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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第22章 神になりたかった男
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依頼1 ~秘密基地周辺の調査

 よく晴れた平日の休憩時間。

 初等部校舎の、5年生の生徒が行き交う廊下の隅で……


「……そんなところに秘密基地を作ってたのか」

「そうでやんす」

「まあ人通りは少ないですし小学生の秘密基地にうってつけだとは思いますが」

「知ってる場所でやんすか?」

「ええ、まあ……」

 6年女子のやんすの話を聞いて舞奈は苦笑する。

 隣の明日香も珍しく舞奈と同じ反応をする。


 埼玉の一角での一連の事件にキリがついてのんびりしていた舞奈と明日香は、6年生のリーダーの取り巻きのひとりに呼び出された。

 料理対決でもお世話になったやんす氏だ。

 なので2人は、折り入って相談があるという彼女の話を聞いていた。


 事の起こりは彼女ら、彼らの秘密基地らしい。

 大柄なリーダー率いる6年生たちは、それをよりによって教会の近くの林中に作っていたのだそうな。

 つまり新開発区の近くの林。

 以前に奥地で巨大なブラボーちゃんと戦った、あの林である……。


「で、昨日そこに行く途中で不審者を見かけたでやんす」

「不審者だと?」

「そうでやんすよ。胡散臭い感じの複数の男が何かをしていたでやんす」

「煙草は?」

「吸ってたでやんすよ。クサかったでやんす」

 やんすの話に舞奈と明日香は目を細め、


「おおい。そいつらと、ご対面した訳じゃないだろうな?」

「それは大丈夫だったでやんす」

 続く話に少し安堵する。


 その林は以前に園香たちがツチノコ探しに行って脂虫に襲われた場所でもある。

 未就学児~5年生女子で編成された捜索隊は偶然に居合わせた悪魔術師の萩山に助けられて事なきを得た。

 自力では対処は不可能だった。

 それが6年生の男女であっても同じだっただろう。

 万が一にも複数匹の脂虫とやらに絡まれ、誰も偶然に居合わせなければ、少しばかり厄介な事件になっていた可能性もないではない。

 例えば埼玉の件で着任早々に起きた胸糞悪い事件のような。


 まったく。

 あの林は子供やトラブルを呼び寄せる何かがあるのだろうか?

 近くの人か責任者に何か対策をしてもらったほうが良いかもしれない。


「そいつらはあっしたちに気づかずに行ってしまったでやんす」

「行ったって何処へ?」

「うーん。奥のほうでやんすかね。あっしたちの基地とは別の方向でやんす」

「なら良いが……」

 話の中の不審者どもが行ってしまって一安心。

 だが表情に出すのは気恥ずかしいので、面倒そうに口をへの字に曲げてみせる。

 そもそも怖かった以上の人的被害とかはなかったのは彼女の様子でわかる。


 脂虫なんかが林の奥に何の用事があったのかが気にはなる。

 小学生みたいに根城でも作って悪さを企んでいるのだろうか?

