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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第21章 狂える土
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違法薬物受渡現場の偵察

 初等部の下校時刻をとうに過ぎ、中等部や高等部も一日の授業を終えて生徒たちが部活なり課外活動なりを始めた時分。

 高等部校舎の一角に坐する生物室の前で……


「……紅葉先輩! 本当にいいんですか!?」

「あ、ああ。もちろんだよ」

 中等部の制服を着た数人の女生徒が歓喜する。

 紅葉がちょっと引くくらいの喜びようだ。

 つい何か月か前には女子小学生だった幼い顔には涙の跡が残るものの、今は安堵と感謝が入り混じった満面の笑みが浮かぶ。


「いや実はね、姉さんが黒崎先生の講演を聞いて妙な影響を受けたみたいで。どうしても生物室の掃除がしたいって言い出して……」

 対して紅葉は少しバツが悪そうに苦笑しながらポリポリと頭をかいてみせる。

 だが後輩はそんな仕草など気にも留めずに、


「無理を言って代わってもらってごめんね」

「無理だなんてそんな!」

「ありがとうございます紅葉先輩! ありがとうございます!」

 ガチ泣きしながら感謝する。


 去年までは小学生だった中等部1年の後輩は、ムクロザキこと黒崎先生の生物室を掃除するのが怖くて嫌で仕方なかったのだ。

 そこを紅葉が「今日の掃除当番を譲ってくれないかな?」と申し出たのだ。

 割と妥当な反応ではある。


「この御恩は一生忘れません!」

「そんな、大袈裟だよ」

「ありがとうございます! ありがとうございます!」

「お姉さんにも、よろしくお願いします!」

 後輩たちは泣き笑いながら、生物室のドアから逃げるように去っていく。


 素直で可愛いJCたちは、先輩が自分たちを恐ろしい生物室の掃除から罷免するために無軌道な姉をダシに適当な事を言ってくれたと思っているのだ。

 だがまあ、その理解も半分は当たっていたりする。

 紅葉が生物室に入る理由として適当な事を言ったのは本当だ。

 なので……


「……相変わらず紅葉ちゃんは人望がありますね」

「クラスには姉さんのファンもいっぱいいるよ」

 物陰からひょっこりと、無軌道な姉こと楓さんがあらわれた。


「姉さんにもよろしくって」

「ええ、聞いていましたとも」

 どうでもいい軽口を叩きながら、2人して恐ろしいドアを無造作に開ける。

 そのまま真っ暗な部屋に入室する。

 蛍光灯のスイッチをつけた途端、部屋いっぱいに並んだ大きなケースの中から見るからにヤバそうな爬虫類や節足動物や他の種類の小動物がこんにちはしてきた。

 気の弱い生徒なら泣くのも無理のない酷い絵面だ。


 だが楓は意にも介さず、指を鳴らして合図する。

 途端、背後の虚空からメジェド神が出現する。

 目と足しかない釣鐘型の魔神は双眸から光線を放って慣れた調子で掃除を開始。

 普段から楓が家政婦代わりに使っているからだ。

 そんな様子を紅葉が見やり、


「……この前から防犯カメラがついてるんじゃなかったっけ? ここ」

「おや、そうでしたか。明日香さんがご覧になられるなら毛の生えた生物を模した方が良かったですね」

「明日香ちゃんは哺乳類のほうが好きそうだけどね……」

 ケースの中の毛むくじゃらのトカゲと目を合わせながら答える姉に苦笑する。

 この学校のセキュリティは、明日香が社長令嬢を務める民間警備会社(PMSC)【安倍総合警備保障】が仕切っている。

 なので後でどうとでも誤魔化せると思って好き放題な楓さんである。


 そして生物室の主でもあるムクロザキ先生の友人たちは、どいつも戦闘用に調整されたクリーチャーみたいな恐ろしげな容姿と面構えをした猛者ばかり。

 だが珍しいだけで地球のどこかで普通に生息している普通の生物なのだ。

 つまり、ここは生命を操るウアブ魔術師でもある楓にとっては極上の博物館。

 魔術師(ウィザード)にとって、非魔法だが稀有な現実とは魔力の消費なしで再現と持続が可能なほどバランスがとれ、完璧に物理法則と調和した魔術と同義だ。


「わたしが当番をしていた頃には気にも留めていませんでしたが。こうしてみると宝の山ですね。見てください。この牙を人間サイズに再現する事ができれば怪異どもを紙きれのように引き裂くことができますよ」

