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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第21章 狂える土

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日常2

 先日のパーティー会場に引き続き、他県の支部に向かう途中でも大立ち回り。

 他国に比べて平和なはずの我が国だけど、舞奈の周りだけは荒事でいっぱいだ。

 今回の相手は狂える土。

 そもそも今回の仕事での調査対処でもある埼玉の一角を不正に占拠している人型怪異どもの何匹かを、仕事の初日に叩きのめしたことになる。


 そのように局所的に波乱に満ちた日の翌日。

 平和なホームルーム前の教室のドアをガラリと開けて――


「――でさ、あたしは言ってやったわけよ。『そこの出店で売ってるフランクフルトの半分くらいの大きさだな』って。その時の奴の顔ときたら」

「うん。フランクフルトの半分は小さいよね」

 舞奈と音々が登校してきた。

 昇降口でばったり会ったのだ。


 件の騒動の後は後始末をして支部に赴き、挨拶だけしてその日は終わった。

 なので翌日は普通に登校してきた。

 今後しばらく、舞奈はこんな感じで生活する事になる。


「あっ槙村さん。丁度良いところに来たのです」

「委員長おはよう。どうしたの?」

「実は……」

 待ち構えていた委員長が音々を連れていく。

 児童会への嘆願だろうか?

 教室の隅で眼鏡2人が真面目な話を始める様を見やりつつ……


「……よっテック」

「舞奈おはよう」

 自席でタブレットを見ていたテックを見つけて何食わぬ口調で挨拶する。

 テックもすっきりボブカットの髪を揺らし、見ていた何かのチャートらしい画面から顔を上げて舞奈を見やる。


 正直、こちらも丁度良いと思った。

 テックには話さなければいけない事がある。


「実はな……」

 何食わぬ調子のまま、今回の仕事で出会った仲間の事を話す。


 執行人(エージェント)ドルチェ。

 アニメのTシャツを着こんだ大柄な執行人(エージェント)だ。

 以前には巣黒に来て明日香に挨拶していったらしい。


 彼は以前に四国の一角で実施された悲惨な大規模作戦の生き残りだ。

 そしてテックのネットゲームでの知人でもあるらしい。


 問題なのは、件の四国の作戦にはテックの友人がもうひとり参加していた事だ。

 そっちの彼は舞奈と同じチームにいた。

 守れなかった仲間たちのひとり、槍使いの【重力武器(ダークサムライ)】ピアースだ。

 舞奈は彼の最後の願いの通り、彼の遺品をテックに手渡した。


 同じ舌で、別の知人と共同任務が決まったと話すのは気が引ける。

 だが、それを彼女に言わないままドルチェと任務を続けるのは不誠実だ。

 その事実を提示したうえで、彼らを守り抜く。

 それが舞奈のすべき事だと思っている。

 だから今回の、埼玉の一角での仕事のパートナーとして、以前に話していた彼もいたと事実だけを淡々と告げる。そんな舞奈にテックは、


「そう……」

 とだけ答えた。

 普段から口数の少ない表情の薄い彼女の感情は、流石の舞奈にも読めない。


「仲、悪いのか」

「そうじゃないけど……」

 あのおっちゃん、割と誰とでも上手くやれそうに見えるんだが。

 舞奈は内心で首を傾げる。


 それともネットではクセの強いキャラなのだろうか?

