大きなバス ~シャーマニズム&回術vsデスカフェ
夕暮れの大通りを、大きなバスが疾走する。
窓ガラスが割られた、品のないピンク色のバスだ。
付近には通行規制が敷かれているので他に車はいない。
1台の軽乗用車が並走しているだけだ。
そしてバスの穴だらけになった天井に立つ、ひとりの少女。
人さらいバスの正体は、女性支援を騙る怪異の先兵『デスカフェ』だった。
誘拐された音々を救うべくバスに跳び乗った舞奈。
バスの上には舞奈を迎撃するべく騎士団が飛んできた。
舞奈は苦も無く彼らを撃退、車内のヘルビーストと協力して運転手を排除した。
だがバスは止まらない。
「……中で何かすると止まるのか?」
思わずひとりごちる。
幸い、割れている窓の位置は跳び乗る際に確認した。
舞奈は屋根の端に手をかけ、割れた窓からバスの中に身を躍らせ、
「こんばんは!」
「きゃっ!? ……志門さん!?」
中にいた音々の側に、身を低くしながら着地する。
ビックリした彼女に笑いかけつつ衣服に乱れがない事を確認する。
怪我や酷いショックとかもないらしい。
思ったよりタフみたいで何よりと思いながら側を見やると、
「ソレハ、サッキ、ヤッタ」
「知らん!」
音々に抱きつかれたヘルビースト。
こちらも以前に見かけた通りの仮面と腰みの。
まあ2人とも無事なようで、ひと安心だ。
次いで舞奈は立ち上がりつつ、内部の様子に目を配らせる。
屋根の上も大概だったが中も酷い有様だ。
天井にはプラズマの砲撃でこじ開けられた焦げた穴。
足元も軽くえぐれ、鉄パイプの槍がカランカランと転がる側に、焼き貫かれたヤニ色の残骸が散らばっている。
「音々。下に肥溜めができてるから、なるべく見ないようにしてくれ。目が腐る」
「あ、うん」
舞奈は音々に注意をうながす。
だが、あまり意味はなかったかもしれない。
音々はヘルビーストの腰にしっかりしがみついたままだ。
下を見るどころじゃない。
対して腰みのも音々の肩に手を置いたりして気づかっている。
何時の間にこんなに仲良くなったのだろう?
とりあえず舞奈は前方へ向かう。
疾走する揺れるバスの中を、汚物を避けつつ危なげなく歩く程度は造作ない。
ヘルビーストも同じように続く。
途中の肥溜めは音々を抱きかかえてまたぎ越しながら――
「――最後ノデ、運転手ヲ撃ツト思ッタ」
ボソリと苦情を述べる。
脂虫どもを片付けたのにバスが止まらないのが気に入らないらしい。
だが、それは舞奈も同じなので、
「あいつ以外にか?」
口をへの字に曲げながら、目前の運転席を指差す。
バス前方の運転席……があった場所。
派手に撃ち抜かれたシートの残骸に座っているのもヤニ色の残骸だ。
位置的にこいつが運転手だったのは明白。
ヘルビーストの【雷の大撃】がこめられた大口径弾を、舞奈は確かに運転手の頭上にぶちこんだのだ。
だがバスは今も全速力で走り続けている。
やはりバス自体に何がしかの細工がされているようだ。
機械的にそういう事が可能かどうかはわからない。
それでも歩行屍俑に使われているような、怪異を基幹部品にするおぞましい技術を使えば可能な気がする。
そうだとすれば『デスカフェ』などと大仰な名で呼ばれる理由も納得だ。
だが、そんな事より現にバスは走っている。
原因を訝しむより先に、バスの暴走そのものに対処しなくてはいけない。
幸いにも今のところは直線が続いている。
だが、じきに建物なり何なりに行き当たって大惨事になるのは明白だ。
「もう何発か風穴を開けてやれば止まるんじゃないのか?」
軽薄な声色と共に、手にした拳銃を構える。
幸い弾丸はまだ残っている。
音々が「拳銃!? 本物なの!?」とビックリする。
先ほど車内の脂虫を片付けた砲撃の事を、腰みのは上手く誤魔化してくれたらしい。
それについては有り難い。
まあ、あれを拳銃でやったと言われても逆に信じられないだろうが。
そんな腰みのは、
「オマエ、義務教育ヤッタカ?」
「……今やってる最中だよ!」
仮面越しにすらわかるくらいジト目で見てきた。
舞奈も口をへの字に曲げて睨み返す。
