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銃弾と攻撃魔法・無頼の少女  作者: 立川ありす
第19章 ティーチャーズ&クリーチャーズ
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クモ! クモ! クモ! レスキュー大作戦1

「やれやれ、絶好のハイキング日和だぜ」

 ひとりごちつつ、舞奈は人気のない統零(とうれ)町の裏通りを歩く。

 裏側に愛銃(ジェリコ941)を忍ばせたジャケットがそよ風にはためく。


 よく晴れた土曜の朝。

 舞奈は少し早起きをして旧市街地にやってきた。


 何故なら今日は待ちに待った毒蜘蛛探しのハイキングの日。

 向かう先は待ち合わせ場所の教会だ。

 気心の知れたシスターが管理する教会は丁度よく林の近くにある。

 地元民は普通に場所を知ってるし、外国人には屋根の上の十字架が目印になる。

 そう舞奈が主張し、特に反対意見もなかったからだ。


 そんな教会の十字架を目指して歩くうち、遠目に見えた人影に、


「おーいシスター! お久しぶりっ!」

 声をかけつつ走る。

 いたのは見慣れた修道服姿のシスターだ。

 こちらも見知った金髪ティーンエイジャーと話しこんでいたらしい。


「グッモーニン。けっこう早いじゃないの」

「おはようございます、舞奈さん。キャロルさんから今日のお話をお話をうかがっていたんですよ」

 キャロルと一緒にシスターがおっとりと振り向く。

 痩身巨乳のシスターは女だてらにひとりで教会を切り盛りしている。

 待ち合わせ場所になる以外にも、農園で収獲した自家製の野菜を付近の住民に配ったりもしている働き者のシスターだ。


 そんな教会に、キャロルも意外に早めに来ていたらしい。

 こちらも何とも律義なヴィランである。

 待ち時間を楽しそうに歓談して過ごしてくれていたようで何よりだ。


「そんな楽しそうなお話なら、わたしも誘ってくだされば良かったのに」

「その間、無人になるんじゃないのか? ここ」

 シスターの開口一番に舞奈は苦笑する。


 まあ数日前に引率の大人を探していたのは事実だ。

 だが、そう考えて店のある張やスミスは除外したのだ。


 まあ探索の間じゅうシスターの大きな胸を見られると考えれば悪い話じゃないが。

 林を歩く舞奈の頭上で、汗でほどよく蒸れた大ぶりなバストがゆさゆさ揺れる様子を想い浮かべて舞奈は笑顔になりながら――


「――Go,Go,Nango♪ Go,Nango♪」

「南郷……?」

 先ほどから声がしていたことに気づいて見やる。


 近くで銀髪の幼女が木箱に乗って歌っていた。

 メリルだ。

 箱は桜が歌った後に置きっぱなしにしていた空き箱だ。

 あいつもロクな事を……いや今回は楽しんでいるようなので役に立ってるのか。


「……ああ。あずさの曲か。よく知ってるな」

「この国の言葉を勉強するために使ってるのがテレビだからねー」

「なるほどな」

 楽しそうに歌うメリル、同じく笑顔なキャロルをを見やって舞奈も笑う。


 老若男女を問わずに人気な双葉あずさは子供向けの曲のレパートリーも多い。

 いずれも小さなお友達が楽しめる平坦でわかりやすいメロディと歌詞が特徴だ。

 なのでメリルも楽しんで歌える。

 あずさは人気があるのでテレビや店で歌を耳にする機会も多い。

 自然に言葉を覚えてしまえるという寸法だ。

 ここでも歌が、芸術が、海を隔てて人と人を繋ぐ絆を形作っていた。


 幸いにも双葉あずさの中の人こと張梓とは友人だったりする。

 舞奈よりひとつ上の6年生の先輩だ。

 何かの機会にこのことを話してみれば彼女も喜ぶだろう。

 そんな事を考えていると――


「――あっ! 舞奈ちゃんたち! おはよー」

「どうも、おはようございます」

 梢とレインがやってきた。

 長い黒髪をひとつに編んだお姉さんな梢と、金髪美少女のレイン。

 2人とも女子高生らしい豊かな胸をゆさゆさゆらせ、手を振りながら走ってくる。


 休日なのに制服なのは、それが防刃/防弾性能を持つ戦闘(タクティカル)セーラー服だからだ。

 彼女ら2人は単なるハイキングの付き添いではなく、舞奈が巨大な何かと戦闘するという預言の真相を確認するためにここに来た。

 背負っている小ぶりなリュックの中にも得物が入っているはずだ。

 レインは小型拳銃(グロック26)

