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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第21章 狂える土
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日常5

 埼玉の一角に広がるスラムにて違法薬物の中毒者を首尾よく捕らえた舞奈たち。

 紆余曲折はあったものの全員で無事に撤収。

 案内人の爺ちゃんも事務所まで送っていった。

 回収車に運びこんだ2匹も禍我愚痴支部へつつがなく引き渡し完了。

 技術部の人たちはすぐさま調査にとりかかってくれた。

 後は結果を待つばかりだ。


 そんな大仕事を終えた日の翌日は土曜日だった。


 なので舞奈も今日の仕事の前の平和な午前を満喫した。

 旧市街地で園香たちと偶然に出くわしてショッピングを楽しみ、先方にも午後からは別の用事があるというので別れた。

 そして昼飯でも食おうと訪れた『太賢飯店』のカウンターで……


「……という訳なんだ」

 舞奈はいつもの席に腰かけながら話し終える。


「そうなの?」

「ええ、大筋では合ってるわ」

 隣でテックが明日香に確認する。

 大筋って何だよ別に嘘なんかついてないだろう、と少し明日香を睨む。

 だが明日香は手持無沙汰にメニューを眺めながら礼儀正しく無視。

 舞奈もそれ以上はツッコまない。

 大きな仕事を終えた後で気分が良いからだ。


「大変だったアルね」

 対面で手際よくいつものメニューを準備しつつ、張も話に耳を傾ける。


 店内の面子が知った顔だけなのを良い事に、舞奈は埼玉の一角での先日までの仕事について総括していた。


 つまり違法薬物とチップの関係。

 薬物中毒者の狂える土を捕獲しようとスラムに赴いた捕獲作戦。

 別行動をとった仲間を襲った、下水道に蠢く大量の中毒者。

 別に守秘義務がある仕事ではないので関係者に話す分には問題ない。


「そのような事になっておったか。無事でなによりじゃ」

 横で腕組みしながら聞いていた鷹乃がしたり顔で答える。

 バイト中のエプロンと、低学年くらいの見た目と無駄に偉そうな態度のすべてがそれぞれちぐはぐだ。

 だが、まあ別に舞奈も気にしない。


 何せ彼女は禍我愚痴支部での任務の前任者。

 こんななりでも腕のいい陰陽師なのだ。

 舞奈が先方で暴れた際に、少しばかり力を借りた事もある。

 雑談代わりに最近の事情を伝えてもバチはあたらないだろう。

 そんな鷹乃は、


「鷹乃ちゃん、これをお願いするアルよ」

「うむ。良かろう」

 店主の張に呼ばれてカウンターの奥に戻り、


「注文の品じゃ。……にしてもそなた、いつも同じもの食っとらんか?」

「さんきゅっ! そりゃ同じ店で食ってるからな」

 担々麺と餃子の皿を載せたトレイを持ってきた。


 いつ見てもちっちゃい子供がお手伝いで料理を運んでるみたいに見えるなーと内心で思いながら、優しい笑顔で受け取る。

 カウンターが高いので積極的に受け取らないとぶちまけられそうに思えるのだ。

 そんな訳で、無事に目前に乗った担々麺から立ち昇る甘辛い湯気と、餃子から漂う肉の香りを堪能しながら満面の笑みを浮かべる。

 慣れた調子で割り箸を割り、小皿に餃子のタレとラー油を注ぐ。

 その間に、


「明日香ちゃんも、テックちゃんも、お待ちどうさまアルよ」

「ありがとう」

「上からで失礼するアル」

「問題ないわ。いただきます」

 隣で張が明日香とテックにカウンター越しに料理を給する。


 明日香の前には、飯の上の卵にかかった餡が甘く香る天津飯。

 つけ合わせの卵スープに上品に口をつけ、次いでレンゲを手に取り天津飯のやわらかく焼かれた卵と餡にとりかかる。


 テックの前には汁なし担々麺。

 以前に食べて気に入ったらしい。

 その時に舞奈も食べてみたいと思ったが、すっかり忘れて今日も同じものを注文した。だが、まあそれは次の機会に覚えていたら頼めばいい。

 今はそれより仕事の話だ。


 気分よく語っていた舞奈。

 例によって隣から細かいツッコミを入れていた明日香。

