表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第4章 守る力・守り抜く覚悟
52/579

戦闘2-2 ~ヴードゥー呪術&銃技vs道術

「他愛もないものです」

 クレアは笑う。

 泥人間の群はアサルトライフル(L85A2)の斉射によって総崩れになった。


「それじゃ、後片づけはあたしの仕事っすね!」

 ベティは渡り廊下の天井から跳躍する。

 空中で一回転して、まばらになった泥人間の群の中に降り立つ。

 銃火を逃れて生き残った泥人間の頭を、拳銃(CP1)の銃底で砕く。


「ベティ! また暴走は勘弁してくださいよ!」

「心配無用っすよ! こいつらじゃ何匹集まっても(たぎ)らないっす」

 ベティは笑う。


「それよりそっちに何匹か行ったっす! 気をつけるっす!」

「心配無用ですよ!」

 生き残りのうち何匹かが、サチをかばうクレアめがけて走る。


 1匹が長物の間合いの内側に跳びこむ。

 だがクレアは素早くアサルトライフル(L85A2)を引きながら撃つ。

 異能力で強化された泥人間が小口径ライフル弾(5.56×45ミリ弾)に引き裂かれる。

 どてっ腹を引き千切られた泥人間は汚泥と化して消える。


 クレアはディフェンドゥーの流れをくむ近接銃技を取得している。

 だから長物によるクロスレンジでの射撃が可能だ。

 襲い来る泥人間を、クレアは次々に銃剣で突き刺し至近弾を浴びせる。


 そんな相棒の無事を確信してか見やりもせず、ベティは素早く弾倉(マガジン)を交換する。

 そして、最後に残った道士めがけて走る。


「ベティさん!? 気をつけてください!」

 サチが叫ぶ。


 スーツの道士が符をまき散らす。

 そのすべてが鋭く尖った刃となって、ベティめがけてふりそそぐ。

 即ち【金行・多鉄矢ジンシン・ドゥオティエジイアン】。


 サチは祝詞を唱えるが、消去で消えるのは中心近くの数本のみ。

 だがベティは笑う。


「疾風のオーヤよ、お守りくださいませっす!」

 叫ぶと同時に、群れなす刃はベティを避けて地に落ちる。

 逸らし損ねた1本が浅黒い頬に赤い筋をつけるが、それだけ。

 空気の盾を作る【盾の術(ブー・ガーグロヌ)】の呪術。


 ベティはそのまま突き進む。


 道士は口訣を唱え、【金行・作鉄(ジンシン・ゾティエ)】の妖術によって手にした符を剣に変える。

 そしてベティに斬りかかる。


「動きのキレがいいっすね。【虎気功(フウチィーゴンズ)】の術っすか」

 ベティは笑う。


 それは気功によって身体を強化する付与魔法(エンチャントメント)だ。

 以前にアイオスと相対した土行の道士が使った【狼気功(レアンチィーゴンズ)】の上位の術だ。

 ベティの【豹の術(クー・コポー)】、泥人間の【虎爪気功(ビーストクロー)】と同様に筋力を増して強く素早くする。


 道士は唸り声をあげる。

 そして素早く剣を横に薙ぐ。

 ベティは跳び退って避ける。


 付与魔法(エンチャントメント)対、付与魔法(エンチャントメント)

