心臓占い
……そのように一連の事件の真相に近づきつつも午後の授業は滞りなく進む。
そして放課後。
普段通りに下校した舞奈と明日香は県の支部から埼玉支部に転移。
仲間たちと合流し……
「……あ。ネズミだ」
大通りを歩く。
通りをネズミなんかが這い回っている理由は、相も変わらず街中で暴れまくっている狂える土どもがゴミや汚物をまき散らすせいだろう。
気づいた……というか気になったのは、朝の教室で話題になったからだ。
そして先日のクリーン作戦の際にネズミの魔獣と死闘を繰り広げたからだ。
巨大なネズミとの激しい戦闘の痕跡は『下水道工事につき通行禁止』という看板の形で街の至る所に遺されている。
「今はあんまり見たくないっすね……」
「そうでゴザルな……」
「やんすねー」
ザンが嫌そうにひとりごちる。
ドルチェも、皆も同じ気持ちのようだ。
まあ無理もないとは舞奈も思う。
あの戦闘から全員が生きて帰ってこられたのは幸運の賜物だ。
初見で出会った仲間たちからすれば、ちょっとしたトラウマだろう。
皆の視線に居心地が悪くなった訳ではないだろうが、ネズミはチチチと鳴きつつ工事の穴へと逃げこんでいく。
思わず皆で穴を凝視する。
もちろんフェンスで囲まれた穴から巨大な魔獣が出てきたりはしない。
だが何となく視線をそらすのも躊躇われる。
そんな微妙な雰囲気を払しょくしようと――
「――でも人を食うような相手じゃなくて良かったでやんすね」
「けど、あいつら、あの小ささでバッタとか食うらしいぜ」
呑気に言ったやんすに思わず舞奈が口走り、
「俺はバッタじゃないっすよ~」
「いや、そういう意味じゃなくてだな……」
ザンが凹んだように悲鳴をあげる。
と、まあ、そのように、のんびりと馬鹿話をしながら歩く。
何故なら苦戦こそしたものの、激闘の末に魔獣は倒された。
怪我人はいたものの犠牲者はいない。
それに魔獣を操っていた脂虫も捕らえた。
今頃は先方でも尋問なりが終わって情報が集まった頃だろう。
そんな事を考えながら禍我愚痴支部に到着した舞奈たちだが……
「あっ舞奈さん! 皆さんも! よく来てくださいました!」
「……よっフランちゃん。スマキ隊は何か吐いたかい?」
「それが……」
開口一番に尋ねた舞奈にフランは少し慌てた様子で、
「捕らえた例の脂虫の容態が昨日から急変しておりまして」
「急変だと?」
「はい。どうやら脳内のチップが何らかの悪影響を及ぼしたらしく……」
少しばかり厄介な事実を告げた。
予想外の事態に、舞奈たちは顔を見合わせる。
そうするうちに諜報部の人らしい男があらわれ、フランに耳打ちし……
「……たった今、死亡が確認されたそうです」
「おいおい」
フランが顔を曇らせる。
舞奈は盛大に顔をしかめる。
奴は一連の事件と黒幕を関連づけるための重要な手がかりだった。
奴の口から県知事の名前が出るだけでも、舞奈たちや諜報部が動いて事実を暴く無二のチャンスになるはずだった。
あるいは、だからこそ何らかの手段で消されたのかもしれない。
チップは寄生した相手に異能力をあたえる代償として操るとも聞いた。
そのコマンドのひとつとして自害でもさせられたのだろうか?
以前に捕らえた2匹によってチップの正体は判明したが、チップの機能のすべてが解明された訳ではない。
あわよくばそちらも……と少しは思っていた。
そのひとつを最悪の形で知る事になってしまった。
怪異と同源だというチップが自律的に判断して宿主を始末したのだろうか?
あるいは何者かがコマンドを叩きこんだのだろうか?
だとしたら、今回の手下人は誰だ?
