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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第21章 狂える土
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日常6

 土曜の午後に、早くも次にやるべき仕事が決まった舞奈たち。

 その翌日の日曜日。

 ネオンの『画廊・ケリー』の文字が消えかけた看板の下で……


「……おや舞奈さん、いらっしゃい」

「やあ舞奈ちゃん、こんにちは」

「ったく、自分の家みたいにくつろぎやがって」

 スミスの店を訪れた舞奈はやれやれと苦笑する。

 商談用のテーブルを陣取って談笑していた楓と紅葉がにこやかに挨拶する。


「あっ舞奈さん。こんにちはー」

「しもんだ!」

「おう、奈良坂さんもいつもご苦労さん」

 側では奈良坂がリコと遊んでいた。

 大盛況である。

 もっとも、この中に画廊の客はいないが。


「そういや、ルーシアちゃんか夜空ちゃんから何か面白い話はあったか?」

 抱っこをせがんできたリコを持ちあげながら問いかける。

 そんな様子を微笑ましそうに見やりながら姉妹はのんびり考える。


 以前にルーシアからパーティーのついでに聞いた話では、中東で不審な動きをしている怪異にあちらでも目を光らせているらしい。

 なので狂える土の問題について先方でも何かつかんでいないか気になったのだ。

 あわよくば違法薬物に関しても。だが、


「いえ、こちらは特に。何かありましたか?」

「この前のチップの話かい?」

「まあな。やっぱり同じものが例の地区でも流行ってるらしくてな……」

「そうだったのか……」

 特に目ぼしい情報はないらしい。

 逆に楓や紅葉に先日までの事情を話していると……


「あら志門ちゃん、いらっしゃい」

 店の奥から、しなを作りながらオカマのマッチョがやってきた。

 スミスだ。

 しかも昼間から長物を手にしている。

 以前に言っていたスナイパーライフル(IWI DAN)の調整をしていたらしい。


「大まかに加工してみたんだけど、こんなものでいいかしら?」

「おっ! 流石はスミス、仕事が早いぜ」

「おー。ならさかのがしごとがたかい」

 言いつつリコを奈良坂に預け、差し出された長物を見やる。


 スナイパーライフル(IWI DAN)をベースにした改造ライフルだ。

 スコープが取り外され銃身(バレル)銃床(ストック)も切り詰められて、ずいぶん小さく取り回ししやすそうになっている。

 長物というよりハンドキャノンといった塩梅だ。

 これを本格的に完成させる前にバランスを確認したいのだろう。


「なら普通のDANと撃ち比べていいか? 場合によっちゃあそっちも使う」

「そう言うと思って、両方とも撃てるようにしておいたわ」

 舞奈の答えに、スミスはカイゼル髭をゆらせて笑う。


 そして暇を持て余していたららしい楓たちとも連れだって6人で店の裏へ。


「では標的の代わりにこれをどうぞ」

 言いつつ楓はコプト語の呪文を唱える。


 途端、目前に人間サイズの血の色をした肉の塊みたいな物体があらわれた。

 即ち【創命の言葉(メスィ・ル・アブ)】。

 ウアブ魔術師が得手とする【高度な生命操作】技術による血肉の創造。

 その基礎技術を応用して肉の標的を創ったのだろう。

 基礎技術とはいえ短い施術でこれを創造するのは見事な腕前だとは思うが……


「ニクだ……」

「ええっ楓ちゃん、この見た目はどうかと……」

 リコもドン引き。

 スミスも茫然。

 流石の奈良坂も(えぇ……)みたいな表情をしている。

 一同の目前で、人間サイズの赤い肉がぷるるんと震える。

 ホラー映画に出てきそうな見た目だが、日中に見ると迫力もなく反応に困る。


「……もうちょっと子供に見せも問題なさそうなネタはなかったのか?」

「姉さんが自由ですまない……」

 苦笑する舞奈と紅葉に、


「水や空気を撃つよりはと思いまして。それにほら、可愛らしいメジェド神をリコさんの前で破壊するのも心苦しいですし……」

