土に潜む悪
捕獲作戦を終えた土日には、狂える土と違法薬物を巡る状況が大きく進展。
実に有意義な週末だった。
そして週が明けた月曜日も舞奈は普段通りに登校し……
「……おっ舞奈様じゃないっすか! 今日も元気っすね」
「おう! 今日もお仕事ご苦労さん」
「舞奈様、おはようございます」
「おはようさん。今日もよろしく頼むよ」
校門で普段通りにベティとクレアに挨拶する。
そして警備員室に得物を預けていると……
「……おや舞奈さん、朝から元気ですね」
「おはよう、舞奈ちゃん」
「2人ともちーっす。……っていうか、そんなやたら元気そうに見えるか?」
声をかけられた。
楓と紅葉だ。
昨日といい今日といい、たまたま出くわす偶然も重なるときは重なるものだ。
なので舞奈はふと思いつき、
「ルーシアちゃんに、こっちから連絡付ける事ってできるのか?」
「先日の件ですね」
「まあな。状況が状況だし、情報は多いほうが良いからな」
「流石は舞奈ちゃん。抜け目ないなあ」
「よせやい」
尋ねてみる。
爽やかな紅葉の言葉に気分よく笑う。
埼玉の一角での状況について、姉妹には昨日も事情を話したばかりだ。
なので楓も察してくれたらしく、
「かしこまりました。手配しておきましょう」
「そいつは重畳」
あっさり答えた。
ブルジョワの桂木姉妹と王族のルーシア、名家の娘らしい月瑠尼壇夜空。
やんごとない身分の4人には、舞奈にはない面識がある。
だから連絡をつけられる伝手でもあると思ったのだ。
だが、そんなにあっさりアポが取れるんなら舞奈も連絡先を聞いておいてもいいかもしれない。レナと気軽に話せれば色々と便利だし楽しそうだ。
と、気分よくそんな事を思った途端……
「……あら志門さん、今日も元気ね」
「おう!」
また声をかけられた。
今日は朝から知人とよく会う日だ。
笑顔のまま振り返ると……
「……って、あんたか」
ムクロザキだった。
舞奈の声のトーンが露骨に下がる。
この忙しい時に余計な面倒事を押しつけられるのが嫌だからだ。
それでも、ふと思いついて……
「……けどまあ丁度いいや。聞きたいことがあるんだが」
「あらあら、志門さんのほうから先生にお願いなんて珍しいわね」
「あんたに願う事なんかねぇよ。ブラボーちゃんと、その他の蜘蛛を何処から入手したのか知りたいだけだ」
尋ねてみる。
例によって微妙に癪に障る反応は礼儀正しくスルー。
向こうがこちらを便利屋としか思ってないなら、こっちもこっちで必要な情報を必要なだけ引き出せばいいと思ったのだ。
教師に対してやたらに攻撃的な思考だと自分でも思う。
だが過去に奴にかけられた数々の迷惑がそうさせるのだ。
しかも懲りる気配もないし。
あいつが悪い。
だが質問の着眼点は我ながら良いとも思った。
そもそもムクロザキにチップ入り蜘蛛とアプリを売った奴がいるのは確かだ。
つまり怪異と関係するチップを扱う売人が。
そんな女教師の、
「まあ素敵、貴女も危険生物の魅力に気づいたのね」
「気づいてねーよ。っていうか、危険生物って自分で言いやがったな」
「いつも使ってる通販のサイトがあるの。その手の可愛い子たちがいっぱい売りに出されてるのよ」
(なくなっちまえよ、そんな迷惑なサイト)
明後日の方向にポジティブな反応に口をへの字に曲げる舞奈に構わず、女教師は満面な笑顔のまま携帯を取り出す。
嫌そうに覗きこむ舞奈。
危険生物というタームに逆に興味しんしんな様子で覗きこむ楓。
つき合いで覗いてみる紅葉。
そのように3人が見やる先でいそいそと携帯を操作し……
「……あら、サイトが消えてるわ」
首をかしげた。
「それは残念ですね」
楓が特に残念そうでもない素振りで上辺だけ落胆してみせる。
だが舞奈はそうじゃない。
楓が興味のある危険生物は今でもムクロザキの生物室に山ほどいるが、舞奈が知りたい売人の情報はサイトにしかないからだ。
(この野郎……!)