チップは宿主が死ぬと自壊するから、そのすべてが謎のままだ。
まったく。
自分自身の手の届かない場所で物事が上手くいくなんて期待するものじゃない。
「えぇ、それじゃあ……」
「おおい、どうするんだよ?」
冴子が困り、ザンが露骨に動揺する。
他の皆も同様だ。
奴らがもっていた情報をもとに今後の動きを決めるつもりだったのだ。
だが舞奈は迷わない。
次の手はすぐさま思いついた。
あまり使いたくない手段なのだが……
「……この支部の占術士はフランちゃんだけか?」
「あっはい」
「そっか……。なら巣黒支部に連絡を取れるか?」
「それは大丈夫です」
「なら頼む」
言いつ隣の明日香ともども自分の携帯を取り出す。
彼女も同じ事を考えたらしい。
だが、それよりも早く……
「……繋がりました!」
フランから受話器を渡される。
あちらも舞奈の機転に一縷の望みを託したようだ。
『どうしたのだね?』
「おっあんたか。丁度いい」
電話口から聞こえたニュットの声に、口元にニヤリと笑みを浮かべる。
不幸中の幸いだ。
性格に多大な問題のある糸目だが、人脈と搦め手の手管はちょっとしたものだ。
この手ののっぴきならないトラブルへのヘルプには最適である。
昼間もそうだったし、今もそうだ。
「ちょっとばかり頼みがある。小夜子さんを見つけて一緒に来られないか?」
「小夜子ちんもサッちんも今日は非番なのだよ……」
「こっちは仕事なんだ」
「えぇ……」
困惑した様子のニュットに有無を言わさず言葉を投げかける。
どうやら小夜子はサチとデート中らしい。
だから本当は使いたくない手段だったのだが、背に腹は代えられない。
そこら辺を先方も察した様子なので、
『何かあったのだかね?』
「緊急事態だ。こっちで捕らえた中毒者が死んだ」
『サンプルの2匹なら、トーマス氏がそちらで処分する算段なのだが』
「そいつらの後にも捕まえたんだよ。先週の大掃除の時に」
『そうだったのだか』
「聞いてなかったのか? まあいい。そいつに聞きそびれた事があるんだ。心臓が残ってるうちに、ひとつでも質問がしたい」
『……了解したのだ。10分ほど待つのだよ』
「スマン。よろしく頼む」
言いたい事だけを言って電話を切る。
話が早くて大いに結構。
だが魔獣を操っていた脂虫について報告されていなかったのだろうか?
そもそも脂虫が死んだ件といい、今回に限って不手際が多い気がする。
だが今は目先の事態に対処するのが先だ。
「他の皆さんは例の脂虫の所に向かいました」
「あたしも行くよ」
「はい。こっちです」
フランに続いて速足で廊下を歩く。
死体を勝手に処分されてはたまらない。
まあ明日香がいるから心配はないだろうが。
何故なら小夜子にナワリ呪術【心臓占い】を使ってもらう算段なのだ。
つまりナワリ呪術師が得意とする【供犠による事象の改変】技術のひとつ。
質問を投げかけながら犠牲者の心臓をえぐり取って握りつぶし、したたる血に隠された啓示によって答えを得る。
この術に対して、いかなるブラフも黙秘も効果がない。
たとえ死んでいても心臓さえ破損していなければ情報を引き出すことができる。
舞奈が知る限り最強のチート尋問術だ。
この術によって心臓がひどく破損するので一度しか使えないこと以外は。
正直なところ、奴には聞きたい事がいくつもあった。
だが絶対に確認しなければならない事実はひとつだけ。
そいつさえ聞き出せれば、後は調査で何とでもなる……はずだ。
そんな事を考えるうちに……
「ここです」
案内されたのは医務室だ。
「ああっ舞奈さん」
「様子はどうだ?」
「死んでるでやんす」
「そりゃそうだろうな……」
皆も来ていた。
病院や学校の保健室に似た消毒された空気に混じって……かすかなヤニの悪臭。
