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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第21章 狂える土

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用心棒と預言者

 思いがけない休暇を楽しむ最中に、思いがけず出会った尾行者。

 彼らは不法移民から街を守るべく結成された自警団だった。

 しかも彼らがかつて守れなかった、ひとりの少年の仇でもある狂える土のグループを、以前に舞奈が殲滅していた。

 そんな事実を確認する両者。

 舞奈たちは出会ったばかりの自警団との信頼関係を築きつつあった。


 と、まあ、それは良いとしても……


「……にしても、あたしたちの人相は、ここらじゃ有名なのか?」

 ふと舞奈は訝しむ。


 舞奈たちを尾行していた自警団の男たちは、舞奈の顔と名前を知っていた。

 別に諜報のプロでもない彼らが。

 この界隈で舞奈たちは実は有名なのかもしれない。


 それだと変装したりしていた意味がない気がする。

 まあ今までも、隠す気も見せないよりバレバレでも変装はした方が諜報部も事件をもみ消しやすい程度の理由でしてただけなのかもしれないが。

 そんな風に訝しむ舞奈に……


「……そうじゃなくて、協力者から君の事を聞いていたんだ」

 側のチー牛が気さくに答えてくれた。

 今や彼らにとって舞奈たちも、尾行して連れてきた客人じゃない。

 理想と目的を共にする仲間だ。

 だから舞奈も、


「協力者だと?」

「うん。腕が立って、裏社会で幾つもの偉業を成す子供がいるって」

「だれだよ、そんな適当な事を人様に吹きこむ奴は」

 やれやれと言葉を返しながら、先ほどの言動を忘れた表情で苦笑する。

 途端、再び無遠慮にドアが開いて――


「――あー。やっぱりサィモン・マイナーだった」

「あっ大先生」

「大先生だと?」

 ひとりの女があらわれた。

 次いで、その足元に、


「どうれー」

「小先生も御一緒でしたか」

 ひょっこりと幼女。


 女はラフな格好をした、ナイスバディな赤毛のティーンエイジャー。

 こまっしゃくれた幼女は長い銀髪。


 どちらも知った顔だ。

 ファイヤーボールの中の人ことキャロル

 そしてイエティの、文字通りに中の人のメリル。

 なるほど、彼らはこいつらから舞奈の話を聞いていたのか。


「こんな所で何してやがる」

「昼寝の途中だったんだけど、なんか騒がしかったから」

「そうじゃなくて、こんなところで優雅に昼間から寝てた理由が知りたいんだ。こっちは仕事中だってのに」

 舞奈は口をへの字に曲げながら問いかける。

 こんな所とか言われたリーダー氏がちょっとショックな顔をするが気にしない。


 キャロルとメリル。

 彼女らは以前、レインや梢と共に、園香とチャビーの保護者役として舞奈たちの蜘蛛探しにつき合ってくれた。

 その末に巨大蜘蛛との戦闘に尽力してくれた。

 その時は他所で粗相をやらかして【組合(C∴S∴C∴)】からペナルティとして舞奈の手伝いを命じられたのだったか。

 今度は一体、何をやらかしたのやら。


「仕事……?」

「あ、いや、普段は仕事をしてるんだ。誰かさんと違ってな」

 うっかり続けた言葉に訝しまれて、あわてて誤魔化す。

 流石に【機関】の内情を話す訳にもいかないだろう。

 そんな舞奈の思惑を知ってか知らずか、


「いやね、面白そうな街があるからって聞いて来てみたんだけど」

「誰にだよ?」

「いろいろあって用心棒にされちゃってねー」

「そうなんですよ。僕が移民の男たちに囲まれて絶体絶命な時に、大先生がひとりで奴らをノックアウトしてくれて」

「……いやそれ、あんたも相当ヤバかったからな?」

 呑気に言ってくれたキャロルと、補足してくれたチー牛に思わず苦笑する。


 まあ見るからに赤毛の外国人である彼女は、子供だからいろいろ許される舞奈と同じくらい、歪な法で片側だけが守られたスラムでは頼りになる。

 もちろん彼女ほど腕がたってこそだが。

 そんな彼女を、舞奈たちに先んじて彼らは仲間に引き入れたのだ。

 用心棒として。