 舞奈と同じ小5女子のテックが、ネットゲームでは髭面の大男だと言うし。

 そんなテックは少し考えてから……


「……舞奈と麗華みたいな関係?」

「……………………わかったよ」

 そう答えた。

 対して舞奈は、この件には深くツッコまないでおこうと決めた。

 世の中には知らない方が平穏に暮らせることがある。たぶん複数。

 舞奈はそのうちひとつにどっぷり浸かり、秘密を死守する側に回っている。

 先日からの仕事も、いわばその一環だ。

 別の厄介事に手を出す必要はない。


 ちなみに本物の麗華様も、先ほどから登校してきている。

 今は教室の後ろで、例によってギャラリー相手にワンマンショーをしている。

 最近は集団ストーカーに監視されているらしい。

 守秘義務のある仕事のない彼女は話のネタが豊富でうらやましい。

 ギャラリーの男子たちは誰も信じずに野次っている。

 取り巻きのデニスとジャネットは苦笑している。

 長身で浅黒いデニスも小太りなロス育ちのジャネットも舞奈ほどじゃないが腕は立ち、集団ストーカーとか本当にいても数日で集団じゃなくなるだろう。


「まったく麗華様はブレないなあ……」

 苦笑した途端、安定して愉快な麗華様と目が合った。

 だが今は相手する気はないので礼儀正しくスルー。

 そうしながら、


「そういやあ……」

 話題を変えがてら、テックに先日の初仕事の事をしてみる。

 今度は少し楽しそうな部分をだ。


 埼玉の一角に位置する禍我愚痴支部の管轄地域の調査と治安維持への協力。

 ドルチェを始めとする他支部の執行人(エージェント)との共同任務。

 その初日に、舞奈は数匹の人型怪異、狂える土をぶちのめした。

 奴らが女の子を襲おうとしていたからだ。

 地を這う狂える土どもは、地元警察を呼んで引き渡した。


 もちろん本来は守秘義務がある仕事だ。

 だが相手が相手だし、言葉を選べば大丈夫だと思った。

 それに状況の説明もしたし、ひょっとしたらテックが気づくようなニュースになってるやもと思ったのだ。そうだったら彼女も面白がってくれると。だが……


「……そういう報道はされてないみたい」

「そうなのか? 確かに警察に引き渡したんだが……」

 タブレットに別窓を開いて何やら調べたテックの答えに訝しむ。


 あの後、舞奈たちは地元警察に連絡し、狂える土どもを引き渡した。

 始末する気まではなかったが、放置しておいても良い事はないからだ。

 奴らは人の皮をかぶった怪異だ。

 人として扱うにせよブタ箱で拘束しておいてくれた方が安心だ。


 ちなみに地元警察には後からやってきた禍我愚痴支部のあんちゃんことトーマス氏も一緒に事情を説明しくれて、穏便に事を収めてくれた。

 なので手を出した舞奈がどうこう言われる事もなかった。


 だが今の話では、不審者が女の子を襲おうとした事件そのものがなかった事になっているらしい。面白くない以前に状況が少しおかしい。

 前回の一連の事件の時と同じ感じがした。

 首都圏で誘拐された少女たちについて報道されなかった状況に似すぎている。

 そんな風に舞奈が訝しんでいるのとは別の場所で――


「――みんな、おはよう」

「あっ安倍さん」

「お早う御座います」

 明日香が登校してきた。

 男子ども(含2年の時に同じクラスだった奴ら)が挨拶する。


「……あら! 安倍明日香! 丁度良かったですわ!」

「何か?」

「よく聞いてくださいましたわ! 実はわたくし――!」

