計画始動 ~銃技vs狂える土
計画に備えて着々と準備を進めていた舞奈たち。
それでも小学生なので、週が明けた月曜日には普通に登校する。
そして給食の後の昼休憩の校庭で……
「マイちゃん、頑張ってー!」
「おうっ! まかせとけ!」
「安倍さんもがんばれー!」
「期待には応えるわ」
ドッジボールのコートの外から手を振る園香やチャビー。
対して舞奈と明日香は不敵な笑みを返す。
「舞奈ちゃーん! ファイトー!」
「舞奈っちー! 気張れよー!」
コートから少し離れた場所からは梓と美穂が手を振る。
身体の動きに合わせてゆれるたわわな胸に、
「応援さんきゅっ!」
舞奈も相好の崩れまくった笑みを返す。
「まかせてください! お姉さんたち!」
「いいとこ見せますよ!」
何故かコートの外の男子どもが、自分たちが応援されたみたいにやる気を出す。
巨乳眼鏡の上級生に応援されたのが嬉しいのだろう。
やれやれだ。
「大将! 負けるでないぞ! 安倍明日香を仕留めてやるのじゃ!」
「わからいでか!」
「……」
ちっちゃな鷹乃の声援を受けて、6年生のリーダーが大見得を切る。
女子に応援されて嬉しくない男子はいない。
他の6年男子たちも何となく喜ぶ。
明日香が微妙に鷹乃を睨むが誰も気にしない。
舞奈たちは例の6年男子とドッジボールの試合をしていた。
5年生の舞奈のクラス全員と大将たちのグループとの勝負だ。
何となくノリで勝負する事になったのだ。
大事な計画を前に呑気な事をと言うなかれ。
舞奈が件の狂える土のグループを討つ計画をたてたのは、奴らがひとりの子供の安穏と幸福を奪ったからだ。
そんな計画を実行する前に、同じ安穏を友と分かち合うのは舞奈的に自然だ。
ちなみに6年女子の隣には珍しくテックもいる。
インドア派の彼女は外でドッジボールやってても普段は来ないのだ。
舞奈たちは友人だし、大将とも件のゲームで敬われて仲良くなっていたらしく「どっちも頑張れ」みたいに何となく手を振ってくる。
舞奈も「おっけ!」と手を振り返す。
周囲や当人にとっては真剣な勝負も、テックから見れば楽しいじゃれ合いだ。
それでも舞奈には遠く及ばぬまでも相手は6年生。
5年生の数の上での圧倒的な有利は瞬く間にひっくり返され、コートの中には今や舞奈や明日香を含めて数人しかいない。
それでも大将は油断しない。
残っている舞奈こそが最大の敵だと理解しているからだ。
「やんす! 例の作戦だ!」
「わかったでやんす!」
大将の指図に応じ、コートの外で取り巻きの痩せた男子が動く。
6年生の取り巻きの方のやんす氏は、それなりに速い上に予測不能な鋭いバウンドをして、なのに当たっても痛くないという魔球みたいな投球でチャビーや桜を仕留めた技巧派だった。
チャビーが逆に驚くらい痛くないせいで、女子の大半の気が緩んだのだ。
中々の策士でもある。
そんなやんす氏と、小癪にも舞奈を倒すための策を用意してきたらしい。
伊達に何度も舞奈にしてやられてはいない。
「それ、あたしの目の前で指示したら意味なくないか?」
軽口を叩く舞奈めがけて、
「いや、おまえは作戦の内容を知らないだろう!? くらえっ!」
「おおっと!」
大将は渾身の勢いでボールを投げる。
喋ってる途中で不意をついたつもりなのだろう。
だが舞奈は予想に反して苦も無く避ける。
なので――
「――あっ!」
ボールが後ろにいたやんす氏の顔面にぶち当たった。
「あーあ……」
「ああっ!? やんす!」
大将はビックリして叫ぶ。
振り返った舞奈や皆の前で、大将より幾分か小柄な男子が派手に吹っ飛ぶ。
おおかた避けた舞奈の後ろに回りこんだやんす氏が取ってすぐに投げる算段だったのだろう。
避けたと思って油断した直後に連続攻撃という算段だ。
