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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第21章 狂える土
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再戦の狼煙

 巣黒の熟練者である小夜子やサチを交えた訓練と教導。

 ちょっとした試みの結果に舞奈は満足する。


 技術的に。

 精神的に。

 少しばかり頼りない彼女ら、彼らが多少でも強くなってくれたなら目論見通り。


 だが舞奈が教導の成果にほくそえんだ、その時、諜報部から緊急連絡。

 例の3匹の怪異が、ついに動き出したらしい。


 ドレスの男。

 狂った女。

 戦術結界を破壊する力量を持つ奴らの『ママ』。


 人型怪異の疑似親子。

 前回の戦闘で一行を追い詰めた首切り殺人鬼どもとの再戦の時だ。

 つまり教導の成果を実戦で確かめる機会が早くもやってきた。


 フランから知らせを受けた舞奈たちは会議室へ急ぐ。


「おお舞奈殿! 明日香殿! 来たでゴザルか!」

「遅くなってすいません」

「早速だがフラン、状況を説明してくれ」

「はい」

 皆が囲んだ会議机の、トーマスの隣にフランが立つ。

 少し緊張と不安にこわばった彼女の褐色肌をなごませるように、


「とうとう奴らが動いたって話だが」

「はい。正確には少し以前からの動きに気づいたとの事です」

「そりゃ結構」

 尋ねた舞奈はフランの答えに笑い、


「ええっと……どういう意味だ?」

「防犯カメラ等を使って例の親子の追跡を続行した結果、どうやら別の人間の動向を探っている形跡がある事が判明しました」

「誰かをつけ回してるって事でやんすね」

「はい」

「そういう事か」

 言い回しに困惑するザンの問いにフランが答える。

 やんすが身もふたもなく要約する。


 だがまあ舞奈たちが再戦に備えて切磋琢磨している間、諜報部も自分たちの責務を果たしてくれていたらしい。

 防犯カメラの映像から、という事は腕のいいハッカーもいるのだろう。

 そのおかげで再戦の機会は案外早く訪れた。

 新たな犠牲を出す事もなく。

 だが安心するのは早計だ。何故なら――


「――つけ回すって、次のターゲットを見つけたってんじゃないだろうな?」

「その可能性が高いです」

「……まあ都合は良いけどな。何処のどいつだ?」

「この写真を見てください」

 舞奈の軽口に答えるように、フランは取り出した1枚の写真を机上に広げる。


 奴らが猟奇殺人のターゲットでもない相手をつけ回す理由は思いつかない。

 つまり舞奈たちの仕事がひとつ増えた。

 一行は写真を覗きこみ……


「どれどれ……ヒューッ! こいつはべっぴんさんだ」

 舞奈は場もわきまえずに囃す。


 そこに映っていたのは2人の少女。

 どちらも年頃は高校生から大学生ほど。

 どちらもスタイルが良く胸も大きい。

 親子というには年が近すぎるので姉妹だろう。

 顔立ちも可愛らしく、快活で素直な性格をうかがわせる。

 というか桂木姉妹(の姉の方)と比べてアクが少なく好印象だと少し思う。


 写真の彼女らは舞奈たちの警護対象でもある。

 つまり舞奈たちは3匹の怪異をただ排除するだけでなく、彼女らの身の安全を保障しなければならない。

 彼女らの運命は、舞奈たちの働きにかかっている。


 だが舞奈は笑う。

 美人を守るために戦うのは大好きだ。

 特に敵に対して対策を考え、十分な訓練をした状態ならば。


「前回の被害者のご息女……ですか?」

「はい。娘さんだそうです」

 明日香の問いに、フランは予想通りの答えを返す。

 他の戦闘に役立つ様々な剣呑な学問と同じように解剖学をも学んだ明日香は、相手の骨格を見て血縁関係を割り出せる特技を持つ。

 そんな彼女らの会話を聞きつつ、


「まあ奴ららしいっちゃあ奴ららしいが」

 舞奈は不愉快げに口をへの字に曲げる。

 そうしながらも内心では納得する。


 前回の戦闘で、舞奈は狂った女とサシで戦った。

 その際に奴が喚き散らした台詞を思い出したからだ。

 狂っているとはいっても奴らはランダムに動く訳じゃない。

 性格が捻じ曲がっていて、常人ではしないような悪意に基づいて動くのだ。

 だから殺した相手の子供を執念深くつけ狙ってもおかしくない。

 親子に扮した自分たちが、他所の家庭を無茶苦茶にしてやろうだなんて、如何にも邪悪な人型怪異が考えそうな胸糞の悪い悪事だ。


