく、裏で糸を引く黒幕の。

 この『神の血』とかいう代物は薬物の姿をした怪異だから、犯人も人型の怪異か怪異に与する人間なのだろう。

 何となくWウィルスによって災厄をもたらしたヘルバッハ的な奴を想像する。

 動き方からして、今度の敵も早急に薬物による戦果を上げたいのだろう。

 だが何のために?

 魔獣の軍団でも組織して表の社会を物理的に破壊するつもりか?


 ふと、ピクシオンだった頃に戦ったケルベロスの事を思い出す。

 エンペラーの刺客がけしかけてきた巨大な多頭の犬の魔獣は、一樹の圧倒的な技量と美香の機転によって衛星軌道上から落下させた星によって倒された。

 だが同時に、魔獣のコアになっていた犬は息絶えた。

 当時まだ幼かった舞奈は、号泣する飼い主の少女を見つめるしかできなかった。


「……まったく。ロクな事しやがらねぇな」

 舞奈が嫌そうにひとりごちた、その時――


「――でもさ、そのペット泥棒って、やっぱり志門がやっつけた河童なのかな?」

「……ちょっと待て。誰が何をやっつけたって?」

「えっ? あ、志門」

 登校してきた男子のトークが小耳に入って思わず呼び止める。

 声のトーンがやや低いのは、能天気な声色が少しだけ気に障ったからだ。


「いやその、おはよう……」

「いいから詳しく聞かせろよ。楽しそうな話をしてたじゃないか?」

 戸惑う男子を軽く凄んで口を割らせ、


「だって、ほら、6年の先輩から聞いたぜ!」

「志門おまえ、安倍と2人で秘密基地を襲った河童をやっつけたんだろう?」

「そんな話になってたのか……」

「そうそう。ネクロマンサーのインスマウスみたいな奴だったんだろう?」

「すげーよなー」

「いや、そのゲーム知らないっつったんだが……」

 吐いた情報に舞奈は思わず肩をすくめる。

 隣でテックや明日香も苦笑する。


 以前にテックらが勝負に勝って最新ゲーム機を一週間せしめた例の一件から、男子の一部は6年生を『ゲームを貸してくれた先輩』と認識して慕っているらしい。

 ドッジボールの最中にコートを譲れと凄まれたのも昔の話。

 今は資金力があってきっぷのいい上級生だと思っているのだ。

 先方も子分が増えてまんざらでもない様子。

 リーダー氏、勝負に負けただけなのに。

 あるいは良い負け方は人生を豊かにするものなのかもしれない。


 だもんで男子も先方からいろいろ自慢話を聞かされているのだろう。

 例えば先週末の秘密基地の一件とか。

 奇天烈な話だからと言って疑う理由は男子どもにはない。

 舞奈たちも別に6年生たちに口止めした訳じゃない。

 だが事情を正確に説明した訳でもないので、伝聞の都合でグルカ兵が河童に変化するのも仕方ない。


 そういう意味では先ほどの彼らの言葉も間違いではなかったりするのだろう。

 秘密基地の不審者も河童も犬泥棒も根は同じ。

 要は明日香の推論と同じだ。

 まあ偶然だろうが。

 そう考えると少し可笑しかった。


「……なあ志門。河童が犬なんか捕まえてどうするんだろうな?」

「犬に尻子玉とかあるのか? それとも食うのかな?」

「いや、それをあたしに聞かれても困るんだが」

 続く男子の妄言に思わず苦笑する。

 明日香が(さっき貴女が言ってた事と同じよ)みたいに見てくる。

 テックも特に否定はしない。

 舞奈が肩をすくめながら教室の隅に目を移すと……


「……みゃー子ちゃん、子猫はそうじゃないのー」

「桜さん、ツッコむところが違うのです」

 みゃー子がネコネコ言いながら這い回っていた。

 こちらも何と言うか、相変わらずだ。

 歓談中にからまれたらしい桜と委員長が困惑している。


「オホホ下々の皆さま御機嫌よう! 高貴な西園寺麗華がぎゃあぁっ!?」

「麗華様、落ち着いてください」

「昨日のネコなンす。気に入ったンすかね?」

 ドアをガラリと開けてあらわれた麗華様がネコに驚いて阿鼻叫喚の騒ぎになる。

 取り巻きのデニスとジャネットも慣れた様子で苦笑している。

 男子どもはそっちが気になったらしく、冷やかしながら見物に行った。

 やれやれだ。


……と、まあ、そんなこんなで日中は目立ったトラブルもなく放課後。


 舞奈はひとり、少し早い夕食を兼ねて張の店にやってきた。

 もちろん目的は件のペット泥棒に関する情報だ。


 いちおう先日のシーフードや不審者との関連は明日香の推論でしかない。

 とはいえペット泥棒がそれ単体でも厄介なのも事実。

 舞奈にもペットを飼っている友人は何人かいる。

 学校の警備室にいるルージュ。

 桂木姉妹が飼ってるバースト。

 桜の家のミケや、チャビー宅のネコポチ。

 可愛い猫たちに何かあってから焦って探すよりは先手を打ちたい。

 何故なら舞奈が巻きこまれてきた過去の諸々を踏まえると、考えられる最悪の展開は魔獣マンティコアとの再戦だ。

 それよりはペット泥棒を何匹か叩きのめして穏便に事を収める方がずっと良い。

 そういう皮算用で動くようになったのは、最近の舞奈が無用のトラブルに事欠かさないからだ。まったく。


 それはともかく、界隈で何かあった場合には張に聞くのが最も手っ取り早い。

 人気のない中華料理店を営む彼は、裏の世界の事情に通じた情報屋でもある。

 なので『太賢飯店』の看板を頭上に掲げた建てつけの悪いドアをガラリと開け、


「――ちーっす! 張! 来たぞ!」

「舞奈ちゃん、いらっしゃいアル。今日はカニ玉でもどうアルか?」

(何処からそういう情報を手に入れてやがるんだ)

 冷やかすような張の言葉に苦笑する。

 舞奈と明日香が先週末に巨大シーフードの群を殲滅した件についても張は知っているらしい。情報屋の面目躍如だ。

 だから舞奈はニヤリと口元に笑みを浮かべ、


「だが情報が遅いぜ。今日は巷で話題のペット泥棒について聞きに来たんだ」

「そっちアルか。舞奈ちゃんも大変アルね」

「まあな」

 言いつつ人気のないカウンターの、いつもの席にどっかり座る。

 メニュー表も見ずに「担々麺と餃子」といつもの注文をする。


 こちらも張にとって既知の情報らしい。

 まあニュースになっていたのだから当然だろう。

 しかもトラブルがあったら舞奈が駆り出される事も承知の上だ。

 まったく。


「けどまだニュースに出てた以上の情報はないアルよ。まあ犯人の正体は人間に化けた泥人間か、進行しかけの脂虫だと思うアルが……」

「だろうな」

 言いつつ張は手際よく餃子を焼きながら椀を取り出し担々麺を準備する。

 そんな張の太ましい背中を見やりながら舞奈も苦笑する。


 その泥人間や脂虫は、明日香が睨んだ通りに同一の意図を持っているのか?

 両者の背後に舞奈が危惧したような黒幕がいるのか?