まあ舞奈自身も正直なところ、勢いだけで言ってみた感はある。
何せ席にはハンドルもレバーもない。
先ほどの砲撃で運転手と一緒に根元から消し飛んだのだ。
これ以上どこかを壊すと言われても、バスの前面を丸ごと吹き飛ばすくらいしか思いつかない。
もちろん、そんな有様なのだから他の機械的な操作もやりようがない。
計器もスイッチも使える状態のものは何もない。
正直、装脚艇との共通点があれば試すくらいはできると思ったのは事実だ。
だが相手がスクラップならお手上げだ。
横にシャーマンがいるが、そもそも仮面の腰みのに車の知識なんか期待してない。
なので、どうしたものかと困る舞奈に――
「――舞奈さーん! 聞こえますかー!?」
外から声。
横の窓に駆け寄って見やる。
真横を走る軽自動車からの呼びかけだ。
舞奈を乗せてきたチャムエルカーが、そのまま並走してくれていたらしい。
舞奈はニヤリと笑う。
チャムエルは高等魔術の中でも金属と機械を操る術を得手とする。
その実力は車に変身して公道を走れるほど。
彼女なら、この状況を何とかできるかもしれない。
舞奈は拳銃の尻で窓を叩き割り、
「聞こえてる! 運転手を吹っ飛ばしてもバスが止まらないんだ! 手はあるか!?」
外に向かって渾身の大声で叫ぶ。
「アクセルペダルから足を離せばー! 減速しますよー!」
運転手が身を乗り出し、同じボリュームで叫び返してくる。
大人なら誰でも知ってる知識なのかもしれない。
あと明らかにハンドルを持ってないが、気にしている場合でもない。
「吹き飛ばしたつったろ! 足もアクセルもないんだ!」
「じゃあブレーキペダルを踏むかー! サイドブレーキを……!」
「ペダルもレバーもない!」
「えぇ……」
舞奈からの情報を聞いて運転手は絶句し、
「装脚艇のー! エマージェンシーコマンド的なのはないのかー!?」
「いや逆にわたしー! そっちは詳しくないのですがー! それもコンソールパネルを操作するものではー!?」
「……」
舞奈も先方の答えを聞いて絶句する。
どうやら打つ手はないらしい。
続く一瞬の沈黙の後……
「……じゃーひとまず音々さんと退避を!」
運転手は最後の対処法を叫んで車内に引っこむ。
つまり諦めて逃げろという事だ。
舞奈も一瞬だけ考えて、
「了解した!」
答えて窓から顔を離す。。
バスを本来の手段で止める手段は失われた。
あるいは最初からそんなものはなかったのかもしれない。
それでも何らかの手段でバスを止めないと衝突事故は必至だ。
何らかの規制がかかったのか周囲に車はチャムエルしかいないが、次の曲がり角までそれほど距離もないはずだ。
ならばどうするかと問われると、力づくでと答えるしかない。
つまり拘束の術によって無理やりに抑えこむのだ。
あるいは破壊する。
そうなると、バスの中で舞奈に出来ることはない。
予知能力を持つ騎士たちを苦も無く蹴散らした舞奈だが、術者や超人ではない。
疾走するバスを力技で無理やりにどうこうする手札はない。
唯一できる事は、音々を連れて脱出する事だけだ。
「あたしとおまえで向こうの車に跳び移る」
「でもヘルビーストさんは!?」
「あいつなら大丈夫だ」
近くの椅子に腰かけていた音々をなだめすかしつつ抱きかかえる。
そして中央のドアまで移動しようとする最中、
「(そりゃあ飛べるかもしれないけど)」
音々はひとりごちる。
(おいおい術を使ってるところを見られたんじゃないだろうな)
苦笑しながら見やった方向、
「ドアガ開イタゾ」
言ったヘルビーストの側で、バス中央のドアが開いた。
と思ったら外側に落ちた。
何かの術で吹き飛ばしたらしい。
重い金属製のドアを、チャムエルカーがあわてて避ける。
ドアはガコンガコンと凄い音を立てながら道路を後ろに転がり去っていく。
「……人のこと言えんだろう」
苦笑しながらドアの外に目を向ける。
バスに並走する軽自動車の運転席で、運転手が手を振る。
次いで後部座席のドアが開く。
(おいおい、ひとりでに開くなよ)
しかもさっきと開き方が違ってねぇか?
