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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第21章 狂える土
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共同戦線3

 白昼堂々と勃発した狂える土どもによる暴動。

 違法薬物の取引。

 複数個所で目撃された不審なトラック。


 そのように奴らの新たな暗躍について知った日の翌日。

 普段通りに登校してきた舞奈は……


「そこで! 大量の不審者に襲われたわたくしの前に!」

「大量の不審者ってなんだよ? 怖っ!」

「警察には相談したのか?」

「……ったく、いつも楽しそうでうらやましいぜ」

 普段通りにワンマンショーを開催していた麗華様に出くわして苦笑する。

 麗華様の周囲にも普段通りに暇なギャラリーの男子ども。

 両脇に控えながら同じように苦笑している取り巻きのデニスとジャネットに軽く手を挙げて挨拶し、


「桂木(妹)が……」

「いやねーよ」

「ちっす。麗華様は今度は何と戦ってるんだ?」

「あ。おはよう舞奈」

 マイペースを崩さず自席でタブレットを見ていたテックに挨拶する。

 ここのところ新情報をいろいろ教えてもらってるし、血色の悪いクラスメートが見ていた画面の内容を少し気にしながら……


「……何か面白そうな話はあったか?」

「テレビとかあんまり見ないの?」

「何かあったのか?」

 尋ねた途端、テックが顔を上げつつ目を向けたのはワンマンショーの会場。

 思わず舞奈は訝しむ。


 エネルギッシュに語り続ける麗華様を再び見やる。

 適当な大言壮語をギャラリーの男子どもが野次っている。

 普段通りの光景だ。

 そんな様子を2人して眺めながら……


「……昨晩の緊急特番でやってたの。そっちで警官隊と衝突したとか、違法薬物が流行ってるとか」

「ああ。そこまで広まってるのか」

 テックの補足に苦笑してみせる。


 昨日の夕方の暴動は、流石にニュースになったらしい。

 下手に手出ししなくて良かったと思う。

 舞奈も明日香も昼間は普通に学校で授業を受けていたのだ。

 夕方に埼玉の一角にいた事が知人に知れると厄介だ。

 ワープでもしないと辻褄があわない距離なので、ワープしたのがバレてしまう。


 で、そんな特番のニュースを見た麗華様が、今日の与太を思いついたらしい。

 何せ間近で見ていた舞奈が少しビックリしたくらいだ。

 クラスで話せば間違いなく耳目を集められると思ったのだろう。

 研究熱心で何よりだ。

 そんな風に内心で苦笑しながら、


「こっちは近々、そいつの続きを生で見られる予定だぜ」

 言ってみる。

 別に麗華様に触発された訳じゃない。

 だが事情を知ってる友人に軽く情報提供くらいしてもバチは当たらないだろう。


「何かするの?」

「ああ。近々、こっちから出向いて奴らを何匹か捕まえてやる予定だ」

「舞奈らしいわね」

 聞いたテックも苦笑する。


 まあ、舞奈も自覚はしている。

 ワイドショーでも特集されていたらしい狂える土どもの薬物汚染。

 薬物の違法取引。

 その元凶であると目される不審なトラック。


 それらについて、昨日ちょうど自警団の事務所で聞いたばかりだ。

 もちろん遠い他県のニュースではなく差し迫った問題として。

 だから早いうちに解決するつもりでいる。

 ワイドショーやニュースに新たな痛ましい新展開が加わらないうちに。

 今や同士となった自警団の面々と協力して。

 そんな決意を新たにする舞奈に……


「……ドルチェとは上手くやれてる?」

「ああ……っていうか前にも言ったが、あいつ面子の中じゃまともな方だぞ」

「そう。なら良かった」

 ふとテックが問いかけてきた。

 舞奈の答えに、表情が薄いながらも少し笑う。


 そんな仕草で舞奈も少し思い出す。

