顔合わせ
舞奈と明日香が他県での新たな仕事を引き受けた日の翌日。
つまり天気も良く一見すると平和な平日の午後。
つつがなく学校の授業を終えて下校してきた2人は……
「……舞奈ちゃん、明日香ちゃん。こんちー」
「あっどうも。ぴよこありがとうございます」
「しばらくお世話になります」
「2人とも高等部なのに早いなー」
「うん。舞奈ちゃんたちが来るから急いで帰って準備したんだよ」
梢やレインに挨拶しながら、慣れた調子で県の支部のエントランスを通る。
訪れるのは3度目(先日の行きと帰りで2回)なのに、もはや我が家のような気軽さである。
もちろん来訪した理由は、今回の仕事場である埼玉の一角に転移するためだ。
当面のあいだ、舞奈たちは毎日ここを経由して仕事場に通う事になる。
なので以前にも本部に行くのに使った転移室に移動して……
「……いってらっしゃい。ご武運をお祈りしてます」
「さんきゅっレインちゃん! 愛してるぜ!」
「それじゃあ行っくよー」
梢の呪歌に呼応して、舞奈たちが立つ転移装置が作動する。
そして前回と同じように視界が光に包まれて――
――次の瞬間、舞奈たちは埼玉支部の転移室にいた。
地元の県の支部とさほど変わらない、こぢんまりした部屋だ。
中央に転送装置がひとつ据え置かれているのも同じ。
2つも3つも並んでいるのは本部だけらしい。
そりゃそうだ。
出迎えてくれたのも術者らしいおっちゃんだったので、特に尻を触ったりとかはせず、案内されるまま部屋を出る。
地元の支部と同じく打ちっ放しコンクリートの廊下を進んでエントランスへ。
すると受付前の待合室のソファから……
「……あら、主役が登場したわね」
「他支部の協力者ってのはあんたか」
「よろしくお願いします」
見知った人物が腰を上げた。
地味な色のスーツを着こんだ妙齢の美女。
氷上冴子だ。
彼女は以前の仕事での仲間だったスプラの知人。
しかも国家神術を修めた魔術師でもある彼女が同僚なのは頼もしい。
何より美人と一緒に仕事ができて、嬉しくない訳がない。だから、
「こちらこそ改めてよろしく。【機関】でのコードネームは【グレイシャル】よ」
「よろしく。楽しい仕事になりそうだ」
2人の子供と、大人の女性は身長のハンディを越えて笑みを向け合う。
彼女と会うのは二度目だが、コードネームを聞いたのは初めてだ。
なるほど執行人はコードネームの使用が半ば義務づけられている。
だが仕事人や部外者は違う。
以前は舞奈や陽子たちの手前だったので、あえて言わなかったのだろう。
TPOを考慮して提示する情報を選ぶあたりが大人だと思った。
だが、それより……
「にしても、意外にごつい名前なんだな」
「フランス語で『氷河』っていう意味よ」
「……ほら見ろ」
思わず隣の明日香を睨む。
以前に冴子を『ひえこ』と読んだことを散々に馬鹿にされたからだ。
だが……
「……出会い頭に彼につけられたのよ。雰囲気が冷たいからって」
続く言葉に口元を歪める。
彼と言うのはスプラの事だ。
舞奈たちが失った仲間。
そして彼女にとっては亡き友人。
あるいは、それ以上の関係だった。
彼女のコードネームをつけたということは、彼の方が先輩だったのだろう。
いかにも軽薄な彼が、冷ややかな彼女につけそうな名前だ。
あるいは彼と出会う前の彼女は、今よりもっと冷たかったのかもしれない。
そんな事を考える舞奈の前で……
「……某たちもいるでゴザルよ!」
「やんす!」
さらに2人が立ち上がる。
シャツに描かれた女児向けアニメのキャラクターも眩しい大きな太っちょ。
それとは対照的な、黒ぶち眼鏡にボサボサ髪のガリガリ君。
彼らとも先日に会った。
舞奈たち同様に四国の一件での生き残りでもある太っちょ氏。