 このリーダー氏。意外にやり手なのかもしれない。


「まったく。あんたの人生ピンボールみたいだな」

 言いつつ舞奈はやれやれと肩をすくめる。

 そんな2人の側で、


「すげー! 舞奈さん、外国人に知り合いいるんすね」

「ええ、まあ……」

「それを言ったらフランちゃんも海外の娘よ」

 呑気に感動するザンに明日香が、冴子が苦笑し、


「舞奈ちゃんたちの知り合い?」

「……まあ、ちょっとな」

 次いで冴子に問いかけられて舞奈も言葉を濁す。


 流石に、この場で2人が米国のヴィラン、ファイヤーボールとイエティの中の人だと言って良いのかどうか判断はできない。なので、


「相手が女性ですから……」

 隣の明日香も自然に誤魔化す。

 ナチュラルに舞奈の世間体を捨て札にして。


「なるほど……」

 フランは妙に感慨深げな表情で舞奈をじっと見てくる。

 地味に尻を触った事を根に持っていたらしい……。


 そんな様子を見やって先方も察してくれたようだ。

 男のひとりから訳ありげに耳打ちされ、何事かと訝しむ舞奈に、


「こっちでもセクハラしたんだ? 故郷に恋人いるのにー」

「んな事いちいち報告すんな! っていうか、あんた意外に身持ち固いな」

 ジト目を向ける。

 舞奈も思わず叫び返しつつ……


「……あんがい気さくな子たちじゃないですか」

「……ああ。やっぱり彼女たちの思い過ごしだったんだよ」

 周囲の男たちがボソボソと話しているのに気づいた。

 その彼女と言うのがキャロルたちの事ではないと、何となく直感した舞奈は、


「まだ他にカワイ子ちゃんがいるのかい?」

 手近な男に問いかける。

 ヴィランどもとは別の女の子がいるなら、その方が嬉しいのは事実だ。

 そんな舞奈の様子を見やり、


「実は我々には、預言者的な能力を持つ仲間がいるのですよ」

「預言者ですか」

占術士(ディビナー)みたいなものかしら?」

 リーダー氏がおずおずと語る。

 明日香が思わずといった様子で反芻する。

 冴子は少し驚いてみせる。


 占術士(ディビナー)相当の技術を持つ術者だとしたら、この規模の組織にしては珍しい。

 リーダー氏の隣にちょこんと座っている小さな爺ちゃんとは別にいるはずだ。

 髭が生えてると彼女とは呼ばれないはずだし。

 リーダー氏、地味な中年男風な容姿と裏腹にやり手な可能性が濃厚になった。

 だが……


「……実は彼女らには、貴方方との接触は時期尚早だと言われていたんですじゃ」

 爺ちゃんが申し訳なさそうに言った。

 ノームみたいな可愛らしい容姿とは裏腹に、年齢相応な渋い声色だ。

 濃い白髭と、しわくちゃの顔のせいで表情は見えない。

 だがリーダー氏や他の男たちは、何となく居心地が悪そうな表情をしている。


「預言者様の預言に逆らって、大丈夫なのか?」

「いえ、その危険性は十分に心得ておりますが……」

 問いかけた途端に、リーダー氏は取り出したハンカチで汗を拭きつつ答える。

 ちょっと恨みがましく口の軽い同志を睨む。

 だが今さら誤魔化すのも不誠実か、単に得策じゃないとは気づいたのだろう。


「解釈の余地のある預言は、必ずしも正確な未来を指し示すものではないと我々は考えています。それに皆様には失礼ながら、危険な人物ではない事は確認させていただきました」

「ああ、それで尾行を……」

 続くリーダー氏の言葉に舞奈は納得する。


 ひと組の仲間は舞奈たちを評価した。

 もうひと組の仲間は警鐘を鳴らした。

 だから自分たちの仲間に相応しいかどうか、自分たちの目で確かめようとした。

 これで、いちおう今までの彼らの言動のすべてに辻褄が合った。


 ……まあ、あの尾行で舞奈たちの何を探れたのかは疑問だが。


 苦笑する舞奈の側で、


「ぱらりしす……?」

 銀髪の幼女は、ドルチェのシャツをじっと見ていた。

 割と中年体形な周囲の男たちより、なお太ましい大人のシャツの腹でアニメのキャラがニッコリ笑っている様子が珍しいのだろう。


「小先生、何かお気になられる事でも……?」

「もしや貴方様も小先生のお眼鏡に適うほどの手練れ!?」

「それほどでもないでござるよ」

(メリルが見てるのは立ち振る舞いじゃなくて腹だ。手練れなのは確かだが……)