 ドルチェはテックのネットゲームでの知人らしい。

 それが具体的にどういう関係なのかは舞奈は知らない。

 だが舞奈と同じ現場で危険に向き合っている彼を、テックは気遣っている。

 だから舞奈も自然な笑みを返す。


 ドルチェにザン。

 冴子、やんす、フランとトーマス氏。

 それに自警団の気の良いおっちゃん達。預言者の霧島姉妹。

 誰もが舞奈の大切な仲間だ。

 過去に幾度も失ってきた舞奈の、今この時に手の届く場所にいてくれる大切な友人たちだ。そんな事を考えて笑みを広げた途端――


「――ギャー!」

「あっ不審者だ」

 教室に響き渡ったカエルみたいな悲鳴に、思わず見やる。

 愛すべき友人でもある麗華様のワンマンショーに、みゃー子が乱入していた。


「けけけけけっ! きょぉぉぉ!」

「ヒィッ! ギャー!」

「麗華様、ギャーは如何なものかと」

「悲鳴が下品なンす」

 跳ね回るみゃー子と逃げ回る麗華様、唖然とするデニスとジャネット、ギャラリーたちを見やりながら、


「なるほど不審者だな」

 舞奈は苦笑する。

 テックも笑う。


 と、まあ、その後は普段通りに他の生徒や担任が来てホームルームが始まった。

 そして日中も特に目立ったトラブルはなく放課後……


「……マイちゃん、明日香ちゃん、つき合ってくれてありがとう。最近いつも忙しそうなのに」

「いいって事さ」

「用事まで少し時間はあるから」

 校舎裏にあるウサギ小屋の前で、ほうきを手にした園香が微笑む。

 舞奈と明日香も笑みを返す。

 そんな様子を、広くて清潔な小屋の中から3匹のウサギが並んで見やる。


 2人は園香たちのウサギ当番を手伝っていた。

 もちろん今日も下校後は禍我愚痴支部で仕事だが、そのくらいの余裕はある。


「安倍さんのおかげでウサギさんがじっとしてて、すっごくやりやすかった!」

「どういたしまして」

 ニコニコと喜ぶチャビーの横で……


「……おまえらもご苦労様だぜ」

「どういう意味よ?」

 ウサギを見やりながらボソリと言った舞奈を明日香が睨む。


 明日香は小動物に怖がられる。

 ウサギたちは掃除の間じゅう、明日香を警戒して小屋の隅で縮こまってたのだ。

 だが、そのおかげで掃除が予定より早く終わったのも事実だ。


 なので後片づけも手早く済ませてウサギたちを安心させてやろう。

 そう思った途端――


「――おや舞奈さん、明日香さん、奇遇ですね」

「やあみんな。こんにちは」

「ん?」

 声をかけられた。


 振り返ると、こちらを見やってニコニコ笑うおしゃれ眼鏡の女子高生。

 隣で微妙に苦笑するポニーテールの女子中学生。

 楓と紅葉だ。


「まったく。面白そうな話を嗅ぎつけてきやがったな」

 舞奈はやれやれと苦笑する。

 隣の明日香も口には出さないが考えた事は同じなようだ。


 何故なら埼玉の一角を占拠した狂える土どもは脂虫と同じ喫煙者だ。

 そして楓は常に、人に仇成す喫煙者どもを殺したいと思っている。

 より多くを。

 より惨たらしい手段で。

 なので昨日のワイドショーとやらを見て、舞奈たちが埼玉の一角に通勤している事を思い出して、おこぼれにあずかれないかと尋ねに来たのだろう。

 まったく。


「姉さんが邪魔してごめん。代わりに手伝うよ」

「わっ。ありがとうございます」

「ありがとう!」

 苦笑しつつも爽やかなスマイルで申し出た紅葉に、園香とチャビーは大喜び。

 3人で手際よく後片づけを進める。

 割と野放図な姉を持った紅葉は文武両道のスポーツマンなだけでなく人並み以上に気が利く苦労人でもある。

 そんな紅葉が園香とチャビーを連れて、小屋の鍵を返しに行った隙に……


「いや実はな……」

 仕方なく舞奈は昨日の出来事をそのまま伝える。


 暴動の事。

 人型怪異に実効支配された埼玉の一角で増えているらしい薬物中毒者の事。

 例の医者から聞いた情報。

 彼らが見たという不審なトラックの事。