こんな時だけ心を見透かしたように思った通りになりやがって!
ますます舞奈は渋面になる。
流石に使ってる通販サイトが消えていたのがムクロザキのせいじゃないのは理解できるが、この女に関わるとロクな事がない的な感情は消えない。
「そりゃ御愁傷様」
(別にあんたからの情報なんか期待してなかったよ!)
心の中で毒づきながら、楓たちやムクロザキに雑に挨拶して校舎に向かう。
それ以上ムクロザキなんかと話していても良い事は何もないからだ。
ひょっとしてテックならわかるかな?
サイトっつってたし。
そんな皮算用をしながら上履きに履き替え、階段を登って自分の教室に向かって歩き、ドアをくぐった途端――
「――おっ! テック! ちーっす」
「あ、舞奈。おはよう」
丁度よくタブレットを見ていたテックが顔を上げた。
ちょっとラッキー。
流石はテック。心の友だ。
「丁度よかった。聞きたいことがあるんだが」
「何?」
「いやな、以前にムクロザキが蜘蛛を仕入れてたサイトがあるらしくて……」
「……」
尋ねた途端、心の友は無言でタブレットを胸元に引き寄せた。
表情が薄いながらも見上げる目つきが警戒モードになっている。
よほどムクロザキのアプリが嫌らしい。
ブラボーちゃんの一件で例のアプリをインストールしたテックの携帯を明日香が買い取って【機関】に引き渡す事になったからだ。
まあ、その金で新しい携帯を買ったらしいが。
なので(そこまで嫌がらなくても)(まあムクロザキの身辺に関わりたくない気持ちはわかる)(テックにも巻き添えで迷惑かけたしなあ)という相反する気持ちが気持ちが入り混じったまま、
「別にそういうんじゃないよ。そのサイトが蜘蛛と一緒にチップを扱ってないか知りたかったんだが、サイトが消えてるらしくてな」
「……そう言う事。わかったわ。ちょっと時間がかかるだろうけど」
「スマン、恩に着るぜ。サイトの場所さえわかったら調査は【機関】がやるよ。諜報部とかあるんだから、そのくらいはできるだろう」
「そう願いたいわ」
事情を話したら納得してくれた。
なので新たな調査を依頼する。
今回の一連の仕事ではテックに頼りっきりな気がする。
ひと通り片づいたら飯を奢る以外にも何か埋め合わせをしたほうが良いだろうと少し思う。
……と、そうこうしているうちに他の皆が投稿してきて馬鹿話を始める。
しばらくすると担任もやってきてホームルームが始まる。
そして午前の授業もつつがなくこなし、給食を堪能した後の昼休憩に……
「……別に、直に会いに来いっつった覚えはないんだが」
「だって話があるんでしょ?」
「あるけど……」
舞奈はウサギ小屋のウサギを見ながら、側の女子中学生をジト目で見やる。
何故かいる陽子。
その隣では夜空がしゃがみこんでウサギを眺めて楽しんでいる。
さらに隣にはルーシアとレナ。
給食当番の食器返却から戻った後に露骨に胡散臭い不審者風の不審者に誘い出されて、のこのこと着いてきたら、このザマだ。
舞奈が見やる先で、しれっとウサギを見ている陽子の仕業である。
楓から夜空が聞いた話がこいつに伝わり、何をトチ狂ったか四国の一角からルーシアを、遠く海を隔てたスカイフォール王国からレナを運んできたのだろう。
混沌魔術の魔法少女でもある陽子は角度を伝って自在に転移できる。
ティンダロスの名を冠された角度を通した転移術に距離の制約はない。
先方の魔法的なセキュリティがどうなってるかは知らないが。
そして前回ヘリで来た際に教室が大騒ぎになったからか、今回は変装して認識阻害までかけて呼び出しに来た。
周囲への気遣いができて何よりだ。
まったく。
幸いにも小屋の近くには他に誰もいない。
単に可愛いウサギも普段から学校にいる生徒や教師にとっては珍しくもないからなのか、人払いでもされているのかは知らないが。
「電話で話すとかでも良かったんだが」
「なによー。直に会ったほうが気持ちが伝わるでしょ?」
「別に情報が伝わればいいよ」
「もうっなによー!」
陽キャが一丁前に不貞腐れる。
そんな様子を苦笑しながら見やりつつ、
(まさか盗聴の可能性を危惧している?)