 昼食を奢るからと強引に連れてこられて聞き役に徹していたテック。

 そして……


「……言ってくれたら、このあいだ行った時についでに片付けていったのに」

「前に来てもらった時には知らなかったんだよ、そいつらの事」

 ボソリとこぼした小夜子に舞奈は苦笑する。

 隣の明日香も少しばかり不本意そうな表情でうなずく。

 先日まで奴らの存在に気づかなかった事が気に入らないのだ。


 それはともかく小夜子とサチは、以前に教導のため禍我愚痴支部に来てくれた。

 そこで少しばかり頼りなかった仲間たちに、術と異能が乱れ飛ぶ戦場で戦い抜くためのノウハウと心構えを教えてくれた。

 ザンが先日の戦闘で生き残れたのは彼女らのおかげでもあると舞奈は思う。


 まあ先日も、あの場所に小夜子がいたら貴重な戦力になったのは確かだろう。

 なにせ小夜子は喫煙者の虐殺と根絶のために手段を択ばない。

 その中には狂える土も含まれる。

 小夜子の手札にも自身が修めた強力無比なナワリ呪術が含まれる。

 彼女はヤニ臭い怪異を生贄にした大魔法(インヴォケーション)で怪異の群を爆発させられる。

 つまり喫煙者の天敵だ。

 場合によっては群成す中毒者どもを打尽にする事すら可能だったかもしれない。

 だが、その代わりに界隈のマンホールというマンホールが爆発して汚水と汚物と狂える土の破片を街中にぶちまけていた危険性もある……。


「っていうか、ついでに部屋の掃除してくよみたいなノリで言われてもなあ」

「あはは。まあ、それは」

 小夜子の隣でサチも苦笑する。


 その様に、ひとつ離れた席に並んで座っているのは小夜子とサチ。

 カウンターに仲良く並べたお揃いの日替わりランチを仲睦まじく堪能している。

 飯を食おうと店に入ったところで鉢合わせたのだ。

 デート中だったらしい。

 今しも同じものを頼んで供されたランチの点心をシェア、とか意味不明な事をしているが、そこをツッコむと虐殺し損ねた狂える土の代わりに何かされそうな気配を感じたので礼儀正しく自分の担々麺に集中する。


「鷹乃ちゃんも、まかない食べるアルか?」

「いや、梓と美穂が来てから相伴しよう。一度に用意した方が店主も楽であろう」

 そんな一聴すると殊勝な問答を聞きつつ、


(お昼のかき入れ時にバイト3人が一度に食事する飲食店……?)

 そんな表情でテックが見やってくる。

 もちろん表情の薄い冷静な彼女は、それを口に出さずに自分の担々麺に集中する程度の節度は当然のように持ち合わせている。


 普段の土日は鷹乃と一緒にクラスメイトの梓と美穂がバイトしている。

 3人は学校でも仲良し3人組だ。

 だが梓と美穂は今日の午前中にライブの打ち合わせがあったらしい。

 2人がティーンズアイドルの中の人だからだ

 なので少し遅れてくるのだそうな。


 舞奈より学年がひとつ上の小6女子の梓と美穂は、鷹乃と真逆なナイスバディ。

 たわわなおっぱいが見られなくて残念だと少し思った。

 だが、代わりにこうして仕事の話ができる。

 そんな事を考えながら飯を堪能する舞奈の横から……


「……でも、今まで何処にいたのよ? その大量の中毒者って」

 テックからのツッコミ。

 小夜子とサチも同じタイミングでうなずく。


 表情が薄く礼儀正しいテックは腕のいいハッカーでもある。

 冷静沈着で明日香以上に頭も切れる。

 口数も少ない中で、ボソリと紡がれるツッコミも的確で手痛いものばかりだ。

 やれやれ……。


「あと執行人(エージェント)を罠に誘いこむって、そいつらが頻繁にやる事なの?」

「それはなあ……」

 続く追及に、


「だいたい先方の諜報部や占術士(ディビナー)は何をしてたのよ?」

「フランちゃんがサボってた訳じゃないと思うんだが」

「そういう話じゃなくて、目と鼻の先に怪異の巣があるのに気づいてなかったのが問題だって言ってるの」

 尻馬に乗ったように言いつつ小夜子はランチのエビチリを頬張る。


 小夜子もサチも須黒支部では占術士(ディビナー)を務めている。

 最近とみに強力で厄介な怪異による被害が多発している須黒で、奴らの暗躍に目を光らせて必要とあらば対処までしている彼女としては、別の支部とはいえ同じ部署の人間として言いたい事があるのは理解できる。