 だが、それを今ここで話を遮って話題にしても良い事はなにもない。

 なので頭の中のメモに記すに留める。

 すると代わりに、


「その後、皆さんは引き返したんですか?」

「いんや? そのまま基地に行ってくつろいだでやんす。でも不審者の事が頭にちらついて怖かったでやんす……」

「そういう場合はすぐに引き返して大人に知らせてください」

「ひぃっ!? め、面目ないでやんす……」

 明日香が文句をつけだした。


「……凄むなよ」

「だって……」

 首をすくめるやんすを見やりながら苦笑する。


 まあ明日香も悪気があって睨んだ訳じゃない。

 これでも、やんす達の身を案じているのだ。


 だが彼女ら、彼らだって、別に人様に迷惑をかけたくて不審者を無視して遊んでいた訳じゃないだろう。

 そもそも普通の小学生は、その手の危険に対する対処の方法を知らない。

 何故なら、そんな危険への対処法も心構えも学校では習わない。

 身に着ける機会も普通はない。

 たぶん大柄なリーダー氏にも集団のトップとしての意地があるのだろう。

 怖いから帰ろう、とは言い出せなかったはずだ。

 命の危険に粛々と対処できる舞奈や明日香が普通じゃないのだ。


 何はともあれ、皆が無事に帰ってこられて良かったと思う。

 そして今回のやんすの話の行き先にも見当はついた。


「つまり、あんたの頼み事っていうのは、秘密基地の安全確保か?」

「そうでやんす。でも、できれば大将には知られないようにしてほしいでやんす」

「それで、あんたがひとりで来たのか」

「無理でやんすか……?」

「いや、無理って事はないがな」

 眉をへの字に曲げるやんすをなだめるように意図的に穏やかな声色で答える。

 明日香も今度ばかりは凄んだりしない。


 どちらにせよ彼女の依頼は引き受けるつもりだったのだ。

 それが彼女ら、彼らにとっては本人が認識している以上に深刻な、だが舞奈や明日香なら容易に対処可能なトラブルならなおの事。

 なので――


「――よし、わかった。ちょっくら行って見てきてやるよ」

「ありがとうでやんす!」

 不敵な笑みを浮かべて答える。


「それじゃあ、お願いするでやんすー」

「ご吉報をお待ちくださいー」

 やんすは安堵を隠そうともせずに、何度もお辞儀をしながら去っていく。

 明日香は柄にもなくのんびり手を振って見送る。

 舞奈もそうしたい気分だった。

 何というか、ものすごく新鮮な反応な気がしたからだ。


 舞奈や明日香が普段から折衝している大人たちは、常人なら何度か死ぬような戦場に舞奈たちを送りこむ算段を平気でする。

 まあ最強Sランクの舞奈たちが平気で仕事をこなして帰ってくるからなのだが。

 そういった環境に慣れていると、たかだか不審者の集団を調べるくらいの頼まれ事で世界が救われたみたいな反応をされるのは気分がいい。

 なので明日香と並んでニヤニヤしていると……


「……あっマイちゃん。やんすさんとお話してたの?」

「まあ、ちょっとな」

 園香が戻ってきた。

 担任に頼まれてプリントを運んでいたのだ。


 先日の料理対決で互いの技量を称え合って以来、園香はやんす氏に好印象を抱いているようだ。

 そうやって小学生は友達の輪を広げていく。

 良い事だ。


 それに園香はブラボーちゃん探しの際に件の林に一緒に行った事がある。

 楽しいピクニックの前半戦は川で遊んだり弁当を食べたりと皆でワイワイ盛り上がったから、園香もチャビーと一緒にまた行きたいと思っているかもしれない。


 だがピクニックの後半戦は巨大になったブラボーちゃんとの激闘だった。

 梢やレイン、キャロルや巨大なイエティまで駆り出て別の意味で盛り上がった。

 なので舞奈としては同じ場所に誘うのは気が引ける。

 ご両親に何度も心労をかけるのも忍びないし。

 なので――


「――また料理の作り合いしようってさ。今度は勝負でなしに」

「わっ。楽しそうだ。お食事会だね」

 舞奈は適当な返事を返した。

 まあやんすじゃなくて舞奈がやりたいだけなのだが。

 そんな舞奈と園香の横で、明日香がやれやれと肩をすくめた。


 そして放課後。

 明日香と共にサチの屋敷を訪れた舞奈は……


「……という事があったんだよ」

「舞奈ちゃんたちは本当にトラブルに困らないわね」

「別にやんすたちの秘密基地も、不審者とやらも、あたしの落ち度じゃないつもりなんだがな」

「褒めてるのよ?」

「そうだったのか……」

 小夜子の返しに思わず口をへの字に曲げる。

 まったく、舞奈の知人は揃いも揃って舞奈をトラブルの王様みたいに扱う。


 湯飲みに注がれた熱い茶をずずっとすすり、茶菓子をつまむ。

 庭でこけおどしがタンと鳴る。

 放課後にこうするのは久しぶりだ。

 先日までは毎日のよう埼玉くんだりまで通っていたからだ。


 6年生からちょっとした依頼を引き受けたとはいえ、大きな仕事を終えた後で舞奈の気持ちに余裕がある事実は変わらない。

