表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第22章 神になりたかった男
573/578

魚心あれば水心とかいろいろ

 楓と紅葉が高校球児に扮した不審者を、舞奈と明日香が巨大シーフードを倒して小6たちの秘密基地を守り抜いた楽しい週末が明けた月曜日。

 気持ちの良い青空に白い雲がたゆたう早朝。

 校門横の警備室で……


「……そんな事情だったんですね。お疲れ様です」

「ハハッ! 娑も一番楽しいところに出遅れて残念がってましたよ」

「いや楽しかねーよ」

 舞奈は疲れた感じで警備員たちと歓談していた。

 先日の件は2人とも現地に出向いた別チームから聞いていたらしい。


 普段通りに舞奈の得物(ジェリコ941)を預かって保管庫に仕舞ってくれた金髪美女のクレアは礼儀正しく労ってくれるのだが、呑気に猫と遊んでいたベティの反応はこの通り。

 警備員室で飼ってる子猫のルージュが「なぁー」と鳴く。

 遊んでいると思われてるのだろう。

 大きな浅黒い手にじゃれついてくる子猫をあやしながらニコニコ笑う長身で丸顔の面白黒人をジト目で見やりながら、


「ったく、呑気で羨ましいぜ」

 舞奈はやれやれと苦笑する。


 6年生の取り巻きに頼まれて不審者の捜索に駆けつけた別チームの警備員2人。

 屈強を通り越して巨大なモールと底の知れない娑が林に到着した時には、だが不審者どもは楓たちに叩きのめされ縛りあげられて転がされていた。

 舞奈たちも巨大シーフードを片づけた後だった。

 なので2人の仕事は不審者をモールが5匹まとめてかついで林の外まで運び、警察に引き渡す事だけだった。


「しばらくは娑やモールがおこぼれ欲しさにうろつき回るはずっすから、あそこら辺もちょっとは安全になるんじゃないすかね」

「ヒマなのかあいつらは。……まあ有り難いが」

 楽しそうに続いた言葉に再び苦笑。

 子猫も釣られて「なー」と鳴く。


 だがまあ、こぼした言葉も本心だ。

 あの2人(というか娑)は週末の個人戦績に不満があるらしい。

 (シャ)は学校で警備員をするための偽名で、他の場所では(シャ)だそうな。

 要は殺しが好きなのだ。

 なので別の日に仲間の脂虫が来ないか現地を見張るつもりなのだろう。

 まったく。


 それでも学園の警備をまかされた警備員がオフで界隈を巡回してくれれば、脂虫による被害が未然に防がれる公算が高まるのも事実。

 小学生が秘密基地を作って出入りしている現状では頼もしい限りではある。

 何故なら舞奈は埼玉の一角で、自分がいない場所で大事な仲間を失った。

 同じ事が、彼と同じように諍いをきっかけに関係を深め、今では多少は気心も知れた小6たちの身に降りかかる危険は減らしたい。

 だが、そんな本音を同じように気心の知れた面白黒人に知られるのも癪なので、


「小学生を、あんまり怖がらせてやらんでくれよ」

「ハハッ! 伝えておくっすよ」

 苦笑まじりに言いつつ浅黒い丸顔を見上げた途端――


「――あら志門さん、おはよう。今日も楽しそうね」

「ちっす。……って、あんたか。どう楽しそうに見えたんだ?」

 声をかけられた。

 見やるとムクロザキだったので、思わず声のトーンが下がる。


 高等部教師のムクロザキ先生は整った顔立ちをした妙齢の美人だ。

 長い艶やかな黒髪をなびかせ、片目が隠れる長い前髪は教師として如何なものかはともかくとしてスタイルはバツグンで見栄えもする。

 バストも大きく形も良い。

 そんな百点満点な容姿に反し、彼女は舞奈に厄介事をふっかけてくる疫病神だ。

 先日のブラボーちゃん事件の発端だってこいつだ。


「まあ丁度良いや。ひとつ聞きたい事があるんだが」

「あら、なあに?」

(っていうかあんたこそ不自然に笑ってないか? また何かやらかしたのか?)