だが不意をつかれたはずの舞奈が急に避けたので対応できなかったのだ。
舞奈の真後ろにいたせいで、大将が投げるタイミングや飛んで来るボールをちゃんと把握できていなかったという理由もあるだろう。
相手の隙を狙って戦果をあげた6年やんす氏。
だが自身も些細な油断で自滅。
策士策に溺れる、である。
「舞奈ちゃんすごーい!」
「やるのう! 舞奈っち!」
「見ましたか! お姉さんたち! うちのエースのファインプレーを!」
梓と美穂が歓声をあげ、関係ない男子が自分の手柄みたいにアピールし、
「ぐぬぬ! 俺たちの作戦を見抜いてやがったのか!?」
「いや、偶然だが……」
大将が歯噛みする。
そんな様子を見やって舞奈は苦笑する。
「気を抜くでない大将! 安倍明日香がボールを取ったぞ! きゃつは性格が悪いから、そなたらの100倍くらい底意地の悪い作戦を仕掛けてくるぞ!」
「……」
鷹乃がアドバイスにかこつけ、鬱憤でも溜まっているのか無茶苦茶を言う。
明日香は礼儀正しく無視し、今の作戦の100倍くらい底意地の悪い何らかの投法の構えをとる。
そんな和気あいあいとした舞奈たちを尻目に少し離れた場所で……
「……どーん!」
「うわっ!? ……何じゃおぬしか」
「ごろごろごろ」
「……何が言いたいんじゃ?」
「どーん!」
「……」
「ごろごろごろ」
「当たっても当たっても倒れない不屈を表現している……?」
「美穂よ、とうとうこ奴の思惑がわかるようになってしもうたか……」
「あはは……」
みゃー子が謎の遊びをして6年生たちを困惑させていた。
と、まあ、そんなこんなで放課後……の少し前……
「……マイちゃん、今日は6時間目があるなのー?」
「おほほ迂闊でしたわね! 志門舞奈!」
「ボケて帰ろうとしてる訳じゃねぇ」
ひとり帰り支度をして鞄をかついだ舞奈に、桜と麗華様がからんできた。
舞奈はやれやれと肩をすくめ、
「野暮用があるんだ。先生に話は通してある」
「いいなーなの。桜も早く帰って遊びたいなのー」
「ったく気楽に言いやがって」
ぶーたれる桜に思わず苦笑して、
「志門さんと工藤さんは、ご家庭の事情で早退するのです」
「そうなのー?」
「先生から聞いたのです」
「さっき、そう言ったろ?」
やってきた委員長にフォローされ、
「マイちゃん、大変だ」
「がんばってねー」
「頑張ってねー」
園香とチャビーに謎の応援をされ、明日香にも他人事みたいに言われ……
「……そいういやあテックは?」
「先に帰ったよ」
「そっか。要領いいなあ……」
ドアを指差すチャビーに、やれやれと肩をすくめてみせる。
そのように微妙な時間に早退した舞奈は……
「……こんにちは! あれ? 知らないおっちゃんがいる」
県の支部にやってきた。
普段通りのピンク色のジャケットの背には同じ色の大きなリュックサック。
日中はスミスに預かってもらっていたのだ。
中に入っているのは今回の作戦に必要な舞奈の奥の手だ。
「君が志門舞奈ちゃんだね? 小学校は終わったのかい?」
「まーそんな感じだ」
「そっかー。レインちゃんもトリックスターちゃんも、まだ来てないよ」
「……高校生だもんな。ひょっとして梢さんがいないと転送装置が使えない?」
「それは大丈夫。わたしが起動できるからね」
「おっちゃんも術者なのか? 梢さんひとりだとばっかり」
「ハハハ【組合】から昼間だけ派遣されてきてるんだよ。学生の執行人が学校に行ってる間に術者がひとりもいないと、いろいろ不都合があるからね」
「それで受付までやってるのか? お疲れさま……」
そんなトークをしながらも、
「こっちだよー」
「部屋の場所はわかるよ。お願いします」
おっちゃん術者のオペレートで特に問題もなく埼玉支部へ転移。
「あれ? 舞奈さん、今日は早いですね」