 なので舞奈も、明日香と顔を見合わせて考えこむ。

 テックや小夜子の疑問はもっともだ

 というか舞奈も午前中に園香たちと遊びながら少し気にはなっていた。


 まあ確かにドルチェから連絡を受けた当初はそれどころじゃなかった。

 必死に走って間一髪で駆けつけ、機転を利かせて皆で首尾よく撤退して安心したついでに舞奈の中ではすっかり過去の出来事になっていた。


 だが冷静に考えてみれば不自然な状況ではある。

 大量の薬物中毒者の怪異が下水道に潜んでいる状況は当然ながら普通じゃない。

 下水道は○んこが流れる場所であって怪異を飼う場所じゃない。

 奴らだって昨日や今日から住み着いた訳ではないだろう。

 しかも、いつかの四国の一角みたいに街そのものが怪異に占領されてしまった訳でも、支部が壊滅して機能していなかった訳でもないのだ。

 普通に諜報活動をしていれば何らかの痕跡や違和感に気づくように思える。

 それ以前に地下から溢れ出た怪異が付近の住人を襲ったり取って食おうとしたりして排除を余儀なくされたりしそうなものだとも思う。


 それを今の今まで見逃していたというのも、支部の存在意義を問われる状況だ。

 先方の諜報部らしくないとも思う。

 過去に幾度か敵の動向を的確につかんだ手腕はあるのに。


 しかも今回、敵は舞奈たちの作戦を逆手にとって罠に誘いこんだ。


「実は敵の中に占術士(ディビナー)がいるんじゃないかしら?」

「卑藤悪夢みたいにか? ンなのにホイホイ出てこられたら堪らんがなあ」

 サチの言葉に、餃子をつまんで頬張りながら嫌そうに答える。

 だが、それ以上の反論はできない。


 何故なら流石の舞奈も、自分の周囲に例外的な存在が多い事実は理解している。

 遺憾ながら、普通の人間なら一生の間に一度も出会わないような厄介事に立て続けに対処している自覚もある。

 自分の行く先々でその手の輩と出くわす運の悪さも自覚している。

 あるいは、そういう危険を排除できる人間側のカードとして意図的にぶつけられてるんじゃないかと訝しんだ事も多々ある。

 なので今度の敵だけが一般的で組み伏せやすいとも思えない。

 預言で追及を逃れている可能性があると言われても否定はできない。

 大変、遺憾ながら。


 隣で明日香も考えこんでいる。

 知的な魔術師(ウィザード)でもある彼女は訳がわからない事が謎のままなのが嫌なのだ。

 だが流石の彼女もすぐに納得のいく推論を思いついたりはしないらしい。

 舞奈も内心で盛大に顔をしかめながらも何か対策を考えなきゃならんと頭をひねりながら、担々麺をずずっとすすり……


「……おかえりなさーい。わっ! すぐにバイト入るね」

「おっ! 舞奈っちだ! みんなもいらっしゃーい」

 立てつけの悪いドアがガラリと開いて、梓と美穂が帰ってきた。

 思いがけず店に客がいて驚いている様子だ。


 舞奈は頭を切り替える。

 今ここで舞奈が考えても仕方がない。

 先方で他の面々の知恵を借りた方が良い考えが浮かぶかもしれないし。

 なので梓たちがアイドルなのは逆に皆には秘密だっけと考えながら……


「……そういやお姉ちゃんたち、最近はヤギの調子はどうだい?」

「バフおちゃん? この前、当番だったよー」

「おっそりゃ真面目だ」

 当たり障りのなさそうな話題を振ってみる。


「最近は鷹乃ちゃんに懐いてるみたいでね」

「そうなんだ」

「うむ。鷹乃っちをくわえて背中に載せる遊びにはまってるみたいでなー」

「……遊びか?」

「……載せると強くなるボーナスアイテム的な何かだと思われてる?」

「まったく、人を好き勝手に弄りおって……」

 美穂の言葉に舞奈とテックはそろって首をかしげ、鷹乃がむくれ――


