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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第21章 狂える土
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下水道クリーン作戦

 少し時間を遡る。

 昼休みの平和な学校の校舎の脇で……


「……待つのじゃ! 梓! 美穂!」

「鷹乃ちゃん! そこをどいて!」

 校庭を目指す梓と美穂を、鷹乃が必死で止めていた。

 6年女子の水準からしてもお胸の大きな友人2人の行く手を、ちっちゃな鷹乃がピョンピョン飛び跳ねながら阻む。小動物みたいでちょっと可愛い。


 事の起こりは給食後。

 2人は校庭に出向いたクラスの男子が歌勝負で決闘をする事になったと聞いた。

 字面からして意味不明だが、まあそれはいい。

 梓と美穂にとって問題だったのは、件の男子が鷹乃と仲が良かったという事だ。

 そして奇しくも梓と美穂は現役アイドルの中の人。

 友人の友人のために何かしたいと思うのは心優しい2人にとって当然の事だ。

 なので加勢をしようと勢いだってみたが……


「……退かぬ! わらわの目が! 黒い内は! 通す訳には! いかぬのじゃ!」

 当の鷹乃は飛び跳ねながら猛反対。


 何故なら勝負の相手は安部明日香。

 彼女の恐ろしい歌が聞くものにどんな効果を及ぼすのかは鷹乃も知っている。

 そんなものを将来ある友人に聞かせる訳にはいかない。


 いわば善意と善意がぶつかり合った皮肉な意見の対立だ。

 傍目にはナイスバディな小6女子の前でちっちゃな子が飛び跳ねてるだけだが。


「いやほら! 男には! 男の! 意地があるじゃろ!?」

「でも相手の明日香ちゃんは女の子だよ?」

「というか、明日香ちゃんの歌ってどんなだか聞いてみたいよなー」

「ぎゃー! それはならぬ!」

 美穂の恐ろしい言葉に鷹乃が目を剥いて叫んだ途端……


「……あっ?」

 当の美穂がひょいと担ぎ上げ、


「何をする!? 降ろすのじゃ美穂! わらわは友としてそなたらを――」

 大きい子が小さい子を抱えたまま何ら物理的な障害もなく校庭に到着。

 そんな3人の前に――


「――あっ大将」

「歌合戦はどうなった……むむっ?」

 大将が飛び出してきた。

 ただし白目を剥いて泡を吹きながら横たわり、ちょっと宙に浮いた状態で。

 困惑する3人の前で、大将の腹のあたりから見知った顔があらわれた。

 志門舞奈だ。


「おっ梓さんに美穂さん。良い所に来た」

「わっ舞奈ちゃん。どうしたの?」

「いや実はな……」

 珍しく切羽詰まった様子で舞奈は事情を話す。


 クラスの男子に呼ばれた舞奈が駆けつけたものの時遅し。

 勝負を挑んできた大将たちは明日香の歌に耐えきれずグロッキーしていた。

 なので舞奈は大将を抱きかかえて保健室に向かう所だったらしい。


「そういう訳で、他の兄ちゃんたちを保健室に運ぶのを手伝ってくれ」

「う、うん。それは良いけど……」

「担架はクラスの奴らが用意したんだが、運ぶ手が足らん」

「えっ担架?」

 ビックリしながら見やる。


 見知った取り巻きたちも青い顔をして校庭の砂をペロッていた。

 それを5年生の子たちが際よく担架に乗せて複数人で運んでいる。

 ついでに5年生の縦ロールの女子がひとり泡を吹きながら、白い子と背の高い黒い子に付き添われながら運ばれている。

 それら救護作業を、安部明日香が申し訳なさそうな表情をして仕切っている。


「防災訓練……?」

「……本番。遺憾ながら」

 ボソリと言った梓に近くにいたテックが答え、


「っていうか、何でこんなになってるの……?」

「歌合戦だったのでは……?」

 美穂と2人で顔を見合わせた。


 後に2人が聞いた話では、音楽の時間はいつもこうだからクラスの皆も慣れたもので、歌う前に担架とか用意しておいたらしい。

 怖っ!?