 そんな諸々を、横から明日香に捕捉されながらかいつまんで話す。

 まあ楓も舞奈らと同じ執行人(エージェント)という、いわば身内ではあるし、今回の仕事に特別な守秘義務はないから話す分には問題ない。


 なので、ついでに例のチップの事も話す。

 ブラボーちゃんの時の事は当然ながら、そう言えばKoboldの件でも騎士たちに力をあたえていたチップについて彼女に話した事はなかった気がする。

 まあ敵騎士の情報として小耳に挟むくらいしていたかもしれない。

 だが今後の事も考えれば、きちんとした情報を渡しておいた方がいいだろう。

 そう考えて、明日香ともどもチップの概要とそれにまつわる事件を話した途端、


「そういえば件の戦闘の際に騎士のひとりの頭蓋の中にお邪魔したのですが、言われてみれば確かに脳のあたりで何か崩壊してたような……」

「何処に何しやがったって? ……いや言わんでもいい」

 ぼそりと言った楓に苦笑する。


 件の戦闘の際とはKoboldの支部ビルに乗りこんだ時の事だろう。

 その時の話も、そういえばイレブンナイツのメンバーと交戦して倒した以上の話は聞いていない。

 その時に何かしたのだろうと思った。

 彼女は生命を操るウアブ魔術の使い手であり、医者の卵でもある。


 だがまあ……その時の話を詳しく尋ねなくても別にいいと思った。

 医者の卵でもあり芸術家でもある楓は、脂虫を大量に、より残酷に殺す事をライフワークにしている。

 そんな話を過ぎた今になって聞いても楽しいのは語る本人だけだろう。

 舞奈も仕事の前に余計な消耗はしたくない。


 まあ、脳のあたりに何かあったらしいと聞けただけで重畳だ。

 それはチップが脳の一部を占拠し、対象が死ぬと崩壊するという既知の情報の裏づけになる。

 舞奈たちは同じ事が埼玉の薬物中毒者どもの脳で起きないかを確かめればいい。

 その結果によって後の対応も決まってくるだろう。

 そんな舞奈の様子で何かを察したか、


「こちらでも何か調べてみますよ」

「調べるようなものがあるのか?」

「まあ、いろいろと」

 殊勝な台詞を吐きながら、にこやかに楓は笑う。


 正直なところ何かを企んでる表情だと思った。

 だが、まあ今それを気にする必要はないとも思った。

 それより舞奈たちにはやるべき事がある。

 そんな事を考えた矢先――


「マイちゃん、みんな、お待たせ」

「ああ、おつかれさま」

 園香たちが戻ってきた。


 当番の掃除という仕事を終えた園香やチャビーは満ち足りた様子だ。

 つき合った紅葉も満更でもない表情をしている。


「さっき用務員室で面白い事があったんだよ」

「うん! 用務員のおじさんが紅葉さんを見てね――」

 園香とチャビーが楽しそうに話し出す。

 何か別の面白い事があったらしい。

 なので舞奈たちも物騒な怪異の話は中断し、友人たちと楽しい雑談を楽しんだ。


 その後は園香やチャビーや桂木姉妹に別れを告げて下校する。

 そして普段と同じように埼玉支部に転移し、支部へ赴いてフランと合流し――


「――それではトーマスさん、行ってきます」

「ああ、いってらっしゃい。皆もよろしく頼むよ」

「りょーかい!」

「おう! 俺たちにまかせてくれ!」

「やんすー」

 皆でトーマスに挨拶しながら支部を発つ。


 そして自警団の事務所へやってきた。

 もちろん今日は暴動には出くわさなかった。

 増えているとはいえ毎日のようなイベントではないのだろう。

 こちらの界隈で不意に起きるのは、たいていが面白くもない厄介事だ。

 何事もないのは単純に良い事でもある。


「ちーっす! 来たぜ!」

「お邪魔します」

 舞奈が我が物顔で事務所ビルに入館し、皆も続いた途端――


「――あ。サィモン・マイナーじゃない」

「よっ」

 おっちゃん達に混じって歓談していた赤毛の少女が振り返った。

 キャロルだ。

 舞奈は雑に挨拶を返し、


「会いたかったぜ、お嬢さんたち」

「こんちはー」

「こんにちは、舞奈ちゃん」

