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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第21章 狂える土
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依頼1 ~イベントへの出席

 6年生とのゲーム勝負に圧勝して発売直後のゲームソフトを借りてた舞奈。

 そいつを返しに行ったついでに鷹乃から少し厄介な話を聞いた。

 遠い他県の一角で、移民を装った怪異が不穏な動きをしているという。

 やれやれ。

 厄介なトラブルを片づけて間もないというのに。


 そのように舞奈が帰ってきた教室では……


「……おっ何見てるんだ?」

「あっ! マイ!」

「マイちゃん、おかえりなさい」

 チャビーの席に皆で集まり、何やら覗きこんでいた。

 雑誌のようだ。


 ゲームソフトもそうなのだが、舞奈たちが通う蔵乃巣(くらのす)学園は私物の規定が甘い。

 生徒たちが学校側から信頼されているからだ。

 つまり持ちこんだ嗜好品による目立ったトラブルを起こしていない。

 他県や他校と比べても在学中のアーティストや術者の排出率が多い理由と目されているらしい色々な意味で自由な校風が、そうさせるのかもしれない。


 ともかく、勉学を妨げない良識の範囲であれば私用の端末もゲームも無礼講。

 漫画雑誌だってそうだ。

 そんな雑誌のカラフルな紙面から目を上げたチャビーと園香。


「あのねマイちゃん。みんなでチャビーちゃんの『きゃお』を見てたんだよ」

「うんうん! ウィアードテールが凄いんだよ」

 園香に続いて、チャビーが興奮ぎみに言い募る。


 皆で見ていたのは『きゃお』誌らしい。

 チャビーが毎月の発売日を楽しみにしている女児向けの漫画雑誌だ。

 今日が今月号の発売日なので、登校途中のコンビニで買ってきたと言っていた。

 それは良いとして、


「あいつ、また何かやらかしたのか……」

 舞奈は思わず苦笑する。

 あいつと言うのはウィアードテールの事だ。


 神話怪盗ウィアードテールは混沌魔術の魔法少女だ。

 魔法少女としての活動をフィクションの扱いで開示している。

 少なくとも表向きは女児に人気のアイドル怪盗なのだ。

 活動範囲は首都圏がメインだが、女児向けの全国紙で頻繁に特集されているので露出度は高く、子供相手の人気は全国的に上々だ。


 だがウィアードテールの中の人こと美音陽子。

 アホで陽キャな彼女の人となりを、舞奈は嫌と言うほど知っている。

 世話にもなったが迷惑も面倒もかけられた。

 いきなり学校に押しかけられて、ちょっとした騒ぎになった事もあった。

 だから名前を聞いて、また騒動の種になったかと思うのも無理はない。だが――


「――首都圏の誘拐グループを捕まえたんですって」

「誘拐グループだと?」

「表向きは女性支援団体を標榜している『Kobold』って組織らしいわ」

「へぇ、そりゃまた御手柄」

 明日香が口を挟んできた。

 苦笑しつつ、先日の事件でお馴染みになった名前を使って白々しい軽口を叩く。


 別に陽キャの彼女がやらかした訳じゃなかったらしい。

 そういえば以前に学校に押しかけてきた際、陽子は首都圏で女生徒の誘拐事件が多発していると言っていた。

 公安ともども敵の正体を探ろうとして何者かに邪魔されているとも。


 そいつは預言によって『Kobold』を守っていた卑藤悪夢の仕業だった。

 だが卑藤悪夢は倒された。

 敵は預言によって有志や官憲の追及から悪事を隠し通す事が不可能になった。

 だからウィアードテールは敵の企てを暴き、悪を叩き潰した。


 そんな一幕が多大な脚色を加えて公表されたのが今回の『きゃお』の特集なのだろうと考えれば色々と辻褄が合う。

 何せウィアードテールのバックには実質【協会(S∴O∴M∴S∴)】がついている。

 中身はあんなでも子供たちに愛されるアイドル怪盗が人間の敵を倒す様子を、そのまま人間のプラスの感情を増大させるために使うくらいはお手のものだ。