そしてパーティー会場で舞奈がSランクだと最初に見抜いたやんす氏だ。
「某は【ドルチェ】と申す」
「イタリア語でスイーツの意味ですか」
「あんたらしいな」
太っちょが名乗り、
「あっしは【ハカセ】でやんす」
「そのまんまだな」
やんすも名乗る。
「過去に他の支部では、餃子って呼ばれてた人もいたそうでやんすよ」
「いや流石にそいつはキレていいだろう……」
名前に負けずにデータを集めるのが好きなのだろう。
明日香の同類だ。
そんなやんす氏のうんちくに苦笑する舞奈の前、つまり2人の横に……
「……どうも。俺は【ザン】だ」
さらに中肉中背の人影が立つ。
精悍で野性味あふれる顔立ちの男。
彼の友人だった切丸より年上の、おそらくは大学生ほどか。
舞奈と大立ち回りを演じた短刀使いの彼だ。
「その、なんだ、この前は……」
「いいって事よ。楽しい出し物になったじゃないか」
バツが悪そうにポリポリと頭をかく。
そうしながら子供の舞奈と目線を合わせるようにうつむく。
そんな彼に、舞奈も何食わぬ笑みを向ける。
先日の騒動は、ドルチェたちが殺陣の出し物だったと誤魔化してくれたと聞く。
それに気にしていないのも本当だ。
もう二度と会う事のない、忘れかけていた仲間の事を思い出させてくれたから。
彼は四国の一角での舞奈たちの仲間だった切丸の友人だ。
唐突で感情的な彼の振舞いに、納得のいかない別れ方をした切丸と似たものを見つけられて少し嬉しかったのも本当だ。だから、
「あんたたちが手伝ってくれるなら心強いよ」
「ま、まあ、仕事だからな」
笑いかける舞奈にザンは照れたようにそっぽを向く。
先日にも思ったが、根は悪い奴じゃないのだ。
おそらく切丸も。
そんな彼は、
「ちなみに、この面子は今回の任務に志願したでやんすよ」
「へぇ、そうだったのか」
「そうでゴザルよ。巣黒のSランクと協力して他県で調査という案件が回って来てゴザって、某は舞奈どのと共闘する栄誉を賜りたく馳せ参じたでゴザル」
「ちょっ!? おまえ!」
横から口を挟んできたやんすとドルチェの言葉に慌てる。
舞奈は笑う。
隣の明日香も満更でもない表情だ。
グラシアルこと冴子。
太っちょドルチェ。
ハカセことやんす氏。
そして切丸の友人でもあるザン。
面識のある皆が共闘を望んでくれたのが気恥ずかしくもあり、嬉しくもある。
栄えあるSランクとの共闘といえば聞こえは良いが、前回の共闘で舞奈たちのチームで生き残ることができたのは当の舞奈と明日香だけだ。
相応の覚悟は必要だろう。
それでも今回、彼らは舞奈たちと共に任務に挑みたいと思ってくれた。
だが、まあ、そこをツッコむのも野暮と言うものなので……
「……にしても、禍我愚痴支部の人間はいないのか?」
「先方も忙しいんでやんすかね……」
「まあ他県にヘルプを要請するくらいだしなあ」
言った途端にそんな返事が返ってきた。
加えて、見たところ埼玉支部も舞奈たちの地元の県の支部と似た規模だ。
下手をすると術者がいないかもしれない。
故に、ここから禍我愚痴支部への増援も出せないのだろう。
本当に舞奈たちだけが先方の頼りだ。
なので一行は受付に挨拶して埼玉支部ビルを出る。
そして徒歩で禍我愚痴支部へ。
「で、どっちに行きゃあいいんだ?」
面倒を丸投げする舞奈、
「事前に地図をもらってるんだから見なさいよ」
「今、確認するからちょっと待ってね」
言いつつお上りさんみたいに地図を広げようとする明日香や冴子、
「おう! 今、地図を出すからな……あれ?」
「おや、道中で聞こうとあずさのCDを持ってきたのを失念していたでゴザル」
頼りにならない男2人を他所に、
「こっちでやんすよ」
何故か地理に詳しいらしいやんすの先導で移動する。
そうやって6人で大通りを歩きながら……