 梢が何を使うかは聞いてないが、何がしか支給されているはずだ。

 だが、そんな事情はひとまず置いておいて……


「……そういえばキャロルさんって」

「ん?」

「ヴィランのファイヤーボールに似てますよね?」

「あっ梢ちゃん……」

 梢はいきなり、割とミーハーな質問をしてくれた。

 隣でレインがちょっと困る。

 そんな2人に、


「そりゃもう中の人だからね」

「おおい、何いきなりバラしてやがる」

 能天気に答えたキャロルに舞奈はあわててツッコむ。

 あまりに自然に言ってくれたので制止する間もなかった。


「いや別に表の顔もファイヤーボール役の俳優のキャロルだし。それに彼女らだってほら、なんつったっけ……この国の平和維持組織のメンバーなんでしょ?」

「【第三機関】ですね」

「そう、それそれ」

「……アーガスさんの時とえらく違う気がするんだが」

 正体を隠す気概とかが。

 舞奈は釈然としない表情でキャロルを睨む。

 対してキャロルは素知らぬ表情。


 メリルは梢たちに手を振りながら、いい気分で拳をふるわせて歌っている。

 2人もにこやかな笑みを返す。

 シスターがニコニコと相槌をいれる。


 まあ私生活で隙を作ってツッコまれた場合、ヒーローは真摯な対応が必要だろう。

 対してヴィランは勝手気ままが本分だ。

 許されるラインが違うと言われれば否定もできない。なので、


「やっぱり! 他の人とオーラが違いますよね! 金髪でクールな人ってあんまり身近にいないから憧れちゃいます!」

「えへへ、そうかな? まあ、よく言われるんだけどね」

「梢ちゃん……」

 梢がニコニコしながらキャロルに言い募る。

 純和風な顔立ちの梢は、単に珍しい外国人が好きなだけなのかもしれない。

 ちやほやされて照れるキャロル、隣で微妙に悲しい顔をするレインを眺めつつ、


「おっ、ようやく今日の主役のお出ましだぜ」

 少し離れた場所に停まった見覚えのある車を見やる。

 明日香の会社の防弾リムジンだ。

 園香やチャビーの親御さんへの安心感が目的だろうか。


「あら、園香さんたちもみえられたようですね」

「あれを私用で乗り回せる立場ってのも大概じゃない?」

「明日香の奴が会社から勝手に持ちだしたんだろうよ」

 変わらずおっとりしたシスター、驚き加減のキャロルと並んで舞奈は苦笑する。


 そんな皆の目前で、リムジンのドアが開く。

 執事の小男にエスコートされて降りてきたのは園香とチャビー。

 明日香は反対側のドアから勝手に降りてきた。

 下フレームの眼鏡をかけた繊細な顔に浮かぶのは勝ち誇ったような笑み。


 珍しく約束の時間ギリギリに来たと思ったら、朝から子猫と遊んできたようだ。

 前日に2人を迎えに行く役を申し出たのは、それが目当てだったらしい。

 まったく。


 当の明日香はひと足早くやってきて、


「あら、双葉あずさの『こねこのいちにち』ね。よく知ってるわね」

 歌っているメリルに目を向け、


「ごろごろにゃん『こ』」

「Go,Go,Nanko?」

「ごろごろ」

「Gorou,Gorou?」

「そうじゃなくて……その部分は猫が喉を鳴らす音なのよ」

「……?」

 歌詞の訛りを指摘し始めた。


「おおい、他所の国の未就学児を相手に何してやがる」

 舞奈は明日香を睨みつける。


 だがメリル的には彼女の言葉に耳を傾ける理由がいくつかあるのだろう。

 桃の字の件とか。

 だからか真面目な表情でレッスンを受け入れる。

 見ていたレインがあははと笑う。


 幼女があまり説明を理解していないのを感じ、明日香は本格的に説明する。

 身振り手振りを交えて英語でだ。

 本気の度合いが違う。

 まあ生真面目な彼女が誤った歌詞に我慢ならない気持ちはわかるが……。


「日本語版クイーン・ネメシスかな……?」

「なんというか……あんな奴でスマン」

 キャロルと並んで舞奈は苦笑しつつ、


「にしても、えらく大荷物だな」

 園香が手にした大きなバッグに目を向ける。

 こいつが明日香が車を出した、もうひとつの理由か。


「うん。お弁当を作ってきたんだよ」