 舞奈は彼女の無意味に楽しげな笑顔に根拠のない猜疑心をかき立てられながら、


「あんた、カニとかエビとかデカい貝とか飼ってないか? そんでもって、林の中の川に捨てたりとかしなかったか?」

 問いかけてみる。


 件の巨大シーフードの件、明日香は上流で何かを散布されたと疑っていた。

 だが舞奈はもうひとつの可能性を危惧していた。

 つまりムクロザキが生物室で飼っている危険生物のうち何匹かが『また』逃げ出して林中に潜んでいたのではないかという嫌疑だ。

 まあ水中生物なんか流石に飼っていないだろうが、確認する必要はある。

 そう舞奈は思っていた。

 何故なら相手はムクロザキだから。

 信頼と同じように、不信も日々の積み重ねで深まっていく。

 そんな舞奈の心中など知らぬ様子で……


「……エビや貝はともかく大きなカニちゃんはいるけど……お外に捨ててなんかいないわよ? 昨日も水槽の中で元気に餌を食べてたし」

「そうかい」

 妙齢の女教師はいけしゃあしゃあと答える。

 わざとらしく可愛らしい仕草が微妙にイラつく。


(何故『昨日』確認したという証言が無実の証明になると思った?)

(林中での一件が『一昨日』の事だと知っていたのか?)

(なんで今『昨日』ってゆった?)

 そんな割と理不尽めな疑念を胸中に押さえつけながら、


「良かったら見に来る?」

「いらん。デカいカニなら腹いっぱい拝見したんでな」

「あら残念」

 にこやかなムクロザキの答えを背中でつっぱねる。

 無意味に楽しそうなムクロザキの整った顔を意図的に見ないようにしながら、


「あらそうだわ! 志門さん!」

「なんだよ?」

「そんな珍しいくらい大きなカニを見つけたなら、暇な時にでも――」

「――もう逃げてどっか行っちまったよ!」

 別の面倒事を押しつけられないうちに警備員室を後にする。

 ムクロザキの道楽に付き合うような暇な時はない。


 そのまま校門から押し寄せる人の波に乗りつつ初等部の校舎へ向かう。


 そしてホームルーム前の教室で――


「――ちーっす」

「あら、おはよう」

「おはよう舞奈」

 ガラリとドアを開けた出会い頭にテックと明日香に挨拶する。

 テックは自席で明日香と何やら話しこんでいたらしい。


「朝から揃って、面白い事でもあったのか?」

「面白いって言うか、そっちこそ週末はずいぶん楽しんだみたいね」

「……誰だよそんな出鱈目を吹きこんだ奴は」

 思わず尋ねたテックの返しに苦笑する。

 珍しく明日香の方が手にした携帯を2人で見ていたのだ。

 なので舞奈も覗きこみ……


「……そんなものを撮ってやがったのか」

 画面を見やって苦笑する。


 動画だ。

 見知った川辺を背景にして、適当な構図なのに臨場感だけはたっぷりに巨大カニやエビや貝が手前ににじり寄ってきている。

 舞奈が巨大カニの相手をしている間、明日香は動画を撮影していたらしい。

 前衛を舞奈にまかせて十分に撮れたと判断してから、自分も手を出したのだ。

 支部への報告のための証拠のつもりだろうか?

 なんとも便利な時代になったものだ。


「まるでサメ映画ね」

「ノンフィクションだ。残念な事にな」

 ボソリと漏れたテックの忌憚ない意見に思わず苦笑する。

 シュールな絵面に見えるとは舞奈も思う。

 同時に楓がリーダー氏ややんすを相手に披露した「こいつらは不審者が変装したグルカ兵」という与太は何処まで本当の事になるのか少し気になった。


「そうそう。ムクロザキはシロみたいだぜ」

「でしょうね」

「このカニもエビも種類そのものは国内に普通にいる種類だから、黒崎先生が興味を持って飼ったりはしないと思う」

「まあ、言われてみればそうか」

 言ってみた明日香とテックの反応に、まあ納得。


 舞奈が見て美味しそうだと思ったような代物だ。

 ムクロザキの趣味とは違うと言われれば納得もできる。

 だが先ほど校門前でムクロザキに対して失礼な対応をしたとは思わない。

 あいつは疑われても仕方のない奴だ!