 2人は戦慄した。

 いや説明された事情の半分くらいは理解すらできないけど。

 そして自分たちを必死で止めようとしていた鷹乃の真意を理解し、友情を深めたのだった……


「……てな事があったんだよ」

「何それ、怖い……」

「国内の出来事とは思えないでやんす……」

 語り終えた舞奈の隣で、冴子ややんすが絶句する。

 話してる舞奈自身もちょっと怖い。


 下校後の平和な平日の夕方に、普段通りに禍我愚痴支部へ向かう道すがら。

 舞奈は雑談がてら、先日の昼休憩に起きた酷い事件の話をしていた。

 当事者の舞奈に明日香、聞いていた冴子にやんす、ザンにドルチェの6人は各々の流儀で微妙な表情をしながら、しばらく無言で大通りを歩く。


「いや、あたしを睨むのはお門違いだろう……?」

 隣の明日香が睨んできた。

 なので目をそらしながら周囲に目を向ける。

 途端、動物みたいに飛び回る狂える土どもが視界に跳びこんできた。


 こっちはこっちで国内とは思えない酷い有様だ。

 埼玉の一角の、人型怪異に実効支配された大通りは相も変わらずくわえ煙草の狂える土が、訳のわからない何かを大声で叫びながら暴れ回っている。

 先日には暴動や誘拐事件や殺人事件もあった。


 だが幸運なのは、こちらは解決する目途が立っているという事だ。

 舞奈たちはこれから禍我愚痴支部の執行部と協力し、地下に巣食う狂える土どもの一団を駆除する。機会に恵まれれば、その背後にいる者も排除する。

 そうすれば不正移民どもも数が減って少しは大人しくなるだろう。

 表の街も静かに暮らしやすくなるはずだ。

 そんな青写真を脳裏に描いてほくそ笑む舞奈の側で……


「……そういうの、呪術師(ウォーロック)の特徴として聞いた事はあるわね。物理法則を無意識に操るせいで近くにある機械の調子とかが悪くなるらしいのだけど」

「そんな事が……」

(サチさんかな?)