「おっこりゃ気が利くなあ」

 バッグを覗きこんで舞奈は笑う。


 中でランチクロスに包まれた箱が弁当箱か。

 舞奈の喰いっぷりを考慮しても8人で食べるには十分な大きさだ。

 あと人数分の缶ジュース。


「早起きして作ってきたんだよ!」

「おおっそりゃ感心だ」

 側で自慢げなチャビーも笑顔でねぎらう。

 褒められたチャビーは素直に笑う。

 一丁前に園香を手伝って来たのだろう。

 下手をするとネコポチと遊んでる明日香の隣で……。


「さっすがお嬢様! こりゃ護衛のし甲斐があるってもんよ」

 覗きこんできたキャロルも笑う。


 彼女から見れば園香もチャビーもお嬢様らしい。

 まあ園香を心配する親父さんを納得させるために雇われたのだから、そういう認識になるのもある意味で自然か。


 それにお嬢様やプリンセスの概念なんて、本来は内面的なものだと舞奈は思う。

 他者をいたわり、思いやり、喜ばせようとする心意気。

 周囲の人間のプラスの感情を自然に鼓舞する存在。

 それ故に自身も周囲から当然のように愛され、守られる、

 そういう意味では2人とも間違いなくお嬢様だ。


「くんくん! モモのにおいがする!」

 明日香のレッスンから逃げてきたメリルが園香のバッグを覗きこみ、


「わっよくわかったね。モモが好きだって聞いたから買って来たんだよ」

「おおっ!?」

 園香はバッグから何やら取り出す。

 瑞々しい桃の絵が描かれたジュース缶だ。


「メリル、何時の間に缶ジュースの匂いなんてわかるようになったの?」

「あはは……」

 キャロルのツッコミにレインが苦笑し、


「モモジュース! 死守! まかせて!」

「……ハハッ、よろしく頼むぜ」

 鼻息を荒くするメリルに舞奈も苦笑する。


 まあ別に缶の中のモモが匂った訳じゃないのだろう。

 だがメリルも幼女なりに察したのかもしれない。

 園香なら自分の好きなものを聞き及んで用意してくれているだろうと。

 舞奈は彼女ら2人と親について話したことはない。

 だが幼い彼女が母の愛に似た感情について知っている様子なのが嬉しかった。


 少し離れた場所で、レッスンから逃げられた明日香が釈然としない顔をしていた。

 そっちは知らん。


「じゃ、そろそろ行くか」

「そうね。ちゃっちゃと終わらせてランチにしましょ」

 舞奈の一声にキャロルが反応する。

 釣られて皆もぞろぞろ動き出す。


 チャビーが一瞬だけ墓地の方向を見やったのに気づいた。

 園香もバッグを背負いながら、友人を気づかうように手をつなぐ。

 そんな園香を見やってチャビーは笑う。

 この教会の墓地には、優しかったチャビーの兄が眠っている。


 レインも同じ場所を見やる。

 梢も。

 新開発区で逝ったレインのかつての仲間は。ここではない他所の寺に眠っている。

 それでも同じように過去に失った誰かの心情を察することはできる。


 舞奈と明日香も。

 そしてキャロルとメリルも。


 それでも楽しい土曜の朝に、失ったものに想いを馳せるのは一瞬で十分だ。

 だから8人はシスターに見送られ、わいわいがやがやと林へ向かう。


「ここら辺から入るか」

「そうね。発信機の反応も近いし」

 テックから借りてきた携帯を明日香がチェックし、


「それじゃーれっつごー」

「ごー!」

 ハイキング気分で林に踏みこむ。


「思ったほど草ぼうぼうじゃないんだな」

「そりゃまあ、forest(森)じゃなくて、woods(林)だからね」

 先頭は舞奈とキャロル。


 2人してシスターから借りてきたマシエトで枝をかき分け道を広げる。

 あまり林の木に優しくはないが、枝が出てると後続が怪我をする。


「レインちゃん、足元に気をつけてくれよ」

「そんな大丈夫ですようわぁっとと」

「わっ!? レイン!?」

「……気を散らせてスマン」

 続く2番手はレインと梢。


 園香のバッグの中身が小分けできたので、ちょっとずつ運んでくれている。

 それは良いのだが、新開発区での共同作戦の時にも少し気になっていたがレインの足元のおぼつかなさが少し不安ではある。