 さらに後ろにいた姉妹に満面の笑顔を向ける。


 お胸が大きい活発そうな彼女は霧島鈴音さん。

 お胸が大きい物静かな彼女は霧島静音さん。

 件の預言者の姉妹だ。


 どこもかしこもやわらかそうでスタイルの良い妙齢の姉妹の、思わず見惚れるような美しい巨乳を、今日は見られてラッキーだと舞奈は舌なめずりする。

 舞奈の視線に姉妹はちょっと引く。

 フランや明日香が「……。」みたいな視線を向けてくる。


「そういやあ今回の件で、何か預言はあるかい?」

「うーん。特にないかな」

「ええ、特に何も……」

「まあ、そりゃ結構」

 誤魔化すように何気に尋ねてみた答えに笑みを返す。


 つまり逆に厄介な預言もしていないという事だ。


 人型怪異に実効支配された埼玉の一角に住む預言者の姉妹は、須黒に置いてきた術者の姉妹と違って姉にも妹にも含むところのない、素直で普通な美人姉妹だ。

 少なくとも舞奈の見立てでは。

 まあ、姉妹とも術を学んだ訳ではなく大能力に目覚めただけなのだから、メンタル的には普通なのが当然と言えば当然だ。

 なので言葉を額面通りに受け取っても何の問題もない。


 この様子だと例の不吉な預言についても特に進展はないといったところか。

 組織の中でもなあなあになっているのかもしれない。

 まあ、それが強力だがあやふやな大能力で得られた不吉な預言に対する的確な対応だと思えば納得はできる。

 もう舞奈も深く考えない方がいいのかもしれない。

 そんな事を思って苦笑していると……


「……あっメリルちゃん」

「おはよう。昼寝から起きたんだね」

「こんにちは!」

 メリルがやってきた。

 唐突な銀髪幼女の登場に、応接室が何となくほのぼのした雰囲気に包まれる。

 霧島姉妹も。

 おっちゃん達も。

 舞奈や仲間たちも。


 何故なら子供の幼い容姿は周囲の人間をなごませる。

 それが強力な超能力者(サイキック)であるメリルであっても例外じゃない。

 幼体を守ろうとする人間の本能がプラスの感情を賦活するのだ。

 故にメリルへの反応は、彼らが怪異ではなく確かに人間だという証明にもなる。

 舞奈が学校でそう思った通り、彼らも気の良い舞奈の仲間だ。


「だっこをたのむ」

「あっこいつ。一丁前に甘え方を覚えやがって」

「ふふっ、メリルちゃんは甘えん坊さんだなあ」

 両腕を掲げて抱っこをせがむメリルを、静音が手慣れた調子で抱き上げる。

 キャロルが珍しく「いつもすんません」みたいな表情で会釈する。


 幼女は静音のふくよかな胸にピッタリくっついて満足そうに微笑む。

 相棒のキャロルと違って大きいのが珍しいらしい。

 まったく。


「微笑ましいでゴザルなあ」

「まったくでやんす」

「そりゃそうなんだがなあ……」

 なごむ男どもを横目で見つつ、物欲しそうに見ていたら……


「……あっ舞奈ちゃん、放っておいてごめんねー」

 鈴音が言って、


「あっ! ……もうっ鈴音ったら」

「……どうも」

 静音からメリルを引っぺがして舞奈に渡してくれた。

 自分もメリルを抱っこしたいと思われたらしい。

 まったく。

 素直で言動に含みがないという事は、特殊な事を内心で願っていても察してくれたりはしないという事でもある。

 そんな舞奈の内心に構わず、


「おー。高い」

 メリルが喜ぶ。


 もちろん大人の静音が抱っこする高さより、舞奈が受け取った体勢のまま持ち上げている高さの方が低い。

 それが大人と小学生の身長差だ。

 だが静音はしっかりメリルを抱きかかえていたのに対し、舞奈は2本の腕で持ちあげているだけだ。

 舞奈の腕力と持久力なら、その程度は造作ない。

 そんな不安定な位置が面白いのだろう。


 子供の好奇心は、時に地に足がつかない恐怖心を上回る。

 何も知らない幼体が効率よく世界を知るために都合がいいからだろう。

 年齢的には姉妹よりメリルに近い舞奈には、それが何となく理解できる。