 なので学校帰りに時間を潰しがてら件の頼まれ事について話していたのだ。

 余裕があるので、失礼な反応に対して特にどうこう言うつもりもない。

 別に2人を誘う意図もない。

 今回は一般人の護衛対象がいる訳でもないし、護衛対象の親御さんから条件を出されている訳でもない。なので――


「――で、どうするの?」

「どうって、週末にでも明日香と2人でピューっと行って見回ってくるよ」

 サチの問いに、何食わぬ表情で答えてみせる。


 それが最も手っ取り早い。

 気持ちに余裕があるからといって、楽にできる仕事に余計な手間を加える趣味はない。


「変な奴がいたら片づけて支部に引き渡して、何も見つからなきゃたまたま人が通りがかったんだろうって答えるだけさ」

「……そう上手くいけばいいけど」

「おおい、不安になるような事を言わないでくれよ」

 気楽に言った途端に返された言葉に言葉に、思わず眉をへの字に曲げる。

 ネガティブな小夜子の面目躍如だ。

 気をまぎらわせるために茶でも飲もうと湯飲みを手に取って――


「――聞いてやがるな?」

「は?」

 舞奈は唐突に湯飲みを睨みつけた。

 いきなり湯飲みと喧嘩を始めた舞奈に明日香が冷たい視線を向ける。


「……何やってるのよ?」

「舞奈ちゃん? 嫌ならわたしたちも付き合うわよ?」

 小夜子とサチもちょっと困った表情で見やる。

 何か気に入らない事があって癇癪を起したと思われたらしい。

 まったく。

 みゃー子の奇行を見るみたいな扱いに舞奈が口をへの字に曲げた途端……


『……おや、気づかれてしまいましたか』

 湯飲みが喋った。

 これには皆もビックリ。

 舞奈の「ほら見ろ」という言葉に反応する余裕もない。


 ピンポーン!


「はーい」

 呼び鈴が鳴ってサチが出迎えに行って……


「……ごめんね舞奈ちゃん、紅葉ちゃんが【水の言葉(メデト・ネン・ジェト)】を使ってたんだって」

「やあ、こんにちは」

「今日もみなさんお揃いですね」

 サチに連れられ桂木姉妹がやってきた。


「よく気づいたなあ、舞奈ちゃん」

「紅葉さんも、姉ちゃんの狂言に唯々諾々と従ってないで嫌がるとか説教するとかしてくれ」

 涼しい顔で称えてくる紅葉を見やって口をへの字に曲げる。


 水を使って音を伝える【水の言葉(メデト・ネン・ジェト)】の呪術。

 手元にある液体と目標地点にある液体を魔法的に繋げて音を伝達させる。

 水と大地と空気を操るウアブ呪術師が得手とする魔法的な通信手段だ。

 それを使って外から部屋の中の会話を聞いていたのだ。

 こいつらは前にも同じ事をやった。

 術者は紅葉だが首謀者は楓だ。


「手札を知ってると気配や雰囲気でわかるんだよ」

 余計な悪戯をされたせいでされなくていい白眼視をされはしたが、いつまでも気分を害していても仕方がないのでネタばらし。

 サチだけは詫びてくれたし。

 サチだけは。


「これ、本来は双方向で音を伝える術だろう?」

 言った途端に、


「流石は舞奈さん」

「……ったくあんたは」

「おや? 褒めてるんですよ?」

「そうかい」

 いけしゃあしゃあと楓が答えた。

 罪悪感なんか微塵も感じさせないにこやかな笑顔で。

 舞奈は思わず睨みつける。


 無言の抗議に対する反応も含めて色々と言いたい事はあるが、それは……もういい。今日の舞奈は余裕がある。

 何故なら大きなトラブルのない日常なんて久しぶりだ。

 次の厄介事が降ってくる前の精神的に余裕がある期間には余裕を楽しみたい。

 そうする権利くらいはあるはずだ。

 そう考えて、ふと気づき……


「……で、あたしの話に気になる事でもあったのか?」

「いやね、実はわたしも同じ事を頼まれてたんだ」

「同じ事?」

 尋ねてみる。


 先ほどは盗み聞きの最中に驚くか何かしたのだろうと思った。

 そのせいで魔法的な隙ができたのだろうと。

 舞奈に魔法を応用する原理はわからないが、【水の言葉(メデト・ネン・ジェト)】は双方向に音を伝える術の片方に蓋をして諜報に使う術らしい。

 油断すると蓋がゆるんで向こうの音の欠片なりがこちらに伝わりそうではある。


 だが返ってきた紅葉の言葉に、逆に舞奈が首をかしげる。

 紅葉は気にせず話を続ける。


「友達の妹さんが秘密基地を作ってて、その近辺で不審者を見かけたって相談されてたんだ」

「教会の近くの林でか?」

「ああ」

「大人気じゃないか。あの森に子供を引きつける何があるんだ?」

 続く言葉に、大仰に肩をすくめてみせる。

 隣で明日香も苦笑する。


 複数のグループが同じ林に秘密基地を作って同じ不審者を目撃したと考えるよりは、目撃者本人と紅葉の話の友人の妹が同一人物だと考える方が自然だ。

 つまり舞奈はやんすから、紅葉はやんすの姉から同じ相談を受けたのだろう。


 それは良いとして、やんすの姉か……。

 どんな人物なんだろう……?