ベッドに横たわる、見覚えのある脂虫の身体に染みついた臭いだ。
「尋問用の治療室はないのか? なんで人間とベッド共用なんだよ」
文句を言いながらも男を見やる。
外傷はない。
だがヤニで歪んだ顔は土気色。
瞳孔も開いているし、表情も動かない。
彼が死んでいるのは間違いない。
筋肉も完全に弛緩している。
並外れた感覚を持つ舞奈にはわかる。
魔術師が2人も立ち会っているのだから、魔術による偽装も考えられない。
舞奈が口元を歪めた途端――
「――?」
不意な魔力の出現を察したのだろう冴子が訝しむ。
「――舞奈の周りから離れてください」
「承知でゴザル」
「どういう事っす……うわっ!」
「えっ? ああ……」
次いで明日香の鋭い指示。
事情を察した皆が距離を取る。
ザンが困惑し、舞奈も自ら跳び退って距離を取り――
「――ふう、人使いが荒いのだよ」
「普段の自分の言動を省みて、それでも同じ事が言えるか?」
側に複数の人影があらわれた。
何の前触れもなく、いきなり『出現』したのだ。
ニュットだ。
小夜子とサチも一緒だ。
「なっ!? どうやって!?」
「……どうも」
「ザンさん、皆さんもお久しぶりです」
ザンが驚く。
小夜子が少しぶっきらぼうに、サチが礼儀正しく挨拶する。
ニュットは長距離転移の大魔法【移動】を使える。
そんな裏技を駆使してデート中の小夜子とサチと接触し、運んでくれたのだ。
「ここの建物、屋上に転移用のヘリポートあるだろう?」
「緊急の用事だと聞いたのだよ」
「そうかい」
まったく。意匠返しか?
舞奈は口をへの字に曲げる。
術による長距離転移が念頭におかれた【機関】の施設は、転移の誤差で周囲に被害を及ぼさないよう転移用のスペースが準備されている。
何故なら転移先に障害物があると衝突して危険だし、コストも無駄になる。
目印のない見知らぬ場所や狭い場所への転移は危険が伴うのだ。
そういった事故を防ぐべく、常時には屋上に設置された開けた場所に転移する決まりになっていると以前に聞いた事がある。
ここ禍我愚痴支部も例外ではない。
だが転移の際に安全なスペースを確保する手段はもうひとつある。
見知った仲間を目印にして施術するのだ。
主に敵地への強襲で用いられる方法だ。
単独で周囲の安全を確保できる強者が切りこんで、そいつを目印に術者が転移してサポートなり周囲の制圧なりをする。
以前のKASC支部ビル攻略戦では舞奈が切りこみ役を務めた。
今回、ニュットはそのやり方で転移してきたのだ。
敵地じゃないのに。
まあ今回、舞奈がニュットに急で面倒な仕事を振ったのは事実だ。
なので睨みつけたい衝動を抑える。
そんな舞奈を、
「話は聞いたけど、大変だったみたいね」
「そうよ。何でまたこんな時に?」
サチが労う。
小夜子は睨んでくる。
よほど楽しいデートだったらしい。
「いやサチさんにはひたすら申し訳ないけど、小夜子さんには悪い話じゃ……」
舞奈は思わず目をそらしながら小声でぶつぶつ言い訳する。
小夜子は邪悪な脂虫を痛めつけ、破壊する業務を無常の喜びとしている。
相手が生きていても、死んでいても。
戦闘であっても、常軌を逸した『尋問』であっても。
だから良い余興になると思ったと、サチの前で口に出す事はできない。
「この状態で可能ですか?」
「さっき死んだんでしょう? 心臓が胴の中に入ってるなら問題ないわ」
明日香の問いに、小夜子は男を一瞥しながら何食わぬ表情で答え、
「舞奈さん、何するんすか?」
「こいつから最後の情報を聞き出すんだ。小夜子さんが」
「いやでも、こいつ死んでるっすよ?」
「死んでても聞けるんだよ」
「えっ……?」
訝しむザンに、何故か舞奈が得意げに答え、