 言ってみた感じの冴子と、珍しく聞き手に回る明日香。

 舞奈もやれやれと苦笑する。


「グレイシャルさんは物知りっすね」

「そんな別に。たまたま聞きかじった事があるだけよ」

 ザンが大仰に感心する。

 冴子も満更でもなさそうに答える。


 そのように和気あいあいと……


「……あっみなさんこんにちは」

「こんにちはでゴザル」

「フランちゃんもちーっす!」

 一行は禍我愚痴支部に到着した。


「トーマスさんも、執行部の皆さんも準備できてますよ」

「某たちもすぐに向かうでゴザル」

「やんすやんす」

 急かされるまま会議室へ急ぐ。

 そして今や見慣れた会議室には、


「おおザン君! 皆もよく来てくれた」

「よっ! おまたせ!」

「来たかザン! 今日も会議の後に訓練しようぜ! ドルチェさんも!」

「うむ、こちらからも頼むでゴザルよ!」

 早くも机が並べられ、先方のリーダーと数人の少年たちが着席していた。


 彼らも大半は学生なので、学校が終わってから支部に来る。

 だが転移と移動の手間がないぶん舞奈たちより仕事の開始は早い。

 ザンも先方と混じって訓練とか仲良くしているようで何より。

 ドルチェも流れで受け入れられているようだ。単純に見た目によらず強いからという理由もあるのだろう。


 実のところ今週はずっとこんな感じだったりする。

 今日も今日とて卓上に下水道の地図を広げて作戦会議だ。


 何故なら舞奈たちの次の仕事は禍我愚痴支部の執行部との共同作戦。

 その目的は下水道に巣食う中毒者どもの殲滅だ。

 つまり禍我愚痴支部をあげての下水道クリーン作戦。


 いつもの仕事と違って多人数での大規模な掃討作戦だから、全体としての動き方もタイミングも一朝一夕で決められるものではない……のだそうな。

 普段は現場専門の舞奈には馴染みが薄いが、大きな作戦前は何処もこうらしい。

 まあ、何かを始める前には入念な準備が必要な事は舞奈も理解している。

 最初の計画が適当だと事の最中に多大なトラブルが発生する。

 突発的なトラブルがアドリブによる対処能力を超えると作戦は失敗だ。

 そのようなトラブルの芽を少しでも事前に摘むべく計画を練るのだろう。

 ヘルバッハとの決戦やKoboldビル攻略戦、その他の大規模な作戦の際にもフィクサーやニュットがこうしていたのだろうかと考えると少し感慨深い。


 それに舞奈たち協力者チームと先方では、実は作戦に対するスタンスも違う。

 術者が多い協力者チームは多人数での作戦の経験者が少ない。

 何故なら味方の数だけを集めても死体が増えるだけ。

 そういう常識外れな敵に対処可能な少数精鋭で仕事をしてきたからだ。


 対して先方は……何と言うか、命がかかったような酷い作戦の経験者がいない。

 出会った頃のザンみたいな感じだ。

 これまでの任務も喧嘩の延長や自警団と似たり寄ったりの代物だったのだろう。

 怪異や付随する危険を軽視しがちな口ぶりからわかる。

 たぶん今までは幸運にも、彼らは怪異との戦闘で仲間を失った事はない。

 そんな可能性を考えてもいない。

 現に下水道内という退路の限られた閉所で大量の怪異を殲滅する今回の危険な任務も、ちょっと大掛かりなお祭りくらいに思っている節がある。

 こんな地域で執行部の執行人(エージェント)なんかやっているのに。


 まあ、それで調子よく事が運べば元気があって何よりだ。

 だが怖いものを知らないだけの集団は、つまらない原因で一気に瓦解する。

 少なくとも舞奈と明日香は、そうやって全滅したチームをいくつか知っている。

 数刻前まで鬱陶しいくらい自信に溢れていた異能力者の集団が、成す術もなく揃って肉の塊になる場面にも嫌というほど出くわした。


 なので共同作戦を実施するにあたって認識の差を埋めておく必要もある。

 協力者チームが提示する安全性の確保と、先方が主張する士気と効率性の兼ね合いで曲がり角ごとに丁々発止のやりとりが繰り広げられていたりもする。


 ともあれ大筋では多人数で下水道をひととおり練り歩き、中毒者を見つけ次第しらみつぶしに排除していく方向に決定している。

 というか、それ以外に確実に下水道内の怪異を殲滅させる手段はない。

 実は攻撃魔法(エヴォケーション)で一掃しようという案が(意外にもザンから)出たが、確実性に欠ける以前に下水道が損壊するという理由で却下。

 下水道は必要があって地下を通っている。