 今も梢にあわてて支えられたし、預けた弁当の中身も不安だ。


「レインさん、大丈夫?」

「ばしょをかわるか?」

「あのねメリルちゃん、そこを入れ替わってもあんまり変わらないかな……」

 比較的に安全な3番手にはチャビー、メリル、園香が並ぶ。


 園香の背には背負えるタイプのバッグ。

 チャビーの手にも、捕まえた蜘蛛を入れるつもりであろう虫かごが揺れる。

 メリルは手持無沙汰だからか拾った小枝を振り回している。

 そんな仕草が以前に園香とツチノコ探しした時のリコと似ているらしい。

 まったく、あいつもあいつで……。


「方向は合ってるし、蜘蛛も今は動いてないから急がなくても大丈夫なはずよ」

 しんがりは明日香。

 テックの予備携帯を片手に、アプリの反応を追いながら後方を警戒する。


 一般的なハイキングは隊列とか組まない。

 だが、なまじ荒事に慣れた面子が多いので、そこを雑にすると落ち着かない。

 それに梢が予言したという巨大な敵というのも気になる。

 そんな舞奈の不安を察したか、


「まあ安心して。何か出てきても、ヒグマくらいなら何とかできるから」

 キャロルが大言壮語を吐いた。


 まあ実力からすれば、あながち嘘でもないだろう。

 何故なら彼女はファイヤーボール。

 空気摩擦で燃える速度で敵を翻弄するハイスピード・ヴィランだ。

 得物のスラッシュクローも直ったばかりだし。


「熊なんかに出てこられてたまるか山奥じゃねぇんだ」

 舞奈は苦笑しながらツッコんで、


「じゃ、何が出るのさ?」

「あのね、実は……」

 首をかしげるキャロルに園香が答える。

 ツチノコ探しのときのことだ。


 園香たちは以前に委員長や桜、リコ、えり子らとツチノコを探しにここに来た。

 その際に脂虫――臭くて邪悪で薄汚い喫煙者と出くわした。

 林の木々に紛れて悪事を企んでいたらしい脂虫どもは、問答無用で園香たちに襲いかかった。委員長が捕まったらしい。

 そこに突如としてあらわれたロッカーが脂虫どもを蹴散らして子供たちを救った。


 その話を親父さんにしたから、今回は引率が必要になったのだ。


「お、思ってたよりワイルドな国なんだね……」

 話を聞いたキャロルは開口一番、そう言った。


「まあ否定はせんが」

 この一帯だけな、と返したいところではあった。

 だが正直なキャロルの言葉に、舞奈は同意するしかない。


 何故ならキャロルとメリルは他県で要人暗殺を阻止してきた。

 それに県単位や市単位で壊滅した他所に比べれば巣黒は平和だと言わざるを得ない。

 そんなことを考えて苦笑した舞奈は……、


「……レインさん、ありがとうございます」

「えへへ、いいんですよ。枝が当たると痛いですからね」

「ん?」

 背後で聞こえた会話に首をかしげる。

 空気の流れを読める鋭い感覚で察してみると、飛び出ていた木の枝からレインが園香をかばってくれたらしい。


「もっと上の枝まで切らないと。彼女さんはあんたと違って背が高いんだから」

「うっせぇ」

 軽口を叩いてきたキャロルを軽く睨む。


 小5らしからぬ長身とナイスバディを園香は少しばかり気に病んでいる。

 だが外国人のキャロル的には単純に持ち上げるつもりで言ったのだろう。

 そんな彼女は少し身をかがめて舞奈に顔を寄せ、


「(あの金髪の娘が近接攻撃を反射する大能力者でしょ?)」

「(それがどうしたよ?)」

「(木の枝にぶつかった衝撃を反射するのよ。生きてる植物がぶつかっても折れないでふんばる状態が、近接攻撃に勘定されるみたいなのよね)」

「(へぇ、そんなことができるのか)」

 耳打ちされた内容に感心した途端、


「あいたっ!? 枯れ枝が!」

「わっ! レインさん大丈夫ですか!?」

「ハハッ、あいただって。だいぶこの国に馴染んでるね」

 枯れ枝に思いっきり顔面をはたかれてもんどりうつレイン。

 あわてる園香と笑うキャロル。

 枯れた枝は生きてはいないから近接攻撃には含まれないらしい。

 割と扱いが面倒な大能力ではある。


「おおい、怪我とかせんでくれよ」

 舞奈も足を止めてレインを見やる。

 