苦笑しつつも舞奈は開いたドアとの距離を測りつつ身を屈める。
舞奈の腕の中で、音々が何事かと外に目をやる。
「志門さん!? 何を!?」
超高速で流れるアスファルトを見やって驚き叫ぶ。
まあ当然と言えば当然の反応だ。
一般的な感覚では走ってる車から車に跳び移ろうとすると落ちる。
そんな事をしようなんて考えもしないのが普通だ。
そして、この速度で走っている車から落ちたら良くて重体。
下手をすればミンチだ。
後続車両( いないけど )にぶつかったりしたら粉砕されるであろうことは、荒事の知識なんかなくても足元の流れ方で察しがつく。
だが舞奈は気にもしない。
この状況で躊躇していても良いことはないし、舞奈の動体視力と反射神経、身体能力を持ってすれば車から車に跳び移る程度は造作ない。
「だから乗り移るんだよ。しっかり捕まっててくれ!」
「えっ!? ちょっ!? 待って!」
気が動転する音々を抱えたまま、
「キャアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
舞奈は躊躇もなく身を躍らせる。
一瞬だけ足場もなく道路の上に放り出される感覚。
腕の中の音々が絶叫しながら渾身の力で背に爪を立てる感触。
次の瞬間、2人は危なげもなく開いたドアに転がりこんでいた。
「……ほら着いたぜ」
舞奈は余裕な表情で半身を起こす。
「い、生きてる……」
音々も呆然としたまま舞奈の手を借り身を起こす。
次いで女の子らしくスカートを整える最中、
「ダァシエリイェス!」
運転手のふざけたアナウンスと共に、背後で軽自動車のドアが閉まる。
「まったく」
舞奈は苦笑しながら軽自動車の窓から外を見やる。
バスの方向に妙な気配を感じたからだ。
具体的には不自然な風の揺らぎと、尻の下の振動。
呪術によって周囲の大気が操られている。
足元の地面もだ。
ヘルビーストは複数の呪術を併用してバスを止めようとしているのだろう。
周囲の大気を操り枷とする【空気の手】でバスを押さえて速度を落とす。
そこを大地を手にして対象をつかむ【地の手】で捕らえる算段だろう。
バスの周囲で、門外漢の舞奈ですら察せられるほどの魔力がうねる。
……だがバスは止まらない。
何せ相手は大きなバスだ。
言ってみれば質量は装脚艇クラス、加速は数倍のバケモノだ。
そんなものを風の呪術で容易に抑えられるものじゃない。
そもそも大気を操る術は施術が容易な半面、強度も弱く抵抗も容易だ。
そしてバスの速度が落ちないと【地の手】でつかめない。
熟達したシャーマンが操る大地の術が強固で強力なのは事実だ。
だが土砂や岩石を操る術は強力な反面、動きは遅い。
アスファルトで舗装されているならなおさら。
単体では疾走するバスを捉える事すらできない。
そんな様子を見やって舌打ちする舞奈の側で、
「あ、あの、ハンドル握ってますよね……?」
「ええ、もちろん! 万力のように力強く握ってますとも!」
音々の不安げな問いに、運転手が自信満々に答える。
それは逆に駄目なんじゃないかと少し思って舞奈は苦笑する。
だが、そもそも彼女がハンドル操作などしていないのは正直、明白だ。
おそらく片手はペンタクルを手にしているのだろう。
彼女も【大気の束縛】【大地の束縛】で大気と地面を操り、シャーマンの施術に同調させてバスを止めようとしている。
高度なシャーマニズムと、高等魔術による疑似呪術の合わせ技。
……それでもバスは止まらない。速度すら落ちない。
「きゃっ!」
「おおい、気をつけて走ってくれ」
急にスピードが落ちたせいでつんのめる音々を横目に文句を言う。
だが運転手……というかチャムエルカーは聞く素振りも見せず、疾走する巨大なバスの背後にピッタリついて……
「……?」
訝しむ舞奈を他所に――
ガガッ!