「黒崎先生が聞いたら喜ぶと思うけど、今は別の目的があるんじゃないのかい?」

「ええ、もちろんですとも」

 興奮気味に生物たちを称える姉は、冷ややかな答えに苦笑しつつ部屋を見渡し、


「これがブラボーちゃんですか」

 極彩色の蜘蛛を見つけた。

 身をかがめ、満面の笑みを浮かべて複眼を覗きこむ。

 蜘蛛の表情はわからない。


 隣でヘビとか入ってるのと同じサイズのケースの中にもかかわらず相応に存在感のあるサイズの、極彩色をした毛むくじゃらの蜘蛛。

 気の弱い女子中学生が泣いて嫌がるのも納得できる容姿である。

 だが楓は気にせず、


「早速ですが、失礼いたします」

 言いつつコプト語の呪文を唱える。

 奉ずる神はオシリス神。

 だが諳んじる句に攻撃に用いるような激しい要素はない。


 即ち【命の言葉(メデト・アブ)】。

 血肉を創造する【創命の言葉(メスィ・ル・アブ)】のさらに基礎となる技術。

 命ある存在を調査する術だ。


 紅葉に掃除を交代させ、楓が生物室に侵入した理由。

 それは蜘蛛のブラボーちゃんを魔術によって調査するためだ。

 楓は先ほどウサギ小屋で、ブラボーちゃんと魔法のチップの話を聞いた。

 なので調べてみたくなったのだ。

 舞奈たちの弁によると、ブラボーちゃんはアプリによる追跡用と偽って埋めこまれていたチップの魔力によって暴走し魔獣と化したらしい。

 その戦闘能力は舞奈や協力者のヴィランが束になって苦戦するほど。

 そして楓はウアブ魔術師であると同時に、医学を学ぶ医者の卵だ。


 そんな楓の目から見ると、確かにブラボーちゃんの脳には一般的な生物にはない類の微細な隙間が存在する。


 だが楓は訝しむ。


 脳の大きさに対する隙間の割合は人間と同じだ。

 つまり埋めこまれた対象の脳に合わせてサイズが変化するということか?

 まあ単にチップのサイズが大小あるのかもしれないが。


 だがチップのバリエーションでは説明のつかない不審な点もある。

 埋めこみ手術の跡が見当たらないのだ。

 蜘蛛のサイズの生きものの体内に、魔術師(ウィザード)にして生物学の知識を持つ術者による探知を欺けるほど精巧に何かを埋めこめる外科技術は存在しない。

 少なくとも非魔法の医学や生物学においては。


 それに大きいとはいえ蜘蛛サイズの生物の体内からアプリで探知できるような電波を発信し続けたら母体にも悪影響が出る気がする。

 電子レンジなんて生易しいものではない。

 まあ、こちらは機械技術については門外漢な楓に正確な判断はできないが。


 これらの点で、少なくともチップとやらはまともな代物ではないと判断できる。

 それ以前に生物を魔獣にするような代物がまともである訳はないが。


「紅葉ちゃんの【獣の言葉(メデト・イアウト)】で何か聞き出せますか?」

「ごめん。流石に蜘蛛との会話はまだ荷が重いよ」

「そうですか……」

 問いかけながら楓は考える。


 チップを埋めこまれた手術とやらの様子を本人(蜘蛛)から聞き出せれば話が早いと思ったが、流石にそこまで調子のいい話はない。

 だが、それでも何となく気づいた事もある。


 舞奈たちが言っていたチップとやら。

 正確には『チップ』とは違う代物なのではないだろうか?