ふと思い……
……まさかな。
思い直す。
陽子の肩にちょこんと載った極彩色のハリネズミと目が合った。
先方の中で唯一の常識人は「?」と首をかしげてみせる。
「ルーシアちゃんも、なんかごめん」
「いえ、たまにはのんびり休養するよう周りの者やレナにも言われておりますし」
次いで反対側でウサギを見ていたルーシアの横顔を見ながら苦笑する。
流石は気立ても良く働き者で礼儀正しい王女様だ。
そんな彼女がウサギを見て和んでくれている様子に少し安堵する。
「ちょっと、なんで姉さまだけなのよ」
「いや、お前は働いてる訳じゃないだろう」
「失礼ね! 本国で情報収集を仕切ってるのはたしなのよ」
「そうだったのか。……あいつらは元気か?」
「ええ。相変わらずちょっと不安だけどね」
「ハハッ」
さらに隣のレナと軽口を交わす。
あいつらと言うのは騎士団の面々の事だ。
生え際が派手に後退したゴードン、太っちょイワンやマッチョのジェイク。
ヘルバッハとの一件で共闘した気の良い騎士たちの顔が脳裏に浮かび、思わず追憶に浸りかけて――
「――で、話って何なのよ?」
「おまえじゃなくてルーシアちゃんとレナちゃんにだけどな」
「はい、何でございましょう?」
「何よ?」
「いや実はな……」
陽子に現実に引き戻され、急かされるまま言い置いて直近の状況を2人に話す。
埼玉の一角を実効支配している、狂える土と呼ばれる人型怪異の事。
奴らの間で流行り始めた違法薬物の事。
先日の作戦で奴らのうち2匹を捕獲して、現在は調査中である事。
それらに関連して狂える土どもとの幾度かの戦闘の事と、薬物と似た効果をもつチップを使っていたKoboldの騎士たちの事。
楓や小夜子たちにも話したので説明にも慣れてしまった気がする。
おかげで、さほど時間もとられず事情を納得してもらえた。
「そんな事になっておりましたか……」
「なるほどね。いろいろ合点がいったわ」
揃って納得する姉妹に、
「で、その違法薬物だかチップだかについて何か知らないか聞きたかったんだ。ルーシアちゃん、前に中東の怪異に不審な動きがあるって言ってたろ?」
問いかける。
対する答えは、
「姉さまが何処まで話したかは知らないけど……」
レナから返ってきた。
スカイフォール本国での諜報活動を仕切っているのは本当らしい。
なのでレナもまた手短に要領を得た説明をしてくれた。
時間が限られた昼休憩に有り難い限りだ。
それはともかく、不審な動きとやらの内訳は異能力による不自然な犯罪だ。
ここ数か月で急増したらしい。
中東からヨーロッパ、アジア、つまりユーラシア大陸全土で少しずつだが着実に被害が増えているのだそうな。
舞奈にも理解しやすい例えとして、大陸中が須黒みたいになったとか言われた。
事の重大さがわかりやすい例えで何よりだ。
まったく。
その余波で、国内に浸透した狂える土どもも活発化しているのだろうというのがレナたちの考えだ。
「そっちはそっちで大変なんだな」
「まあね。それがチップ? や薬として流通してるって言うなら辻褄が合うわ」
「他にも何かわかったのか?」
「わかったって言うか、どの事件の犯人も事を起こす直前まで異能力なんて持ってなかった普通の脂虫なのよ。宝貝が埋めこまれた形跡もないわ」
「いや、死体にしたなら脳に隙間が空いてるはずだ。帰ったら調べてみろよ」