「――特に全力で笑いを堪えてる安部明日香! 相変わらず性格悪いやっちゃ!!」

「……ぷっ! あら失礼……ぷぷぷっ!」

 わざとらしく目をそらす明日香に辛抱できずに絶叫した。


 ……そのように皆で普通の会話をしながら昼食を楽しむ。


 今日も須黒は平和だった。


 ……そして夕方。


 舞奈たちは県の支部から埼玉支部へ転移。

 そして他の仲間と合流して禍我愚痴支部へと赴き……


「……例の薬物についての調査については今のところ順調だ」

「そいつは重畳」

「苦労した甲斐があったでゴザルよ」

「まったくだぜ」

 会議室でトーマスから調査の報告を聞いていた。

 昨日の作戦で確保した中毒者が調査に役立っているようでなにより。

 ひとまずの吉報に皆でなごむ。


「暴れて大変じゃないのか?」

「それは問題ありません。2匹とも薬剤による拘束が効いてますので」

「脂虫だけを動けなくする薬って奴か」

「ええ。本来は保存用なんですけどね」

「そんなものがあるのかー」

 ザンの素朴な疑問にフランが答える。


 そういう手段で脂虫を拘束できる事は知っている。

 たしか須黒でも諜報部や明日香の実家で使っていたはずだ。

 それを捕獲する際にも使えたら……とは舞奈も少し思ったが後の祭だ。

 便利そうな反面、制限も多いのだろう。

 だが、まあそれは良い。


「それより調査の結果はどうでゴザルか?」

「ああ。やはり須黒からのデータとの類似点が多い事が確認されたよ」

 ドルチェが問いかけ、


「脳のCTは撮ったのかしら? 舞奈ちゃんたちが言ってた、チップ? のようなものは発見されたの?」

「脳の一部に何らかの異物があるのは確かなようです」

 少し込み入った冴子の問いにフランが答える。


「ただ、それが具体的に何なのかはまだ調査中です」

「そうね。宿主が死ぬと消滅するらしいし」

 続く言葉に冴子もうなずく。


 禍我愚痴支部の諜報部に属するフランは、調査の実務にも少しばかり絡んでいるらしい。昨日の今日で頭が下がる思いだ。

 ザンが会話に混ざりたそうにしているが発言のネタを思いつかない様子だ。

 代わりに、


「つまり舞奈さんのいうチップへの対策が、そのまま薬物中毒者にも通用するって事でやんすか?」

「そこまではまだ確認中だ。だが週明けには結果を報告できると思う」

「そいつは楽しみだぜ」

 首をかしげるやんすにトーマスが答える。

 その言葉に舞奈は口元にニヤリと笑みを浮かべる。


 まあ、両者が同じものだったからと言って特別な対処法がある訳じゃない。

 それでも敵の手札の底がわかるのは有り難い。


 異能力の追加。

 身体能力の上昇。


 それだけの相手なら数がどれほどだろうと対処は楽だ。

 少なくともKoboldの一件での黒幕だった卑藤悪夢みたいに本格的に預言を使って逃げ隠れされるよりはマシだ。


 そして2つが同じものならば出元も同じという事になる。

 チップについて流石に何か調べているであろうディフェンダーズの面々と接触が取れれば、違法薬物とやらの根絶も可能となる。

 Wウィルスの時と同じだ。


 あるいはルーシアやスカイフォール王国の面々ならチップについて、薬物について別の何かを知っているかもしれない。

 それが狂える土どもの不審な動きとやらの正体かもしれない。

 つまり舞奈たちがこの地に呼ばれた大本の原因を暴き、解決する事に繋がるかもしれない。だが、その前に……


「……その前に、新たな問題が持ち上がっている」

「まあな」

 続くトーマスの言葉に舞奈はうなずく。

 他の面々も同じだ。


 大局的な目標より先に、今は目先にやるべき仕事ができてしまった。

 例のザンとドルチェを襲った中毒者どもの群の件だ。