 自警団の面々は無駄に盛り上がる。

 舞奈は再び苦笑する。


 キャロルやメリルが会得した超能力(サイオン)は、妖術としては珍しい単一ないし狭いカテゴリの技術を極めていく流派だ。

 異能力者からは、自分たちに与えられた奇跡の最終進化系に見えるのだろう。

 故に幼女先生の扱いか。

 いい年をした中年男が幼女にかしずく姿がちょっと面白い。

 まあメリルが『年の割に』目端が利いて物知りなのも事実ではある。


 だが、そんな子供の気まぐれのせいで、ちょっとした失言で両者の間に流れた微妙な空気がやわらいだのも事実だ。


 さらに別のおっちゃんがジュースと茶菓子を持ってきてくれた。

 なので舞奈たちや取り巻きたちも適当な椅子に座って雑談タイムになった。


 ……とまあ、そのように彼らと親交を深め、舞奈たちはアジトを後にした。


 そして再び7人でだらだらと通りを歩きながら……


「あんな組織があったでやんすねー」

「街がこういう状況でゴザルし、ある意味で必然やもしれぬでゴザルな」

「その意見には同意します」

 皆で自警団について、何となく語る。


 明日香がしたり顔なのは、実家の職業のせいで自衛の意識が高いせいだ。

 もっとも自警団の面々は必要にかられてそうせざるを得なかったのだろうが。


「けど諜報部は奴らの事を把握してなかったんだな」

 ふと気づいた舞奈は首をかしげてみせる。


 敵の動きを逐一調べられるくらい有能な禍我愚痴支部の諜報部。

 それが地元の、それも素人に毛が生えた程度の組織の存在に気がつかなかった。

 しかも戦力の中核に成り得る異能力者を割と大量に擁する組織の。


「そういえば、わたしも聞いた事はなかったですね」

 少し訝しむような口調で舞奈に同意したフランに、


「単に気にしてなかっただけって事はないのかい?」

 ザンが先方の前では言えない割と容赦のないコメントを返す。

 聞いた明日香が、冴子が微妙に苦笑する。


 だがまあ、実は納得のいく答えではある。

 何故なら異能力者の大半は未成年のうちに覚醒する。

 故に【機関】のスカウトも学生が中心らしい。

 大人の異能力者が近隣から集まる状況は想定外ではあるはずだ。


 あと、単純に先方が構成員の練度に大きな課題のある組織だからだとも思う。

 周知の事実だが我が国には兵役が無い。

 故に体系化されたまともな戦闘訓練を受けられる機会はない。

 例外は自衛隊や【機関】のような特別な組織に属している人間だけだ。

 そういう意味で、戦闘の素人なのを責めるのは酷だろう。

 その上でなお、見たところ彼らの中に格闘技やサバイバルゲームの経験者も、単純に戦闘センスのありそうな人材もいなかった。

 言葉を選ばず評すれば、ステゴロ勝負でメリルが上位に食いこめそうな程度。

 気の良い彼らは理想的な市民だが、理想的な戦士じゃない。

 故に諜報部から脅威にも協力者にも成り得ないと判断されて、監視や諜報の対象から除外されていると考えれば、まあ話の辻褄は合う。


 もっとも、言ったのが数日前のザンなら「おまえが言うな」と返しただろう。

 そんな事を考えながら苦笑した、次の瞬間……


「……よっ! あんたは何処の人たちだい?」

 背後を見やって声をかける。

 また尾行の気配を感じたからだ。


「えっ?」

「やんす!?」

 ザンが驚く。

 冴子ややんすも。

 先ほどの今で、また誰かいるとは予想だにしていなかったのだろう。


 だが舞奈は気づいた。

 予想外のイベントが片付いた直後に別のトラブルが待ち受けているなんて、ピクシオンだった頃から日常茶飯事だった。

 安堵したからといって警戒を緩める習慣はない。

 あと、単純に気にしていなくても気づくレベルの尾行だったという理由もある。


 舞奈はやれやれと苦笑する。

 誰もかれもが後ろから様子をうかがわなくても、取って喰ったりしないのに。

 だがまあ、こういう治安の場所なのだし知らない顔を用心するのも止む無しか。

 悪いのは街の平穏を乱す狂える土どもだ。

 そんな事を考えながら……


「……あんたたちだったのか」

 振り返った先にいた人物を見やって流石の舞奈も驚いた。

 そこまで詳しく気配を探っていなかったのだ。


 何故なら、そこにいたのは――


「――その節はありがとうございます!」

「いえその、失礼をするつもりはなかったのですが……」

 元気よく挨拶する巨乳の少女。

 隣で恐縮する巨乳の少女。

 どちらもフェミニンな髪型と洋服が似合う、大学生ほどの年頃の美少女。


 彼女たちは、先日の3匹の怪異との戦闘で救出した姉妹だ。

 検査のために病院へ搬送する際に気づいたので少し話をしただけだが、舞奈たちの事を覚えていてくれたらしい。


「元気そうじゃないか。会えて嬉しいよ」

「なんか今日はいろんな人と会うよな。さっきの自警団といい」

「おおいザン」

 速攻で口を滑らせるな。あの組織、いちおう一般の人には内緒なんだろう?

 迂闊な所感を口走るザンに苦笑する舞奈。だが――


「――やっぱり貴女たちの事だったのね!」

「これも運命なのでしょうか……?」

 言いつつ2人は安堵したような、あるいは逆の感情を滲ませた表情を浮かべる。

 どうやら知り合いを見つけて挨拶しようとしただけではなさそうだ。


「詳しく事情を聞かせてもらっちゃあくれないか?」

 舞奈は問いかけ、


「もちろん。その前に、異能力について自警団の皆さんから聞いてますか?」

「あと、わたしたちの存在についても……」

「そこら辺は問題ない」

(っていうか、あたしたちのが詳しいと思うけどな)