レナの言葉に口を挟んだ途端、(なるほど)みたいな表情をされる。
宿主の死をトリガーにして消滅するチップ。
そいつは、やはり国外の一般的な感覚での調査からは盲点なのだろう。
須黒の技術部や自警団の医者のおっちゃんの慧眼には頭が下がる思いだ。
「そこに舞奈様がおっしゃる、チップが……?」
「十中八九な。詳しくはこっちでも調査中だ」
その結果はそろそろ出るはずだ。
ルーシアの問いに、何食わぬ表情で舞奈は答える。
おっとり金髪のルーシア王女。
しゃがんでウサギを眺めながらも、今回の件について熟考しているらしい。
魔法の王国スカイフォールの第一王女の面目躍如である。
話を伝えて皆を運んで仕事が終わった気分でウサギの反応に一喜一憂し始めた陽キャどもとは大違いだ。
「なあレナちゃん、そいつの出所に心当たりはないか?」
「それがチップだって確認ができてから薬物の流通ルートを調べる必要があるわ」
「そりゃそっか」
レナの答えに舞奈は再び何食わぬ表情で答え……
「……ただ、被害の分布から原因は中東にあるだろうって予想はできるわ」
「なるほどな」
続く言葉に少し考える。
埼玉の一角で流行っている違法薬物と同じものが大陸全土に蔓延している……可能性がレナからの情報で浮上した。
その出所も狂える土と同じ中東の一角。
国内の薬物も、そこから持ちこまれたと考えるのが妥当だろう。
持ちこまれたルートは狂える土そのものと同じなのだろうか?
すると国内の政治家の顔を持つ怪異が、今回の一件に絡んでいる?
あるいは一連の狂える土どもの動きとも?
舞奈は考える。
だが憶測はできるが確証はない。
それを確認できるのは調査のための組織力のあるレナやルーシアだ。
だから今回もまた、舞奈にできるのは情報を渡して待つことだけだ。
なので他の4人と一緒に自分の仕事は終わった気分でウサギを眺めていると――
「――おーい志門! こんなところにいたのか!」
クラスの男子がやってきた。
陽子たちは慌てて近くの茂みに隠れる。
「……なんか金髪の匂いがしないか?」
「そんな匂いはねーよ。それより用件は何だよ?」
茂みを見やって鼻をクンクンさせる男子をジト目で見やりながら、意識して何食わぬ表情で問いかける。
まったく。
対して男子は特にそれ以上は特にこだわりのない様子で、
「ああ、そうそう。6年生が勝負したいって言って来たんだ」
「またあいつらか……。ウサギを見終わったらすぐに行くよ」
「早く済ませてくれよ。安倍が相手してるが長くはもたん」
「明日香が? 何の勝負よ?」
「……歌合戦」
「……なぜ歌わせた」
「みんなグラウンドにいる。ともかく伝えたからな!」
言い伝えて去っていった。
舞奈はクラスメートの後姿を眺めながら不安な気持ちで肩をすくめる。
そんな舞奈の背後で茂みから4人が出てきて、
「……臭いますか?」
「いや、真面目に受け取らんでくれ」
ルーシアが腕の匂いをクンクンと嗅ぐ。
正直なところ舞奈なら近くにいれば気づく程度に女の子の匂いはするが、それを言ってもレナに睨まれるだけなので苦笑するに留める。
そして6年生の容体が心配だからと4人に適当に挨拶し、校庭に向かった。
……と、そんなこんなで午後の授業も終えて放課後。
普段通りに下校した舞奈と明日香は、
「あっ舞奈さん、明日香さん、こんにちは」
「昼間に初等部の子が熱中症で倒れたって聞いたけど大丈夫ー?」