 正直なところ、奴らが事を起こす前に動く事ができてラッキーだと思った。

 諜報部さまさまである。

 そんな舞奈の側で……


「彼女たちが……」

 冴子は写真に写った2人の少女をじっと見つめている。

 思い悩むような、あるいは少しばかり思いつめた表情で。


 彼女は写真の中の少女たちの内心を慮っているのかもしれない。

 そう舞奈は思った。

 自分と同じように大事な誰かを失った彼女の。

 身近で、よもや自分の側から居なくなるなんて思ってもいなかった誰かを。

 そんな彼女を、フランが気づかうように見守っているのに舞奈は気づく。


 術者の心のありようは術の強度に影響する。

 彼女の課題は、強い思いの源となり得る、自分が守りたいものを見つける事だ。

 失くしたものの代わりを。

 そんな冴子の内心とはお構いなく……


「……ちなみに前回も犯人グループはターゲットを何日か観察し、行動パターンを把握した後に犯行に及んだらしい」

「だろうな」

 続くトーマスの言葉に舞奈は何食わぬ表情で答える。


「対象を観察した上で、示威行為として最も効果的かつ耳目を集める手段と場所で殺害したでやんすね」

「そういう事になるね」

 やんすとのやりとりに少しむくれる。

 彼らの口調が少し無神経に感じたからだ。


 数日前、繁華街の一角で首のない遺体が見つかった。

 間もなく、持ち去られた首を弄ぶ趣味の悪い動画がネットで拡散された。

 その犯人が件の3人組の怪異だ。


 舞奈からすれば被害者は面識のない男性だ。

 しかも犯人が人ではなく人に似ているだけの怪異だと知っている。

 だから、ただ犯人どもの蛮行にドン引きし、ただ倒すべき悪だと再認識した。


 つまり前回と同じパターンなら、写真の中の彼女らも数日中に被害に遭う。

 彼女らから父親を奪ったのと同じ事件の。

 事態は逼迫している。だが――


「――まあいい。今度はこっちから仕掛ける番だ」

 言って舞奈は不敵に笑う。


 今度こそ奴らを仕留めれば、むしろ彼女らの父親の仇をとる事になる。

 まあ写真の中の彼女らが、そういう事で溜飲を下げるタイプには見えない。

 それでも自分たちから父親を奪った屑どもがこの世から永久にいなくなったと知る事は、彼女らが父親のいない世界へ踏み出す小さな足掛かりになる気がする。

 大事な何かを失った誰かに対して、ただ最強なだけの舞奈ができる唯一の事だ。


「けど、タイミングが良すぎる気もするでやんす」

「それって……罠かもしれないって事か?」

 ボソリと言ったやんすの言葉で、ザンが気づく。


 少し意外だと思った。

 以前までのザンならそうはしなかった気がする。

 今の彼は、他人の言葉を吟味して自分なりに考えようとしているのだ。

 戦闘中だけでなく、普段から。

 それは彼自身に起きた良い変化のように思える。

 だから――


「――流石に考え過ぎではゴザらんか?」

「いや、可能性がない訳じゃないだろう」

 彼をフォローするように、ドルチェの反論にツッコんでみせる。

 隣の明日香や冴子が少し意外そうに見やってくる。

 女の子が危険な時に、そういう事を舞奈が言うとは思わなかったのだろう。

 その上で、


「だが、やる事が変わる訳じゃない」

 言って笑う。


 罠である可能性は高い。

 冷静に考えてみれば、その意見に異論はない。

 奴らは悪意を肥大化させたタイプの狂人だ。

 以前に追い詰めた相手をおびき出すために悪趣味な陽動くらいするだろう。

 被害者の親族なんて格好の獲物だ。


 だが、どちらにせよ舞奈たちは奴らを片づけなければならないのだ。

 互いにどんな思惑があるにせよ再戦するチャンスなのは同じだ。


 何より過去の経験が告げている。

 無理に裏の裏をかこうとするより、真正面から叩きのめした方が被害は少ない。

 特に相手が自身の策に悦にいってそうな邪悪な相手の場合。

 そのために皆は先日まで自己研鑽に励んできた。

 そんな舞奈の言葉に……


「……まあ、道理でやんすね」

「ああ! 今度こそ奴らを片づけちまおうぜ!」

 やんすもザンも納得したようだ。


「話し合う事が他になければ出発だな」

「ああ、頼む」

 総括した舞奈にトーマスは笑みを向ける。

 他の皆も異口同音に同意を示す。


「車はあるでゴザルか?」

「ライトバンがあるから使ってくれ。全員が乗れる大きさはある」

「犯人の居場所はナビで確認できるようにしてあります」

「かたじけない」

 堅実なドルチェは移動手段を確認してトーマス氏とフランに一礼し、


「すし詰めでやんすね……」

「行き帰りだけの辛抱じゃないか」