 麗華様も明日香を見やり、集団ストーカーの話でマウントを取り始める。

 明日香は明日香で、


「大変ね。他の生徒への被害も心配だし、必要なら通学路に武装したガードマンを配置するけど?」

 みたいな事を真顔で言った。

 これには流石の麗華様やギャラリーも絶句。

 デニスとジャネットも困り顔だ。


 麗華様が人を量るものさしは、目立っているか否かだ。

 真贋も是非も度外視で、派手でインパクトがある奴が正義であり勝者だ。

 集団ストーカー被害なんて相手にマウントを取れる最高のカードだ。

 特に以前ほどではないがライバル視している明日香に対しては。


 だが明日香にとっての人生のものさしは、合理的かとか安全かとかだ。

 学校の警備をまかされた警備会社の社長令嬢としての庇護対象に過ぎない麗華様にストーカーとか言われても、大変ねとしか思わない。

 特に今の明日香は舞奈と一緒に別の案件を抱えている。

 発言の信ぴょう性を確認するのが面倒なのだろう。

 じゃーお守衛を増やしておきますねという対応になるのも仕方がない。


 そこで武装したガードマンという台詞をメルヘンチックに解釈した麗華様に、


「じゃ、じゃあ馬車が良いですわ……」

 とか言われ、


「ウマ!? 楓さんや紅葉さんに頼めばチャリオットとか出せそうだけど……?」

 不意をつかれて、そんな台詞を口走り、


「安倍すげー! 桂木姉妹に頼み事できるの?」

「ボ、ボク、ミニスカ婦警の桂木楓に補導されたいっす……」

「キーッ! 安倍明日香! わたくしを差し置いてクラスの耳目を……!」

 みたいな状況になったので、


「??」

 逆に困惑し、いろいろ面倒くさくなったのか舞奈たちのところにやって来た。


「おはよう明日香。紅葉さん、そんなキャラになったの?」

「麗華様を、戦車で通学させようとすんな」

「喜んでくれると思ったのよ……」

 珍しくジト目で見やるテックと半笑いの舞奈。

 明日香は軽く口を尖らせ、


「そういやあ昨日の話だけどな……」

 舞奈は気にせず、こちらの話の続きをする。途端、


「ええ。あの地域の外国人による犯罪は基本的に表に出ないわよ」

 当然のように返ってきた。


 事情は明日香も知っているらしい。

 それもそうだ。

 舞奈たちが【機関】から仕事を引き受ける以前から、狂える土については各所で調査をしていたらしい。

 明日香たち民間警備会社(PMSC)【安倍総合警備保障】もそのひとつだ。

 そこに術者として席を置く鷹乃が調査をしていたとも聞いている。だから、


「逆に外国人が何かされると、これ見よがしに非難されるけど」

「やれやれ、奴ららしいぜ」

 肩をすくめてみせる。


 つまり現地警察やメディアも、狂える土に取りこまれている。

 人間の顔と立場を悪用して権力を簒奪し、自分たちの邪悪な目的や欲望のために法やルールを捻じ曲げる手口も人に化けた怪異どもの十八番だ。

 それを過去のいくつかの事件によって舞奈は理解しているつもりだ。

 そういった動き方は、泥人間も狂える土も変わらないのだろう。


「ま、だからあたしらに、お鉢が回って来たのかもしれないけどな」

 言いつつ苦笑する。


 奴らが他者を量るものさしは知的生物より獣に近い。

 合理性や善性など関係なく、相手が自分より強いか弱いかが問題なのだ。

 だから実力より自分を強く見せようと躍起になる。

 子供ひとりに叩きのめされたから面子の都合で表に出せないのだろう。

 それも先日の一件で他の面子が傍観を決めこんだ理由だろうか?