「へへっ! 一番乗りだぜ!」
先方の受付にも挨拶して表に出る。
だが普段とは少し違う道を歩く。
今日の行き先は我愚痴支部じゃないからだ。
……そんな一幕から半刻ほど後。
普段通りの時間に下校して埼玉へ移動した明日香は……
「……今日は舞奈殿はいないでゴザルか?」
「ええまあ。ああいう性格なので……」
「困ったものでやんすね……」
計画通りに他の面子を誤魔化していた。
「いいなー。俺もバックレてぇ。今日も資料漁りだと思うと眠くなるぜ」
「ザン。貴方、もう少し言い方ってものを……」
「だってよー」
「それにザン殿はいつも普通に寝てるでゴザルよ……」
「やんすねー」
そんな馬鹿話をしながら、気のいい仲間たちは特に不審がる事もなく、禍我愚痴支部へと続くいつもの通りを5人で歩く。
周囲に跋扈する狂える土どもも、大騒ぎはしているが騒動には至っていない。
一見すると、それなりに平和な月曜の夕方である。
そして到着した禍我愚痴支部でも……
「……舞奈ちゃん、今日はいないんですね」
「ええまあ。ああいう性格なので……」
「しょうがない子だなあ……」
話を聞いただけでフランもトーマス氏も納得してくれた。
それが皆の舞奈の人格に対する評価なのだろう。
そう明日香は判断した。
「いつも出会い頭にお尻を触ってくる子がいないと不思議な気持ちですね」
「えっ!? あいつ、そんな事してたんですか!?」
「気づいてなかったでゴザルか?」
「……気づいてたら止めてよ」
フランがこぼした言葉にザンが驚き、冴子が口をへの字に曲げる。
「舞奈さんは凄まじく素早くて器用で手癖も悪いでやんすからね、よく見てないと見逃すでやんす」
「すいません。あんなので」
「流石は舞奈殿でゴザル」
「……そんな事で感心しないでよ」
「そっか、舞奈さん……」
「……ザン?」
「しないっすよ! 俺はそんな事しませんよ!?」
「本当にすいません……」
「それは仕方ないよ。それより今日の仕事を頼む」
そのように舞奈の人徳もあり、先方でも特に混乱もなく今日の仕事が始まった。
その部分だけを切り取って見ていると、平和な月曜の夕方である。
だが、禍我愚痴支部管轄地域の別の場所では……
「……ここらへんかな?」
一見するとぶらぶらと歩きながら、ひとりの女子小学生が不敵に笑う。
小さなツインテールにピンク色のジャケット。
背中には大きなしぼんだリュック。
舞奈である。
周囲は薄汚れた狭い裏路地。
薄暗くて大通りからの見通しは悪い。
しかも左右のビル壁は落書きだらけで薄汚く、まともな人間は近寄らない。
暴行事件のロケーションとしては百点満点な場所だ。
舞奈は問題の地点にやってきた。
つまり先日に男児殺害事件が起こった場所だ。
事前に地図を頭に入れておいたので、迷わずここに『迷いこむ』事ができた。
例の事件の被害者である6歳の男児のように。
そんな舞奈の行く手を阻むように……
「……おっ来た来た」
一見してそれとわかる狂える土の集団があらわれた。
中東風の彫りの深い顔立ち。
日本人の大人より一回り大きな体躯。
なのに国内で見慣れた脂虫どもと同じヤニで濁った狂眼。
いやらしく歪んだ口元にくわえられた煙草。
手には凶器の鉄パイプ。
「御丁寧に全員そろってやがるぜ」
大人の視点からは死角になる、小5女子の双眸が剣呑に光る。
口元にサメのような笑みが広がる。
見間違えるはずもない。
先日の偵察の際に、支部のモニターの中にあらわれた男たち。
正確には、その中で式神が倒し損ねた奴ら。
そして翌日のニュースサイトの記事に並んでいた顔ぶれ。
6歳の少年が殺害された痛ましい事件の、まぎれもなく奴らは実行犯だ。
だが、いくばかか知らない顔も増えている。
式神に倒された分の人員が補充されたか?