 楓がもそもそと言い訳する。

 それに合わせて肉も蠢く。

 目鼻どころか手足の区別もなさそうな塊が、申し訳なさそうにぷるんと震える。

 すごくデフォルメして子供向け番組にでも行けば人気者になれたかもしれない。

 やれやれだ。


「そりゃそうなんだがなあ……」

 舞奈はやれやれと肩をすくめる。


 まあ蠢く肉の塊が、水や空気を撃つより実践に即した標的なのは確かだ。

 それに硬い岩の標的は無駄に跳弾して危険と言えば危険なのも理解できる。

 これが楓なりの気づかいだと言われれば反論はできない。

 そんな事を考える間にも……


「このくらいの場所でどうですか?」

「……ああ、そこでいい。っていうか、そういう風に動くのか」

 肉の標的は這いずりながら通りの奥へと移動する。


「必要なら目鼻をつけることもできますよ?」

「可愛くしたら撃ちにくいんじゃなかったのか?」

 続く妄言に苦笑しつつ、舞奈も改造ライフルを構える。

 持ちやすさも重心のバランスも丁度いい。流石はスミス。

 人通りがないのを良い事に壁に当たらないよう標的を挟んで通りの向こうに銃口を向けて――


「――奈良坂さん、リコを頼む」

「はーい」

 声をかけつつ撃つ。


 銃声。

 保持した腕と身体全体に響く衝撃。


 ほぼ同時に、肉塊に大穴が開く。

 銃弾は威力を減じる事無く通りの奥へと消える。

 その先は流石の舞奈も目では追えない。

 後で何処まで飛んだか探してみたいと思った。


「お見事」

「やるなーしもん!」

「ほえー。普通に当てますね」

 後ろで紅葉が、リコを背後にかばった奈良坂が感心し、


「ヒューッ! こりゃ凄い威力だ」

「気に入ってもらえて何よりだわ」

 舞奈は大口径マグナム弾(338ラプア)の威力に目を見張る。

 ガリルの小口径ライフル弾(5.56×45ミリ弾)とは比較にならない、ガラッツの大口径ライフル弾(7.62×51ミリ弾)と比べてすら凄まじい貫通力だ。


「肉を前後に長くする事もできますよ?」

「いや、貫通力は別の機会に確かめるよ……」

 肉の見た目が更にアレになりそうなので楓の申し出を断り、


「じゃ、次はちょっと遠くを撃ってみるか」

 通りの向こうを見やる。


「はい、これ」

「さんきゅっ!」

 スミスが持ってきてくれた長物と得物を交換する。


 この付近は無人のビルばっかりだ。

 なのでノーマルのスナイパーライフル(DAN)での狙撃も試すつもりだ。


「どのくらい離れればいいんですか?」

「1.2キロくらいかしら」

 楓の問いにスミスが答える。


 そうしながら楓が短く呪文を唱える。

 肉の破損部分を補修するためか。

 赤い肉塊がじゅるじゅる蠢いて穴がふさがっていく。

 そんな様子を無言で渋い表情で見守りながら……


「その場にあるものを撃つからいいよ……って、そんな距離まで動かせるのか」

「ああ。【魔神の創造】技術を応用してるっていってたかな」

 ふと口にで出た疑問に紅葉が答える。

 そうするうちに施術が完了し、肉塊は元通りに肉塊に戻る。

 見た目は変わらずアレだ。


 まあ、よくよく考えれば鷹乃の式神は他県で作戦行動ができる。

 明日香や冴子も市内とはいえ支部ビルから式神で御町内を見回っていた。

 魔術で創造された単なる水や岩より式神や魔神に近そうな蠢く肉なら、慣れればそういうものなのだろうと納得する。

 そんな事を考えるうちに、肉塊はずりずりと地面を這って去っていく。

 結構早い。

 これなら、さほど待たずに目標地点にたどり着くだろう。

 っていうかキモイ。


「ニクはかえるのか?」

「何処にだよ。って言うか何処まで行けばいいのかわかるのか?」

「1キロほどでしたか。創造物との位置関係の把握も慣れればなんとか」

「便利だな……」

「あっ楓ちゃん、そのあたりでいいんじゃないかしら」

「了解しました」

 双眼鏡を手にしたスミスに言われて楓は肉塊を制止させた……らしい。

 真っすぐな通りの向こうまで直線距離で移動したのだろうが、流石の舞奈も1キロ先を肉眼で確認する事はできない。