 その仮定を否定する材料は今のところ、ない。


 ……そのように桂木姉妹が真実を求めて暗躍していたのと同じ頃。


 正確には、それより少しばかり時分が経った逢魔が時。

 遠く離れた埼玉の一角。

 そこで別の真実への手がかりを求めて自警団の事務所を発った舞奈たちは……


「……この先が例の場所か」

「そうです」

 医者のおっちゃんに連れられて裏通りにやってきた。


 違法薬物の取引に使われているらしいトラックの到着予想地点。

 それは人気のない空きビルの裏らしい。

 事務所から相応に離れた場所にはあるが、もちろん歩きながら付近の地理や位置関係は把握した。その程度は舞奈にとって造作ない。

 今いるのは問題の場所よりすこし手前だが、様子見には十分だ。


「にしても、医者がぶらつく場所じゃあないだろう」

「たしかに雰囲気のいい場所じゃないですね」

「いやあ、職場から家まで、ここ通ると近くて」

 周囲を見渡す舞奈の軽口に、フランが力強く同意する。

 おっちゃんはポリポリと頭をかく。

 勤め人は大変だと舞奈は思った。

 表の世界の病院じゃ長距離転移で出張先に通うなんてできないだろうし。


 何故なら、この付近は何処も狭くて薄暗い裏路地ばかりだ。

 使い古されたダンボール箱やガラクタが積み上げられて視界も悪い。

 昼間でも日が差さずに薄暗いであろう歪に密集した建物の影が、まるで異世界か怪異の結界の中のような不吉な雰囲気を漂わせている。

 怪異が人を襲うのには絶好のスポットだ。


 側のビル壁にはスプレーで何か落書きされている。

 舞奈には読めない文字だが、フランが物凄い嫌そうな表情をしたので書いてある内容の察しはつく。書いたのがどんな奴かも。


 それにも増して、焦げた糞尿みたいな刺激臭に思わず顔をしかめる。

 ヤニの悪臭が周囲のコンクリート壁にこびりついているのだ。

 今は足音ひとつない、舞奈の優れた感覚でも周囲に気配は感じられない静かな場所だが、他の時分ではどんな様子だかは考えたくもない。

 それでも今、問題なのはここじゃない。


「あっちの方に、奴らがたむろってるのが見えるか?」

「流石はさいもんさん。この距離から気づいたんですね」

「あら本当。目だけは良いんだから」

「耳と鼻も良いぜ」

 医者のおっちゃんが感嘆し、明日香が肩をすくめながら軽口を叩く。


 舞奈がこんな場所で止まったのは医者のおっちゃんの様子を察したからだ。

 奴らを確認……おそらく視認して、自分の予想が正しかった事を確認したと。

 舞奈も少し離れた場所にいる狂える土の集団に気づいた。


 あまり近づくと奴らに怪しまれるかもしれない。

 なので一行はビルの陰に身を潜めながら、舞奈が指差した方向を見やる。


 そこに奴らはいた。

 彫りの深い顔立ちをした男性型の、くわえ煙草の人型怪異ども。

 男たちは仲間と何か話しながら、通りを警戒するように見回している。

 距離をとって見ているだけでも何かを察せられるほどの緊張感を漂わせ、まともな理由で集まっている訳ではないと一目でわかる。

 あんなのを度々見かけたら、医者のおっちゃんが怪しむのも無理はない。


 ビル壁に寄りかかった1匹の怪異が、何度もスマホを確認しながら苛立たしげにため息をつく。どうやらトラックの到着を待ちわびているらしい。

 時おり視線を遠くへ向け、何かが来ないか目を凝らしている。

 おそらく運んできた荷物を受け取る役目の奴らだろう。


 側の明日香が何かに納得した表情をする。

 魔法感知で怪異の魔力を確認したか。

 冴子も同じだ。

 そうこうしている間に……


「……トラックも来たみたいだぜ」

「時間通りでゴザルな」

 目と耳の良い舞奈がトラックの接近に気づく。

 ドルチェが感心し、おっちゃんが少し誇らしげにするが、それはいい。


 静寂の中、少し距離のあるここまで低いエンジン音が響く。

 視界の外から照射されたライトの明かりが、薄暗いビルの影を裂くように男たちに向かって近づいていく。


「もう少し近くで確認したいでやんすね」

「……もうちょっと早く言ってくれ」

 やんすが言い出し、


「まあ、でも、その方が確認できる事は多いわ」

「そりゃそうなんだがなあ」

 同意した冴子の言葉に、仕方なく舞奈も納得する。


 この場所から見ているだけなら安全なのは確かだ。

 だが、これだけ離れていると、狂える土どもがトラックから荷物を降ろしているという、聞いていたのと同じ事しかわからない。

 まあ、それを確認したのだから目的は果たしたとも言えるが……


「……少人数で様子をうかがうのが最善でゴザろう」

「ま、そうだろうな」

「それがいいぜ!」

 ドルチェの一声で皆の意見も決まる。

 ザンの奴は以前に似たシチュエーションで奇襲された気がするが、それを今ここで蒸し返す意味はないので口をつぐむ。


 代わりに皆で手早く話し合って、近くまで見に行く面子を決める。

 舞奈、明日香、ザン、冴子の4人だ。

 残りのドルチェ、やんす、フラン、医者のおっちゃんはここで待機。


 奴らを詳しく観察して益があるのは舞奈たちなので、おっちゃんは安全な方へ。

 そもそも出現日時を予測できるくらい何度も出くわしているのだから、別に今さら最前列で見ても楽しくはないだろう。

 おっちゃんの護衛として体型的に斥候には不向きなドルチェ。

 あとバックアップ向きなフランとやんす。フランはともかくやんすは自分から積極的に動かないから斥候の面子に入れたくないのだ。

 というか露骨に残りたそうな顔をしてたし。言い出しっぺのくせに!