 そんな事を考えながら舞奈が遠い目をし、明日香とテックが訝しんでいると――


「――あっ。安部さん、みんなもおはよう」

「ちっす」

「おはよう槙村さん」

「おはよう」

 再びドアがガラリと開いて、今度は音々がやってきた。

 朝から机に寄り合って何やらしていた舞奈たち3人に興味を引かれ、


「3人とも何を見てるの?」

 揃って見ていた携帯が気になったのか覗きこみ……


「……自主作成映画?」

「……ギャラは練り餌になるのかな?」

 少し意外そうに声をあげた音々に舞奈は苦笑する。


 まあリーダー氏より常識がありそうな音々の目から見ても扮装に見えるのだ。

 楓の与太もあんがい理に適っていたのかもしれない。

 そんな舞奈の思惑を他所に……


「……で、6年生たちはどうするの?」

「どうするって、何がだ?」

「秘密基地。付近に不審者がうろついてて、その……映画の撮影までしてたんでしょう? そのまま使うの?」

 テックが問いかけてくる。

 微妙に音々に気を使いながら。


 まあ、こちらの疑問ももっともだ。

 何せ不審者を警戒して見回った秘密基地周辺で本当に不審者を発見して5匹ほど確保。同じ時分に近くの川で変装した不審者が襲ってきた。

 そういう場所だとわかったら、林には二度と近づかないのではないか?