 やんすと同じ眼鏡がいっぱいいる絵面とかを想像して苦笑する舞奈に、


「そういう訳だから、その調査にわたしたちも同行しても構わないかな?」

「まあ人手が多くて困る事はないが……」

 紅葉はさわやかな笑顔で申し出る。

 舞奈は少し考える。


 紅葉は文武に秀でたウアブ呪術師。

 楓も普段の態度はこんなだが熟達したウアブ魔術師だ。

 荒事に際してこれほど頼りになる味方もいない。


 だが正直、今回の頼まれ事にそこまで大層な戦力が必要だとは思えない。

 小学生をビックリさせた不審者とやらを探して、必要とあれば始末するだけだ。

 話を聞く限り所詮は脂虫の集団。

 ブラボーちゃんみたいに巨大化するとも思えない。

 楓は隙あらば脂虫を叩きのめしたくて同行するつもりなのだろうが、来てくれても退屈させる公算のほうが高い気がする。


 だが、まあ紅葉が友人のためにひと肌脱ごうと言っているのだ。

 快く同行してもらっても誰も損はしないだろう。

 勝手な期待をした楓が落胆するのは自業自得だし。


……と、そのように週末の不審者探しには桂木姉妹も同行する事になった。


 その流れで結構も今週末に決まった。

 ブラボーちゃん探しの時に比べると順調な滑り出しだ。


 なので翌日の休憩時間に……


「……それらしい不審者の情報は警察にはないみたいね」

「ま、流石にそこまで上手くはいかんか」

 タブレットから顔を上げたテックに、舞奈はやれやれと笑ってみせる。


 気分がいいせいか頭も冴えた舞奈は、スーパーハッカーのテックに地元警察のデータベースを調べてもらおうと思い立ったのだ。

 いちおう件の林もその近辺も、街の不審者情報は本来なら警察の管轄だ。

 そこに何らかの情報があれば相手の目星もつけやすいと思った。

 あるいは昨日今日にそれらしい不審者が逮捕なりされていれば、その旨をやんすに伝えて必要なら背格好と人数を確認してもらって、それで依頼は終了だ。

 現地に出向くまでもない。

 そう思った。


 だが流石にそこまで話がスムーズに進む事はなかった。

 それでも舞奈は気にしない。

 最初からそこまで都合よく話が進むとは思っていなかったからだ。

 何より今の舞奈は気持ちに余裕がある。

 だからという訳でもないのだろうが、棚からぼたもちの如く吉報の代わりに――


「――マイちゃーん。6年生の大柄な人が呼んでるなのー」

「ん? 今度は大将か」

 桜がやってきた。

 何も考えていない桜は舞奈と同じくらい気持ちに余裕があるが、こいつはいつもこうだ。

 だが今の舞奈に余裕がある事実は変わらないので、


「また美味しいものを食べる勝負をするならなら桜も呼んでほしいなのー」

「食事会のお誘いじゃないと思うが」

 何の用事だろう?