 それが今しがた、皆が女児向け雑誌に夢中になっていた理由だ。


 そのように純粋にアイドル怪盗の活躍に胸躍らせるクラスメートの頭越しに、


「ちなみに『Kobold』の件、ニュースではほとんど報じられてないのよ」

「? そりゃまあ、あたしも見た覚えはないが……」

 続く明日香の言葉に舞奈は首を傾げる。


 女性支援を騙る怪異の組織『Kobold』。

 困難を抱えた女性を囲って支援の名目で政府から助成金を騙し取り、その裏では政界に紛れこんだ怪異と結託して意図的に女性を困窮させていた。

 それらの悪事を卑藤悪夢が預言を駆使して覆い隠していた。

 だが奴らは調子に乗って女児誘拐や【機関】関係者への襲撃に及んだ。

 その際に敵の尻尾をつかんだ【機関】は奴らの支部を攻撃した。

 そして紆余曲折の末に卑藤悪夢を排除。

 タイミングを合わせてウィアードテールや公安が本部を攻め、悪事を暴いた。


 明るみになった悪事のうちどこまでが公表されたか、そういえば聞いていない。

 だが何せ都を巻きこんだ一般社団法人の不祥事だ。

 一部が公表されるだけでも相当の騒動になるはずだと思っていた。

 たまたま舞奈が見ていないだけで、報道はされていると思っていた。

 奴らはそれだけの事を仕出かしていたと。

 だがニュースにはなっていないという。

 そんな舞奈の疑問に答えるように――


「――ええ。ネットでは割と話題になってるけど。あとは『きゃお』のウィアードテール特集くらい。子供向けにかなり脚色されてるけどテレビよりはマシ」

「ヒューッ、ニュース顔負けの女児向け雑誌か」

 テックがボソリと補足する。

 舞奈は思わず苦笑する。

 何となく事情がわかったからだ。


 確かに『Kobold』代表・卑藤悪夢は排除された。

 だが奴の仲間でありAV新法の発起者でもある死汚斑妖禍は健在のはず。

 政界の奥深くに潜りこみ、誰も手出しできない場所から人間社会を蝕んでいる。

 そんな悪党が、排除された他の悪党がやり残した悪事を引き継いだ。

 そう考えても不思議はない。

 たとえば悪党が暗躍していた証拠をもみ消したりとか。


 まあ、それが明日香やテックまで一緒に『きゃお』を見ていた理由だろう。

 普段は女児向け雑誌なんて見向きもしないのに。


 あるいは【協会(S∴O∴M∴S∴)】に守られた子供向け雑誌に情報を流すというスタイルも、怪異どもに報道の権限を掌握されているらしい人間側の抵抗なのかもしれない。

 まあ確かに異能力者の大半は子供だ。

 近年は若い術者が登場する機会も増えていると聞く。

 だから子供に情報が伝われば、目に見えない怪異の侵攻に抗う力にはなる。

 そんな事を考えながら肩をすくめる舞奈の視界の隅で――


「――そして危機一髪のわたくしの前にウィアードテールが!」

「いや、何で巣黒にウィアードテールがいるんだよ?」

「何で西園寺が襲われるんだよ?」

「さらわれたのは美人でお金持ちの中学生だろう?」

 教室の後ろで麗華様が相変わらずのワンマンショーを繰り広げていた。

 そしてギャラリーの男子たちに容赦ないツッコミを入れられていた。

 もちろん麗華様は気にする様子もない。


「麗華様がいつもすいません」

「設定に無理があるンす麗華様……」

 付添人のデニスとジャネットも例によって呆れ顔だ。


 麗華様がニュースやネットを見るタイプかは知らない。

 だが漫画雑誌は読んでいるのだろう。

 そっちに【協会(S∴O∴M∴S∴)】の息がかかっているなら男子向けのメディアにも何らかの情報が出ていて、男子もそれを見て今回の件を知っているのだろう。

 つまり子供たちにとってウィアードテールは時の人。

 だから早速ウィアードテールの活躍を知ってネタにしているのだろう。

 何と言うか、流石は麗華様だ。


 まあ、この街にも『Kobold』のバスが来ていたのは事実だ。

 支部もあって、舞奈たちが攻略した後に表の警察の強制捜査を受けてたらしい。