 そう思うのも無理はない。


 だが舞奈は午後から行われた戦勝パーティーの席で、リーダー氏や6年生の皆から今後の彼らの活動指針と秘密基地の扱いも聞いていた。

 なので――


「――らしいぜ。今日も遊びに行くらしい」

「強いわね」

「まあな」

 今度は舞奈の答えにテックが苦笑する。

 やんすが機転を利かせて雇った用心棒が首尾よく不審者をボコした事で、彼らの団結と秘密基地への愛着はより強まったらしい。

 まあ仲睦まじくて良い事ではある。


「でもまあ、モールと娑が自主的に巡回するらしいし、シスターも彼らとの連絡を密にして警戒はしてくれるそうだから危険は少ないと思うわ」

「ならいいけど」

 続く明日香とテックの謎の会話に、事情を知らない音々が少し首をかしげる。


「あっマイちゃん。みんなもおはよう」

「おはよー。あっなに見てるの?」

 今度は園香とチャビーがやってきた。

 そろそろホームルームの時間も近いので、生徒も揃い始めてきた。


「大将さんとやんすさんが言ってた不審者?」

「まあな……」

「凄く上手に出来てるね。テレビのヒーロー番組みたい」

「え、ええ。わたしもそう思うわ……」

「特撮だね」

「ああ、それそれ」

 素直な感想に明日香や音々ともども誤魔化すように答え、


「この前に行った川だよね? また行ったら見れるかな?」

「……行くなら大人に声かけてってくれよ。あの辺りに警備員どもがうろついてるらしいし、何ならシスターにでもいいから」

「はーい!」

 無邪気なチャビーにやれやれと答える。


 そのように舞奈の月曜日は週末とは真逆に平和に過ぎていった。


 そして放課後。

 普段通りに下校した2人は【機関】支部にやってきた。


 昨日の件について、報告の義務はあると思ったからだ。

 脂虫がうろついていた件もそうだし、何より巨大シーフードどもについて。

 何せ魔力感知に反応した、明らかに術か怪異の影響としか思えない巨大生物だ。

 しかも明日香の見立てでは、外部の何者かの差し金によって。

 場合によっては執行人(エージェント)仕事人(トラブルシューター)の出番になると警戒しないようでは、少しばかり危機意識が足りないと言われても仕方がない。


「ちーっす」

「こんにちは」

「あら舞奈ちゃん、明日香ちゃん、いらっしゃ~い。技術担当官(マイスター)なら会議室にいるよ~」

「さんきゅっ」

 受付嬢に流れるように会議室に案内されて、


「おお舞奈ちん、明日香ちんも、どうしたのかね?」

 出向いた先では、こちらも暇なのかニュットが油を売っていた。

 フィクサーはいなかった。

 埼玉の一件が片付いたばかりなので、須黒支部の調整役としてはいろいろと事後処理が必要なのだろう。


「ひょっとして土曜日に林に出向いた件ですか?」

「まあな」

 代わりにソォナムがいた。

 須黒支部の有能な占術士(ディビナー)でもある彼女だが、事務官ではないので事が終わって実力による情報収集の必要がなくなるといきなり余裕ができるらしい。


 だが事情を話して明日香が2人に携帯の写真を見せた途端……


「……合成写真だかね?」

「フェイク作って偽の報告して、あたしに何のメリットがあるよ?」

「…………」

 糸目は疑わしそうに見やってきた。

 対して舞奈は明日香ともども睨んでみせる。


「でも中に人が入っていると言われてギリギリ納得できるサイズですよね。紅葉さんが初等部の子たちに不審者の扮装だと説明したのは慧眼でした」

 ソォナムがにこやかにフォローする。

 こちらもヤラセ写真にしか見えないと言っている事実は変わらないが、チベットからの留学生は善意でしかものを言わないと知っている舞奈は気にしない。

 あと気を使って発言してるのもわかるし。

 信頼というものは日々の言動の積み重ねだ。


「水質調査が必要かもしれんのだな」

「川のか?」

「うむ。昼間に楓ちんから話を聞いて【組合(C∴S∴C∴)】に報告したところ、先方が気になった様子だったのだよ」

(この野郎……!)