 返事の代わりに返ってきた確認事項に舞奈は苦笑する。


 その問いには事情を手っ取り早く説明する意味合いもあるのだろう。

 舞奈たちと、そして自警団と同じ事情を彼女らも知っている。

 むしろ自警団の関係者だ、と。

 そんな姉妹が、


「わたしたちも実は異能力を持っているんです!」

「【菩薩眼(ワイズマン)】。預言の異能です……」

「そう、貴女が……っていうか、貴女たちが……!?」

 続けた言葉に冴子が驚く。

 他の面々もそれぞれ驚愕の反応を返す。

 リーダー氏が言っていた預言者というのが彼女らの事だと気づいたからだ。


 預言が可能な技術は貴重だ。

 故に多くの支部の諜報部で特別な地位を与えられ、特別な職務を課せられる。

 たとえばフランのように。

 あるいは巣黒のソォナムやサチ、小夜子のように。


 同じくらい、同等の効果を持つ異能力も貴重だ。

 そもそも本来、異能力に覚醒する事ができるのは若い男だけ。


「まさか君たち、本当は女の子じゃなくて……!」

「……おおい失礼な事を言うんじゃない。怪異でも吐かんぞそんな暴言」

「えっ? あ、すいません……」

 ボケて本気で失礼な事を言いかけたザンを睨んで止める。

 あまりの剣幕にザンも怯んで謝罪する。

 だが、悪い事は悪いとはっきり言わなければいけない。相手が年上でもだ。


 もちろん目前の彼女らは正真正銘の女の子だ。

 普通じゃないのは、彼女らの身体に宿る異能の方だ。


 姉妹が覚醒していたのは大能力と呼ばれる特別な能力。

 その非常に希少な異能は、ある種の術と同様に性別とは無関係に発現する。

 そして大魔法(インヴォケーション)に等しい強力な効果を持つ。

 ちなみに舞奈が知っている大能力者は【戦士殺し(ワルキューレ)】レインひとり。

 術者よりレアだったりする。


 加えて彼女らの大能力は2人がかりで発動するものらしい。

 それが大能力として一般的なのか否かはサンプルが少なすぎて判断できない。

 そんな彼女らは――


「――その力で、わたしたちは自警団に新たな仲間が加わる事を知ったわ!」

「ですが……」

 言葉の途中で言い淀み、


「その先に見えたものは……」

「……裏切りと死」

「こりゃまた」

 続く言葉に舞奈は大仰に肩をすくめてみせる。


 つまり彼女たちは、舞奈たちが自警団の前にあらわれる事を知っていた。

 だが、その結果が破滅に向かっていると知り、警告を発した。

 だが自警団は彼女らの警告を聞かずに舞奈たちと接触した。

 まあ、舞奈たちが危険ではないと精査しようとはしたようだが。


 彼女たちから見れば、彼らが先走った形になる。

 まったく。


「それ、もうひと組の事じゃなくてか?」

 問いつつ苦笑してみせる。

 そもそもヴィランだぞあいつら、と口に出しては言わないが。


 とは言ったものの、あちらの面子も、そういう類の裏切りをするとは思えない。

 赤毛のキャロルに銀髪幼女のメリル。

 どちらも性格に難がないとは言わないが、根は悪い奴ではない。

 短い期間とはいえ行動を共にした舞奈にはわかる。


 だが、それを言うなら舞奈たちだって同じだ。

 そんな舞奈の思惑に感化された訳でもないのだろうが、


「それは……」

「預言が得られたのは彼女らと会った後ですが、そう言われれば何とも……」

 預言者の少女たちは揃って困惑する。


 彼女ら自身も、得られた預言に100%の信頼を持っていないのだろうか?

 舞奈はちょっと訝しむ、というか困る。