「須黒からの協力の申し出が受理されました。施術の許可も出てます」
「了解したわ」
「ありがとう、フランさん」
フランが事務手続きを手早く伝える。
小夜子は頷き、サチが労う。
「何処か『汚れてもいい』場所はある? 実験室とか……尋問に使う部屋とか」
「こちらです」
「脂虫を運びますので、入り口を開けてください」
「あっはい」
「承知でゴザル」
フランの案内に従って皆は狭い医務室を出る。
「担架を持ってくるでゴザル」
「ええっ重いでやんす……」
「力仕事までするのは嫌なのだが……」
「あ、大丈夫です。急いでるみたいだし、こっちで運びます」
率先して動こうとするドルチェと嫌がるやんす、ニュットを小夜子が制し――
「――我が命に応じよ、羽毛ある蛇」
小夜子の施術で脂虫が宙に浮かぶ。
即ち【蠢く風】。
大気を操る基礎的な術だ。
そいつで人(ではなく脂虫だが)ひとりを運ぶ威力に側の冴子が少し驚く。
「手伝うわ」
「ありがとう」
サチが祝詞を唱え、2人の術で脂虫を運ぶ。
こちらは【風繰り】。
ナワリ呪術師も古神術士も呪術師だから、同等の術を2人で使って威力を増したり負担を軽減したりできる。
仲睦まじくて何よりだ。
「これは見事でゴザル」
「楽しそうだな……」
感心するドルチェ、目を丸くするザンの前で、マジックショーの手品のように横たわったまま空中を移動する男を先導しながら小夜子とサチとフランが進む。
「……おまえらは残っててもいんだぞ」
「ご一緒するでゴザルよ」
「ああ、俺も」
「そっか? 見ても楽しいものじゃないぞ……」
舞奈は言ってみるが、ドルチェやザンも続く。
正直なところ【心臓占い】による情報収集の絵面はかなり酷い。
直接戦闘とは別の意味の酷さなので、用もないのに見ていても気分が悪くなるだけだと思ったのだ。
だが2人とも意には介さないらしい。
自分たちで捕らえた脂虫の行く末を見届けたい思いがあるのだろうか。
やんすは凄く残りたそうだったが、他の全員が続くので仕方なく来る様子だ。
まったく。
ニュットも一緒だ。
別に残っていてもやる事がないからだ。
「サチさんは古神術士でやんすよね? 脂虫に術を使って大丈夫でやんすか?」
「神術が穢れに弱いとは言っても、そういう風に弱い訳じゃないのだよ」
「なるほど、そうでやんすかー」
やんすが疑問を投げかけ、ニュットの答えに納得する。
何となく似た者同士で意気投合したか。
にしても、やんす。妙なところで博識だなあと舞奈が苦笑するうちに、
「こっちです」
「地下にあるでゴザルか」
「何処の支部にもあるのね……」
「そうでござったか……」
「ええ、まあ」
フランの案内で小夜子は平然と、サチは何か言いたげに階段を降りる。
皆も続く。
後ろ暗い情報収集に使う部屋は何処の支部にもあるらしい。
普段は諜報活動とは無縁らしいドルチェは少しビックリ。
隣で明日香がやれやれと苦笑する。
そうするうちに、フランは薄汚れた堅牢な鉄の扉の前で足を止める。
舞奈たちも止まる。
正直、まともな用途で使う部屋じゃないのは一目瞭然だ。
「流石にフランちゃんはここで待っててくれ。冴子さんも」
「いえ、禍我愚痴支部の人間がひとりも同席しない訳にはいかないので」
「ったくトーマスさんも、こういう時くらい気を遣ってくれてもいいのに」
顔を見せないトーマスに少し愚痴る。
おそらく脂虫の容態の都合で方々と調整をしているのだろう。
だが、こんな儀式の立ち合いをフランにやらせなくても。
「わたしも同席するわ。ナワリ呪術がどういうものかは知っているつもりよ」
「大丈夫なのか? 神術士なのに」
当然のように一緒に入ろうとする冴子に少し驚き、