 そんな訳で、さらに冴子とザン、舞奈と明日香で2組にわかれて怪異に近づく。

 舞奈と明日香は少し回りこんで、別々の方向から。

 両組とも気配を殺して、もちろん見られた場合に不自然に見える動きも避けて。

 舞奈と明日香は当然のように完璧に。

 冴子は諜報活動もしていたのだろうか? 一見すると本当の通りすがりのように自然にふるまっている。

 ザンも予想以上に上手く近づいているようだ。


 そのように4人で監視する先で、集団の近くにトラックが停まった。

 ライトが消える。

 黒ずんだ大型トラックのドアが、ゆっくりと開く。

 降りてきたのは、くわえ煙草の運転手らしい男。

 無言で周囲を見回し、下で待っていた狂える土の1匹に向かってうなずく。


 舞奈はビルの陰に身をひそめながら、側の明日香ともども様子をうかがう。


 人型怪異どもは、トラックの荷台から大きな何かを引っ張り出す。

 箱のようだ。

 サイズの割に不自然に重そうで、まるで中に怪異か何かが潜んでいそうなくらい不気味に感じられる。


 1匹の狂える土が、箱の蓋をわずかに開ける。

 匂いを確かめるように鼻を近づける。

 低くうなずく。

 すると他の人型怪異どもが、次々に箱を運び出し始めた。


『様子はどうでやんすか?』

「今おっぱじめたところだ。学校の人体模型くらいのサイズの箱を、次から次へと降ろして何処かに運んでるぜ」

 胸元の通信機から聞こえるやんすの声に、見ぬまま答える。

 そうしながら2人の子供は物陰から作業の様子をうかがい続ける。

 少し離れた場所では冴子とザンも同じようにしているはずだ。


 怪異どもが箱をかついで動く様子は、まるで闇夜に潜む邪悪な影が手を取り合って禍々しい儀式を執り行っているかのようにも見える。


 舞奈たちの周囲を冷たい夜風が吹き抜ける。

 だが目の良い舞奈が見やる先の、奴らの額には冷たい汗が浮かんでいる。

 くわえ煙草の怪異も人間と同じように汗をかく。

 重い荷物を何度も運んでいる時には特に。

 消えかけた街灯が照らす薄明かりの中、怪異どもの影が奇妙にのびてビルの壁に張りついては消える。

 その様子が恐ろしい取引の実態を揶揄しているように舞奈には思えた。


 荷物の運び先を調べられれば話は早いと思った。

 だが、あの方向には誰もいない。

 今回は諦めるしかないだろう。


「……何やってるの?」

「いや、この携帯って録音できたよなって」

「この距離じゃ無理よ」

「ちぇっ」

 携帯を手にしながら舞奈は口をへの字にまげる。

 奴らが荷物を運びながら何か喋っているのが聞こえる。

 録音しておけば後で参考になると思ったのだ。


「あいつらがナニ話してるか、後でフランちゃんかやんすに聞かせたかったのに」

「まあアイデアは認めるけど」

「どっちか連れてくるべきだったかなあ」

「わたしも多少ならわかるけど、そもそも聞こえないわ。貴女と一緒にしないで」