 なのでスナイパーライフル(DAN)を構えてスコープを覗きこみ……


「……なに一丁前に隠れてやがる」

「壁の割れ目からちょこんと顔を出す様子が可愛らしくないですか?」

「アーティストのセンスをあたしに期待せんでくれ」

 楓の妄言に惑わされず撃つ。

 再び銃声。

 だが結果を見られるのは舞奈のみ。

 スコープの中で身体の半分ほどを遮蔽に隠した肉塊に再び穴が開き、今度は溶けて崩れ落ちる。


「あたった!」

 双眼鏡を覗きこんでいたリコがはしゃぎ、


「おや、隠れていたのにド真ん中。魔法弾ですか?」

 感心する声と共に、材料から魔術で創造された肉は光の粉になって消える。

 這いずって手元に戻ってくる意味もないので術を解除したのだろう。

 片づける必要がなくて楽と言えば楽だ。


「奥の壁に当てたんだよ。流石はマグナム弾。あんな遠くに当ててもドッジボールみたいに跳ねるぜ」

「跳弾かあ。流石は舞奈ちゃん」

 得意げに言った途端に姉妹揃って感心され……


「……そうそう。昼食の用意もできてるけど、どうかしら?」

「もちろんいただくぜ!」

「ごはんだ!」

 スミスの言葉に皆して笑顔で答えた。


 ……そしてスミスの絶品ストロガノフをこれでもかと堪能して、午後。


 舞奈はスミスや楓たちと別れ、明日香と共に県の支部から埼玉支部へ転移。

 他の仲間と合流して禍我愚痴支部へと赴いた。


 そして、いつもの会議室で……


「……先日の下水道の清掃計画の件だが、作戦立案の前にこちらの諜報部と顔合わせしておきたいと思う」

「それが良いでゴザルな」

「頼りになる人たちだと良いでやんすね」

 トーマスの言葉にドルチェややんすがにこやかに答える。

 他の面子も同じ意見なようだ。


 先日の作戦で遭遇した、下水道に巣食う大量の薬物中毒者の怪異。

 表の街の平穏のためにも奴らを殲滅する必要がある。

 だが昨日の今日で調査もせずに下水道に殴りこんでも奴らの得物が増えるだけで良い事は何もない。

 だから作戦の決行はもう少し先だ。


 それでも今回の大規模な殲滅戦を舞奈たち7人の協力チームだけで実施するのは厳しい。なので禍我愚痴支部の執行部の力を借りる事になったのだ。


「トーマスさん。諜報部の皆さんが揃いましたー」

「ああ、すまない」

「全員で来たのか……」

 ドアの向こうから聞こえたフランの声に苦笑して、


「先方から見た顔合わせの意味もあるんじゃないかしら」

「なるほど」

 冴子の言葉に納得する。


 ドアの外の足音と喧騒を数えるに、元気なのが相当数はいるようだ。

 彼らからもこちらに興味を持ってくれてるなら、その方が好都合なのも確か。


「失礼します」

「邪魔するぜー!」

 そんな事を考えた途端、ドアが開いてがやがやと少年たちが入ってきた。

 体育会系……というかヤンキーっぽい、いかにもな少年たち。

 彼らが禍我愚痴支部の執行部に所属する異能力者たちだ。

 その数は4ダースほど。


「……これで全部か?」

「ああ、その通りだ」

「そっか……」

 舞奈の問いにトーマスが答え、


「ハハッ! 驚いたか?」

「あ、ああ。まあな」

 先方の反応に逆に困る。


 人数の多さに驚いたと思ったのだろう。

 だが舞奈的には逆だ。

 須黒の感覚だとちょっと大きなグループくらいの規模だ。

 正直なところ……Koboldの件で、この規模の異能力者のグループがイレブンナイツ2人に全滅させられた。

 それでも須黒支部は何事もなく業務を遂行していた。

 それは極端にしても、少なくとも想定する地下の敵よりは格段に人数は少ない。

 人海戦術は無理そうだ


 次いで自己紹介される。

 彼らが誇るBランクのリーダー以下、BからCランクの精鋭なのだそうな。

 舞奈的にはちょっと、こう、大丈夫かな……? という印象だ。

 動きを見ても、あからさまに不安な奴とかいるし。

 そんな彼らのうちひとりが、


「フランさん、子供は何すか?」

「てめーは話を聞いてなかったのか? 例の魔法少女だよ」

(えっ!?)