「うおっ!?」
「えっ!? なに!?」
軽自動車のボンネットがはじけるように跳ね上がる。
舞奈と音々は思わず叫ぶ。
次の瞬間、後部座席からは見えないボンネットの裏側から無数の何かがのびた。
チェーンだ。
先端に鋭いフックのついた幾筋もの鎖が発射されたのだ。
左右の歩道や歩道橋の上から様子をうかがうギャラリーたちが騒然とする。
「……光ってなけりゃ何でもアリだと思ってやがるな」
舞奈は苦笑しながらひとりごちる。
車に変身したチャムエルによる【刃鎖】の応用だろう。
以前に舞奈がヘルバッハにしてやられた【ガリア人の刃鎖】と同等の魔術。
だが今回は暴走するバスを止めるために使われた。
怪光線や光を吸いこむ重力場で拘束するのと異なり、こいつなら機械的に改造されたビックリギミックだと言い張れると判断したか。
そういう思いきりは嫌いじゃないが……。
見やる舞奈の前で、無数のフックがバスの背面に突き刺さる。
次いで軽自動車は急ブレーキ。
バスを力づくで引っぱる。
「きゃっ!」
「ったく、加減してくれ」
ガクンガクンと揺れる車内で、舞奈は音々を抱きかかえてかばう。
……それでもバスは止まらない。
大きなバスは、鎖で繋がれた軽乗用車を引きずったまま走る。
まるで車の電車ごっこだ。
重量と馬力が違いすぎるのだ。
諦めたか魔力の限界か、チャムエルカーは鎖をパージして再びバスの横につく。
そんなバスを窓から見やり……
「……おおい、これ商店街の方に向かってるんじゃないのか?」
「ヘルビーストさん……」
口元を歪める舞奈。
祈るようにバスを見つめる音々。
いっそ車内のヘルビーストにも空でも飛んで退避してもらって、砲撃なり何なりでバスを破壊すべきなんじゃないだろうか?
思わず舞奈は考える。
その目前で、
「!?」
バスがガクンと揺れた。
舞奈は何事かと訝しむ。
だが、すぐに理由はわかった。
何故ならバスの前に何者かが立ち塞がっていた。
しかもバスの前面に手をついて押さえこんでいた!
それは警備員の制服を着た巨大な人影だった。
2メートルを越える長駆。
そいつがもっさりして見えるほどの横幅。
それらが示す暴力的な質量。
いわば肉でできたバスと言っても過言ではない。
さらには顔を覆う、世界三大宗教のひとつ【三日月】信徒の証でもある覆面。
モールだ!