「……なるほどな。こりゃ活気にあふれた良い街だ」
「ああ、こいつは腕が鳴るぜ」
舞奈は口をへの字に曲げながらひとりごちる。
荒事の気配を感じたか、ザンが不敵に笑ってみせる。
立ち並ぶ家々は普通の家だ。
細部は変われど地元や他の地域でも見慣れた、人の住む街の風景である。
新開発区みたいな廃墟とは違う。
だが通りで見かける人々は異常だ。
明らかに普通じゃない顔立ちの住民が、昼間から乱痴気騒ぎをしている。
奇声を発しながら走り回ったり、殴り合ったり、暴れたり。
車道を走るボロ車も、他所では見たこともない暴れ馬のような無茶苦茶な走り方をしている。運転席に座っているのは普通じゃない顔つきの男だ。
奴らがベリアルが言っていた『狂える土』だろう。
正直、無法地帯だ。
一般の住民もいるはずだが、被害を恐れて家に閉じこもっているのだろう。
何せ人の形をした害獣みたいな奴らが街じゅうで大騒ぎしているのだ。
気をつけて出歩いても、訳のわからない理由で絡まれて何かされそうだ。
「無駄に手ぇ出すなよ。いちいち相手にしてたらキリがない」
「舞奈さんがそう言うならしょうがねぇな」
言いつつ舞奈は肩をすくめてみせる。
ザンは意外にも大人しく舞奈に従う。
何時の間にかさんづけだ。
格上だと認めた相手には素直なのかもしれない。
少しだけ、四国でのトルソと切丸の関係を思い出す。
「そうでやんすね……」
やんすも奴らと目を合わせないよう気をつけて周囲をうかがいながら同意する。
明日香や皆もそれにならう。
よそ者が集団で歩いているのはリスクなのだろう。
否、ひとりや少数で歩いているよりははるかにマシだ。
今回の任務、思ったより危険なのかもしれない。
だからこそ……舞奈は仲間たちを守り抜きたいと思った。
誰ひとり欠けずに。
今度こそ後悔の無いように。
「余計なトラブルに首を突っこまないでよ」
「いちいち指図されなくても、やって良い事と悪い事の区別はつくつもりだよ」
明日香の言葉に、舞奈は口をへの字に曲げる。
何故に露骨に舞奈を見やって釘を刺してくるのか。
「ええ。下手をすると住民にまぎれた怪異全員が一度に敵に回るわ」
「そうでゴザルよ」
「頼むでやんすよ……」
しかも他の面子まで同じように!
だが次の瞬間……
「……どうしたでゴザル?」
「やんす?」
「いや、ちょっとな」
ふと舞奈は足を止める。
釣られて皆も立ち止まる。
「言ってるそばから」
明日香の嫌そうなコメントは礼儀正しく無視。
「何かあったの?」
「あそこか?」
皆も舞奈と同じ方向を見やる。
細い路地裏だ。
そこから気になる気配と物音がする。
鋭い感覚を誇る舞奈は空気の流れを通して周囲の状況がわかる。
「キリがないんじゃなかったの?」
「なら逆に、一回くらい挨拶しても変わらんだろう?」
呆れた口調の明日香に背中で手を振りながら、細い裏路地に近づいていく。
小さいが物騒な物音。
押し殺した剣呑な声色。
そして厄介そうな多人数の気配の元は、間違いなくこの路地だ。
だが舞奈は気にせず、
「ちっす。邪魔するぜ」
「文字通りに首を突っこんでたら世話ないわ」
「うっせぇ」
しつこく絡んでくる明日香も気にせず路地を覗きこむ。
思った通りの状況だった。
細い汚い路地裏で、数人の男がひとりの少女を取り囲んでいた。
「えっ……?」
「やあカワイ子ちゃん、会えて嬉しいよ」
囲まれていた少女が驚く。
女子小学生が文字通りに首を突っこんできたからだろう。
だが舞奈は気にせず笑いかける。
年の頃は中学生から高校生ほどか。
エキゾチックな褐色の肌をした、可愛らしい顔立ちの少女だ。
覆面をかぶっていないのは教義のゆるい地域の出身だからか、あるいは、そもそも【三日月】の信徒じゃないのだろうか?