 指をさして訝しんできた。

 続く台詞に、舞奈と明日香は思わずフランを見やる。

 フランはちょっと目をそらす。

 彼らへの説明と段取りはフランがやってくれたらしい。

 地元の支部の働き者として頭が下がる思いではあるが……


「いえその、説明が難しくてニチアサのヒロインみたいなものと……」

「おおい……」

「えぇ……」

 それは説明してないのと変わらないのでは?

 明日香と2人して困ったようにフランを見やる。


 まあ関係も悪くなさそうとはいえフランと彼らは術者と異能力者。

 認識もいろいろ違うのかもしれない。

 他県では例も少ないであろう小学生の仕事人(トラブルシューター)、しかもSランクなんて説明のしようもないのかもしれない。

 苦笑しながら、そんな事を考える間に、


「そっちのエースはあんただな? 腕が一番たちそうだ」

 少年たちのリーダーらしき男がザンを見やって言った。


(((えっ!? 違うけど)))

 舞奈たちは再び唖然とする。


 だが、まあ実際のところ無理もないと頭では理解しているつもりだ。

 彼ら自身と最も似ているのはザンだ。他は太っちょ(ドルチェ)とモヤシ(やんす)に女(冴子)、加えてニチアサみたいな子供が2人。

 だからザン以外の面子は協力者として眼中に入らないのだろう。


 そういう考え方が異能力者として一般的な事は舞奈も知っている。

 一般的な――少なくともBランク以下の異能力者は、術者や、ましてや女子小学生のSランクの実力に気づく事はない。

 以前にレインを残して全滅した県の支部の異能力者たちもそうだった。

 須黒の【雷徒人愚】もそうだった。

 切丸もそうだった。


 そんな切丸と友人だったザンは、


「そんじゃ、俺とあんたで腕試しってのはどうだ?」

 言い切った。

 エースと言われて気が大きくなったか。

 こちらも説明が面倒だと思ったか。

 あるいは両方か。


「構わないっすよね? 舞奈さん」

「いいと思うぜ。格好悪いとこ見せるなよ」

「トーマスさん、よろしいですか?」

「ああ。訓練がてら互いの技量を確認しておくのもいいだろう」

 ザンの言葉に舞奈が答え、確認する明日香にトーマスが答える。


「じゃ、決まりだ」

 そうして皆でざわざわと訓練室へ。


 そして広い部屋の中央で、ザンと先方のリーダーが対峙する。


 両者は木刀を構えて睨み合う。

 そんな2人を舞奈たちが、少年たちが囲んで見守る。


「まけるな隊長!」

「そんな奴、のしちまってください!」

 少年たちから声援が飛び、


「ザン、頑張って」

「まかせてください!」

 冴子の言葉にザンが答える。

 その浮ついた表情に、いざとなったら代打で出るかと舞奈は内心で苦笑する。


「遠慮なくかかってこい!」

「なら行くぜ!」

 リーダーの挑発に答え、ザンは木刀で殴りかかる。

 早い。一般的な【狼牙気功(ビーストブレード)】の水準より。

 ギャラリーの間からざわめきが漏れる。


 だが脇腹を横薙ぎに狙った人たちを、リーダーは避けもせずに受ける。

 効いてない。

 どうやら彼は【装甲硬化(ナイトガード)】らしい。

 ドルチェと同じ、衣服を無敵の鎧に変える異能力。

 だが、それを彼は積極的に戦術に取り入れるスタイルのようだ。


「……これ、どうなったら勝ちなんだ?」

「相手が戦意を喪失したら勝ちでゴザル」

「そっか……」

 尋ねると、そんな答えが隣のドルチェから返ってきた。

 異能力者の間ではよくある流儀なのだろうか。


 そうする間にも、ザンは【狼牙気功(ビーストブレード)】によるスピードを活かして駆け回る。

 リーダーめがけて四方八方から打ちこむ。

 それを相手は手にした木刀でことごとく受け止める。

 大人しく喰らうのは最初だけらしい。

 殴られっぱなしで異能力で防ぐだけでは相手は戦意を喪失しないからだ。

 それにしても……