 いくら中毒者を一掃できても、代わりに○んこが流れなくなっては意味がない。


 で、そんな作戦の所要時間の目途は急いでも半日との事。

 貴重な休日の半分を下水道の探索に費やす事になる。

 だが、まあ過去にも大規模な仕事にはその程度の時間はかかっていた。

 あの中に半日はかなり気が滅入るし、そこだけ考えれば可能な限り迅速な作戦完了を望む先方のリーダーの意見にも同意できるが……それも、まあ仕方がない。


 で、焼け石に水程度の効率化対策としてチームを二組にわける事になった。

 ルートの始点と終点からそれぞれ出発して、2チームが合流したら作戦終了という無駄のないものだ。

 チーム対抗戦的に士気が高まる利点もあるらしい。結構な事だ。


 だが逆に、それ以上にチームをわける事はできない。

 部隊の主力が異能力者だからだ。

 しかもCランクの……舞奈からすれば異能力があるだけの素人の集団だ。

 何時かのように無理やりに精鋭を集めた決死の攻略戦でもない。

 なので安全で確実な作戦遂行のためには、想定できる敵の規模に対して数で圧倒している必要がある。

 今回の作戦は大規模だし重要だが、犠牲者なしで完遂して当然の代物だ。


 ちなみに、そうした作戦立案の指針も【機関】の規定で決まってるらしい。

 血気盛んな異能力者たちからすれば不満もあるようだ。

 だが舞奈的には至れり尽くせりな制度だと思う。

 そのルールが確立されるまでに如何ほどの無謀な血が流れたかは意図的に考えないようにするとして。


「2チームの人員の配置を決めたんだが」

 言い置いてリーダーは語る。

 トーマスやフランもうなずきながら補足する。

 協議の上で決めたのだろう。


 チーム1は先方のリーダーと舞奈、明日香、やんす、フラン。

 チーム2はザンとドルチェ、冴子。

 そこにCランクの異能力者たちが半数ずつ加わる。


「妥当なチーム分けでゴザルな。異論はないでゴザル」

「まったくだぜ」

「やんすねー」

 ドルチェやザンを皮切りに、協力者の面子は異口同音に同意する。


 舞奈も同じ意見だ。

 こちらのチームには舞奈と明日香が、向こうにはドルチェに冴子がいる。

 急場に対応できる人間と魔術師(ウィザード)がひとりづつ。

 つまり予想外の事態にも十分に対処できる。

 冴子が修めた国家神術には防御の手札も多いし、向こうのチームは安全だ。

 対してこちらには舞奈がいるから割と無茶ができる。


 もっとも先方の思惑は別にあるのだろう。

 異能力者たちからの信頼が篤いリーダーとザンがそれぞれのチームを率いる事によって士気を維持する算段だ。

 両者の考えは似ているが違う。

 ともあれ、こちらの反応にリーダーも満足したようだ。


「……にしても」

「ん?」

 ふとザンを見やり、


「平時から術者と共闘するってのは珍しいよな。どんな感じなんだ?」

「そうそう! お似合いっすよカップルさんよ!」

「ちょっ!? グレイシャルさんと俺は別にそんなんじゃ!?」

「えぇ……」

 少年たちともどもザンと冴子の仲をはやしたててきた。

 何と言うか……現場に女がいるのが珍しいらしい。

 流石は体育会系の陽キャである。


 ザンは目を白黒させて動転する。

 冴子は苦笑しながらも大人の余裕で冷静さを維持する。

 グレイシャルのコードネームは伊達じゃない。


「あっちょっと皆さん……!」

 フランが慌てて少年たちを制止する。

 身近にこんなカワイ子ちゃんがいるのに。

 舞奈は思うが、まあ口には出さないでおく。


 そんなこんなで半分くらい冷やかし大会になりながらも計画のうち詰めるべきところは詰め、ここ数日のいつもの感じで会議は終わる。

 別に舞奈たちがいない時でも会議はいつもこんならしい。

 平和でなにより。


 そして先方のリーダーたちは表で待っていた他のメンバーと連れだって一足先に訓練室に行ってしまった。

 流石は体育会系。会議より訓練の方が性に合ってるのだろう。

 で、部屋の隅では……


「……さっきの事、気にしないでくださいね」

「ええ別に。彼らからそう見えるのは仕方がないわ」

 ザンが冴子にフォローしていた。

 自分の方が動揺しているのは明らかなのに、一丁前になったものだ。


 対して冴子の反応が落ち着いているのは彼女が大人だからか。

 あるいはスプラのせいで、周囲にそういう反応をされる事があったのだろうか。


 舞奈は思わず口元を歪める。