中東風の顔立ちをした人間すべてが狂える土な訳じゃない。
人型怪異に実効支配された地域でも、まっとうに生活している、まっとうな中東出身の市民もいる。
彼女もそのひとりだろう。
だが囲んでいた男たちも、一斉に振り返って舞奈を見やる。
こちらも彫りの深い中東風の顔立ち。
なるほど近くで見ても人間そっくりだ。
けれども目つきと顔つきは明らかに普通の人間のそれじゃない。
こいつらは狂える土だ。
この状況、一見すると外国人同士のトラブルにも見える。
だが実際はそうじゃない。
人が怪異に襲われているのだ。
ちなみに後ろに控えた残りの面子は出てこない。
それどころか血気盛んに加勢しようと飛び出しかけたザンを、太っちょドルチェが冷静に止めるのが気配でわかる。
当のザンもあっさり納得する。
そうして5人揃って路地の向こうから観戦を決めこむ。
正直、そんな様子に気づいた少女の表情が少しゆらぐ。
ふざけた子供を、大人たちが見殺しにしたように見えたのだろう。
だが当の舞奈からすれば、後ろの判断は至極まっとうだ。
何故なら背後の彼ら、彼女ら全員がSランクの実力を知っている。
明日香は当然の事。
他の面子も先日のパーティーで舞奈の立ち回りを見たばかりだ。
相手が屈強で見るからに凶暴そうな大人の外国人の集団くらいなら、舞奈ひとりで対処した方がスムーズに解決できると理解しているのだ。
特に明日香とか無駄にしゃしゃり出てこられても街が壊滅するだけだし。
「よっ兄ちゃんたち、あたしの彼女に用か? 話があるならあたしが聞くぜ」
「ナンダ? コノ子供ハ?」
「ガキハスッコンデロ!」
フレンドリーに話しかけた舞奈を、男たちは一斉に威嚇する。
「(今のは相手の言い分の方に理があるわね)」
「(何時の間に彼女になったのかしら)」
「(やんすねー)」
「……うるせーぞ」
野次ってくる外野どもを睨みつつ、
「そっちのカワイ子ちゃんの肩から、汚い手をどけろっつってんだよ低能野郎。それとも人間の言葉が理解できねぇか?」
何食わぬ笑みのまま挑発しつつ、身構える。
対して男たちは色めき立つ。
会話は通じないのに敵意にだけは敏感に反応する。
人に化けた怪異の特徴だ。
「ガキガ! 舐メヤガッテ!」
「やる気になったか? 馬鹿は話が早くてたすかるぜ!」
「何ダト!」
舞奈の言葉に応ずるように、男たちも手にした凶器を構える。
鉄パイプ。
錆びたカタナ。
得物も泥人間とほぼ同じだ。
「ブッ殺シテヤル!」
「ヤッチマエ!」
男たちが舞奈めがけて一斉に動く。
「できるかな?」
舞奈は笑う。
後ろの皆は黙って見ている。
「駄目! 逃げて! そいつらは――!」
血相を変えた少女が叫ぶ。
何故なら舞奈を知らぬのは男たちと、目前の少女だけ。
だから次の瞬間――
「えっ――!?」
彼女は驚愕する。
目の前の子供が無事なのに少し安堵。
だが、それ以上に状況が飲みこめずに、目を丸くして混乱している。
そんな様子だ。
何故なら彼女と舞奈が見やる前で、男たちは路地を転がっていた。
「何が……起きたんだ?」
「体術でやりこめたんだと思うけど……?」
ザンと冴子が困惑しながら路地に出てくる。
裏路地の危険が排除されたと察したのだ。
流石にとどめは刺していないが、地を這う男たちは動ける状態じゃない。
2人の反応が目前の少女と同じなのが同僚として少し不安にならないでもない。
けどまあ無理もない。