 そんな舞奈が知りたかった情報が張の元に集まるにも時間が必要だ。

 それでも……


「……外飼いの猫に手を出せないから犬を狙ったんじゃないアルかね?」

「あるのかないのかどっちだ……」

 食事の準備をしながらこぼした張に軽口を返しながら少し考えて……


「……そういう事か」

 気づいた。

 張も手早く餃子を裏返しながら、うなずいてみせる。


 なるほど、この界隈の猫は【機関】須黒支部が誇るもうひとりのSランクこと椰子実つばめが牛耳っている。

 彼女は公園の猫にカツアゲされるみたいに餌やりしていたりもする。

 だが、その実態は魔術と呪術を共に極めた大魔道士(アークメイジ)だ。

 街中の猫と意志を疎通し、情報を収集できる。

 そういった『目』を守護する事だって可能だろうと考えるのは自然だ。

 つまり界隈の猫は魔法を使う。

 故に犯人は猫には手を出せない。

 それは破壊と再生を自在に操るとされる大魔道士(アークメイジ)に喧嘩を売るのと同義だ。


 その事実に舞奈より早く張は気づいたらしい。


「はい舞奈ちゃん、出来上がりアルよ」

「おっ! 待ってました!」

 トレイのまま目前に置かれた担々麺の椀から香り立つ湯気と、熱々に焼かれた餃子が並んだ皿を見やって思わず破顔する。

 張も笑う。

 舞奈は小皿に餃子のタレと辣油を注ぎ、箸の先で軽く混ぜる。


 犯人に繋がる直接の情報はなかった。

 だが、ひとまず飼い猫に被害は無さそうだとわかったのは収穫だ。


 なので舞奈は普段通りに供された担々麺と餃子に舌鼓を打ち、普段通りにツケにして張に微妙に嫌な顔をされながら店を後にした。


……と、そんなこんなで翌日。


 昨日と同じように天気のいい平日の朝の、ホームルーム前の教室で――


「――ちーっす……朝から賑やかだな」

「あっ舞奈。おはよう」

「おはよう」

 ドアをガラリと開けて登校してきた舞奈は肩をすくめる。

 テックと明日香が挨拶と一緒に苦笑を返す。


 いくつか机を並べたステージの上で、桜のワンマンショーが開催されていた。

 まったく騒ぎに事欠かさないクラスだ。


 ギャラリーの男子も騒然としている。

 生真面目な委員長が隣で頭を抱えている。


「桜の奴、朝から何をはしゃいでるんだ?」

「それが実は……」

 ちょうど近くの席にいたテックと明日香に問いかける。

 だが2人が答えるより早く――


「――あっ! マイちゃん! 大変なの!」

「そうなの! 桜ちゃんのところのミケちゃんがね……!」

「おまえらも来てたのか。どうしたよ?」

 チャビーと園香が深刻な面持ちで駆け寄ってきた。


「マイちゃんなのー! 聞いて! 大変な事がおこったのー!」

「あっ桜さん!?」

「ちょっ」

 桜も舞奈に気づいて、机を飛び降りて駆け寄ってくる。

 委員長が仰天する

 舞奈も少しビックリする。


 どうやら何かのトラブルを抱えていて、舞奈に訴えれば何とかしてくれると思っているらしい。

 まったく。

 明日香だっているのに。だが、


「下見て降りろよ。危ないだろう」

「それどころじゃないのー」

「わかったわかった。で、何があったよ?」

「カッパがミケをさらいに来たのー」

「何だと?」

 続く桜の言葉に流石の舞奈も驚く。


 ペット泥棒の正体は河童で定着してしまったらしい。

 男子どもはどんな風に触れ回ったのだろうか?


 だがまあ、それは良い。

 問題は、業を煮やしたカッパ野郎が桜の家の外飼いの猫を狙った事だ。

 犬一匹じゃ足りなかったという事か。

 あるいは、もっと大きな計画が舞奈の知らないところで急速に進んでいる?


「桜ちゃんの家にどろぼうが来たんだよ!」

「玄関にいたずらをしていったみたい」