「別に見たからどうこうなるものじゃないわよ。サチにも見せたくないから見せないだけだし」
小夜子の補足に苦笑し、
「そういう事なら、サチさんはあっしが相手してるでやんす」
「あんたな……。そんじゃあ頼む」
当然のように蚊帳の外で珍しく少しむくれるサチと、心底ほっとした様子のやんすを残し、ギィと嫌な音を立てる扉を開けて部屋へ入る。
中は意外にも何もない場所だった。
尋問に使うような恐ろしげな器具や設備もなく、ただ薄暗くて薄汚れた打ちっぱなしコンクリートの壁と床を蛍光灯の灯りが照らしている。
窓もない。
部屋の中央に、儀式の祭壇のような四角い施術台が据えつけられている。
他のものは必要に応じて持ちこむのだろう。
例えば百の拷問器具より凶悪で恐ろしいナワリ呪術師とか。
小夜子は術を操り、物騒な汚れが染みついた施術台に脂虫を乗せる。
どさりと横たえられた脂虫は当然ながら動かない。
ドルチェが持ってきたスタンドを台の側に据え置く。
その上にフランが古びたレコーダーを置いて、録音を開始する。
「これより施術を開始します」
小夜子がレコーダーに向けて宣言。
何食わぬ表情のまま施術を始める。
何処からともなく黒曜石のナイフを抜き、おもむろに脂虫を斬り刻む。
「……!」
ザンが目を剥く。
ドルチェも相応に動揺しているようだ。
無理もない。
彼らは任務で脂虫を斬る。
ドルチェはワイヤーで切断するし、ザンの得物は短刀だ。
刃物による殺傷に過度な禁忌感がある訳じゃない。
だが彼らは動かない相手を執拗に斬り刻む事はない。
奴らに仲間を奪われたドルチェもザンも、そういう気分にはなれないのだろう。
だが小夜子は顔色ひとつ変えずに台の上の男を『加工』する。
人間と同じ顔をしたスマキ隊のメンバーだった男を。
否、口元に浮かぶ薄笑いが、見る者に【デスメーカー】の二つ名を否が応でも思い起こさせる。
正直なところサチには見せられない表情だと舞奈は思う。
そうするうちに、周囲に不気味な霧が立ちこめる。
窓のない部屋の中なのに。
奥の壁に、明らかに光源とは無関係に、何かのいびつな影が映る。
ザンとドルチェが思わず身構える。
「あの影が彼女の煙立つ鏡ね。術者本人以外にあんなにはっきり見えるなんて」
「あれが喋るのか? なら、そいつを録音すればいいのに」
「舞奈ちゃん、儀式に立ち会った事そのものは初めてなのね」
称賛であろう冴子の言葉に舞奈が訝しみ、
「どういう事だ?」
「煙立つ鏡の姿も声も、この世のものじゃないわ。機械装置じゃ保存できないの」
「認識阻害みたいなものか?」
「早い話がそうなのだよ。だから肉体を持った術者が代わりに供述するのだ」
「ふうん……」
明日香とニュットのうんちくを聞くうちに……
「……まっ舞奈さん!」
「ああ、見えてる」
驚くザンに、何食わぬ表情で答える。
ナワリ呪術の恐ろしい儀式は滞りなく進んでいたらしい。
そしてクライマックスに差し掛かったようだ。
小夜子は男の胸を斬り裂き、躊躇なく手を入れる。
そんな様子をザンが驚愕の表情で見つめる。
ドルチェも。
流石のフランも「ひっ」と声を漏らす。
正直、小夜子がサチに見せたくない気持ちはよくわかる。
小夜子は顔色ひとつ変えず、男の胸からヤニ色をした何かを引きずり出す。
「……舞奈ちゃん、質問は?」
『問イヲ述ベヨ』
儀式は成功したらしい。
小夜子が、そして脳内に直に聞こえる身震いするような影の声が問う。
他の面子の様子から察するに全員に聞こえているらしい。
対する舞奈の答えは……死んだ男に尋ねたい言葉は決まっている。
「……そこの脂虫の友達の中に、殴野元酷って奴はいるか?」
舞奈は問う。
小夜子は心臓を握り潰す。
そして――
『――然リ』
声は答えた。