 知っててガセ呼ばわりかよ。

 何食わぬ表情のまま言った糸目を再び睨みつける。

 糸目は微妙に視線をそらす。


 だが、まあ話そのものはわからんでもない。

 件の林は奥地でブラボーちゃんが巨大な魔獣になった場所だ。

 界隈の術や術者を統括する【組合(C∴S∴C∴)】としては気になる場所ではあるのだろう。


 加えて先日に明日香も言っていたが、あの量の水生生物をまとめて中途半端な魔獣に転化させるには、川の水に何かするのが最も手っ取り早い。

 ムクロザキの嫌疑が晴れた今、舞奈もそれ以外の可能性を思いつかない。

 だから【組合(C∴S∴C∴)】の術者が調査してくれるなら願ったり叶ったりではある。


「6年生を脅かさんでくれよ。近くに奴らの秘密基地があるんだ」

「それは問題ないのだよ。出向くのはハニエル氏なのだ」

「いやそれは別の意味で心配なんだが……」

 あいつ全裸なんだよなあ。

 続く糸目の言葉に苦笑しつつ……


「……そういやあ、楓さんたちが捕まえた脂虫どもは何か言ってたのか?」

 尋ねてみる。


 舞奈的にはカニやエビが魔獣に転化した原因そのものより、水源に余計な悪戯をした奴の正体が知りたい。

 魔法的な原理はともかく、誰かが悪さをしなければ厄介事は起きない。

 今後のトラブルを防ぐためには原因を突き止めて断つのが肝要だ。


 そして川に何かを撒いた奴がいるのなら、現時点で最も疑わしいのが近くで確保された脂虫の不審者だ。

 やんすの話によると、奴らは前日にも林に来ていた。

 というか、そのせいで舞奈たちが林に出向く事になった。

 その際に奴らは林の奥の方に行っていたらしい。

 そこで何をしていたかを聞き出せれば疑問の多くが解消されるはずだ。


 そして捕まえた5匹はモールが警察に引き渡したという話だが、その気になれば何匹かちょろまかして支部で尋問するくらいはするだろう。

 特に【組合(C∴S∴C∴)】が出張ってくるような案件では。

 そう思った舞奈だが……


「これが尋問の様子なのですが……」

 ソォナムが取り出し、再生させたレコーダーから……


『……女は嫌だ! 男を出せ! しゃぶらせろ! しゃぶれ!』

『正座してしゃぶれ! バッターアウト!』

「……何だこりゃ?」

「えぇ……」

 漏れだした妄言に舞奈は思わずレコーダーをジト目で見やる。

 泥酔した酔っ払いでももう少し理性的なんじゃないかと思える、まるで野獣のような品の無さ。

 しかもそれを止まる事無くまくしたて続けているのだ。

 あまりのアレさに隣の明日香も絶句する。

 何故かソォナムが申し訳なさそうな表情をする。


「確保されたのは、広島の口淫高校の野球部の面々なのだよ……」

「んな事は聞いてねぇ……」

 糸目の補足に、舞奈も疲れたようなジト目を返す。


 だが流石のニュットも今回ばかりは舞奈たちと一緒に困惑する側だ。

 尋問の間中ずっとこれだったのなら、情報なんか得られるはずもない。


「5匹のうち、こちらの取り分は2匹だけだったでな……」

 言い訳がましくニュットは言うが、それでも普通なら信じられないような外交上の手管を駆使したのだと舞奈にすらわかる。

 何せ確保された不審者を警察から貰ってきたのだ。

 だが、その結果がこれでは糸目もくたびれ損だ。


「ハズレを引かされたんじゃないのか?」

「あちしもそう思ったのだか、先方もだいたい似た感じだったのでな……」

「お巡りさんも大変だな」

「楓さんと紅葉さんが遭遇した時からこんなだったらしく……」

「お、おう……」

 問いに対するニュットとソォナムの情報に舞奈も困る。

 隣で明日香も無言で困る。


 つまり最初から狂った集団が送りこまれてきた?

 捕まる事が前提だったとして、首謀者が別にいたとすれば、そいつは中々の切れ者だ。顔を見たら一発ぶん殴ってやりたい。


「いちおう違法薬物の使用済みアンプルが押収されたそうですが……」

「使った相手が自分なのかカニなのかもわからないと」

「はい。いちおう全員が陽性だったそうですが……」

「そうですか……」

 取りつく島もない状況に明日香とソォナムが揃って困り果てる。

 尋問による手がかり、なし。


 いちおう夜子の【心臓占い(ヨロナワティリ)】という最強の諜報手段もあるにはあるが、それすら何を聞けばいいかすら判断できない状況で行使しても心臓の潰し損だ。

 ソォナムの占術でも同じだろう。

 つまり林中に不審者と巨大なカニがいた事実以外、すべてが謎。

 なんとも納得のいかない結末ではある。


 だがわからないものは仕方がないのも事実。

 なので4人はソォナムが用意してくれた茶と茶菓子をいただきながら、憶測とも雑談ともつかないトークで時間を潰した。

 その後に舞奈も明日香も支部を後にして帰宅した。


 そして翌日――


「――ちーっす」

 林の小川の件をどうしたものかと考えつつも、何食わぬ調子で登校した舞奈。

 まあ実際はどうしようもないのだが。


「カニカニカニ~~♪」

「ギャー! カニですわ!」

 教室の後ろでは相も変わらず麗華様が大騒ぎしている。

 今日は妙なゼスチャーをしながらカニカニ追いかけてくるみゃー子から逃げまどっているらしい。

 まったく、いつも平和そうで羨ましい。


「クモクモクモ~~♪」

「ギャー! クモですわ!」

「こネコネコネコ~~♪」

「ギャー! 猫ですわ!」」

「落ち着いてください麗華様」

「子猫は可愛いンす」

 取り巻きのデニスとジャネットも思わず苦笑い。

 ぽつりぽつりと登校してきたギャラリーの男子が一緒に見物している。

 舞奈はやれやれと苦笑しながら麗華様ワンマンショーから目を離し――


「――朝から揃って、面白い事でもあったのか?」

 テックに気づいて挨拶する。

 今日も自席で明日香とタブレットか何かを見ながら話していたのだ。

 だが2人は少しばかり面白くなさそうな表情で顔を上げ――


「――残念ながら、どっちかっていうと逆よ」

「どういう事だ?」

「実は……」

 低い声色で話し始めた。

 早くも次のトラブルがやってきたらしい。

 やれやれだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