 だからといって、自分が足元を見ないで無茶をしているつもりなどないが。


「あら、良かったわね。メリルちゃん」

「遊園地の乗り物みたいですね」

「流石はさいもんさん。鉄骨みたいな体幹と腕力ですね」

 冴子やフランが思わずなごむ。

 釣られて周囲のおっちゃんたちもなごむ。

 そのフランの表現はどうかと思うが。


 幼い子供を持ちあげて、せっかくだから軽く上下に動かすときゃっきゃと喜ぶので舞奈もなごむ。

 そんな様子に既視感を覚え、その正体に気づく。

 クイーン・ネメシスこと屈強な巨女のミリアム氏とリンカー姉妹だ。

 最強の女ヴィランと幼いサイキック暗殺者の関係は、母娘の関係でもあった。

 彼女らも、今頃は海の向こうで仲良く暴れているのだろう。


 そういえばキャロルとメリルのコンビ。

 ミリアム氏と面識はあるのだろうか?

 少し気になった。

 もしそうなら、地味に子供好きっぽいミリアム氏との色々と笑えるエピソードもいくつかあると思うのだが。


 そんな風に舞奈が口元に笑みを浮かべ、皆もなごんでいると……


「……そう言えば、例のトラックの出現予測ができましたよ」

「おおっかたじけないでゴザル」

 この前の医者のおっちゃんが名乗り出た。

 ドルチェが反応して一礼する。

 いや、そういえばじゃなくてそれが今日の本題だろう……。

 舞奈は内心で苦笑しつつも、


「こんな感じです」

「なるほど」

「過去の目撃日時から計算すれば、そんな感じですね」

 差し出されたA4用紙に印刷された表を皆で見やる。

 冴子は素直に納得。

 明日香は小生意気にも併記された前提情報から一瞬で計算したらしい。


「これ、もうちょっとで何処かに出るって事でやんすね」

 やんすが指差した箇所に印字されているのは、今日の夕方の日時。


 この表の通りに動くならトラックはもうすぐ彼の知る場所にあらわれる。

 そこで、おそらく違法薬物とやらの受け渡しをする。


「ならさ、云ってみようぜ!」

「まあ、そりゃ構わんが」

 ザンが元気よく提案する。


 舞奈的にも、まあ否定する理由はない。

 もちろん今から奴らの捕獲を試みるべく計画を立てる時間はない。

 だが別に何かする訳でなくとも、表の予測がどのくらい正確かを確かめに行くのも悪くはないと思った。

 そもそも医者のおっちゃんは何度も奴らを目撃している。

 見に行くだけで事態が動く可能性は低いだろう。


「あたしはパスー」

「ええ、別にキャロルさんに同行を強制したりはしませんので……」

 ソファに寝っ転がったキャロルがいきなり水を差す。

 対して明日香が困った調子で答える。


「ったく、働かん奴だなあ……」

 舞奈もやれやれと肩をすくめる。


 だが、それが用心棒としては正しい姿なのだろうと理解はできる。

 おそらく組織内の戦力としては舞奈たちと彼女らが2トップ。

 両者が一度に動くメリットよりは、リスクの方が大きい。

 この事務所が怪異が跋扈する表通りから離れているとはいえ、別に結界とかで守られている訳じゃない。

 用心棒のキャロルやメリルも罠や結界による防護が得意には見えない。

 なので、昼寝でもいいから彼女は事務所にいたほうが安全だ。

 そう頭では理解できるのだが……


「……では、私が同行しましょう」

「重ね重ねかたじけないでゴザル」

「貴方の身の安全は我々が保証します」

 医者のおっちゃんが主将にも名乗り出てくれた。

 ドルチェや明日香が一礼する。


 案内があった方が舞奈たちも動きやすいと気を遣ってくれたのだろう。

 流石は医者だ。

 地頭が良くないとなれない職業だろうし。


「流石に人数も多いし、2組にわかれるか」

「それがいいでやんすね」

 と、彼のおかげもあって張りこみの計画はトントン拍子に進む。


 そして手早く段取りも決まり、舞奈たち8人はは早々に事務所を発った。


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