 彼女の微妙な粗忽さが、奈良坂に似てると少し思った。

 かつてのレインの仲間は、彼女の大能力を戦闘に不向きと言った。

 それは何というか……彼女の人となりを加味した発言ではなかったかと思った。

 まあ奴の言葉の真意を確かめる手段はもうない。

 それにレインは追試せずにこっちにつき合ってくれているのだから、学業の方は奈良坂と比べたら失礼だろう。


「モモはいねぇがー?」

「うーん、桃の木は生えてないかな」

「蜘蛛も探してよメリル」

 何処でそんな台詞を覚えたやら。

 はしゃぐメリルに園香とキャロルがツッコミを入れて、


「反応がかなり近づいて来たわ。気をつけて」

「おっ意外に早かったな」

 明日香が警告する。

 一行が警戒する気配を背中で感じながら舞奈はほくそ笑む。


 舞奈の仕事が早々に片づくなんて珍しいこともあるものだ。

 この調子なら園香の弁当は教会に戻って蜘蛛を見ながらいただくことになるか。

 あるいは近くの見晴らしのいい場所を探して本当のハイキングをするのも楽しいかもしれない。


「そういや、あんたたちが探してる蜘蛛ってどんななのさ?」

「知らずに探してたのか」

「いや、あんたたちの護衛っていう約束っしょ?」

「ったく……」

 キャロルの言い草に苦笑する。


「ちょっと待ってろ……こいつだ」

 片手で器用に携帯を操作して、件の蜘蛛の写真を表示する。

 その画面を覗きこんだ途端……


「惚れ薬でも作る気? でも、こんなところにいないっしょこの蜘蛛」

 言ってキャロルは苦笑する。


「いるんだよ学校から逃げたんだ」

「ご存知なんですか……」

 やれやれと疲れた感じの舞奈の答え、続く明日香の言葉に、


「まあね。クラフ……いや、母国でお世話になってる情報屋みたいな人がいて、その人に聞いたことがあるのよね」

 キャロルは少しばかり誤魔化すトーンで返す。


 ニュアンス的に、明日香はキャロルが蜘蛛を知っていることに異論はない。

 ただ蜘蛛と蜘蛛がもたらしたトラブルに辟易しているだけだ。


 だがキャロルはそうは考えなかったらしい。

 何か探られることを警戒するような特別なコネでもあるのだろうか?

 それを園香たちに聞かせるとまずいと察したのか、あるいは舞奈たちにも伏せておきたいレベルの事情なのかは知らないが。


「毒液を煎じて、mind……ええっと媚薬とかそういう方向の薬にしたり、まじないに使う薬の材料にしたりするんだって」

「ろくでもない蜘蛛だな」

「そうなのよ。そんなものを飼ってるって……ヤバイ人?」

「まあヤバイのは確かだな」

 続くキャロルの言葉に、やれやれと舞奈は苦笑する。

 背後で明日香が力強くうなずく気配。

 レインと梢もはっきり是とは言わないまでも表情で同意する。


 ムクロザキの人となりを忌憚なく説明すると、たぶんマッドサイエンティスト系のヴィランだと思われるだろう。

 そんなキャロルと舞奈の後ろで、


「クモ。クマ。クモ……」

「ふふふ、似た言葉で面白いね」

「歌みたいで楽しそう。クモ、クマ、クモ……」

 メリルとチャビーが蜘蛛と熊の語感を愉しんでいた。

 まあ子供はそのくらい素直な方が悩みが無くて幸せかもしれん。

 自分を棚上げしつつ、楽しそうな言葉遊び(?)に口元をほころばせながら……


「……止まれ。何かいる」

 不意に舞奈は立ち止まった。


 次の瞬間、少し離れた茂みがガサガサとゆれる。

 そこに何かがいると、舞奈は空気の流れで察していた。


「さっそく見つかった……かな?」

「あたしが知ってる例の蜘蛛とはサイズが違う気がするんだが……」

 キャロルと舞奈が身構えながら茂みに近づく。

 残りの一行は後ろから茂みを注視する。


 そんな一行の目前で……!


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