 呼ばれるがまま文句も言わずに行ってみる。


 5年生がまばらに行き交う廊下の隅で、リーダー氏とやんすが待っていた。


「昨日はやんすがスマン!」

「やんす」

「お、おぅ? まあ気にせんでくれ」

 大将はいきなり頭を下げる。

 頭を押さえられたやんすも一緒におじぎする。

 対して舞奈は困惑して適当な相槌を返す。


「俺はあんな奴ら気にするなって言ったんだが、こいつが勝手に姉貴とかみんなに相談して……」

「本当に申し訳ないでやんす……」

 リーダー氏に合わせてやんすも再び一礼する。

 怒られて委縮しているとかではなく、仲間内で話し合いか何かをした結果、昨日の話で舞奈たちに迷惑がかかったと思っているようだ。


 察するに昨日の相談はやんすの先走りだったのだろう。

 秘密基地の近辺で見かけた不審者に恐れをなし、仲間の身の安全も慮って、荒事が得意そうな舞奈や明日香にヘルプを要請してきたのだ。

 舞奈も明日香も【機関】の他支部から協力を要請される身だ。

 その程度の貫禄はある。

 以前に学校内に侵入してきた暴徒から他の取り巻き達を守った事もあるし。


 正直、舞奈はやんすの最初の判断は正しかったと思う。

 何事も餅は餅屋だ。

 食材はやんすみたいな普通の女子が調理した方が皆が幸せになれるし、不審者の脂虫は舞奈や明日香みたいな慣れた人間が料理した方が面倒がない。


 だがリーダーや他の面子からすると、身内の尻拭いを他人の――しかも下級生の女子に押しつけた形になる。

 格好良くはないだろう。

 あるいは取り巻きが大騒ぎして他所様に迷惑をかけた認識なのかもしれない。

 なら散々挑んできた勝負は迷惑かけたうちに入らないのか? とも思うが今はそれを誰何するタイミングではない。


 ともあれ、そこらへんの感覚の違いは性差なのだろうか?

 あるいは単純に性格の違いなのか?

 何度も舞奈たちに勝負を挑んできたリーダー氏の負けず嫌いは言わずもがな。

 対してやんす氏は他人に仕事を丸投げするのに躊躇のない性格に見える……いや禍我愚痴支部のやんすと勝手に同一視するのもどうかと思うが。


(……それは良いとして、本当の本当にやんすに姉ちゃんがいるんだなあ)

 思わず三度、やんすがいっぱいいる絵面を想像しかけて、


「で、あたしらはどうすりゃいいんだ? 調べるのやめるか?」

「いや、それはやんすの気持ちが無駄になるだろう……」

 何となく言ってみた途端に、そう返された。


 こう見えて彼、他人への礼節と同じくらい仲間への人情にも篤い人物らしい。

 自分は無駄だと思うが、やんすが心配ならその気持ちは汲んであげたいのだ。

 その意気や良し。

 だから取り巻きを連れ歩いてリーダーなんかやっていられるのだろう。

 そんな考え方ができるなら何故に何度も何度も舞奈に絡んで……


……いや、それより、じゃああたしはどうすりゃいいんだ?


 口元まで出かかった言葉を飲みこむ舞奈に――


「――責任をとって俺も行くぜ! あとやんすも」

「えぇ……」

「いやまあ、構わんが……」

 リーダー氏は言ってのけた。

 これには流石の舞奈もビックリ。

 いや邪魔だから別に来なくていいんだが、という言葉を再び飲みこむ。


 別に調査や不審者の対処に関して、舞奈にできなくて彼らにできる事はない。

 むしろ護衛が必要という負担が増えるだけだ。

 大柄な6年男子のリーダー氏は縦だけでなく横にも大きなドルチェに似た体形なので、怪我でもされたら運ぶ手間は相当だろうとも思う。


 だがリーダー氏は、先走った取り巻きの責任を取って、自ら舞奈に同行して林の中を駆け回ろうと言っている。

 取り巻きがやった事だからとスルーを決めこむ訳でもない。

 依頼を取り止めて話をなかった事にしようとする訳でもない。

 まぎれもなく、それは彼の誠意だ。


 正直なところ大人でも中々できる事じゃない振る舞いだと舞奈は思う。

 舞奈は先日、殴野元酷とかいう、数々の悪行の報いを周囲に押しつけて部下を捨て駒にしまくって生き延びようとした怪異の県知事を始末してきた。

 その部下の狂える土どもも、人間を平気で利用する典型的な人型怪異だった。

 あるいは味方に化けた内通者の仕出かした大騒動の尻拭いをしてきた。


 そんな屑どもとおさらばした直後に、大将の心意気は一服の清涼剤だ。

 彼の誠意を無駄にしたくないと、普通の人間なら誰でも思うだろう。


――あるいはザンが聞いたら「よく言った坊主!」と肩を叩いていただろう。


 そう思う。

 今のリーダー氏は、まぎれもなく人の上に立つに足る人物だと。

 だから舞奈は――


「――今週末に行ってみる予定なんだが? そっちの都合は良いのか?」

「おうとも!」

「大丈夫でやんす!」

 そのように6人で調査する事に決めた。


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