あるいは数が減ったから他のグループと合流したか?
その人数――否、匹数は式神が相対したグループの倍近く。
だが舞奈にとっては好都合だ。
こいつらを全滅させれば、奴らが引き起こすはずだった新たな被害を防げる。
「何ヲシテイル? ガキ!」
長身の恐ろしげな外国人が、凶器を手にして脅すように詰め寄る。
「あんたたちには関係ない事だよ」
舞奈は動じる事もなく男たちの横を通り過ぎようと歩く。
そんな舞奈の――
「――ナラ、死ネ!」
頭上めがけて、いきなり鉄パイプが振り下ろされた!
6歳の子供には対処できない問答無用の暴力。
不運にも裏路地に迷いこんだ彼も同じように出会い頭に強打をくらい、訳もわからず袋叩きにされて殺された。
奴らは同じ事を再び迷いこんできた女児にもしようとしたのだ。
人に似て人に非ざる中東産の怪異にとって、人の命など紙切れ同然だからだ。
面白半分に破り捨てる事に、奴らは良心の呵責を感じない。
そもそも良心などない。
奴ら怪異は人間が嘆き悲しむマイナスの感情を糧とする。
だから奴らと出会った不運な者は訳もわからず理不尽な被害を被るしかない。
だが志門舞奈は別だ。
「話が早くてたすかるぜ!」
頭上から迫る鉄の塊を見ずに避ける。
勢いのまま襲撃者の手首を強打。
「ッ!?」
怯んだ敵の手から離れた得物を奪う。
手癖の悪さの本領発揮だ。
舞奈は手にした鉄パイプの、赤黒く歪んだ先端を鋭く睨み、
「こいつで子供を殺したのか?」
口元を歪めながら突く。
躊躇はない。
目前にいるのが人ではなく、人に似ているだけの怪異だと理解している動き。
奴らを1匹逃す毎に、人の命や幸せがひとつ奪われる。
中東からやって来た怪物どもも、薄汚い国産の喫煙者と変わらない。
人が滅ぼされるのが嫌なら奴らを滅ぼすしかない。
それを舞奈は身に染みて理解している。
故に避ける余裕すらない、避けようとする隙すらあたえない、真正面からの不意打ちのような迷いも容赦もない鋭い一撃。
まるで銃弾のような、死そのもののような。
無論、悲鳴をあげる暇もない。
だから次の瞬間、人型怪異は喉から土色の体液を噴き出しながら崩れ落ちる。
人間のそれを真似たように驚いた表情を浮かべたまま。
引き抜いた得物の先はヤニ色に染まっている。
それを見やって舞奈は笑う。
「ヨクモ仲間ヲ!」
「オマエ許サナイ!」
残る男たちが一斉に襲いかかる。
振り上げた鉄パイプの先に紅蓮の炎が、紫電がまたたく。
奴らは大きくて凶暴なだけじゃない。異能力を持っている。
だが舞奈は何食わぬ表情のまま、
「他人の命は平気で奪うのに、仲間が殺られるのは嫌なんだな」
嘲笑う。
そうしながら振り下ろされた【火霊武器】を重心をずらして避ける。
横薙ぎの【雷霊武器】を跳び退って避ける。
一拍だけ遅れて袈裟斬りにされた【氷霊武器】の冷気をギリギリで避け、小さなツインテールの先に霜が張るのも構わず敵の懐に潜りこむ。
狂える土の身体能力は総じて高い。
日本人の異能力者が1対1で対処するには厳しいと感じた。
異能力を使う以前の素の動きがもう違う。
少なくともザンには無理だ。
地元の諜報部あたりだと1ダースで1匹を相手できるかもあやしい。
ドルチェなら完全な1対1に持ちこめればいけるか?