「言葉わかるのかよ」

 言ってみた途端、辛辣な明日香の返事に口をへの字に曲げる。

 耳が良いのも良し悪しだ。

 まったく。

 もどかしくて仕方がない。


「#%&……」

「……だから、何の真似よ?」

「奴らの声真似だ。意味わかるか?」

「動物か怪異の鳴き声に聞こえるわね」

「……正解だ」

 軽口を交わしながら再び口をへの字に曲げ、


「もうちょっと近づいてみるか?」

「勝手な事して、見つからないでよ」

 と、腰を浮かせかけた次の瞬間――


「――動くな」

「わかってる」

 舞奈は鋭く明日香の動きを制止する。

 そうするまでもなく明日香は姿勢を低くしたまま動きを止めていた。

 感覚の鋭さは舞奈にかなわぬまでも、明日香の状況判断能力は一流だ。


 何故なら1匹の狂える土が、訝しむように周囲を見渡した。

 十中八九、こちらの監視に気づいた挙動。だが……


「……こっちじゃないみたいだな」

 ひとまず安堵。

 もうひとつの組を見やる。


 あちらも自分たちが怪しまれた事には気づいたらしい。

 ザンが露骨に慌てている様子だ。

 何かヘマでもしたのだろう。


 舞奈は有事に備えて身構える。

 奴らと同時に全力で走ったとして、舞奈なら加勢には間に合う距離だ。

 最悪でも明日香が【戦術的移動タクティッシュ・ベヴェーグング】で転移して追撃者を奇襲できる。

 だが……


「……おっ?」

 驚く舞奈が見やる先。


 冴子が手近な壁にもたれかかりつつ、ザンの首根っこをつかんで引き寄せた。

 はた目には男女のシルエットが重なったように見える。

 狂える土どもの位置から見ると、若い男女が人の目を気にもせずイチャついておっぱじめたように見えるはずだ。

 少なくとも自分たちを見張っていたとは思わないだろう。


 何匹かの怪異が楽しんでいるところを邪魔してやろうといきり立つ。

 奴らの邪悪な本能が、他者の愛情表現を邪魔させようとするのだろう。


 だが別の怪異に怒鳴られて作業に戻る。

 目前の悪より、奴らが今やっている邪悪な作業の方が長期的に社会をより悪い方向に動かせると知っているのだろう。


 どうやら思わぬ危機を、冴子の機転で脱したらしい。


 それでも今ので警戒はされただろう。

 向こうの組が次に見咎められたら誤魔化しようがない。

 この機会に奴らがしている邪悪な何かをぶち壊してやるのも悪いアイデアじゃないが、それを完璧に遂行するには今の段階では準備も情報も足りない。なので、


「そろそろ撤収だ。おっちゃんのリストが正確だって事はよくわかった」

『了解。こちらも撤収するわ』

『お、おう。了解っす』

 舞奈たちはさりげなくその場を離れ、ドルチェたちと合流。

 そして事務所に帰投した。


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