「最近はああいうのも熱中症って言うのか。責任をもって保健室に運んだから問題ない。ムクロザキがちゃんと保険医の仕事してればな」
「先方が、舞奈がいないならどうしてもわたしと勝負したいって言うから……」
「加減してやれよ。相手はクラスの連中と違って一般人なんだ」
「えっ何の話ですか?」
「……歌合戦」
「「??」」
県の支部の受付でレインと梢を困惑させつつ埼玉支部へ転移。
他の仲間と合流して禍我愚痴支部へと赴いた。
そして打ちっ放しコンクリートの会議室で机を並べて……
「……端的に言うと、例の薬物と須黒で確認されたチップは同一のものらしい」
「やっぱりか」
トーマスの言葉に舞奈はしたり顔で返事を返す。
明日香や皆も渡された資料を眺めながらうなずく。
「正確には不定形の宝貝のようなものだという話だ。液状化して脂虫の体内に入りこみ、脳に移動して宿主を支配する」
「うぇぇ。なんかキメェな……」
「某たちは、そのような物と戦っていたでゴザルか」
「人間で良かったでやんす」
続く言葉に一同は一斉に顔をしかめる。
「Wウィルスの件もありますし、技術的にはあり得るのでしょうね」
明日香も面白くなさそうにうなずく。
他の皆も一様に渋面を深めたのは、各々がWウィルスを利用した結界に閉ざされた四国の一角での大規模作戦で、大事な何かを失ったからだ。
そんな中……
「支配する……か」
舞奈はひとりごちる。
舞奈もWウィルスは気に入らない。
だが、それ以上に、Koboldの一件で戦った剣鬼の事を思い出したからだ。
剣鬼。
騎士たちを束ねるイレブンナイツのひとりだった男だ。
武芸を極めんと欲する生粋の武人。
奴は傍迷惑ながらも己の信念に基づいて戦っているように見えた。
だが、それは見せかけだったのだろうか?
そもそも脂虫に信念や自分の意思なんてないのだろうか?
奴の言動の何処までがチップに支配されていたのだろうか?
そのように思案に耽る舞奈を……
「……そうすると薬の出元が気になるわね。つまり薬物に扮した怪異を扱うブローカーが国内に入りこんでるって事でしょう?」
「やんすねー」
冴子の言葉が現実に引き戻す。
やんすが、皆がうなずく。
舞奈も学校で同じ思惑の元にテックやレナたちに色々と尋ねた。
その上で……
「……ま、そいつはじきにわかるはずだ」
「どういう事っすか?」
言って笑う。
対面でザンが首をかしげ、
「たぶん狂える土と同じ所なんじゃないかな。このまま仕事を進めていけば、あたしたちが排除する事になるだろうさ」
「腕が鳴るっす!」
続く言葉に笑う。
おそらく、その作戦が埼玉の一角での最後の戦いになるだろう。
舞奈たちは、ようやく一連の事件の元凶への足掛かりをつかんだのだ。
そんな気がした。
まずは執行部と共闘しての下水道クリーン作戦。
そこで奴らが隠し持っているつもりの戦力を一掃しているうちに方々の調査が進んで敵の本当の狙いも明らかになるだろう。
そうしたら一連の事件のすべての裏にいた何者かに手が届く。
そいつを倒せば長期の出張任務も完遂だ。
そんな青写真を脳裏に描きながら舞奈はほくそ笑み、
「なあトーマスさんよ」
「なんだい?」
「調査に使った中毒者どもはどうしたんだ?」
ふと問いかけて、
「こちらで責任を持って排除したよ。その際に脳内のチップの消滅を確認した」
「そうかい」
返ってきた答えに、何食わぬ表情でひとりごちた。