だが舞奈にとっては雑魚だ。
渾身のつもりの一撃を避けられた狂える土どもの体勢が一瞬だけ崩れる。
それは志門舞奈に相対した者にとって致命的な隙だ。
故に舞奈はその喉元に、狙いすました突きを喰らわす。
瞬く間に3匹の怪異が崩れ落ちる。
異能の火が消えた鉄パイプが3本、乾いた音を立てて狭い路地を転がる。
「殺セ! コノガキヲ殺セ!」
叫びながら後続が襲いかかる。
外国人の高い身体能力に【虎爪気功】の筋力を加えた斬撃の如く打撃。
「最初からそのつもりだったろう?」
対して舞奈は跳んで避ける。
勢いのまま一回転。
そのまま見よう見まねのバッターみたいなフォームで敵の頭を強打する。
子供に鉄パイプで殴られた頭が向かいの壁まで吹っ飛んでいく。
舞奈は笑う。
鉄パイプのリーチはナイフより長い。
子供の背丈でも大人を相手にいろいろできて意外に面白い。
回ってる隙に2匹の【狼牙気功】が殴りかかってくる。
だが舞奈は事もなげに、超高速の打撃を自分の鉄パイプで受け流す。
体勢を崩した男たちのあごを、今度は身長差を生かして鉄パイプの先で突く。
準備してきた改造拳銃どころかナイフを抜くまでもない。
そもそも志門舞奈に近接攻撃は無意味。
舞奈は卓越した感覚で周囲の空気の流れを読む。
空気の流れを通して肉体の動きを読む。
だから身体を使った攻撃は半ば自動的に回避してしまう。
例外はない。
故に術はおろか異能力すら使えない舞奈がSランクたりえる。
異能や術を極めた者たちから最強と目される。
敵の中に回術士はいない。
それでも舞奈は油断しない。
狙撃に備える。
常に止まらないよう動き続ける。
そうしながら視界の端で、目星をつけていたビルを警戒する。
何故なら残る敵の動きでわかる。
所見の相手に瞬時に数匹が倒された状態でも、奴らは怯んでいない。
狭い路地で舞奈を遠巻きに囲み、鉄パイプを構えて威嚇している。
今の状況でなお、舞奈を倒せると思っているのだ。
単純に数で勝っているからではないだろう。
自分たちの敵に鉄槌が振り下ろされると信じている。
それは狙撃だ。
防御魔法で防護された式神をアウトレンジからの一撃で倒した奥の手だ。
そして狙撃手が舞奈を狙う、その瞬間こそが舞奈の狙いだ。
ストッキングを流用した覆面で顔まで覆った――おそらく【装甲硬化】の打撃を跳んで避け、距離をとって隙をうかがう。足は止めぬまま。
舞奈を囲む他の狂える土が一斉に襲いかかってくる気配はない。
相手が強いから、狙撃に適したポイントへの足止めに専念する気なのだろう。
乱戦になって誤射されたり逃げられたりしたくないのだ。
だが、そんな敵の動きも舞奈にとっては好都合。
気づいていれば狙撃に対処する事は可能だ。
常に動き続けるのだ。
素早く、相手が予想もしないような挙動で。
そうすれば1km離れた場所から狙っている何者かはこちらを捉えきれない。
そして別の仲間がいれば、動く相手にどうにか狙いをつけようと四苦八苦している狙撃手の位置をつかんで逆に強襲する事ができる。
そうなればザンのイメージの中の狙撃手と同じだ。
苦も無く相手を排除する事ができる。
だが――
「――!?」
舞奈は機動しながら訝しむ。
何故なら音がした。
鋭い激突音。
だが地面でも近くのビル壁でもない。
頭上だ。
見やると、はるか上空に1機のドローン。
鷹乃の式神だ。
だが【摩利支天・隠形符】【吉祥天・奇門遁甲符】の二重の隠形術で姿を隠していたはずの人間サイズの航空機の姿が、今は普通に見える。
不測の事態で術が解除されたらしい。
しかも機影はバランスを崩してつんのめっている。
(式神が先に撃たれた!?)
驚く舞奈が見やる先、はるか頭上で――
「――!」
式神に再び何かが――超大口径ライフル弾が激突した!