 嫌そうなやんすに舞奈は苦笑する。


 具体的に現地に向かうのは協力者チームの6人とフランだ。

 1台のライトバンに7人は厳しいと思う。

 たぶん舞奈と明日香が小学生だからいけると判断したのだろう。

 あと、やんすももやしみたいにひょろっひょろだし。


 だがまあ、奴らを発見したら皆で降りて戦うのだ。

 車の乗り心地はあまり関係ない。


「では運転は某で構わんでゴザルな?」

「ああ、頼む」

 ドルチェにニヤリと笑みを返す。


 年齢的に公道で車を運転していいのは彼とやんす、冴子くらいか。

 やんすはともかく冴子は車中から魔術で手出しできる。

 彼女は運転手じゃない方が良い。

 その事をドルチェは理解しているのだろう。


 加えてテックのネットゲームでの知人らしい彼の運転技術が今は頼もしい。

 講習で習うのであろう安全運転ではなく、敵がいるレースゲームのやり方が。

 戦闘でのセンスを見る限り、彼の運転には大いに期待できる。


 ……何より2人分の体積がある彼が運転席におさまってくれると他の席が楽だ。


「ま、本当は転移でもできれば良かったんだがな」

 軽口を叩いた途端、


「そこまで切羽詰まった状況なら、諜報部が情報を精査する間に彼女らは死んでいるはずだ」

「そりゃそうなんだがな」

 言い方ってものがあるだろう。

 返された、にこやかなトーマスの答えに渋面を返す。

 そのついでに、


「……まあいいや。長物があれば借りたいんだが」

「それなら諜報部が以前に押収したサブマシンガン(05式衝鋒槍)がある」

「押収って……支部に銃器携帯/発砲許可証シューティング・ライセンス持ちはいないのか?」

 続く要求へのトーマスの返答に口をへの字に曲げる。

 ついでに取り出されたサブマシンガン(05式衝鋒槍)を少し嫌そうに見やる。

 状況的に舞奈が使うと思って持ってきておいてくれたのはわかるのだが……。


 今回の依頼を引き受けてから、有事に備えて弾倉(マガジン)は多めに持ち歩いている。

 何ならワイヤーショットも持ってきている。

 だが流石にメインの得物が拳銃(ジェリコ941)一丁では心ともない。

 もちろん悠長に巣黒に戻ってスミスに長物を用立ててもらう余裕なんかない。

 明日香が【工廠(アルゼナル)】で取り出すように幾つか準備はしているだろうが、あくまで魔術戦を主体とする彼女の得物は小口径弾(9ミリパラベラム)ばかり。

 借りても心ともないという意味では大差ない。


 そういう事情なので、こちらで得物を借りようとしたらこれである。

 しかも、よりによって弾が前に飛ぶかもあやしい怪異の密造サブマシンガンだ。

 まったく。


 だが、普段から銃を使うメンバーがいないのなら、それすら表の警察に渡るはずのものを失敬してくれていたのだろう。

 無いよりマシと言われれば反論はできない。

 これしかないのだから仕方がない。

 何なら以前にディフェンダーズとの共同作戦で武装した脂虫の集団と相対した際に、敵の得物を奪いながら戦った事だってある。

 そう納得する事にする。


「車の準備ができたでゴザルよ!」

 ドルチェが呼ぶ声。


「……しゃあない。借りるぜ!」

「うわっ! ……ああ」

 トーマス氏の手からサブマシンガン(05式衝鋒槍)をひったくりつつ弾丸のように駆け出す。

 肩紐(スリング)もついてないから、そのまま抱えて走る。


 車庫にそれっぽい一台を見つけて駆け寄る。

 普段は諜報活動にでも使っているのだろうか?

 ビックリするほど何の特徴もない、あえて言うなら女児誘拐にでも使われそうな白いライトバンだ。

 他の皆は既に乗りこんでいた。

 舞奈も開いたドアから転がりこむ。


「なに油売ってるのよ? ……って、それ使う気!?」

「うるさいなあ他人が何を撃とうが勝手だろ? 出してくれ!」

「承知したでゴザル!」

 ライトバンは予想通りにすし詰めだ。

 明日香が詰めて舞奈が乗れるスペースを無理やりに作りつつ手にした得物を見て文句つけてくる様子に口を尖らせながら、運転席のドルチェに告げる。

 別に舞奈だって使いたくて使う訳じゃないのに。


「……必要なら何か貸すわよ?」

「ドイツ製品の御機嫌をとりながら接近戦なんかできるか」

「失礼ね。メンテはしてるわよ」

 すっかり乗客気分になって軽口を叩き合う子供たちを尻目に、


「飛ばすでゴザルよ!」

 ドルチェの陽気な合図と共に、7人を乗せたライトバンは弾の如く駆け出した。


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