 放し飼いにしていた猛獣が人を襲って死傷者がでたとか適当な噂が界隈に流れていた事もあった。


 まあ、なので麗華様がああいう事を言いたくなる気持ちもわからんではない。

 もちろん擁護も容認もするつもりはないが。


 明日香が真顔で麗華様を見やり、少し離れた席を見やる。

 そこでは槙村音々が苦笑していた。

 明日香に気づいてニッコリ笑う。


 音々は麗華様と違って本当に母子ともども奴らに狙われ、一旦は誘拐された。

 そんな彼女を差し置いて麗華様が事件をネタに呑気に大はしゃぎしているのが明日香的には気に納得がいかないのだ。

 明日香はそういうところで生真面目だ。

 そんな彼女を含めた自由なクラスの様子に苦笑しつつ……


「……そういやあテック」

「何?」

「なんだその……ネットで埼玉の話題って無いか? 奴ら絡みの」

 隣のテックに何食わぬ表情で尋ねる。

 彼女はウィアードテールの特集をひとしきり読み終わった皆と一緒に漫画ページを覗きこんでいた。

 王子様とおぼしき優男が宇宙服を着ていたりして気にはなる。

 だが、今はそれより気になる事がある。


 先ほど6年生の教室で鷹乃から聞いた話だ。

 他県で偵察していた式神を撃破した何者かがいるという。

 偶然ではない。

 相応に腕の立つ陰陽師が操る、戦闘にも対応した式神を。

 それも複数回。

 逆に言えば一度たりとも正体を悟らせずに。


 別に暇だから鷹乃の事情に首を突っこもうとしている訳じゃない。

 だが目に入りかけた厄介事から目を逸らしても、厄介事はなくなったりしない。

 何故なら舞奈はトラブルを解決するプロだ。

 何時の間にかそうなってしまった。

 以前は怪異の天敵くらいの気楽な立ち位置だったのに。

 なので周囲に押しつけた厄介事も、結局は手に余って舞奈の元に戻ってくる。

 まったく。

 よくよく考えれば、前回の事件も最初は【機関】とは関係ない襲撃の調査だ。

 そんな事を考えながら微妙に顔をしかめる舞奈に、


「流石は舞奈」

「そういう情報を、どうやって手に入れてくるのよ?」

「ったく、嬉しくない褒め方しやがって」

 テックと一緒に明日香まで、ちょっと見直した視線を向けてくる。

 対して舞奈は口をへの字に曲げる。


 そら見た事か。

 彼女たちの挙動は、首を突っこもうとしているのが厄介事なんじゃないかという舞奈の危惧の裏付けになっていた。

 そうだったら嫌だなあと思った矢先に。

 そんな舞奈の内心には構わず、


「埼玉の特定地域が不正移民のるつぼになってるわ。元々の住人と度々トラブルを起こしてるんだけど、ニュース番組はノータッチ」

「どっかで聞いたような話だな」

 テックが厄介な事実を告げた。

 舞奈はやれやれと肩をすくめる。


 何か別のものを弾避けにして、悪党どもが人間社会に害を及ぼしている。

 盾にされてるのが扱いが難しいものだから、メディアも政府も手を出せない。

 あるいは手を出さない。

 つい先程まで話していた『Kobold』と同じやり口だ。

 おそらくは裏にいるのも同じ怪異。

 舞奈たちが散々に苦労して犠牲も払いながら悪事を暴いて撃ち滅ぼした悪党どもを手引きしていた大悪党が、別の悪党を使って同じような悪を成している。


「実家でも【機関】でも危険視して調べてたのよ」

「ああ、それで鷹乃ちゃんが……」

 明日香の家こと【安倍総合警備保障】は民間警備会社(PMSC)だ。

 依頼者を危険から守るのが仕事だ。

 鷹乃もそこに重役として籍を置いているらしい。

 だから調査なのだろう、と明日香の言葉に納得しかけて……


「……ちょっと待て。おまえの実家はともかく【機関】が絡むって事はまさか」

「そのまさかよ」

 気づいた。


 民間警備会社(PMSC)と違って【機関】は怪異に対抗するための組織だ。

 人間同士の争いにはノータッチのはずだ。

 何人が国内の何処で何をしようが干渉はしない。

 百歩譲って裏で手を引いている怪異が目当てだとしても、移民そのものを危険視して調べたりはしないはずだ。……ひとつの例外を除いて。