しかも巨女の屈強な巨躯に宿るは【強い体】。
回術士が誇る身体強化の妖術。
さらには【合神】。
全身にまとった神光で悪を焼き、術者にパワーを与える究極の身体強化。
もちろん【合神】はその性質上、強烈な光を放つ。
だが、幸いにも今は逢魔時。
夕焼けにまぎれてギャラリーたちの目には不自然に映りにくい。
車内からはヘルビーストが【地の手】でバスを止めようとしている。
チャムエルカーは歩道に乗り上げ、近くのビルの側に止まる。
転がり出た運転手がビルの陰に隠れる、
全力で【大地の束縛】を行使してヘルビーストを支援する算段か。
舞奈も音々を連れて車を降りる。
背後で軽自動車が走り去る。
「えっ!?」
「どうした?」
「さっきの車……」
「用が済んだから帰ったんだろう?」
「でも、運転手さん降りたのに……?」
「そうだっけ? 気のせいだろう」
運転手不在のまま走り去った車について舞奈は誤魔化す。
まあチャムエルも何らかの支援をするつもりで姿をくらましたのだろう。
おそらく元の姿に戻り、本気で他の術者をサポートするつもりか。
一方、巨漢の警備員はバスの前面に両手をついたまま押し止めようとしている。
……それでも、なお、バスは止まらない。
大きなバスは、モールを押し返そうとするように前に進み続ける。
踏ん張る巨女の両足が道路にめりこむ。
バスはそのままモールrの足でアスファルトを砕きながら動き続ける。
まるで畑を耕しているように黒い土砂を噴き上げながら進む。
その先に――
「――!?」
さらに巨大な人影がいた。
それは混沌魔術の神に似せた巨大な像だった。
タコに似た頭部から無数の触肢をのばした、緑色の巨人。
モールより、バスより、下手をすると装脚艇に勝るほど大きな、大きな巨人。
そいつが指からカギ爪を生やした巨大な手をのばし――
ガッ!
――バスを無理やり受け止めた。
問答無用だった。
呪術と魔術による妨害を質量と加速だけでしのいだ巨大なバスも、さらなる強大な力の前には無力だった。
バスはなおも前に進もうとエンジンをうならせタイヤを回す。
だが巨人に軽く上から押さえられると、前輪を道路に埋めて沈黙した。
そんな様子を舞奈も、音々も、歩道のギャラリーたちも呆然と見やっていた。
バスが止まった手ごたえを感じたか、警備員が全面にめりこんだ手を引き抜く。
ふうとひと息ついて、舞奈と音々を見やり、
「ああ音々さん、舞奈様も、退避されてたんですか」
覆面越しでもわかるくらい普段通りに気さくに笑いながら歩いてくる。
大事なくて何より。
屈強な回術士にとっては生身でバスと喧嘩する程度は負担にならないらしい。
我に返った音々があわてて会釈する。
「それなら言ってくだされば良かったのに。そうしたらカ――」
「――待て待て。ストップだ」
気さくなモールの言葉をあわてて止める。
中に人がいなければ【熱の拳】で焼き払ったと言いたいのだろう。
「いやほら、腰みのがまだ中にいたし」
「ハハ、それなら仕方がないですね」
なごやかに笑い合うモールと舞奈。
その側で呆然としている音々の前で、
「止マッタ。良カッタ」
ドアが外れた出入り口から、仮面に腰みのの浅黒い女があらわれた。
「ヘルビーストさん!」
「ダイジョウブ、ダー」
走って行って跳びついた音々を腰みのが抱き止める。
そんな様子を笑顔で見やり、
「……にしても、あれは誰の仕業だ?」
ひとりごちた舞奈の背後から――
「――おや! 何かのイベントで使う予定で放置されていたとおぼしきクトゥルフ像が偶然にも倒れこんで暴走バスの進行を押し止めたようですね!」
白々しい説明台詞を吐きながら楓があらわれた。
後ろには頭を抱える紅葉。
我関せぬ表情の明日香。
何時の間にかこっちの仲間に加わっていたチャムエル。
どうやら遅れてやって来た楓が【創神の言葉】でメジェド神を召喚したらしい。
メジェドは明日香とチャムエルが協力する事で素早く巨大な姿で顕現した。
要は以前の決戦で死神デスリーパーと共闘した際と同じような感じだ。
加えて芸術家でもある楓のセンスで他流派の神の姿をとった。
そして偶然に近くにあったクトゥルフ像として、巨大なバスを押し止めたのだ。
舞奈はやれやれと肩をすくめる。
平日の夕方に起きた誘拐事件とバス暴走は紆余曲折の末に片がついた。
だが舞奈たちには、女性支援のピンクのバスをクトゥルフ像ががっちりホールドしている現状と経緯を何とか誤魔化すという大仕事が残されていた。