 現在、下水道には薬物中毒者の狂える土が大量に巣食っている。

 いつから居るのかはわからないが、まあ今はそれはいい。

 逃げた中毒者を追ったザンとドルチェは、そいつらの住処におびき出された。

 2人を救出して撤収する際に、活路を切り開くべく冴子の【紫電掃射(しでんさうしゃ)】で数ダースほどの薬物中毒者を消し炭に変えた。

 だが、それすらも出現していた群全体と比較すればごく一部。

 それも舞奈らが遭遇した群が下水道に巣食う中毒者のすべてだった場合の話だ。


 そいつらの脳内にあるものがチップと同じものであれ、違うのであれ、野放しにしておく訳にはいかないだろう。

 あんな集団が街に雪崩れ出したら人間社会は大混乱だ。

 暴動なんて生易しいものじゃない。


 さらに奴らは街で人間として暮らしている訳じゃない。

 人間の姿こそしているが奴らに人間としての身分はないのだろう。

 つまり新開発区の泥人間や毒犬と同じだ。

 排除に法的な制約はない。

 そんな奴らを放置しておいては【機関】支部の意味がない。


 つまり次の問題は、奴らをどう殲滅するかだ。

 そこまで考えて……


「……そいつは流石にあたしらだけでやる仕事じゃないんじゃないか?」

「そうでゴザルな。正式な討伐作戦として執行部が動くのが筋でゴザろう」

「やんすねー」

 ふと気づき、ドルチェともども訴えてみる。

 だが……


「すまない。執行部の正規の執行人(エージェント)が異能力者しかいなくてね」

「おおい……」

 返ってきたトーマスの答えに苦笑する。


「人数が足りないって事か? あれだけ数がいたからなあ……」

 同じように苦笑する皆を見やってザンだけが少し不思議そうにしている。


 彼にとって異能力者だけが戦力という状況は普通だからだ。

 というか、一般的な支部ではそうなのだろう。

 ひとりにひとつの異能力によって怪異に対抗するというだけでも、表の一般的な社会のありかたからはかけ離れている。

 つまり怪異との戦闘の主役にして唯一の実行力は異能力者だと。

 自分たちのやり方が、対怪異のスタンダードだと思っていても不思議じゃない。

 それより更に上の奇跡が存在するだなんて事を、考えつきもしなくても。


 だが常識外な敵との戦闘がスタンダードな舞奈的には、須黒とは状況が違うなあという感想が強い。

 その組織編成で大丈夫か? と思わず思ってしまう。

 ちょっと表の世界の警察組織とかを見てる気分だ。

 県内というくくりで埼玉支部で対処するのが困難なレベルで怪異が蔓延っているから禍我愚痴支部が設立されたと聞いている。

 戦力的に不安を抱えていては支部の存在意義がない気がするのだが……?


 それでもまあ、そうでなければ舞奈がヘルプに呼ばれたりもしなかった。

 禍我愚痴支部にも事情があるのだろう。

 まあ【機関】全体としても無限に術者を抱えてる訳じゃない。

 県の支部では抑えきれない怪異への対処というのも、市民に扮した奴らの暴力沙汰に場当たり的に対処するくらいを意図していたのかもしれない。

 術者との戦闘なんてものは設立当初は考慮されていなかった。

 下水道を埋め尽くす規模の群を殲滅する状況も。

 そう考えた方がいろいろと納得ができるのも事実だ。

 なので……


「……仕方がないわ。わたしたちが主導で排除の計画を練りましょう」

「こちらの人員も使わせてもらう前提で構わないでやんすか?」

「ああ。支部からも可能な限りの協力はさせてもらう」

 責任感の強い冴子、仕事を周囲にアウトソーシングする事には余念のないやんすの言葉にトーマスが答え、皆もうなずいた。


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