 舞奈が抱いていた危惧は現実のものだ。

 そう理解してしまった。

 何故にゲームを返しに行って帰ってくるだけで厄介事に巻きこまれるのか。

 ますます口元を歪める舞奈に向かって――


「――その移民そのものが十中八九、海外から送りこまれた怪異の集団よ」

 明日香が告げた。

 やれやれだ。


 まあ、予想できた事だから今さら驚きはしない。

 だが何と言うか、敵ももう少しスローに活動してくれても良いと思う。

 どうやら舞奈が次に巻きこまれるトラブルは、外国産の怪異の集団らしい。


「チャビーちゃーん! 丁度良いところにいたのー!」

「折り入ってお願いしたい事があるのです」

「あっ桜ちゃんと委員長だ。なぁに?」

 元気な桜と生真面目な委員長がやってきた。


 いつも通りな桜はともかく委員長も少し楽しげなのは、つい先日まで『Kobold』絡みで張り詰めていた空気がゆるんだのを感じているからだ。

 だが舞奈の近辺の、つい先ほど張り詰めた空気まではわからないらしい。

 桜の手には今しがたチャビーたちが読んでいたのと似て異なる女児向け雑誌。


「桜さんが今月号の『つなよし』を買ってきたのです。読み終わったら取り換えっこして読みませんか?」

「わーい! いいよー!」

 委員長の申し出に、チャビーや皆は笑顔で答える。


 そのように皆が楽しそうに談笑する小学5年の教室の机と机の間を、みゃー子が「じむしー」とか言いながらカサカサ這い回っていた。


 ……そんな今だけは対岸の火事な他県の厄介事の他には特に目だったトラブルも騒動もなく、上辺だけは平和に楽しく休憩時間は過ぎていった。


 そして5時間目も終わって放課後。

 物々しい統零(とうれ)町の一角にある【機関】巣黒支部の2階に位置する会議室に、


「ちーっす。来たぜ」

「こんにちわ」

 舞奈は立てつけの悪い鉄のドアを無遠慮に開いて入室する。

 明日香も続く。


 2人が支部の会議室にやってきたのは、緊急の呼び出しを受けたからだ。

 統零(とうれ)町に家のある明日香も、その先の新開発区にアパートがある舞奈も、呼ばれると帰宅するついでに支部に寄る。

 そんな2人を出迎えたのは、


「よく来てくれたのだよ」

 糸目の女子高生。

 支部を最高責任者であるフィクサーの片腕を兼ねたニュットである。

 手にしたテイクアウト用のお好み焼きを見やり、


「人を呼び出しといて、食いながら待つなよ」

「2人の分もあるのだよ?」

「まったく」

「どうも」

 受け取りながら3人揃って着席する。


 少しガタガタする会議机に行儀悪く肘をつく。

 そうしながら包み紙と保温用のアルミホイルを器用に剥く。

 出て来たのは2つに折られたお好み焼きだ。

 この状態でクレープみたいにかぶりつくのだ。


 やわらかい生地と千切りキャベツのハーモニーを、折られた内側にたっぷりつまった濃厚なソースの風味と一緒に愉しむ。

 二口目で行き当たった豚肉のやわらかい食感に、思わず笑顔になる。

 少しばかり温度は失われているが、それを計算に入れた甘く濃い目の味つけだ。


 隣で明日香も上品な仕草でお好み焼きを頬張っている。

 何故にお好み焼きかと少しばかり困惑しているようだが。


「で、今日はどうしたよ? 『Kobold』の残党狩りか?」

 軽口を叩きながら舞奈は食べかけのお好み焼きを手にしたまま部屋を見回す。

 フィクサーの姿がないからだ。


 どうせ今回の呼び出しの理由は依頼だろう。

 おそらく埼玉の一件で早くも舞奈たちにお鉢が回って来た。

 そう舞奈は考えていた。

 だが、普段なら依頼の際にはフィクサーも同席するはずなのだが。

 態度には出さぬまでも訝しむ舞奈に、


「そちらは完全にカタがついたのだよ」

「だと良いがな」

 糸目は答える。

 そうしながら食べ終えたホイルを広げ、残っていたキャベツの切れ端をつまむ。

 そんな様子を隣の明日香が「……」と無言で見やる。


「じゃあ他県の別のトラブルか?」

 とっとと吐いちまえよ。

 どうせ不正移民に扮した怪異どもの件だろう?