「そうなのー! ド――ン! って、すごく大きな音がして、あわてて見に行ったら玄関から誰かが逃げていくところだったのー!」

 チャビーや園香、桜の話にギャラリーたちも口々に同意する。

 先ほどまでしていた話なのだろう。


「そいつは大変だったな」

 というか物騒な話だと少し顔をしかめる。

 桜の家の安普請にセキュリティ対策なんてものはない。

 人型怪異が本気で狙いを定めたら入りたい放題やりたい放題だ。


 園香もチャビーも不安を隠しきれない表情だ。

 無理もない。

 彼女らの立派な家と桜の家とはセキュリティに雲泥の差があるとはいえ、大きな音を立てる不審者が友人の家にあらわれたと聞いては怖いだろう。

 チャビーの家にも可愛い子猫のネコポチがいる。

 何より2人とも過去に本人が誘拐された経験がある。


「ミケちゃんは無事だそうだから安心して」

「そいつは何より。桜、相手がどんな奴だか覚えてるか?」

「ミケはビックリしただけなのー。あと外人っぽい男の人だったのー」

「顔は見てないのか? っていうか(なに)人だ?」

「逃げてくところだったから見てないのー。でも煙草の臭いがクサかったのー」

「脂虫か……」

「カッパなのー」

 補足する明日香に、友人を不安がらせないよう意識して冷静な口調で問いかける舞奈に、桜も思ったより理性的に答える。

 というか少しウキウキしている。

 傍で聞いている園香やチャビーの方が深刻そうなくらいだ。


 まあ注目されて嬉しいのだろう。

 まったく。

 だがまあ、そんな気分でいられるのもミケに被害がなかったからだ。

 ひとまず胸をなでおろした舞奈に……


「……ねえ舞奈。大きな音って」

「ああ、たぶん正解だ」

 テックがボソリと問いかけてくる。

 舞奈はニヤリと笑って答える。

 明日香も無言で同意。


 音の詳細を詳しく問いただしても「ドーン」以上の答えはないだろう。

 桜に物音をそれ以上に分析する知見はない。

 だが舞奈は、それが泥棒の悪戯などではないと気づいた。

 おそらく何らかの攻撃魔法(エヴォケーション)だ。

 テックや明日香の見解も同じらしい。


 何故なら、この界隈の猫は椰子実つばめの庇護下にある。

 つばめはケルト魔術と呪術を極めた大魔道士(アークメイジ)だ。

 紅葉のように猫と意思を疎通し、その上で猫を通して術を行使するくらいはお手の物なのだろう。


 ぼやや落雷の話が出ないと言う事は風の魔術か呪術でも使ったか?

 ヘルバッハが使った【爆裂衝球(コンカッション)】【風精の防殻(エアリアル・シェル)】の魔術。

 あるいはクラフターみたいな【刃の疾風(ブレード・ウィンド)】【旋風の守護者ガード・オブ・ウィンド】の呪術。

 それらを駆使するだけでも依り代である猫そのものだけでなく、猫の住処である桜の家や住人を守る事が可能だ。張の慧眼が早くも証明された。


 そして、そういう状況を歓迎する理由が舞奈には2つある。


 ひとつは、もちろん猫や桜たちの安全が確保された事。


 もうひとつは術を発動したミケの目を通じて、つばめが犯人の顔を見ている可能性が高いという事。聞いたら教えてくれるだろう。

 そうなれば防戦一方に陥らずに犯人を探して捕獲なり排除なりできる。

 マスコミや警察が何を隠そうが何もしなかろうが、犯人が物理的にいなくなれば今回の悶着も早々にカタがつく。

 なので……


「……しゃーない。そのカッパ野郎、あたしがひっ捕まえてやるよ」

「さっすがマイちゃんなのー!」

「マイすごい!」

「ふふ、マイちゃんがついていてくれれば心強いね」

 不安そうな友人たちを勇気づけるように、舞奈はニヤリと笑って宣言した。


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