 そういう意味で小学生は最強だ。

 故に舞奈や明日香はイレギュラーとして動きやすい。


 そんな事情を鑑みる舞奈たちを尻目に……


「……みんなおはよう。麗華ちゃん、どうしたの?」

 ドアがカラリと空いて、園香が登校してきた。

 チャビーも一緒だ。


「あら真神さんに日比野さん! 丁度良いところに来ましたわ!」

 麗華様は意気揚々とマウントを取り始める。

 明日香にはしてやられたが、お人好しな2人が相手なら無問題と考えたか。

 まったく。だが2人は……


「……わっ! 麗華ちゃん大変だ! 警察や明日香ちゃんには話した?」

「あ、うん。安倍にはさっき……」

「麗華ちゃん大丈夫!? どうしよう……」

「ええっ!?」

 園香はビックリ。

 しどろもどろに答える男子の横で、チャビーも本気で心配して泣きそうになる。

 そんな様子に麗華様は逆にビックリする。


 園香は誘拐された経験があるし、チャビーも過去にいろいろあった。

 ストーカー被害とかは逆に刺激が強すぎたのだ。

 麗華様の話だからと色眼鏡をかけずに聞くと、話の内容だけは割と深刻だ。


「麗華ちゃんがいなくなっちゃったら、嫌だよ……!」

「ああっチャビーさん!?」

「どうするンすか麗華様。本気で泣きそうなンすよ?」

 お子様チャビーに涙目で見られ、


「それは……その……実は……」

 話の中のストーカーが急にしょぼくなる。


 泣き顔のチャビーをなだめるように、恐ろしいストーカー集団が小物になる。

 それにあわせてチャビーも安心して笑顔になる。

 ついにはストーカーはひとりになり、何の伏線もなくあらわれたミスター・イアソンやディフェンダーズたちに叩きのめされて連れていかれてしまった。

 めでたしめでたし。

 流石はヒーロー、明日香の守衛なんかより優秀だ。

 いわば北風と太陽である。


「こっちの仕事も、あんな風に順調に行けばいいんだがなあ」

 舞奈も遠くから眺めながら、やれやれとコメントする。


 そういえば以前に共闘して以来、ミスター・イアソンの中の人ことアーガス氏やディフェンダーズの皆とも御無沙汰だ。

 海の向こうで元気にやっていると良いんだが。


 ……そんな事をぼんやり考えていられる程度に、小学校は平和だった。


 少なくとも舞奈たちの昼間の学園生活は平和だった。


 そんな平和な学校の授業もつつがなく終えた放課後。

 普通に下校した明日香と舞奈は、


「こんにちは。今日もお世話になります」

「ちーっす。美味そうだなあ」

「あっ明日香さんに舞奈さん。いただいてます」

「トルコアイスだよー! お世話になりますって巣黒の人からもらったんだ」

「いいね! 喉に詰まらないように水も飲めよ」

 県の支部を訪れていた。

 これからしばらく、2人はこのムーブを続ける事になる。

 なので軽く世間話をしてから梢に転送装置を起動してもらって……


「こんにちは」

「……そんなに警戒せんでも、男の尻なんか触らないよ」

「そうなんですか? ちょっと意外ですね」

「あたしはあんたに何だと思われてるんだ……?」

 埼玉支部に到着。

 何故か凄いガードが堅い術者のおっちゃんをジト目で見ながら転送室を出る。

 そして待合室に向かうと、


「ハカセさん、こんにちは」

「おっ来たでやんすね」

「わざわざ待ってたのか」

 ソファで待っていたらしい貧相なやんす氏が立ち上がった。

 読んでいた雑誌を棚に戻したりして我が家のような気楽さだ。


「昨日の事もあるし、ひとりで向かうのは危険でやんすからね」

「ったく、子供を頼りやがって」

 当然のように返された言葉にやれやれと肩をすくめる。


「あっ舞奈さん。さてはあっしのお尻を狙ってるでやんすね?」

「触らねぇよ!」

 わざとらしく「いやん」みたいな表情で尻をかばうやんす氏。

 対して舞奈は歯を剥き出しにして睨む。

 さっきの話を聞いてやがったのか。

 油断も隙も無い。


 と、そんな漫才をしているうちに……


「……術者って男でもなれるんだな。俺も将来は目指したいぜ!」

「ザン殿は言動がピンボールみたいに跳ね回るでゴザルな」

 ザンとドルチェもやって来た。


 テックの友人だという太っちょのドルチェ。

 今日もシャツにプリントされた日朝アニメのキャラクターの顔がまぶしい。

 彼がネットでテックとどういう間柄なのか確認したくないと言えば嘘になる。

 だが仕事の最中に別の厄介事を増やす趣味はないので、


「おお舞奈殿に明日香殿。ハカセ殿も早いでゴザルな」

「あ、こんにちは」