なにせ舞奈は何も考えずに最速で全員を叩きのめしたのだ。
面倒なので余計な事はしなかった。
故に場数を踏んだ執行人ですら目で追えないほど今の動きは速すぎた。
その程度の自覚はある。
冴子は術者なので仕方がない。
あと、おそらく舞奈が気づかぬうちに人払いをしてくれていた。
集中力を、そちらに割り振っていたんだろうとも思う。
だがザンは……残念ながら切丸が彼より強かったという話は誇張じゃない。
流石にCランクではないだろうが、実力はBランクでも下の方だ。
そんな2人に続いて姿をあらわしながら、
「あの動きを……初見でするでゴザルか……」
太っちょドルチェは呆然とひとりごちる。
シャツの腹に描かれたアニメのキャラと同じように目をまん丸に見開いている。
見た目に反して、彼は舞奈が何をしたのか見えていたらしい。
つまり紛れもないAランクの実力者だ。
だからこそ、彼は四国の一角で生きのびることができた。
だが……あるいは、それ故に驚愕する。
卓越した実力を誇るはずの自分自身にすら到達できない舞奈の機動に。
Sランクとそれ未満の差に。
「ゲームの神プレイ実況みたいでやんすね」
隣のやんすも同様だ。
こいつにも見えてたのか?
それとも隣のおデブに合わせて適当な事を言ってるだけか?
モヤシ君の実力が読めずに舞奈は少しだけ困惑する。
だが、それより……
「……こいつらは全員が【火霊武器】か【雷霊武器】」
困惑する褐色の肌の彼女を見やり、舞奈は気さくに笑いかける。
彼女がチャーミングなのは誇張でも適当でもない事実だ。
なので足元で、鉄パイプに灯っていた異能の炎が消えたのも気にしない。
「いや【狼牙気功】が何匹かいたか。そう言いたかったんだろう? お姉ちゃん」
「ちょっと何ペラペラ怪異の説明してるのよ」
後ろで明日香が文句を言ってくる。
普段なら解説は明日香の仕事だ。
それ以前に、怪異や異能力の存在を一般市民に知られるのは禁忌。
普通なら誤魔化そうとするべきだろう。
だが舞奈は気にせず、
「おまえこそ、よく見ろよ」
背中で言いつつ得意げに笑う。
先ほど舞奈は男たちを一瞬で叩きのめした。
相手はまともに異能力を使う隙すらなかった。
異能力の種類は相手の間合いと構え方から推測した。
まあ【狼牙気功】だけは近づく手間がはぶけるので使わせてから倒したが。
だが舞奈が手を出す前から彼女は男たちを警戒していた。
訳もわからず怯えていた訳じゃない。
最初から奴らが何者かを知った上で窮地を察して大人しくしていた。
その上で『しゃしゃり出てきて手出ししようとした子供』の身を案じた。
だから、とっさに止めようとした。
あるいは自力で危機を脱する算段はあったのかもしれない。
つまり彼女は怪異や異能力の事を知っている。
十中八九、現地支部の執行人だ。
「そうね、彼女は――」
「やんすねー」
それが証拠に冴子は彼女を見やって納得した様子だ。
明日香もそれ以上ツッコんでこない。
やんすはともかく、2人は魔法感知で彼女の正体に気づいたのだろう。
己が身体に魔力を宿らせた妖術師か、あるいは大能力者だと。
さらに――
「――フラム! 無事かい?」
ひとりの男が路地裏に跳びこんできた。
おそらく彼も現地支部の執行人だ。
つまり舞奈たちは期せずして、禍我愚痴支部到着前に現地支部の面々に接触できたことになる。
……そのように、舞奈たちの長期の仕事は初日からの悶着で始まった。