 だからといって彼女らに文句を言っても仕方がない。

 異能力は大魔法(インヴォケーション)と違い、使用者の鍛錬によって変化する事はない。

 得られた形のまま応用するしかないのは通常の異能力と同じだ。


「ひとつ聞いてもいいかしら?」

「はい」

「貴女たちの預言は、どういう形で成されるのかしら? 例えば何かのヴィジョンが見えるとか、声が聞こえるとか」

 冴子がもっともな問いを投げかけ、


「イメージなんですよ」

「イメージ?」

「はい。頭の中に、こう、おぼろげなイメージが浮かびまして……」

「それを2人で解釈するのよ!」

「2人が感じるイメージは同じものなのよね?」

「ええ、たぶん……」

「おおい、頼りにならないなあ」

 そのまま冴子に引き出された2人の答えに舞奈は思わず鼻白む。


 要は2人して精度の低いあやふやな預言をするという事だろうか?


 舞奈的には、よくそれが預言である事に気づいたなというのが素直な感想だ。

 気のせいかもしれないとか言ってたチー牛が、特に呑気な訳じゃない。

 だが、だからと言って完全に無視するのも危険ではある。。


 はっきりしないが不吉な預言、というのは割と厄介だ。

 対策のしようがないからだ。

 あるいは対策をすべきかどうかもわからない。


 それでも、それ以上の追及を彼女らにしても無意味な事も事実。


 なので仕方なく、その後は世間話をしてから彼女らとも別れた。

 そして三度、7人で通りを歩きつつ……


「……つまり、どういう事なんだ?」

 困惑したようにザンが言った。


 別れたばかりの自警団の彼らが、預言者の彼女らが、敵か味方かわからない。

 そう表情が物語っている。

 一枚板じゃない組織、という状況に慣れていないのだろう。


 だが舞奈も心情的には変わらない。

 大きい組織でもないのだから内部での意見の統一くらいはしてほしいとも思う。


 それでも、まあ、事情がわかるのも事実だ。

 確たる真実味のあるイメージとして実際の預言に触れる者と、それを伝聞として聞くしかない者とでは温度差もあるのだろう。

 現に【機関】でも諜報部と上層部の預言に対するスタンスは違う。

 かく言う舞奈も、その帳尻合わせを手伝った事が何度かある。

 魔獣マンティコアとの戦闘はその最たるものだ。

 先日の蜘蛛のブラボーちゃん騒ぎも、それに類するものなのだろう。


 どうやら、そのあたりの事情は他所も同じらしい。

 占術士(ディビナー)でもあるフランの様子を見れば瞭然だ。

 キャリアの長い冴子も、まあ事情は理解している様子だ。


 やれやれ。


 どうやら舞奈たちにとっても、先方にとっても、今日の邂逅は単純に仲間が増えたという訳でもないらしい。

 まあ確かに、舞奈の今までの人生でも棚ぼた式に何かが上手くいった事はない。

 今回も同じだ。


「まあ、帰って詳しく話す必要もないだろうな……」

「そうでやんすね……」

 言いつつ、やんすともどもため息をつく。


 それをすべきかどうかの判断は、今はつかない。

 まあ単に諜報部がすべてを把握して深入りの必要がないと判断している事がわかって肩の荷が降りるのかもしれないが、そうじゃないかもしれない。

 その判断は舞奈を含めて今は誰にもできない。

 別に好き好んで悶着を起こしたくないのなら今は様子をうかがうべきだろう。


 なので結論がついた皆は、微妙に疲れつつも気持ちを切り替えて帰路に着いた。


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