 軽薄なナンパ野郎だった今は亡き戦友の、スカした顔が脳裏に浮かんだからだ。

 まったく、あいつは。

 そんな台詞を本人に直に言ってやれれば、どれほど良いだろうと今でも思う。

 先日の合同葬儀も舞奈にとってはあまり意味がなかったかもとも少し思う。

 そんな内心を何となく誤魔化すように舞奈が虚空に目をやる側で……


「でもさ、俺……」

 ザンは口ごもる。


「切丸の奴を差し置いて、俺だけ調子づくのってどうなんだって思って……」

「――なに一丁前な事を言ってやがる」

 気づいたら口を挟んでいた。

 別に邪魔するつもりはなかったが、思わず、である。


「あっ舞奈さん」

「おまえがウジウジしてたって、今さらあいつがどうこうなる訳じゃないだろ」

「でも……」

「でもじゃねぇ。胸を張って生きてやれよ。おまえはあいつの友達なんだってさ」

 柄にもなく語る。


 何故なら舞奈もまた彼と同じように大事な誰かを失った。

 あの作戦よりもずっと前にも。

 だから同じ事を……美佳と一樹を失った小2の頃に誰かに言われた。

 アパートの管理人だったか、スミスだったか、他の誰かだったかは忘れたが。


 あの作戦で、ザンは友人だった切丸を失った。

 冴子もスプラを失った。

 舞奈も戦友としてその両方を失った。

 もちろん失った時間の重さは彼や彼女の比べ物にはならないのだけど。

 それが舞奈と禍我愚痴支部の執行部の面々との間にはない、けれども舞奈とザンの間にはある共通点だ。

 だから彼も察してくれたのだろう。


「そうっすね! あいつに顔向けできる生き方をすればいいんすよね!」

「……ま、そういうこった」

 いつもの調子を取り戻す。

 その単純さも彼の長所だと思った。

 舞奈も口元を無理やりに笑みの形に歪めてみせる。


 舞奈には、敵の策略にのせられて怪異と化し、手にかけた仲間の亡骸を手にしてあらわれた奴に顔向けできる生き方がどんなかなんて想像もつかない。

 だが彼にとっての切丸はそうじゃない。

 彼の友人は大勢の人々の命運をかけた大規模作戦で勇敢に戦って死んだ。

 そういう事でいいと舞奈は思う。


「――おーいザン! 何してる! 訓練しようぜ!」

「おうっ! 今行くぜ!」

 ドアがガチャリと開いて、先ほどの少年のひとりがやってきた。

 ザンがなかなか来ないので呼びに来たらしい。

 というか、やはりザンは気に入られている。良い事だ。


「やんすさんよ、あんたも行ってみちゃどうだい?」

「いや、あっしは遠慮するっす。荒事とか苦手でやんすし……」

「あんたな……」

 本来ならお手本になる立場じゃないのか?

 銃器携帯/発砲許可証シューティング・ライセンスを持ってるって事はAランクのはずだろ?

 会議が終わって気が抜けたのか部屋の隅で呆けていたやんすに話を振って、返ってきた覇気のない答えに苦笑しているうちに……


「……それじゃあ舞奈さん、グレイシャルさん、行ってきます」

「某もご一緒するでゴザル」

「おう、行ってこい」

「行ってらっしゃい」

 ザンはドルチェや先方の少年と連れ立って去っていく。

 舞奈も冴子と2人して皆を見送る。


 去り際に、少年が訝しげに舞奈を見やっていたのに気づいた。

 それはそうだろう。

 先方からはザンが訳のわからない幼女と話しこんでいたように見えたはずだ。

 しかも敬語で。


 何故なら舞奈は彼らにSランクの実力を見せつけるような事をしていない。

 別に男にちやほやされても嬉しくはないからだ。

 まあ、これを機に異能力者のグループと仲良くする方法を知っておけば【雷徒人愚】や【グングニル】の時みたいな余計な悶着も減らせるかもしれない。

 だが、それは次の機会でもいいと思った。


 何より……彼らにとって、こちらのエースはザンという事でいいと思っている。

 子供がしゃしゃり出てザンの人望に水を差す必要はない。

 その方が共闘もスムーズになるだろうし……上辺だけとはいえ立派なザンの姿をもう少し見ているのも悪くはない。

 そんな気がした。

 それが切丸に、スプラに、あるいは他の誰かに顔向けできる行為なのかはわからないが。そんな事を考えながら……


「……珍しいじゃない。そういう風に気を遣うなんて」

「うっせぇ」

 茶々を入れてきた明日香を横目で睨んだ。


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