 その出力、素早さは互角。


 道士は剣を振り上げる。


「けど動きが単調すぎるっす。舞奈様が見たら笑うっすよ」

 ベティは笑う。


 拳銃(CP1)の背を使って慣れた調子でいなす。

 体勢を崩した道士の頭に、胴に、小口径弾(9ミリパラベラム)を容赦なく全弾、叩きこむ。

 道士はたまらず腕で顔を庇いながら跳躍する。

 薄汚い色のスーツの袖を、銃弾が容赦なく穿つ。


 だが校舎を背にした道士の身体に、ほとんど傷はついていない。

 気功で強化された肉体が、狙いの怪しい小口径弾(9ミリパラベラム)を防いだのだ。


「やっぱ9パラはダメっすね」

 口径のせいにして愚痴りつつ、弾切れの拳銃(CP1)を投げ捨てる。

 ニヤリと凄みつつ、間髪入れずに道士のネクタイをつかまえる。

 そして校舎の壁が変化したレリーフに押しつけ、3発殴る。


「しょうがないっす、冥途の土産に食わせてやるっす!」

 胸ポケットからささみスティックを取り出し、道士の口にねじ入れる。

 そして道士を天高く放り上げる。


「雷嵐のシャンゴよ、力をお貸しくださいませよ!」

 その瞬間ささみは消え去り、代わりに天からのびた稲妻が道士を打ち据える。

 天空から雷を呼ぶ【雷の術(クー・ヘボソ)】。


 サチの【鳴神法(なるかみのほう)】同様、【雷の術(クー・ヘボソ)】も閉ざされた空間の中では威力が半減する。

 だがベティは【供犠による事象の改変】によって、この制限を無視した。

 ささみスティックは供物である。


 そして警備員たちの攻めは続く。


「クレア!」

 ベティは素早く飛び退く。

 その跡に、ボロボロに焦げた道士が降ってくる。


「了解!」

 落下して倒れる道士めがけて砲弾が飛来する。

 クレアのグレネードランチャー(エクスカリバーMk2)から放たれたものだ。


 道士がもがき立ち上がるより早く、その頭上に砲弾が落ちる。

 そして爆ぜた。


 紅蓮の炎が道士を飲みこむ。

 炎の攻撃魔法(エヴォケーション)に匹敵する凄まじい爆発。

 その凄まじさに、サチは思わず息を飲む。


 たとえ気功で強化されていたとしても、とうてい耐えられる威力ではない。

 さらに背後は校舎の壁だ。逃げ場はない。


 だが赤いレリーフの結界はそのまま。

 術者が倒れれば、戦術結界は消えるはずだ。

 これは不可解な事態である。

 訝しむベティの、クレアの、サチの前で、道士を飲みこんだ爆炎が晴れた。


「これは、どういうことっすか!?」

 その中で、道士は立っていた。

 鉄の塊を盾のように前面にかざし、燃え盛る炎を法衣のようにまとっている。


「【金行・鉄盾ジンシン・ティエデウン】と【火行・防衣(ホシン・ファンイ)】っすね」

 2段構えの防御魔法(アブジュレーション)によってグレネードを防いだのだろう。


「しかし、先ほどまでは金行の術だけを使っていたはずですが……?」

 クレアは首をかしげる。その時、


「……!? 気をつけて! 他に敵がいるわ!」

 不意に啓示を受けたときの焦り方で、サチが叫ぶ。


 レリーフと化した校舎の窓が開き、エラの張ったスーツの市議員が飛び出した。

 市議員は顔を溶かして泥人間の本性をあらわしつつ、符を投げる。

 符は火球と化して飛来する。

 即ち【火行・炸球(ホシン・ジャチユ)】。


「警備員さん!?」

「ベティ!?」

 サチは、クレアは叫ぶ。

 不意を突かれたベティに、避ける暇はない。

 先ほどのグレネードに匹敵する爆発が、長身のベティを吹き飛ばした。


 さらに、火行を使った新たな道士は雄叫びをあげる。

 すると校舎の窓という窓が開いて、凶器を手にした泥人間の群が跳び出した。


 凶器を構えた泥人間の群は、渡り廊下の隅に隠れるサチと園香、(L85A2)を構えるクレア、倒れ伏すベティを遠巻きに取り囲む。

 手にした凶器は、錆の浮いた野太刀。

 そのすべてを炎が、電光が包む。

 即ち【火霊武器(ファイヤーサムライ)】【雷霊武器(サンダーサムライ)】。


 形成は不意に逆転した。


 魔道士(メイジ)の戦闘は、銃撃戦に似た一撃必殺の戦いだ。

 敵の狙いを適切に読んで、確実に回避しなければ、死ぬ。

 有利に立っているように思えても、敵が全滅する瞬間まで勝利は不確定だ。


 金行の道士と、伏兵の火行の道士。

 スーツを着こんだ2匹の道士は不気味に笑う。

 新たな手下をけしかけるタイミングを見計らっているのだろう。


 焦げたベティは立ち上がろうともがくが、戦える状態ではない。

 渡り廊下の反対側では、サチが園香を抱きしめながらフェンスの陰で縮こまる。

 そんな2人を守りながら、クレアひとりで2匹の道士を倒せるだろうか?

 クレアは舌打ちする。


 2匹の道士は口訣を唱える。

 クレアは施術を阻止しようとアサルトライフル(L85A2)を構える。

 だが弾切れ。


 クレアは舌打ちし、無駄と知りつつ活路を探す。

 サチは園香を抱きしめながら、目を閉じる。


 だが次の瞬間、銃声。


 2匹の道士はそろって怯む。


「ふう、間に合ったみたいだな」

 戦術結界をこじ開けて、クレアの前に2人の少女があらわれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