 鷹乃ちゃんじゃ無理だったからあたしがやるんだろ?

 やれやれ、いつも誰かの尻拭いだ仕事人(トラブルシューター)も楽じゃないぜ。

 諦観しながら白々しく軽口を続ける舞奈に、


「トラブルというか……こんな案内が本部から来ているのだよ」

「案内?」

 言いつつニュットは何かを差し出す。

 対して2人も食べ終わったアルミを丸めながら身を乗り出して見やる。


 1枚のプリントだ。

 学校で配られるのとさほど変わらぬ裏紙に印刷された通達文。

 裏の事情に関わる組織とはいえ、役所の内部通達なんてそんなものだ。

 そんなA4の上側に愛想のない字体で大きく書かれたタイトルを見やり……


「禍川支部奪還作戦の合同葬儀、ですか……」

「兼追悼パーティー……」

「うむ」

 ひとりごちる明日香と舞奈にニュットが答える。


 これには少しばかり意表を突かれた。

 フィクサーがいないのは別に仕事の依頼じゃないかららしい。

 舞奈が危惧していた埼玉の件は、今回は関係ないようだ。


 呼び出されたのは、そうすると2人が学校帰りに支部に寄るからだ。

 ニュットも学生なんだから学校で渡してくれれば良かったのにと思う。

 だが初等部の校舎まで来るのが面倒だったのだろう。

 それはそれで腹立つが。

 まあ、それはさておいて、


「何でまた今頃……」

 舞奈は思わずひとりごち、


「いや、丁度そんな時期なのか」

 思い直す。


 あの悲惨な作戦から、舞奈たちの周囲ではいろいろな事があった。

 スカイフォールの王女を迎え、ヒーローたちと共闘してヘルバッハを倒した。

 県の術者やヴィランと一緒に蜘蛛のブラボーちゃんを捕獲した。

 先日はイレブンナイツを下し、『Kobold』の悪事を暴いた。

 そうするうちに、あの悲惨な作戦は過去になり、思い出になっていた。


 だが他の地域すべてが同じではないのだろう。

 幸か不幸か、我が国はそんなに地域の存亡に関わるイベントが多い国ではない。

 舞奈の近辺だけ厄介事が多いのだ。


 だから、あの作戦で逝った仲間たち――トルソやバーン、スプラ、ピアース、切丸、他のチームのメンバーを知る者たちにとって、彼らはまだ過去じゃない。

 つい最近の作戦で帰らぬ人になった犠牲者だ。

 あれから実質的な時間がそれほど経っている訳じゃないからだ。


 故に今、合同葬儀なのだろう。


 人は思い出だけを抱えて生きていく事はできない。

 綺麗事とかではなく実質的に無理なのだ。

 少なくとも人間社会の裏側で暗躍する怪異と戦う【機関】の関係者は、そうしなければ次は自分が過去になってしまう。

 何処かで無理やりにでも線引きして、彼らを思い出にしなければいけない。


 そんなイベントの案内が割とぞんざいなのは、2人の自主性にまかせようと大人たちが考えたからだと舞奈は思う。


 舞奈にとって、明日香にとって、あの作戦は過去なのか?

 それとも未だに癒えぬ何かに苛まれているのか?


 それは当事者である2人にしかわからない。

 何故なら怪異の結界に閉ざされ滅んだ街に赴いたのも、仲間を次々に失ったのも、街を蝕んでいた巨悪を倒して生還したのも舞奈と明日香本人だ。

 だから2人の思惑を他の誰かが規定する事はできない。

 参加も不参加も2人が自分で決める事だ。


 そう考えられる程度には、少なくとも支部の大人たちには分別がある。

 単に最強だからともてはやすだけじゃない。

 小学5年生の女児の意思を尊重する度量がある。

 そうでなければ舞奈はSランクとして数々のトラブルの矢面に立っていない。

 そんな気がする。だから……


「……パーティーって言うぐらいだ。美味い飯とかでるのか?」

「うむ。通例なら会場のビュッフェが振る舞われるのだよ」

「そりゃ良い。じゃあ出席で」

 何食わぬ表情のまま舞奈は答える。

 側の明日香も無言で同意した。


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