「小学生が、学校終わってすぐ来たんだ。そりゃあんたたちより速いさ」

 何食わぬ表情で返す。


「あっしは違うでやんすよ」

「知らん」

「あら、皆でおそろいね」

「冴子さん、こんにちは」

 丁度いいタイミングで余計な事を言ってきたやんすを切って捨てた途端に冴子も到着。協力者が揃ったので……


「……やめなさいよ?」

「触らないよ。その程度の常識はあるつもりっていうか人を何だと思ってやがる」

 尻馬に乗ってくだらない軽口を叩いてきた明日香を睨み返し、


「じゃあ行きましょうか」

「そうだな。フランちゃんが待ってるし」

「舞奈ちゃんは本当にブレないわね」

 皆で禍我愚痴支部へ向かう。

 今日も徒歩だ。


「舞奈さん! 今度、何かあったら俺にも暴れさせてくださいね!」

「いや今度が無い事を祈っててくれよ……」

「ザンさんはやる気に溢れてて凄いでやんすね!」

「あんたも無駄に煽らんでくれ」

 そんな軽口を叩き合いながら歩く。


 そうしながらも皆が(もちろんザンも!)緊張をゆるめないのは、やはり昨日の今日だからという理由が大きいのだろう。

 先日のゴロツキどもの仲間が仕返しとばかりに待ち受けている可能性もある。


 だが幸か不幸か、今日は何事もなく目的地へ到着した。

 舞奈たちの当座の出張先でもある禍我愚痴支部も、巣黒や他の支部と同じように保健所の敷地内にある建物だ。

 他の支部と違うのは住人の質のせいか周囲の路地がゴミや吸い殻だらけな事。

 そして建物が比較的に新しい事くらいか。


「ちーっす」

「こんにちは」

 エントランスの自動ドアをくぐった途端、


「あっ舞奈さん! 明日香さん! 皆さんもどうも」

 受付の褐色の肌の少女が立ち上がって会釈する。

 先日にも会ったフラムちゃんだ。


 彼女はトルコ出身の回術士(スーフィー)

 戒律がゆるいので覆面はかぶらなくてもいいらしい。

 それでも露出度の少ない服装が、むしろ華奢な体躯と張りのある大きな胸を引き立たせていると舞奈は思う。

 明るい色の洋服の下は、すべやかな手と同じ健康的な褐色なのだろう。

 良い匂いもする。

 そんな予想は容易につく。


 だが、もちろん人前で乳や尻に手を出すつもりはない。

 そのくらいの節度はある。

 なのに明日香や冴子、やんすまでもんが心配そうに見やってくる!


 それはともかく、彼女は普段は受付の業務もしているらしい。

 他所から応援を呼んでおいて、術者がそんな事をしているのはどうかと思う。

 だが、まあ彼女の可愛らしさを遊ばせておくのも勿体ないと思うのも本当だ。

 そんな風に一行ががやがやしていると、


「やあ皆さん、ようこそ」

「あっトーマスさん」

 奥から物腰のやわらかい優男がやってきた。

 年の頃はザンと同じ大学生ほどか。

 だが体躯は華奢で、異能力者だとは聞いているが戦える人間には見えない。


 彼はトーマス。

 先日にフラムを迎えに来た禍我愚痴支部の執行人(エージェント)だ。

 地元警察を呼んで、騒ぎを穏便におさめてくれた人物でもある。


「昨日はありがとうございます」

「当然の事をしたまでだよ」

 会釈する冴子に笑みを返すトーマス。


(おかげでニュースにもならなかったがな)

 舞奈は内心で少し毒づく。


 実は舞奈、彼の顔が気に入らないのだ。

 何故なら美を忌み嫌う怪異どもは、細面な男の容姿や顔を好む。

 四国の一角を滅ぼした殴山一子もそうだった。

 思えばKASCの疣豚潤子もそうだった。

 力強さを持たない男の姿が、衰弱の象徴や人間的価値観の裏返し的にお気に召すのかもしれない。奴らは人間から正の感情を奪おうとする反人間的存在だ。


 もうひとつは彼のやり方が、現地警察やメディアと結託して怪異の悪事を誤魔化す行為のように思えたからだ。


 だが怪異が好きそうな顔だからと言う理由で嫌ってやるのも気の毒だ。

 当人からしてみれば怪異に好かれ、人間に嫌われて泣きっ面に蜂だ。


 それに怪異の存在を表沙汰にできないのは人間サイドも同じ。


 なにより、まあ現地の人間がそのほうが良いと言うなら良いんだろうと思う。

 舞奈たちが考えなければならない事は他にある。だから、


「早速ですまないけど、皆さんには少し厄介な調査を引き継いでもらいたいんだ」

「いいぜ。聞こうじゃないか」

 今は彼の言葉に素直に耳を傾ける事にした。

 つまり舞奈たちの本格的な仕事の始まりだ。


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