「……中々の手練れでゴザルな」

「まあな」

 ドルチェが評する。

 舞奈もうなずく。


 リーダーは自身の技量だけで【狼牙気功(ビーストブレード)】の苛烈な連続打撃をしのいでいる。

 舞奈やドルチェに敵わぬまでも、Bランクの自負に相応しい実力はあるらしい。

 作戦の協力者として安心はできる。

 だがザンには厳しい戦いだ。


 何故なら速度によるアドバンテージを技術だけで帳消しにされているからだ。

 加えて相手は【装甲硬化(ナイトガード)】。

 衣服を着ている胴や手足に当てても一本にはならない。

 それを明示するために最初に避けずに喰らったのだろう。

 対してザンに特別な防護はない。

 一発でも殴られれば終了だ。

 この試合でも、実戦でも同じだ。

 そして動きが大きいザンの方がスタミナ切れは早い。

 それでも……


「おーいザン。格好つけてないで真面目にやれ」

「わっ!? すんません!」

「……くっ! こいつ!」

 舞奈がはっぱをかけて、ザンが慌てた途端にリーダーがうめく。


 ザンの素早い連続攻撃が正確さを増したからだ。

 リーダーの正確無比な反撃を、さらに正確で素早い攻撃で切り返す。

 相手の動きをよく見て動けばこの通り。


 ……というか今まではスピードまかせの上っ面だけの攻撃を続けていたのだ。


 冴子に派手な活躍でも見せたかったのだろう。

 まったく。


 だがザンの動きの変化で試合の流れも変わった。

 両者の太刀筋の正確さが同じなら、スピードは大きなアドバンテージになる。

 故にリーダーは防戦一方になり――


「――何っ!?」

 フェイント気味に一閃されたザンの木刀が、リーダーの得物を弾き飛ばす。

 それで勝負が決まった。


「おまえの実力はしかと見た」

「へへっ! まあ、広い世界の中には俺より強い人だっているんだけどな」

「謙遜か。流石だな」

 リーダーの素直な賛辞に、いい気分で語ってみせるザン。


 偉そうだなあと思いながらも、負かした相手の前で過剰に謙遜してみせても相手のプライドを傷つけるだけなのだろうと舞奈は思う。

 それをザンは知っている。


「隊長殿の太刀筋も見事でゴザった」

「ありがとう大柄な人。次の機会には貴殿ともお手合わせ願えるかな?」

「むろんでゴザルよ」

「じゃー次は俺がやるっす!」

 ドルチェの周りにも人が集まってくる。


 自分たちのリーダーが相手のリーダーと真剣勝負して、負けて、そうする事で相手グループを仲間として認識する。

 そういう世界もあるのだろう。


 おそらく彼らをまとめる仕事はザンにしかできない。

 そういう意味では舞奈はザンを見直した。


 ……あるいは彼にならできるかもしれない。


 ピアースができなかった事が。

 日比野陽介にできなかった事が。

 リーダーとして異能力者たちをまとめる事が。

 自分たちの下に集った仲間たちが、術者に対峙し、常識外れな怪異に対峙し、それでも生き残れる集団になれるよう導く事が。

 柄にもなくそんな事を考えて口元に笑みを浮かべた舞奈を見やって――


「――あのガキ、ビビってるんじゃねぇのか?」

「そりゃそうさ! さっきの隊長と向こうのエースの勝負を見たらなあ!」

「いや、むしろ舞奈さんは――!」

「――別に構わんさ」

 少年たちが笑う。

 慌てて訂正しようとするザンを舞奈が制止する。


 何故なら、そんな彼らの様子すら今の舞奈にとっては懐かしい。

 先ほどの勝負を見て、少しばかり涙もろくなっているのは事実だ。

 舞奈と微妙に仲が悪かった【雷徒人愚】の異能力者たちと、舞奈は絆を結ぶ事ができないまま彼らは帰らぬ人になった。

 だがザンは彼らと会ったその日に打ち解けて見せた。


 だから舞奈は、彼ら諜報部との折衝をザンにまかせることにした。


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